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のんびり「虎温泉」

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 翌日が祝日で助かった。
 俺と亜紀ちゃんは8時頃まで寝た。
 夕べは10時前に眠ったので、結構な睡眠だ。

 双子が起こしに来た。
 ベッドに走って来るので、必死に止めた。
 折角掛けて気に入っている速水の絵を壊されたくない。

 「お前ら! 俺の部屋では走るんじゃねぇ!」
 「大丈夫だよ。幾ら私たちだって、もう絵を壊すわけな……」

 そう言ったハーがくしゃみをしそうになった。
 俺は慌てて顔を掴み、横を向かせた。

 「ハァーックショイ!」

 危なかった。
 亜紀ちゃんがまともにしぶきを浴びた。
 俺が枕元のティッシュで拭ってやる。

 「ん? あれ?」
 「お前、泣いてたぞ」
 「そうなんですか?」

 ルーとハーが後ろを向いて笑っていた。

 「食事だってよ」
 「よーし! 夕べのカレーの残りはあるかなー!」
 「あるわけねぇだろう。石神家だぞ?」
 「えーん!」

 一晩経ったカレーはまた美味いのだが。
 こいつらが来てから、ただの一度たりとも味わったことはない。
 前に一度、それならばと一鍋作って翌朝に食べようとした。
 夜中に皇紀と双子が全部食べた。
 一口食べたら止まらなくなったそうだ。
 顔にマジックでネズミの髭を描いて学校へ行かせた。

 


 朝食を食べ終え、ゆっくりとコーヒーを飲んでいると皇紀が来た。

 「あの、タカさん」
 「あんだよ?」
 「夕べ、「虎温泉」を用意したんですけど」
 「ああ!」

 忘れていた。
 亜紀ちゃんと一緒に疲れを取ろうと思っていたんだった。

 「ひと眠りしてから入るのかと思って、そのまま沸かしてますが」
 「おう、忘れてたぜ! 亜紀ちゃん、入るか?」
 「はい!」

 「お前らもどうだ?」

 皇紀は遠慮し、柳と双子は入ると言った。
 朝から温泉とは贅沢だ。

 5人で温泉へ移動した。
 いろいろな飲み物やフルーツなどを用意する。
 ポットに湯を入れ、スティックのコーヒーや紅茶のパック。
 冷たい飲み物は冷蔵庫に。
 長さ2メートルの「ロボボート」も準備した。
 エアを入れて浮かぶようになっている、要はエアマットだ。
 ロボも温かい寝床でみんなといられる。

 5人でゆったりと湯を味わった。
 やはり「虎温泉」は違う。
 消耗した体力が、みるみる甦って来るようだ。
 麗星は虚弱体質や滋養強壮にも抜群の効果があると言っていた。
 その通りだった。

 柳は「ロボボート」をゆっくりと紐で引いてやっている。
 ロボが嬉しそうに移動するのを楽しんでいる。
 双子は俺と亜紀ちゃんと並んでまったりしている。
 こうして見ると、確かに姉妹だ。
 よく似ている。
 三人とも美しい顔立ちで、胸は小さい。
 まあ、双子は小学生だが。

 まだ朝なので、外は明るく、ムードはあまり無い。
 それでも広い温泉なので、寒い中で立ち込める湯気が結構いい感じだ。

 「そう言えば、斬さんが最後にやった技、不思議だったよね!」
 「ああ、「月光花」とか言ってたな」
 「なんか真っ暗になっちゃって」
 「見てたのか」
 「「うん!」」

 ルーとハーは亜紀ちゃんを必死に処置しながら、斬の技に驚愕したようだ。

 「私は見てませんが、どういうものだったんですか?」
 「多分、光子を操ったんだろう。光子を収束させたんで、周囲が真っ暗になった」
 「凄いですね」
 「ああ。高密度で束ねたビームをぶつける技だろうな」
 「視界を奪いながらですか」
 「そうだ。初見では気付いた時には、もう燃えているな」
 
 三人が真剣な顔になった。

 「斬も極めようとしているんだ、「花岡」を」
 「はい」
 「あの夜にな。斬を誘って4振の刀を見せたんだ」
 「そうなんですか」
 「亜紀ちゃんを守ってくれたからな。その礼に好きな物を選ばせるつもりだった」
 「斬さんは相当な剣士でもあるでしょうしね」
 「そうだ。あいつが対妖魔の刀を持てば、相当な力になる」
 「はい」
  
 俺は斬が一通り握って見たことを話した。

 「でもな、あいつはいらないと言った」
 「「「!」」」

 「自分には「花岡」があるってな。それ以外のものは、今更いらないと言われた」
 「やっぱり斬さんですね」
 「そうだな。あいつは凄い男だよ」

 ロボが柳の移動が面白くて、立ち上がってジルバを踊り出した。
 ご機嫌の証拠だ。

 「ロボ! 座ってないと危ないよ!」

 柳が手で座らせようとした。
 腕から落ちた水滴でロボが滑って転び、湯の中へ落ちた。

 《ドボン》

 「「「「「!」」」」」

 ロボが水中から「トライデント地獄車キック」で柳をぶっとばした。

 「なんでぇー!」

 俺がロボを座敷に上げ、身体を拭いてやった。
 ドライヤーで乾かしてやると、気持ちよさそうにした。

 柳は双子と亜紀ちゃんに慰められていた。

 

 
 みんなで一度上がり、座敷でフルーツを食べた。
 すっかりのんびりムードになり、昼食は皇紀に蕎麦屋に出前を取らせた。
 ルーがみんなの注文をまとめ、皇紀に電話した。
 タオルを巻いて子どもたちが受け取り、皇紀は早く行けと蹴られていた。
 可愛そうに。

 30人前も丼が並び、俺も上天丼とタヌキ蕎麦を食べた。
 大分食欲が戻った。
 午後もずっと温泉に入り、飲み物とフルーツを時々食べながら寛いだ。
 
 「おい、ルー、ハー」
 「なーに?」

 「お前ら一回もトイレに行かないな?」
 「え、うん」
 「そうだったかな」
 
 亜紀ちゃんと柳がなんなんだと見ている。

 「お前らまさか……」
 「「……」」

 「おい!」

 二人が湯の中で出していたことを白状した。
 頭を思い切り殴り、みんな湯を出た。
 
 泣いている二人を、亜紀ちゃんと柳がまた頭を引っぱたいていた。 
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