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アラスカの休日 Ⅲ

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 俺は亜紀ちゃんにハムを焼いて食べさせた。
 ハムを見た途端に、亜紀ちゃんの髪がスッと落ちて、ニコニコして食べた。

 「あなた、どういうことなの?」
 
 栞が呆れた顔で言った。

 「前にな。皇紀に何でも与えられて当たり前だと思うなって言ったんだよ」
 「それは立派なことだけど」
 「だからな。AVも俺から与えられるばかりじゃなくてってことをだな」
 「何それ?」
 「だからさ。自分が出演して作る側に回れみたいな?」
 「大分話が違ってるけど」

 桜花たちが大笑いした。

 「そうしたらさ。皇紀が貸したDVDを亜紀ちゃんたちに見つかってさ」
 「あー」
 「それで亜紀ちゃんがDVDをバキバキに壊した」
 「何やってんのよ」

 みんなで笑った。

 「まあ、若い頃って、本当にくだらないことをするじゃない」
 「私はないわよ!」
 
 俺はニヤリと笑って、栞の動画サイトの話をした。

 「えー! 何で知ってるの!」
 「こいつがさ、物凄いヤバい運転で、それをアップしてたんだよな」
 「やめてよー!」

 「「首都高の人喰いランクル」って、結構有名だったんだよ。一度、ルーフにバイクのハンドルが刺さってたのを見たぜ」

 栞以外が爆笑した。

 「分かったー! 私も下らないことをしてましたー! だからもう辞めて!」
 「タカさんの周りって、ヘンな人が多いですよね」
 「お前が言うなぁー!」

 楽しく飲んで解散し、栞と一緒に寝ようとした。
 丁度双子がマッパで出掛けようとしていた。

 「タカさん、ちょっと外を走って来ていい?」

 二人の頭に拳骨を落とし、辞めさせた。





 翌朝。
 朝食の後で、みんなで建設中の都市を見に行った。
 東雲が迎えに来てくれたハンヴィーM1152で出掛ける。
 このタイプは10人が乗れる。
 助手席に栞、後ろのベンチシートに子どもたちと士王とロボ、桜花たち。

 「しばらく来てなかったけど、本当に凄いよね!」

 都市部分はあちこちに高層のタワーが立っている。
 防衛システムだ。
 その下に、ビル群が立ち並び、高台に住宅群がある。
 商業区画や工業区画、娯楽区画、そして外縁には広大な農地と畜産地がある。
 整備されている一方で、ある程度のカオスもある。
 人間が暮らす街というのは、そうでなければならない。
 歩道がやたらと広いのも特徴だ。
 一部は車道よりも広い。
 
 都市の中心には広大な広場があり、巨大な虎のモニュメントが据えられている。
 知られてはいないが「オリハルコン」製だ。

 《都市には神話が無ければならない》

 俺が都市計画を任せた「パピヨン」という男が言っていた。
 「幻想都市」という長大な論文を書いた建築家で、俺がその論文で一目惚れした。
 
 俺はみんなを連れて、パピヨンに会いに行った。
 今は中心広場近くのビルに住んでいる。

 「よく来たな、タイガー!」
 
 痩せて背の高い男だ。
 身長は195センチある。
 額が広く、長い髪を両脇に垂らしている。
 分厚い眼鏡を掛け、高い鉤鼻。
 唇は薄く、目が大きい。
 異形だが、妙に愛嬌がある。

 「どうだ、調子は」
 「ここはもうすぐ一段落だな。もう既に御堂帝国にも取り掛かっているよ」
 「そうか」

 ジャングル・マスターもそうだが、パピヨンも日本語が堪能だ。
 二人とも、その国の言語が出来なければ、本当にいい仕事は出来ないと考えている。
 俺は栞や士王、子どもたちと桜花たちを紹介した。

