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東富士演習場 Ⅱ

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 食事の後、そのまま講習会となった。
 俺たちの戦闘の記録をスクリーンに投影しながら、俺が説明した。
 新宿中央公園でのフランス外人部隊との戦闘。
 防衛システム輸送の海上でのジェヴォーダンとの戦闘。
 アメリカ西海岸を襲ったプラズマ攻撃(実は俺)。
 
 そして「太陽界」の「デミウルゴス」による怪物化の映像。
 最後に御堂家を襲った水晶の騎士の映像。

 その他、「ヴァーミリオン」の解剖記録や、ジェヴォーダンの全身の映像などで解説した。

 「自衛隊の戦力は通じませんよね?」
 「今の戦力ではな」
 「では、我々は何をすればいいのでしょうか?」
 「一つは避難誘導と救出。それと、そのための特殊な兵装を渡す」
 「それは?」
 「後で演習場でまた教える。「カサンドラ」という武器だ」

 「自分たちは、先ほどの格闘技を教えていただけるのでしょうか?」
 「今はダメだ。この先も分からない。あれは人間が持つにはあまりにも強大な技だ。誰もが持っていていいものではない」
 「あなた方は、選民ということですか!」

 一人の男が言った。
 自衛官の中にも、こういう似非インテリがいる。

 「そうだ。俺たちは突然の攻撃を受け、必死に戦った。傷ついて来た。死んだ仲間もいる。俺たちは必死に戦ってきたんだ」

 俺の言葉に全員が黙る。

 「お前たちは何をした? ここで訓練をして、一般の人間よりも強くはなっただろう。銃を扱い、様々な勢力と戦えるだろう。だけど、俺たちが見せたような超常の戦力と戦ったことはあるのか? 誰もが瞬殺されるような恐ろしい敵を前にしたことはあるか!」

 「こいつらはまだ子どもだった。それでも必死に戦い、仲間を助けようとしてきた。敵が自分よりもずっと強かったから、必死に自分を強くしてきたんだ。仲間を助けるためだ! お前らはどうだ! 何をした!」

 左門が立ち上がった。

 「自分たちは何もしていません。ですが、これから強くなりますよ」
 「そうか」

 全員が立ち上がり、俺たちに敬礼した。

 「お前らも戦え。そうすれば、俺たちは仲間だ」

 全員が声を揃え「はい」と叫んだ。




 再び演習場に戻り、俺たちは10本の「カサンドラ」を渡した。
 使い方を説明し、「ガンモード」で30メートル先の的を撃たせる。
 一人一発だ。
 それが現在の「カサンドラ」の限界だった。
 50発を撃てばクールタイムが数時間掛かる。

 「プラズマ兵器だ。この他に「ソードモード」もある」

 亜紀ちゃんが1メートルのプラズマの剣を出し、分厚い鉄板を切り裂く。

 「「業」の兵士には「ガンモード」も有効だが、巨体のジェヴォーダンには効かない。近接戦闘で「ロングソードモード」を使えば斃せるが、その前にお前たちは死ぬ」

 先ほどの戦闘記録から、全員が分かっている。

 「ジェヴォーダンが出た場合、我々は出動出来ないということですね」
 
 俺はそう言った男を見た。

 「お前がそう思うのならばそうだ」
 「!」

 全員が、また沈黙した。

 「知っている者もいるかもしれない。今、警察内部に妖魔と戦うチームが設立された。お前たちと同じような敵と戦う。その中心となった男は、普通の人間だ。お前たちよりもずっと弱い」

 全員が俺を見ている。

 「そいつは、俺たちと一緒に戦った。俺たちの予想以上に強い敵で、俺たちの技も通用しなかった。苦戦した。でも、最初にその怪物に傷をつけたのは、その男だった! 一番弱かったその男が、一番勇敢だった。仲間が、誰かが危なくても自分の命が大事なら引っ込んでろ。でも、俺たちもそいつも、そういう戦いではなかった。それだけは言っておく」

 全員が沈黙した。




 「これから、お前たちが手も足も出ない力を見せてやる」

 全員が整列した。

 「クロピョン! 俺たちが破壊した地面を戻せ!」

 子どもたちが深く抉った地面が元に戻って行く。

 「タマ!」
 「なんだ」

 着物姿の美しい女性の姿で、タマが現われた。

 「こいつら全員、裸にさせろ」
 「分かった」
 
 全員が服を脱ぐ。

 「「ギャハハハハハ!」」

 双子が笑った。

 「タマ、こいつらの中に、敵対する奴はいるか?」
 「一人いる。左翼政党のスパイだ」

 タマがそいつを立たせた。
 先ほど、俺たちを選民かと聞いた男だった。

 「分かった。もういい」
 「いつでも呼んでくれ」

 全員が立ち上がり、慌てて服を着た。

 「トラ兄さん、今のは!」
 「あれが妖魔だ。まあ、俺たちの味方だけどな」
 「突然現われたよ!」
 「そういう能力を持っているからな。今女の姿で来たのは、その気になればもっと大勢の人間の意識を操作できる」
 「そんな!」
 「左門、世界は変わったんだ。だからお前たちがいる。忘れるな」
 「はい!」

 


 俺たちは帰る前に、左門、リーと一緒に話をした。

 「どうだ、あいつらには伝わったかな」
 「十分だよ。知識として強大な敵だとは分かっていたけどね。トラ兄さんたちの力を目の前で見て、心底分かったと思うよ」
 「そうか」
 「それにね。トラ兄さんの言ったことも効いたと思う。僕たちは兵隊だ。日本を守るために戦う人間だよ」
 「そうだな」
 
 「あの、一人だけ立ち上がった男がいましたが」

 リーが聞いて来た。

 「あれは、左翼政党のスパイだ。タマに、敵対的な人間を探せと言った。そうしたら、あいつが引っ掛かった」
 「え!」
 「俺は今、ある人間を政界に送り込もうとしている。そのために、随分と工作もした。だから探りを入れて来たんだろうよ」
 「じゃあ、あいつは外します」
 「いや、まだいいよ。こっちで操りながら、動きを探りたい」
 「分かりました。宜しくお願いします」

 俺は二人を見て言った。

 「とにかく、お前たちに必要なのは、実戦だ。実際の戦場を経なければ、お前たちはどうしようもない。こちらで用意するから、しっかりやってくれ」
 「「はい!」」





 俺たちは帰ることにした。
 また「Ωスーツ」を着る。

 「お前ら! 一杯食べたか!」
 「「「はーい!」」」
 「ほんとはもっと喰えるかー!」
 「「「はい!」」」

 左門とリーが顔を見合わせている。

 「じゃあ、ご馳走になろうか」
 「いや、トラ兄さん。もう食堂には食材が」
 「あ?」
 「すいません!」
 
 リーが左門にどこかのレストランにと言っている。

 「冗談だよ。このまま帰るさ。ああ、お前らはまた時間があったらうちに来いよな」
 「「はい!」」
 「さっき話した警察の早乙女も、近くに住むんだ」
 「うん、会うのが楽しみだよ」
 「ああ、じゃあな!」


 俺たちはまた飛んで帰った。

 自衛隊の方は、まだまだ時間がかかりそうだ。
 左門がまだ本格的な戦闘を経験していないことが大きい。
 俺たちの日常と、左門の日常が乖離している。
 だから、俺たちに協力するつもりはあっても、歯車が噛み合っていない。

 まあ、そのうちに。
 俺はある計画を考えていた。
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