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鷹のマンションにて

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 土曜日の三時。
 俺は鷹のマンションに着いた。
 合鍵を持っているが、チャイムを鳴らす。

 鷹がすぐにドアを開けてくれた。

 「お待ちしてました」

 晴れやかな笑顔で出迎えてくれる。

 「ちょっと家で大問題があったんだけどな! ほったらかしてこっちに来た」
 「ちょっとの大問題なんですね」
 「アハハハハハ!」

 俺は靴を脱ぎ、すぐに鷹が揃えてくれた。
 スリッパはもう出ている。

 履いている最中に、鷹が俺を抱き締めた。

 「おい」
 「本当に待っていたんです」
 「なんだよ」
 「ちょっとの間……」

 鷹が恥ずかしそうに俯いた。
 黙って俺から離れ、リヴィングに行く。

 俺が座ると、すぐにコーヒーが出て来た。

 「石神先生はいつも時間通りですので、用意してました」
 「ちょっとの大問題があったんだけどな!」
 「ウフフフフ」

 鷹も座り、俺は柳の話をした。

 「そんな恐ろしいことが」
 「ああ、俺も驚いた。こないだ、ちょっと柳が痩せたように見えて気にはなっていたんだ。でも、あいつは「対妖魔」の技をバカみたいに一生懸命にやっているからな。その疲れかとも思ったんだ」
 「そうですか」
 「でも、亜紀ちゃんからヘンな話を聞いてな。柳が最近生肉を部屋へ持って行くのだと」
 「怖いですね」
 「ああ。それで何かあると確信した。まさか、あんなことになっているとは思わなかったけどな」

 鷹が少し脅えている。

 「柳は可愛らしい黒人の子どもの人形と思っていたんだ。もう、最初から精神支配されていたんだな」
 「その、いきなり部屋の中だったというのは?」
 「俺にも分からん。幻覚だとも考えられるが、柳が人形を手にしたということは、本当に部屋の中に入ったんだろう。廊下で見つけた方が幻覚だろうな」
 「不思議ですね」
 「俺は何らかの「通路」を作られたんだと思う。どういうものかは分からないがな。それを通って部屋の中へ引き込まれた」
 「怖い……」

 俺は震えている鷹の隣に座り、肩を抱いた。

 「おい、この世で最強の女の一人がどうした」
 「怖いですよ。抵抗することが出来ないんですから」
 「大丈夫だ、鷹。意志を強く持て」
 「はい」

 「意志を強くというのは、楽な道を選ぶなということだ。柳は夢の中で技を教わった。簡単に突破出来ると思ってしまった弱さがあったんだ」
 「でも、それは……」
 「柳は悩んでいた。どうすれば分からないことだからな。必死でやっても成果は出ない」
 「はい」
 「でも、それでいいんだ。俺たちは必死でやらなければならない。結果じゃないんだよ。結果は、出れば使うというだけだ。出なくたっていい」
 「はい」

 「どこかのバカな女は、結果を得るために死に掛けたそうだぞ」
 「まあ!」
 「そこまでやられちゃなぁ」

 俺は鷹を抱き締め、唇を重ねた。
 そのまま舌を入れて鷹の口を貪る。

 「おい」
 「はい」
 「なんか、我慢できなくなったぞ」
 「大変ですね」
 「鷹のせいだからな」
 「どうしてです?」
 「お前が綺麗過ぎる」
 「まあ」

 俺たちはそのまま愛し合った。
 まだ明るいリヴィングで、俺は鷹を貪った。




 「あの、そろそろ夕飯の支度を」
 「ああ! おい、お腹空いちゃったよ」
 「まあ」
 「鷹のせいだからな!」
 「ウフフフフ」

 俺たちは一緒にシャワーを浴び、着替えてから夕飯の支度を始めた。
 鷹のマンションでは、こうやって一緒に作る楽しみがある。

 真鯛の頭を兜煮にし、身は湯引きにする。
 頭は俺は二つに割った。
 ジャガイモとソラマメの吹かし。
 米ナスの味噌田楽。
 マグロ・アボガドサラダ。
 豚ヒレ肉の蒸し煮。
 湯葉の味噌汁。
 そして栗ご飯。

