1,184 / 2,840
御堂家の癒し Ⅷ
しおりを挟む
翌朝。
御堂が朝食に少し遅れて来た。
ジャングル・マスターに呼ばれ、早速資料を渡されたらしい。
俺は食後にオロチの様子を見に行った。
見違えるほど元気になっている。
もう、軒下に潜っていた。
俺が行くと顔を覗かせる。
「おい、「霊破」が効いたか! じゃあ、しばらく飲んで行くか。御堂に頼んでやろう」
オロチは嬉しそうに頭を揺らした。
後から来たニジンスキーたちの頭を撫で、ジャングル・マスターの建物へ行った。
「よう! よく眠れたか?」
「ああ。何か用か?」
早速仕事を始めている。
「そうだ。俺がいる間に日本の「風呂」の作法を教えておこうと思ってな」
「俺はシャワーでいい。ここにちゃんとある」
「ダメだ。お前は日本のことで知らないことが無いようにしろ」
「……」
俺に言われ、ジャングル・マスターは俺に付いて来た。
澪さんに断り、二人で入る。
俺は湯船に入る前に、身体を洗えと教えた。
ジャングル・マスターが、俺の身体を見て驚く。
「お前は一体……」
「まったくよ。「業」と戦う前に、何度も死に掛けたぜ」
「……」
俺はジャングル・マスターの背中を流してやった。
「日本人は、こうやって裸でコミュニケーションを取るんだ」
「そうか」
「じゃあ、今度はお前が俺の背中を洗え」
「分かった」
無防備な背中を相手に預けることで、信頼関係を築くのだと教えた。
「それに、背中は自分では洗いにくい」
「そうだな」
「だから他人の手を借りて、しっかり洗うという意味もある」
「なるほど」
「人間は、自分独りで大丈夫だと思いたいものだ。でも、実際には違う。いつだって他人のお陰で生きられ、助けられている」
「ああ」
「特別なことじゃない。誰かが住む家を建ててくれ、電気や水道を送ってくれ、食べ物を作ってくれ配達している」
「そうだな」
「当たり前だと思えば、そいつは文明の毒に冒され、人間ではなくなってしまう」
「そうだな」
二人で湯船に浸かった。
「おい、なかなかいいものだな!」
「そうだろう。冬場はもっといいぞ。芯から身体が温まる」
「そうか。楽しみだ」
「御堂家の誰かに言えば、いつでも使えるように話しておく」
「ああ、頼む」
ジャングル・マスターも風呂が気に入ったようだ。
「身体は洗えばいいというものではない。その「洗う」ということでも、深さがある」
「ああ、分かったぜ」
俺はワムの『ケアレス・ウィスパー』を歌った。
♪ I'm never gonna dance again ♪
「こういう楽しみもあるんだ」
「いいな」
「俺たちは踊り続けるぞ」
「ああ」
「何がどうなっても。世界がまっ平らになってもな。最後まで踊り続ける」
「必ずな」
「お前のダンスを見せてくれ」
「ワハハハハ!」
「楽しみにしているぞ」
俺たちは風呂を上がった。
ジャングル・マスターは嬉しそうな顔をして建物に戻った。
午前中は、また子どもたちが御堂家の掃除をした。
皇紀も恒例の草むしりをする。
俺はロボと縁側で涼んでウトウトしていた。
澪さんがスイカを持って来た。
一緒に座る。
ロボが澪さんに喜んで、膝に頭を預ける。
「御堂はやってますか」
「はい、早速」
「澪さんは今まで通りで大丈夫ですからね」
「そうですか?」
「まあ、あいつが総理大臣になるまでは」
「え?」
「だって、ファーストレディですよ?」
「エェー!」
俺は笑った。
「各国の首脳と一緒に食事をしたりするんです。まあ、大したことはありませんよ」
「そ、そんな、石神さん!」
「あれ、御堂が総理大臣になることは知ってましたよね」
「それは、あの。でも私が何かやるとは」
「何言ってるんですか。夫を支えるのが澪さんの役目でしょう」
「それはそうなんですけど」
俺は笑ってスイカを勧めた。
澪さんが無意識に齧る。
「大丈夫ですよ。澪さんのことだって、ジャングル・マスターがちゃんとやってくれます」
「そうでしょうか。あの、本当に宜しくお願いします!」
俺は昨日の夕方にジャングル・マスターと話したことを教えた。
「あいつが御堂にね。大物政治家になるために、御堂は何人もの女を抱かなければならないと言ったんですよ」
「そうなんですか!」
「でも御堂がね、それは出来ないって。澪さんがいるから、自分は絶対にそんなことはしないと言った」
