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道間家: 霊素の探求 Ⅳ

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 全てを片付けて、俺たちはお茶を頂いた。
 今度はダージリンティーだ。
 茶請けに俺が大好きな八つ橋が出る。

 「すみません。土産が無くて」
 「そんなことは! 何も頂かなくても当たり前ですのに。石神様には生涯返しようの無い恩義がございます」
 「何を言ってるんですか。俺の方こそいろいろ助けて頂いてますよ。今回のことだって、本当に感謝してます」
 「ヒヒイロカネを分けて頂くだけで、もうどんなお土産よりも」
 「そう言って頂けると」

 俺は「虎王」や「常世渡理」などもクロピョンが持って来たものだと話した。

 「あまりもう頼ろうとは思いませんが。あれは大きすぎる事のように思います」
 「大黒丸の力が人間には大きすぎると?」
 「そうです。頼り切れば、もう人間の生ではなくなる。そのように思います」

 麗星が笑っていた。

 「その通りだと、わたくしも思います」

 柳が庭で鍛錬をさせて欲しいと言い、亜紀ちゃんも一緒に言った。
 俺は麗星に頼んで、もう一度「妖探盤」を皇紀と双子に見せて欲しいと言った。
 五平所さんが一緒についてもらう。
 本来ならば貴重なものなので断られていただろうが、大量のヒヒイロカネが手に入ったために、許可してくれた。
 ロボは縁側で寝た。

 俺と一江、大森は麗星に庭を案内された。

 広大で美しい庭園に、武骨な一江も感動していた。
 東屋で一休みする。
 麗星が、あらためて一江に『週刊特ダネ妖怪』の翻訳の礼を述べた。

 「一江様。ご先祖の妖子様がこちらへいらしたことは御存知ですか?」
 「はい。妖子の日記に書かれておりました」
 「まあ、そのようなものが」

 一江が日記に書かれていたことを掻い摘んで説明した。

 「はい、すべてその通りでございます。妖子様は非常に御熱心に「妖探盤」の仕様と性能を求めていらっしゃいました。当時の当主たちも驚くほどの」
 「御迷惑をお掛けしたんでしょうね。何しろ妖子は虎之介のために命懸けでしたから」
 「オホホホホホ」

 麗星も知っているようだった。

 「恋する女は、昔も今も変わりませんね」
 「はい」

 三人の女たちが笑っていた。




 俺たちは少し休ませてもらうことにした。
 皇紀たちの所へ顔を出すと、熱心に構造を見ていた。
 五平所さんがまた妖魔を呼び出して、実演してくれているようだった。

 亜紀ちゃんと柳はシャワーを借り、厨房へ移動した。
 夕食の準備を手伝うためだ。
 おまけの二人には、精一杯手伝うように言ってある。
 俺はロボを抱き上げて、部屋へ行き、ベッドで横になった。
 ロボは俺の方へ足を伸ばし、気持ちよさそうに寝ている。

 「そういえばよ」

 俺が言うと、薄く目を開けた。

 「どうして「妖探盤」はお前を向かなかったんだ?」
 
 ロボは尻尾を一度持ち上げて返事する。

 「カワイイからか?」

 口を開いて返事する。

 「やっぱな!」

 まあ、考えても分からん。

 ウトウトしていると、亜紀ちゃんが呼びに来た。

 「タカさーん!」
 「おう、夕飯か?」
 「そうなんですけどー。私たち、ほとんど何も出来ませんでしたー」
 「なんだ?」
 「ちょっとレベルが違い過ぎですよ! 一流の料理人の方々が集まってて」

 俺は笑った。
 俺の家で結構料理をするようにはなったが、プロにはとても及ばない。
 麗星は、俺たちが手伝おうとするのを見込んで手配したのだろう。

 「じゃあ、お前ら、来た意味がねぇじゃん」
 「そうなんですよー!」

 俺は笑いながら一緒に食堂へ行った。




 物凄い京懐石の夕食だった。
 子どもたちも、この日ばかりはバカ喰いはしなかった。
 一品ずつ、味わって食べなければならない料理を初めて知った。
 海鮮は一切の臭みはなく、一つ一つの料理が呑み込むのが惜しまれるほどの美味さだった。

