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挿話: 「にゃんこバー「ネコ乙女」」
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8月のある金曜日の晩。
亜紀ちゃんは真夜と遊び(間違いなく飲み)に行っていた。
柳もいない。
御堂家に帰している。
それに、柳は戦いで傷ついたオロチの世話をしたがっていた。
優しい娘だ。
俺は独りで日本酒を飲んでいた。
ロボがいつものように、俺の後ろで焼いたササミを食べている。
「にゃう」
喉が渇いたようだ。
何となく、鳴き声で分かる。
俺は冷蔵庫からミルクを出し、皿に注いでやった。
ウェッジウッドのボーンチャイナだ。
ミルクを飲み終わり、ロボが俺の隣の椅子に登って来る。
珍しくテーブルに身を乗り出して、日本酒の入った俺の切子のグラスの匂いを嗅いで来た。
「にゃう」
「なんだ、飲みたいのか?」
「にゃーう」
俺をキラキラした目で見た。
吸い込まれそうな綺麗な瞳だ。
「ちょっとだけだぞー」
ネコに酒をやっていいとは思えない。
ただ、こいつはネコであって別物でもある。
肝臓も強いだろう。
俺は猪口を出して、少しだけ注いでやった。
ペロペロ。
「にゃーう」
舐め切って、俺をキラキラした目で見る。
「おう」
また注いでやった。
ペロペロ。
「にゃう」
「ちょっと待て。味わいながら飲め。それと、つまみも食べろ」
俺はマグロの柵を切ってやった。
ペロ。
くちゅくちゅ。
「お前、イケんな!」
楽しくなって来た。
ロボも気持ちよさそうにし、横顔を俺の胸にこすりつけてくる。
ゴロゴロ。
「亜紀ちゃんよー、きっとまた飲んでるんだぜ」
「にゃ」
「そうだよなぁ。俺が悪いんだけどなー」
「にゃ」
「そうか? でも暴れてなきゃいいけどな」
「にゃ!」
何となく二人で話しながら飲んだ。
もちろん、ロボが何を言っているのかは分からん。
でも、いい飲み仲間が出来たことで、俺は嬉しかった。
「おい、どこ行くんだ?」
ロボが椅子から降りて出て行く。
トコトコ。
俺を振り向いて、後ろ足で床を掻いた。
「ああ、トイレか! 大丈夫か?」
「にゃー」
大丈夫なようだ。
しばらくして戻って来て、また一緒に飲む。
「ロボはカワイーなー!」
「にゃう!」
俺は楽しくなって、歌を歌った。
♪ お酒は温めのー燗でいいー 肴は焙ったーイカでいいー ♪
「最高級マグロだけどな!」
「にゃ!」
「ワハハハハ!」
「ニャハハハ!」
二人で700ミリのボトルを空けた。
まあ、俺が9割だが、ロボも身体の大きさの割に飲んだ。
ちょっとだけ、ロボがフラついた。
少し気になったが、翌朝も異常は無い。
それから、たまに一緒に飲んだ。
ロボも、毎回はせがまない。
気分なのか何なのかは分からん。
ワイルドターキーもちょっと飲み、ビールもちょっと飲む。
でも、断然日本酒の冷酒が好きなようだった。
酒量も自分で把握出来るようで、酷く酔うことはない。
ちょっとフラつく時もあるが、乱れることはない。
いつもよりちょっとご機嫌で、俺にちょっと甘えて来る。
いい酒だ。
一度だけ、悪酔いした。
トイレでもどし、翌朝、潰れていた。
ぶにゅー。
「おい、大丈夫か?」
人間の薬はやめて、シジミを煮て汁を飲ませた。
ぺちょぺちょ。
ぶみゅー。
半日へたばっていた。
それから、酒量はきっちりと把握出来たようだ。
飲みたい時には、自分の猪口を咥えて来る。
俺が笑って、何かの柵を切る。
時には肉を焼く。
一緒に飲む。
楽しい。
何故かロボは、俺が独りで飲もうとする時にだけねだった。
亜紀ちゃんや柳と飲んでいる時には来ない。
おやつだけ食べている。
今まで通りだ。
俺もロボには勧めない。
別に隠していたわけでもないのだが、一緒に仲良く飲んでいる時に、亜紀ちゃんに見つかった。
「あぁー! ロボと飲んでるー!」
亜紀ちゃんが駆けよって来ると、ロボが恥ずかしそうに、俺の足の間に顔を埋めた。
「いつからですかぁー!」
「いいじゃねぇか。ほら、ロボが恥ずかしがってるだろう」
「なんでですかー!」
「知らねぇよ!」
亜紀ちゃんが自分のグラスを持って来た。
「ロボー、一緒に飲もうよー」
ロボがチラリと亜紀ちゃんを見た。
ちょっと悲しそうな顔をしている。
なんでか知らん。
「ほらー」
ロボが上半身を俺の胸に預け、俺の首元に顔を伏せる。
本当に見られたく無かったようだ。
「ね? じゃあ注いであげるね」
亜紀ちゃんがロボの猪口に酒を注いだ。
ロボがじっと見た。
「美味しいねー」
「にゃ」
ぺろぺろ。
「やったー!」
「命名! 「にゃんこバー「ネコ乙女」」!」
「ギャハハハハハ!」
「ニャハハハハハ!」
なんか決まった。
「そう言えば、「薔薇乙女」また行きたいですね!」
「そうだな」
「ロボも連れて行きましょうよ!」
「不味いだろう。飲食店なんだからなぁ」
「大丈夫ですよ! ヤクザとか殺人鬼とか行くじゃないですか」
「殺人鬼って、亜紀ちゃんかよ!」