 「「虎の穴」の中枢にいる人たちだね。宜しく頼むよ」

 全員が挨拶する。

 「今日初めて観ましたけど、素敵な街ですね」

 亜紀ちゃんが言った。

 「ありがとう。君は幻想を観たかな?」
 「幻想?」
 「そうだ。まだ未完成だからね。でも完成したら君も驚くよ」
 「そうですか! 楽しみです」

 亜紀ちゃんがそう言うと、パピヨンは満足そうに笑った。

 「まだ車で移動しただけなんだ。後でゆっくり歩いて案内するよ」

 俺は多忙なパピヨンの事務所を去った。
 全員を連れて、街を歩く。

 「あ! あのガラス張りのお店、いいですね!」
 「あっちの柱の多い建物もいいよ!」

 歩いていると、様々な設計があることが分かる。
 ガラス張りの大きな店舗があれば、重厚な柱を持つビルがあり、まったく無駄なように見える広場のような空間がある。
 一見無秩序なように見えながら、一定のリズムで並んでいるようにも見える。

 「こういうのが「幻想」なんですね!」

 亜紀ちゃんが喜んだ。
 どこまで歩いても飽きない。
 更に、これから人間が住むようになれば、もっと素敵な場所になっていくだろう。

 「多分、夜になるとまた素晴らしいんだよ」
 
 俺が言うと、みんなが納得した。
 街灯のデザインが区画ごとに変わり、また建物の窓の切り方やガラスの空間などが多用され、きっと幻想的な雰囲気を醸し出す。

 俺たちは車に戻り、ヘッジホッグに帰った。




 昼食は天ぷら蕎麦にする。
 子どもたちが大量の天ぷらを作って行く。
 桜花たちは笑って見ていた。

 「また買い出しが大変だろう」
 「いいえ、楽しいですよ!」

 椿姫が笑って言った。

 士王は離乳食を食べている。
 まだ母乳も飲んでいる。
 俺の方針で、できるだけ母乳を飲ませてやりたいのだ。
 前にそう言ったら、栞に笑われた。

 「もう! あなたは本当にお母さんが好きなのね」
 「そうだけど?」
 「もしかして、あなたが飲みたいとか?」
 「ば、ばかを言うな!」

 ちょっと思う。

 「あ!」
 「どうしたの?」
 「早乙女の土産を忘れてた」
 「「トラちゃん饅頭」でいいじゃない」

 ここの名物だ。

 「いや、あいつ、あれが嫌いなんだと」
 「えぇー! そんな人いるの!」

 栞も驚く。

 「どうしようかな」
 「サーモン持ってく?」
 「そうだなー」

 「虎の穴」には、まだ名産品は「トラちゃん饅頭」しかない。
 
 「「トラ羊羹」とか作るかー」
 「多分、それ怒られるよ」
 「うーん」

 「何か綺麗なイヌイットの土産でも探したら?」
 「そうだな」

 俺はヘッジホッグで働くイヌイットの人間たちに、何か無いかと聞いた。

 「ありますよ!」
 「そうか!」
 
 部族の長老だったという老人が、いいものを譲ってくれると言った。
 家に行くと、高さ2メートルの柱のようなものに、人間の足が生えてる置物があった。

 「「虎」様、これをお持ち下さい!」
 「なにこれ?」
 「これを持てば5人家族が100年幸福に暮らせます」
 「へー」
 
 ちょっと、アレだった。

 「でもそんな大事なものを譲ってもらうわけにはいかんよ」
 「いいのです!」
 「でも」
 「今年で丁度うちは100年目ですので」
 「え?」
 「次の家族が持つべきです!」
 「あーそう」

 断りにくかった。
 俺は「Ωシート」にくるんで持ち帰った。

 栞、士王、桜花、椿姫、蓮華。
 それぞれを抱き締めて別れた。





 木曜日の夜の9時に家に着いた。
 俺は早乙女に連絡し、夜も遅いが土産だけ渡したいと言った。
 俺の家に置くと、効果が始まってしまうかもしれない。
 と言うよりも、気味が悪いので家に置きたくなかった。

 「石神! わざわざ帰ってすぐにすまないな」
 「いいんだよ、親友!」
 
 早乙女が喜んだ。
 俺は廊下から荷物を運び、リヴィングまで入れた。

 「なんだ、これは?」
 「土産だ。お前、「トラちゃん饅頭」は好きじゃないみたいだったからな」
 「え、いや、食べたことないってだけで」
 「まあ、これが土産だ。一家が百年幸せになるものだそうだ」

 「「……」」

 「Ωカバー」を解いて足の生えた柱を置いて来た。

 「じゃーな!」
 「おい、石神!」

 後ろで早乙女が叫んでいたが、無視して帰った。 
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