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道間家: 霊素の探求 Ⅲ
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全員が座敷に集められた。
いよいよ、羅盤の解析だ。
麗星が袱紗に包んだものを注意深く持って来る。
「こちらが「妖探盤」でございます」
「お、普通の名前」
「何か?」
「いいえ」
袱紗を解くと、五芒星の形をした盤が現われた。
「この「五芒星」が鍵でございました。五芒星に特別な金属を結ぶことによって、あやかしを探知いたします」
「特殊な金属とは?」
「ヒヒイロカネでございます。ヒヒイロカネはあやかしに反応する性質を持って居ります。また、あやかしを滅する力も」
「そうなんですか」
「はい。ですが、もうヒヒイロカネはどこにもございません。道間家も僅かに所有していたものを全て使ってこの「妖探盤」を製作いたしました。この一つのみでございます」
「ああ、だから妖子の役目が終わると、こちらへ戻されたということですね」
「さようでございます。元より、そのような取り決めでございました」
一江が目を輝かせて見ている。
自分の先祖がこれを使い、虎之介と共にあやかしと戦っていたのだ。
「実際にお見せしましょう」
麗星は、盤の中心にあるつまみを回した。
五平所さんが何かを唱えている。
「今、五平所が小さな妖魔を背後に呼びました」
「妖探盤」が回り、水晶の先端を持つ角が五平所さんに向いた。
全員が驚く。
五平所さんが移動すると、ピタリとその位置を指す。
今も正常に作動するようだ。
双子が真剣に睨んでいる。
五平所さんに、動く方向や距離を頼む。
「どうだ?」
「タカさん、難しいよ。繊細過ぎて、動きが捉えにくい」
「もうちょっと大きなものなら分かりそうなんだけど」
「そうか」
「感度を上げてみましょう」
麗星が、感度を最大にした。
「もうちょっとだー!」
「あと少し大きければ!」
俺は麗星を見たが、首を振っていた。
これで限界らしい。
「ヒヒイロカネがあれば、もっと大きなものも作れますか?」
「はい。仕組みは分かっておりますので。しかし、ヒヒイロカネは……」
俺は障子戸を開け、縁側に出た。
「クロピョン! ヒヒイロカネだ!」
庭の周囲の空間が爆発する。
「あ……」
ここは霊的防衛が敷き詰められているのを失念していた。
クロピョンの登場で、防衛機構が破壊されているのだろう。
ズボッ。
赤い虹のように輝く柱が出て来た。
「御苦労! すぐに消えてくれ!」
黒い触手が左右に振れ、消えた。
「ばいばい」か。
麗星と五平所さんが俺の後ろで直立していた。
「「ぷ、ぷ、ぷ、ぷ、ぷ、ぷぴ」」
まためんどくさい状態になっている。
双子が二人の尻を蹴った。
「い、い、いし、いしがみ……」
「しっかりしろ!」
「あ、あれはヒヒイロカネでございますかー!」
「そうだと思いますよ」
「な、なんでー!」
俺は亜紀ちゃんに言って茶を用意させた。
とにかく落ち着かせなければならない。
麗星と五平所さんが会話出来るようになるまで、30分を要した。
「驚きました。本当にヒヒイロカネがここにあるとは」
双子が庭から引き抜いて、水場を借りて洗った。
今は縁側に横たえてある。
直径50センチ、長さ4メートル。
意外と軽い。
鉄の比重の半分ほどだ。
表面は赤のモアレのように輝いている。
「これで大きなものも作れますか」
「はい。ただ、加工に少々お時間が。後日、出来上がりましたら、またお知らせいたします」
「道間家で加工も出来るんですね?」
「はい。専門の製作の人間が居ります。ヒヒイロカネの精錬についても、資料がございますゆえ」
「そうですか。では宜しくお願いいたします」
麗星はまだ動揺している。
「石神様」
「はい?」
「この柱の、ほんの一部しか用いません」
「そうですか」
そうだろう。
「残りは如何なさいますか?」
「取り敢えずは、こちらで保管いただけますか? 今後、もしかすると必要になるかもしれませんし」
「さようでございますか」
「俺たちも使うかもしれませんが、道間家の方が有用な使い方が出来るでしょう。何か必要になりましたら、ご連絡下さい」
「かしこまりました!」