 本気の鷹の料理がそうだ。
 子どもたちはほとんど知らない。
 俺だけのために、腕を振るってくれる。
 
 食べ終わり、全員が麗星に礼を言い、頭を下げた。

 俺は皇紀と双子と一緒に風呂に入った。
 四人で背中を洗い合い、湯船に浸かる。

 「どうだった?」
 「構造自体は分かりました。やはり、「霊素」に感応しているようです」
 「そうか。じゃあ、ヒヒイロカネを使えば、お前でも作れるか?」
 「多分。教えてはもらえませんでしたが、ヒヒイロカネの結び方が、一つの回路になっているんだと思います」
 「流石だな、皇紀」
 「エヘヘヘヘ」

 ルーとハーが嬉しそうに笑っている。

 「五平所さんが、皇紀ちゃんにも分かるように見せてくれたんだよ」

 ハーが言った。
 恐らく、口にすることは禁じられているのだろう。
 それに、五平所さんが教えたということは、当然麗星の許可があったはずだ。
 道間家は、全面的に俺たちに協力してくれようとしている。

 


 風呂から上がり、酒を飲んだ。
 極上の冷酒が用意され、肴もいいものだった。
 俺と麗星、五平所さん、亜紀ちゃんと柳。

 明日も長距離を運転するので、軽く飲んで解散した。

 それぞれの部屋に入る。
 俺はロボとベッドに横になっていた。

 部屋の中に、ぼんやりと小さな淡い光の球が浮かんでいた。
 ロボもじっと見ている。

 「少し出て来るな。先に寝ていろ」

 ロボが横になり、目を閉じた。
 俺はドアを開け、外に出た。
 光の球が先に進んでいく。
 俺はその後をついて歩いた。

 幾つかの廊下を曲がり、階段を上がった。
 あるドアの向こうに光りの球が入って行った。
 知らずとも、誰の部屋なのか分かる。

 ドアを開けて中に入ると、麗星が抱き着いて来た。

 「石神様」

 俺も抱き締める。
 麗星はゲランの「夜間飛行」の香りがした。
 既に、それ以外は身に着けていなかった。

 俺がベッドに横になると、麗星も後から隣に横たわった。

 「フランスで鍛えたテクを見せてもらいましょうか」

 麗星が目を丸くして俺を見て、俺の浴衣を拡げた。
 身体を上に重ね、俺に小さくキスをする。

 「あの」
 「はい」
 「フランスでは実はあまり」
 「はい?」
 「経験はあるのですが、あまり多くは無く」
 「え? 数々の男と愛を語り合ったと聞きましたが」
 「はい、ナンパは多くされたのです。ですので愛しているなどとはよく」
 「はぁ」
 「でも、関係を持ったのは一人だけで。しかも二度だけ。あとは……」

 俺は声を上げて笑った。
 麗星は顔を赤くして、俺の下着を脱がせた。
 口に含もうとするが、入らないと言った。
 俺はもう一度笑って、麗星の上になった。
 優しく愛撫し、身体を固くしていた麗星をほぐしていく。
 俺の指先で絶頂に達し、口でまた果てた。
 荒い息をしている間に、俺が挿入され、麗星は大きく息を吐いた。
 
 数えきれない程に麗星は逝き、俺も何度も中へ出した。
 麗星は俺の名を叫び続け、気を喪った。
 
 布団を掛けてやり、浴衣を着直して俺は部屋を出た。
 一度シャワーを浴びて、部屋へ戻った。
 ロボがしきりに俺の匂いを嗅ぐ。

 「「夜間飛行」っていうんだぞ。ロマンティストだよな」
 「にゃ」

 



 ロボは俺の胸に顔を埋めて眠った。 
 サン=テグジュペリは甘やかされて育ったワガママ坊ちゃんだった。
 しかし、そのロマンは偉大で、真の冒険者だった。
 『夜間飛行』は、彼の作品の中で、俺が最も好きなものだ。
 麗星は、それを身にまとっていた。
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