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優しい温もりが

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 食事の後で、斬を誘って一緒に風呂に入った。

 「大丈夫か?」
 「ふん!」

 斬の抉られた腹は、もう盛り上がってピンクの皮が再生していた。
 背中を流している時にちょっとつつくと、怒った。

 「お前の傷も全部塞がっているな」

 斬が俺の背中を流しながら言った。

 「ふん!」

 俺が言うと、斬が笑った。

 「あれは物凄い効力だな」
 「今後はお前にも渡しておく。まさかあんなに弱かったとは思わなかったからなぁ」
 「ふん、まあ寄越せ。必要な時が来るかもしれん」

 自分自身のためではないだろう。
 こいつが大事な人間のために使いたいのだ。
 一緒に湯船に浸かる。

 「士王はカワイイだろ?」
 「そうだな。自分でも、こんな気持ちに驚いている」
 「俺らの方が驚いてるってぇ!」

 俺が言うと斬が笑った。

 「清純派女優がバイブレーターを持ってるみたいだぞ!」
 「お前! もっと喩えを綺麗に言え!」
 「そんだけ想像外だってんだ!」
 「ふん!」

 斬は湯を両手に溜め、顔を洗った。

 「お前、わしのことを気に掛けたか」
 「あ?」
 「わしが雅たちを殺したから、落ち込んでいると思ったか」
 「あれは雅さんたちじゃねぇ。お前は敵を殺しただけだろうが」
 「お前は殺せなかったな」
 
 「そうだな」

 斬は、俺を甘いと言いたいのだろう。

 「お前の身体の傷。随分と多いな」
 「そうだよ!」
 「お前は自分の命よりも大事なものを持ち過ぎておる」
 「そうか」
 「じゃが、お前は途轍もなく強い」
 「そうかよ!」
 「じゃから、栞をお前に任せた」
 「……」

 「栞と士王を守ってくれ」
 「当たり前だ」
 「頼む」

 斬が俺に向かって頭を下げた。
 
 「心配するな。絶対だ」

 俺は斬に親父のことを話した。
 俺が知らない所で道間家と約束し、自分の命で俺の命を贖ったのだと言った。
 斬は何も言わずに、俺の話を聞いていた。

 「今日のことは、俺の甘さだった。申し訳ない」
 「それもお前だ。甘いお前も嫌いではない」
 
 