幾つか、案があるのかもしれないが、ここでは麗星は口にしなかった。
「ところで、一つ試したいことがあるんですが」
「はい?」
「用意しますので、しばらくお待ちください」
俺は座敷を出て、玄関から外へ出た。
ハマーから、二本の「虎王」を降ろした。
特殊な「Ω」の翅を使ったケースに入っている。
取っ手を両手で持って座敷の前に回った。
「石神様、それは」
「「虎王」です。このケースは前にもお見せしましたよね」
「ですが、二つございますが」
俺の無知でとんでもない刀を持って来たので警戒されている。
俺は「虎王」をもう一振り手に入れたのだと話した。
「なんと!」
「後から来た「虎王」には、五芒星が刻まれているんです」
「!」
俺は五芒星の「虎王」を取り出した。
両手で握る。
「五平所さん、もう一度あやかしを呼んで頂けますか」
「かしこまりました」
五平所さんがまた呼び出す。
俺には見えない。
しかし、「虎王」を握った俺には、「感じる」ことが出来た。
思った通りだった。
今度は俺自身が動き、向きを変えても五平所さんの場所が分かる。
正確には、その妖魔の位置が。
「五平所さん、あやかしだけ動かせますか」
「分かりました」
目には見えない。
しかし、俺の「虎王」の切っ先が、その妖魔に向く。
「石神様!」
「この「虎王」を持つと、位置が分かるようです。それに相手の強さや能力、意識も」
「それは!」
「どのような妖魔も斬れる、ということです」
「「!」」
麗星と五平所さんが驚いている。
俺は念のため、先に手に入れた「虎王」も取り出して握った。
やはり、妖魔の位置が分かる。
俺は縁側に行き、麗星たちに「虎王」を見せた。
「これは、五芒星!」
両側面に連続して続く五芒星を見た。
「石神様! 「虎王」はヒヒイロカネを使っているのですね!」
「そのようです。全てではないでしょうが、恐らく主要な材料になっているのでしょう」
「では、こちらの「北斗七星」は……」
「そちらはまだ分かりません。何らかの意味があるとは思うのですが」
全員が言葉を喪っていた。
この日、俺たちは一つの革新の岐路に立っていた。
そのことを後に痛感することになる。
「霊素」という、俺たちの仮説は、俺たちの想像を絶するものだった。
いよいよ、羅盤の解析だ。
麗星が袱紗に包んだものを注意深く持って来る。
「こちらが「妖探盤」でございます」
「お、普通の名前」
「何か?」
「いいえ」
袱紗を解くと、五芒星の形をした盤が現われた。
「この「五芒星」が鍵でございました。五芒星に特別な金属を結ぶことによって、あやかしを探知いたします」
「特殊な金属とは?」
「ヒヒイロカネでございます。ヒヒイロカネはあやかしに反応する性質を持って居ります。また、あやかしを滅する力も」
「そうなんですか」
「はい。ですが、もうヒヒイロカネはどこにもございません。道間家も僅かに所有していたものを全て使ってこの「妖探盤」を製作いたしました。この一つのみでございます」
「ああ、だから妖子の役目が終わると、こちらへ戻されたということですね」
「さようでございます。元より、そのような取り決めでございました」
一江が目を輝かせて見ている。
自分の先祖がこれを使い、虎之介と共にあやかしと戦っていたのだ。
「実際にお見せしましょう」
麗星は、盤の中心にあるつまみを回した。
五平所さんが何かを唱えている。
「今、五平所が小さな妖魔を背後に呼びました」
「妖探盤」が回り、水晶の先端を持つ角が五平所さんに向いた。
全員が驚く。
五平所さんが移動すると、ピタリとその位置を指す。
今も正常に作動するようだ。
双子が真剣に睨んでいる。
五平所さんに、動く方向や距離を頼む。
「どうだ?」
「タカさん、難しいよ。繊細過ぎて、動きが捉えにくい」
「もうちょっと大きなものなら分かりそうなんだけど」
「そうか」
「感度を上げてみましょう」
麗星が、感度を最大にした。
「もうちょっとだー!」
「あと少し大きければ!」
俺は麗星を見たが、首を振っていた。
これで限界らしい。
「ヒヒイロカネがあれば、もっと大きなものも作れますか?」
「はい。仕組みは分かっておりますので。しかし、ヒヒイロカネは……」
俺は障子戸を開け、縁側に出た。
「クロピョン! ヒヒイロカネだ!」