「タカさんもですよ!」
「「ワハハハハハハ!」」
面白そうだ。
今度、ユキに聞いてみよう。
亜紀ちゃんは真夜と遊び(間違いなく飲み)に行っていた。
柳もいない。
御堂家に帰している。
それに、柳は戦いで傷ついたオロチの世話をしたがっていた。
優しい娘だ。
俺は独りで日本酒を飲んでいた。
ロボがいつものように、俺の後ろで焼いたササミを食べている。
「にゃう」
喉が渇いたようだ。
何となく、鳴き声で分かる。
俺は冷蔵庫からミルクを出し、皿に注いでやった。
ウェッジウッドのボーンチャイナだ。
ミルクを飲み終わり、ロボが俺の隣の椅子に登って来る。
珍しくテーブルに身を乗り出して、日本酒の入った俺の切子のグラスの匂いを嗅いで来た。
「にゃう」
「なんだ、飲みたいのか?」
「にゃーう」
俺をキラキラした目で見た。
吸い込まれそうな綺麗な瞳だ。
「ちょっとだけだぞー」
ネコに酒をやっていいとは思えない。
ただ、こいつはネコであって別物でもある。
肝臓も強いだろう。
俺は猪口を出して、少しだけ注いでやった。
ペロペロ。
「にゃーう」
舐め切って、俺をキラキラした目で見る。
「おう」
また注いでやった。
ペロペロ。
「にゃう」
「ちょっと待て。味わいながら飲め。それと、つまみも食べろ」
俺はマグロの柵を切ってやった。
ペロ。
くちゅくちゅ。
「お前、イケんな!」
楽しくなって来た。
ロボも気持ちよさそうにし、横顔を俺の胸にこすりつけてくる。
ゴロゴロ。
「亜紀ちゃんよー、きっとまた飲んでるんだぜ」
「にゃ」
「そうだよなぁ。俺が悪いんだけどなー」
「にゃ」
「そうか? でも暴れてなきゃいいけどな」
「にゃ!」
何となく二人で話しながら飲んだ。
もちろん、ロボが何を言っているのかは分からん。
でも、いい飲み仲間が出来たことで、俺は嬉しかった。
「おい、どこ行くんだ?」
ロボが椅子から降りて出て行く。
トコトコ。
俺を振り向いて、後ろ足で床を掻いた。
「ああ、トイレか! 大丈夫か?」
「にゃー」
大丈夫なようだ。
しばらくして戻って来て、また一緒に飲む。
「ロボはカワイーなー!」
「にゃう!」
俺は楽しくなって、歌を歌った。
♪ お酒は温めのー燗でいいー 肴は焙ったーイカでいいー ♪
「最高級マグロだけどな!」
「にゃ!」
「ワハハハハ!」
「ニャハハハ!」
二人で700ミリのボトルを空けた。
まあ、俺が9割だが、ロボも身体の大きさの割に飲んだ。
ちょっとだけ、ロボがフラついた。
少し気になったが、翌朝も異常は無い。
それから、たまに一緒に飲んだ。
ロボも、毎回はせがまない。
気分なのか何なのかは分からん。
ワイルドターキーもちょっと飲み、ビールもちょっと飲む。
でも、断然日本酒の冷酒が好きなようだった。
酒量も自分で把握出来るようで、酷く酔うことはない。
ちょっとフラつく時もあるが、乱れることはない。
いつもよりちょっとご機嫌で、俺にちょっと甘えて来る。
いい酒だ。
一度だけ、悪酔いした。
トイレでもどし、翌朝、潰れていた。
ぶにゅー。
「おい、大丈夫か?」
人間の薬はやめて、シジミを煮て汁を飲ませた。
ぺちょぺちょ。
ぶみゅー。
半日へたばっていた。
それから、酒量はきっちりと把握出来たようだ。
飲みたい時には、自分の猪口を咥えて来る。
俺が笑って、何かの柵を切る。
時には肉を焼く。
一緒に飲む。
楽しい。
何故かロボは、俺が独りで飲もうとする時にだけねだった。
亜紀ちゃんや柳と飲んでいる時には来ない。
おやつだけ食べている。
今まで通りだ。
俺もロボには勧めない。
別に隠していたわけでもないのだが、一緒に仲良く飲んでいる時に、亜紀ちゃんに見つかった。
「あぁー! ロボと飲んでるー!」
亜紀ちゃんが駆けよって来ると、ロボが恥ずかしそうに、俺の足の間に顔を埋めた。
「いつからですかぁー!」
「いいじゃねぇか。ほら、ロボが恥ずかしがってるだろう」
「なんでですかー!」
「知らねぇよ!」
亜紀ちゃんが自分のグラスを持って来た。
「ロボー、一緒に飲もうよー」
ロボがチラリと亜紀ちゃんを見た。
ちょっと悲しそうな顔をしている。
なんでか知らん。
「ほらー」
ロボが上半身を俺の胸に預け、俺の首元に顔を伏せる。
本当に見られたく無かったようだ。
「ね? じゃあ注いであげるね」
亜紀ちゃんがロボの猪口に酒を注いだ。
ロボがじっと見た。
「美味しいねー」
「にゃ」
ぺろぺろ。
「やったー!」
「命名! 「にゃんこバー「ネコ乙女」」!」
「ギャハハハハハ!」
「ニャハハハハハ!」
なんか決まった。
「そう言えば、「薔薇乙女」また行きたいですね!」
「そうだな」
「ロボも連れて行きましょうよ!」
「不味いだろう。飲食店なんだからなぁ」
「大丈夫ですよ! ヤクザとか殺人鬼とか行くじゃないですか」
「殺人鬼って、亜紀ちゃんかよ!」
「タカさんもですよ!」
「「ワハハハハハハ!」」
面白そうだ。
今度、ユキに聞いてみよう。
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