 風呂から上がり、斬に外で待つように言った。
 俺は自分の部屋から四振の刀を持って出た。

 斬が俺を見て、何事かという顔になった。

 「今日の詫びだ。どれでも好きな刀を持って行ってくれ」
 「なんじゃ?」

 そう言いながらも、興味を持って俺が持って来た刀を見る。
 最初に長大な「常世渡理」を手にした。

 「どうやって抜く?」
 
 俺は笑って刀を受け取り、一気に鞘を払った。
 斬が驚いている。
 俺は斬に渡した。

 「美しいな」

 青白く光る薄刃の刀身に魅せられている。

 「振ってみろ」

 斬が頷いて刀身を上から振り下ろした。
 《シャララン》という音が響く。

 「いい刀だ」
 「それは妖魔を斬るためのものだ。物質を斬ろうとすれば、折れるかもしれない」
 「そうか」
 
 斬は俺に刀を返した。
 鞘に戻す。
 「流星剣」を手にする。

 「随分と重いな」
 
 特殊な隕石鉄で鍛え上げたものだと説明した。
 斬がまた振ってみる。

 「バランスがいい。業物だな」
 「両面宿儺が持っていたとされているそうだ。一撃で数万の妖魔を殺したらしいぞ」
 「そうか」

 斬が鞘に納めて俺に返した。
 次に「朧影」を手にする。

 「これも美しい刃紋だな」

 霧のように小さな点が拡がっている。

 「一里先までの妖魔を消滅させるらしい」
 「そうか」

 最後の「黒笛」を手に持った。
 
 「黒い刀身か」
 「それについては何も分かっていない。まあ、妖魔に有効なんだろうとは思うけどな」
 「そうか」
 「どれにする?」

 俺が問うと、斬は「黒笛」を鞘に戻して俺に返した。

 「どれもいらん。お前が持っていろ」
 「いや、お前が一振持てよ。妖魔との戦いには有効だ。それこそ、「業」の攻撃でもな」
 「ふん! わしには「花岡」がある」

 斬はそう言って拳を前に突き出した。

 「この年まで、わしはこれで戦って来た。今更道は変えられん」
 「俺の手は二本しかねぇ。だから、誰か使い手にこれを持っていて欲しいんだがな」
 「千両にでもくれてやれ。あいつは剣士だ」
 「「虎王」を持っているだろう」
 「わしは知らん。お前が好きに探せばいい」
 「そうか」

 俺は刀を担いだ。

 「わしはもう寝る。今日は随分と遅くまで起きてしまった」
 「ああ、お前の朝は早いからなぁ。朝食は8時だぞ」
 「勝手に食べる」
 「まあ、いいけどな」

 俺たちは中へ入り、斬は自分に用意された部屋へ行った。
 俺は刀を部屋に入れ、食堂へ寄った。

 「やっぱり飲んでやがったか!」
 「エヘヘヘヘ」

 亜紀ちゃんが笑う。
 栞と柳と蓮花、それに一江と大森もいた。
 
 「お前たちにはとんだ目に遭わせたな」
 「いいえ。皆さん無事で良かったです」
 「亜紀ちゃんは死んで、俺も斬も大変だったけどな!」
 
 みんなが笑う。

 「まあ、私らはずっと栞の傍にいましたからね。いろんな話が出来ましたよ」
 「そうか」
 「またみんなで女子会しようねって言ってたの」
 「マジやめろ」
 「なによ!」
 
 蓮花が俺に何を飲むかと聞いた。
 俺は梅昆布茶があるか聞くと、あると言った。

 「あれ、タカさんは飲まないんですか?」
 「流石に今日はな。亜紀ちゃんもそれで終わりにしろよな」
 「はーい」

 亜紀ちゃんが俺に一口飲めと自分のグラスを寄越した。
 ウーロン茶だった。
 蓮花が止めてくれたのだろう。

 俺は亜紀ちゃんを連れてもう寝ろと言った。
 俺に腕を絡めて、一緒に歩く。
 途中で栞の部屋を覗き、大きめのベビーベッドで眠る士王を見た。
 ロボが一緒に寝ている。

 「士王ちゃん、ちょっと狭そうですね」
 「ロボもベッドみたいなもんだから、大丈夫だろう」

 亜紀ちゃんが声を出さないように笑った。
 二人でそっと部屋を出た。

 「士王ちゃん、一人で大丈夫なんですか?」
 「ああ。高速ロボ通信で知らせてくれるからな」
 「なんですか、それ!」

 研究所の監視カメラがちゃんと栞に伝える。

 「おい」
 「はい!」
 「もしかして、一緒に寝るのか?」
 「そうですけど?」
 「そんな不思議そうな顔をするな!」
 「エヘヘヘヘヘ」
 
 亜紀ちゃんが嬉しそうに笑った。

 「まあ、今日は患者の容態を診なきゃだしな」
 「そうですよ!」
 
 亜紀ちゃんとベッドに入った。
 こいつは、俺を心配しているのだろう。
 
 「山中たちと夢で逢ったんだよな」
 「はい」
 「俺も親父と夢で逢えた」
 「!」
 「ちゃんと別れは済ませた」
 「……」

 亜紀ちゃんが俺の腕に抱き着いた。

 「タカさん」
 「なんだ」
 「ベッドで、すごく安らかな顔をしてました」
 「そうか」
 「良かったです」
 「ああ」
 「本当に良かった」
 「そうだな」

 ロボが部屋の前で鳴いた。
 栞が戻ったのだろう。
 亜紀ちゃんと二人で思い切り可愛がってやった。

 俺はグッスリと眠った。




 亜紀ちゃんの優しい温もりが、そうさせてくれた。
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