庭の周囲の空間が爆発する。
「あ……」
ここは霊的防衛が敷き詰められているのを失念していた。
クロピョンの登場で、防衛機構が破壊されているのだろう。
ズボッ。
赤い虹のように輝く柱が出て来た。
「御苦労! すぐに消えてくれ!」
黒い触手が左右に振れ、消えた。
「ばいばい」か。
麗星と五平所さんが俺の後ろで直立していた。
「「ぷ、ぷ、ぷ、ぷ、ぷ、ぷぴ」」
まためんどくさい状態になっている。
双子が二人の尻を蹴った。
「い、い、いし、いしがみ……」
「しっかりしろ!」
「あ、あれはヒヒイロカネでございますかー!」
「そうだと思いますよ」
「な、なんでー!」
俺は亜紀ちゃんに言って茶を用意させた。
とにかく落ち着かせなければならない。
麗星と五平所さんが会話出来るようになるまで、30分を要した。
「驚きました。本当にヒヒイロカネがここにあるとは」
双子が庭から引き抜いて、水場を借りて洗った。
今は縁側に横たえてある。
直径50センチ、長さ4メートル。
意外と軽い。
鉄の比重の半分ほどだ。
表面は赤のモアレのように輝いている。
「これで大きなものも作れますか」
「はい。ただ、加工に少々お時間が。後日、出来上がりましたら、またお知らせいたします」
「道間家で加工も出来るんですね?」
「はい。専門の製作の人間が居ります。ヒヒイロカネの精錬についても、資料がございますゆえ」
「そうですか。では宜しくお願いいたします」
麗星はまだ動揺している。
「石神様」
「はい?」
「この柱の、ほんの一部しか用いません」
「そうですか」
そうだろう。
「残りは如何なさいますか?」
「取り敢えずは、こちらで保管いただけますか? 今後、もしかすると必要になるかもしれませんし」
「さようでございますか」
「俺たちも使うかもしれませんが、道間家の方が有用な使い方が出来るでしょう。何か必要になりましたら、ご連絡下さい」
「かしこまりました!」
幾つか、案があるのかもしれないが、ここでは麗星は口にしなかった。
「ところで、一つ試したいことがあるんですが」
「はい?」
「用意しますので、しばらくお待ちください」
俺は座敷を出て、玄関から外へ出た。
ハマーから、二本の「虎王」を降ろした。
特殊な「Ω」の翅を使ったケースに入っている。
取っ手を両手で持って座敷の前に回った。
「石神様、それは」
「「虎王」です。このケースは前にもお見せしましたよね」
「ですが、二つございますが」
俺の無知でとんでもない刀を持って来たので警戒されている。
俺は「虎王」をもう一振り手に入れたのだと話した。
「なんと!」
「後から来た「虎王」には、五芒星が刻まれているんです」
「!」
俺は五芒星の「虎王」を取り出した。
両手で握る。
「五平所さん、もう一度あやかしを呼んで頂けますか」
「かしこまりました」
五平所さんがまた呼び出す。
俺には見えない。
しかし、「虎王」を握った俺には、「感じる」ことが出来た。
思った通りだった。
今度は俺自身が動き、向きを変えても五平所さんの場所が分かる。
正確には、その妖魔の位置が。
「五平所さん、あやかしだけ動かせますか」
「分かりました」
目には見えない。
しかし、俺の「虎王」の切っ先が、その妖魔に向く。
「石神様!」
「この「虎王」を持つと、位置が分かるようです。それに相手の強さや能力、意識も」
「それは!」
「どのような妖魔も斬れる、ということです」
「「!」」
麗星と五平所さんが驚いている。
俺は念のため、先に手に入れた「虎王」も取り出して握った。
やはり、妖魔の位置が分かる。
俺は縁側に行き、麗星たちに「虎王」を見せた。
「これは、五芒星!」
両側面に連続して続く五芒星を見た。
「石神様! 「虎王」はヒヒイロカネを使っているのですね!」
「そのようです。全てではないでしょうが、恐らく主要な材料になっているのでしょう」
「では、こちらの「北斗七星」は……」
「そちらはまだ分かりません。何らかの意味があるとは思うのですが」
全員が言葉を喪っていた。
この日、俺たちは一つの革新の岐路に立っていた。
そのことを後に痛感することになる。
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