 俺たちは楽しく話しながら食べた。

 「士王ちゃんが喋ろうとしてますよ」
 「ほんとか! じゃあ、また行かなきゃな」
 「はい」
 「最初は「おとーさん」だからな!」
 「まあ!」

 鷹が笑った。

 「まあ、「おかーさん」はしょうがねぇけどなぁ」
 「栞は本当に可愛がってますよ」
 「そういう女だよな」
 「はい」
 「鷹も可愛がってるんだろ?」
 「それはもう! 本当に可愛いですから」
 「アハハハハハ!」

 鷹が士王のどこがカワイイのかと話していく。

 「抱いているとですね、オッパイを掴もうとするんですよ」
 「おお! 流石だな」
 「アハハハハ! それで、妙に慣れた手つきで触って来るんです」
 「間違いなく俺の子だな!」
 「ウフフフフ」

 「鷹のオッパイは大好きだからな!」
 「でも、栞の方が大きいですよ?」
 「大きさじゃねぇよ! 何て言うか、「オッパイ格」みたいなものがだなぁ」
 「なんです、それ?」
 「オッパイの品格だな。その女の品格の最も現われる場所だよな」
 「そうなんですか!」
 「おう!」

 二人で笑った。

 「亜紀ちゃんがよ、前に「花岡」でスゴイことやったんだよ」
 「なんです?」
 「風呂場でさ、ムゥーってやったら、オッパイが大きくなった」
 「えぇー!」

 「「Bカップになります」だって! な、すげぇだろ?」
 「凄いですね!」
 「流石、「花岡」の超天才だよなぁ。斬に見せようって言ったら「嫌です」って言ったけどな!」
 「アハハハハハ!」

 二人で大笑いした。

 「それとな、前に蓮花の研究所に行って、地下のブランの施設に二人で入ったんだ」
 「はい」
 「まだブランたちの一部が残っていてな。亜紀ちゃんが裸になったんだよ」
 「え?」

 「電灯を消した。亜紀ちゃんの身体がぼんやりと白く光ったんだ。それが美しくてなぁ。ブランたちも、じっと亜紀ちゃんを見ていた」
 「優しい子ですね」
 「そうなんだ。暴れれば最強無敵なんだけどな。その本質は優しいんだよ」
 「はい」

 みんな分かっている。
 優しい者ほど強く高い。




 「最近、響子ちゃんが元気ですよね!」
 「ああ。身体も大きくなったし、精神的にもな。六花が時々困ってるよ」
 「そうですか」
 
 「まあ、仲良しだからな。それに響子も六花を悲しませることはしない」
 「はい」

 俺は響子がジョークで書置きをベッドに遺し、六花を半狂乱にさせた話をした。

 「俺の部屋に飛び込んで来てな。大泣きで。そうしたら俺の膝に響子が座ってた」
 「アハハハハハ!」

 「流石に六花が激怒してよ! 納めるのに苦労した」
 「大変でしたね」
 「ああ。響子も必死に謝ってなぁ」
 「響子ちゃん、もう日本語も読み書きできますもんね」
 「そうだ。やっぱりロックハートの血筋は凄いな」
 「はい」

 俺たちは食事を終え、後片付けをした。
 二人でゆっくりとコーヒーを飲む。

 「そう言えばさ。前に六花がヘンなことを言ってたんだ」
 「なんです?」
 「「響子は《光の女王》なんですか」って」
 「どういうことでしょう?」
 「俺にも分からん。響子がちょっと熱を出した時でな。俺がフルーツを買って戻ると、そんなことを言っていた」
 「はぁ」
 「まあ、響子はカワイイんだけどな」
 「そうですね!」

 


 鷹と風呂に入り、ベッドでまた愛し合った。
 鷹は何度も逝き、最後はいつものように気を喪った。
 攻め過ぎないようにといつも思うのだが、鷹が愛らしくて歯止めが効かなくなる。
 鷹は幸せそうに隣で寝息を立てていた。

 あの日、六花が俺に「光の女王なのか」と聞き、俺は「そうかもしれないな」と答えた。
 否定する気持ちが全くなかった。

 俺は鷹の美しい寝顔を見ながら、それを思い出していた。
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