「え」
「ジャングル・マスターは、じゃあお前の手伝いは出来ないと言いました。御堂はそれは仕方が無いと。自分はそれでも必ず俺の役に立つと言ったんです」
「まあ!」
澪さんは驚いたが、大変なことになったと思っていた。
「そうしたらね。ジャングル・マスターが大笑いして。「悪かった」と。「自分のたった一つの試験だった」と言ったんですよ。目的を遂げるために、安易な道を進む奴はダメなんだと。あいつはそういう奴です」
「ええ、良かったです」
澪さんはホッとしていた。
「あいつはあんな妖怪みたいな顔をしてますけどね。心根は優しいんです。御堂のことも皆さんのことも、大切にしてくれますから」
「そうですか」
澪さんは嬉しそうに笑った。
「そのうちに建設の専門家の「パピヨン」も来ますけどね。そいつも同じで優しい奴です。まあ、あっちの方が分かりやすいですが」
「そうなんですか。楽しみです」
俺は頭を下げた。
「御堂家のみなさんには本当に苦労を掛けます。すいません」
「石神さん。私たちはいつでも一緒ですよ。石神さんと一緒に行きますから」
「ありがとうございます」
澪さんが明るく笑っていた。
亜紀ちゃんと柳が、皇紀の草むしりを手伝おうと庭に出て来た。
「あ! スイカだぁ!」
二人で駆け寄って来る。
「一口ぃー!」
「ばかやろう! これは二十歳になってからだ!」
「亜紀ちゃん、超高校生ですから!」
俺は笑って、じゃあ来いと言った。
柳も嬉しそうに来る。
「何でお前まで来るんだよ?」
「私、二十歳過ぎましたけどー!」
「ああ!」
俺は笑って二人に喰わせた。
後で皇紀も呼べと言った。
澪さんが大笑いしていた。
御堂が朝食に少し遅れて来た。
ジャングル・マスターに呼ばれ、早速資料を渡されたらしい。
俺は食後にオロチの様子を見に行った。
見違えるほど元気になっている。
もう、軒下に潜っていた。
俺が行くと顔を覗かせる。
「おい、「霊破」が効いたか! じゃあ、しばらく飲んで行くか。御堂に頼んでやろう」
オロチは嬉しそうに頭を揺らした。
後から来たニジンスキーたちの頭を撫で、ジャングル・マスターの建物へ行った。
「よう! よく眠れたか?」
「ああ。何か用か?」
早速仕事を始めている。
「そうだ。俺がいる間に日本の「風呂」の作法を教えておこうと思ってな」
「俺はシャワーでいい。ここにちゃんとある」
「ダメだ。お前は日本のことで知らないことが無いようにしろ」
「……」
俺に言われ、ジャングル・マスターは俺に付いて来た。
澪さんに断り、二人で入る。
俺は湯船に入る前に、身体を洗えと教えた。
ジャングル・マスターが、俺の身体を見て驚く。
「お前は一体……」
「まったくよ。「業」と戦う前に、何度も死に掛けたぜ」
「……」
俺はジャングル・マスターの背中を流してやった。
「日本人は、こうやって裸でコミュニケーションを取るんだ」
「そうか」
「じゃあ、今度はお前が俺の背中を洗え」
「分かった」
無防備な背中を相手に預けることで、信頼関係を築くのだと教えた。
「それに、背中は自分では洗いにくい」
「そうだな」
「だから他人の手を借りて、しっかり洗うという意味もある」
「なるほど」
「人間は、自分独りで大丈夫だと思いたいものだ。でも、実際には違う。いつだって他人のお陰で生きられ、助けられている」
「ああ」
「特別なことじゃない。誰かが住む家を建ててくれ、電気や水道を送ってくれ、食べ物を作ってくれ配達している」
「そうだな」
「当たり前だと思えば、そいつは文明の毒に冒され、人間ではなくなってしまう」
「そうだな」
二人で湯船に浸かった。
「おい、なかなかいいものだな!」
「そうだろう。冬場はもっといいぞ。芯から身体が温まる」
「そうか。楽しみだ」
「御堂家の誰かに言えば、いつでも使えるように話しておく」
「ああ、頼む」
ジャングル・マスターも風呂が気に入ったようだ。
「身体は洗えばいいというものではない。その「洗う」ということでも、深さがある」
「ああ、分かったぜ」
俺はワムの『ケアレス・ウィスパー』を歌った。
♪ I'm never gonna dance again ♪
「こういう楽しみもあるんだ」
「いいな」
「俺たちは踊り続けるぞ」
「ああ」
「何がどうなっても。世界がまっ平らになってもな。最後まで踊り続ける」
「必ずな」
「お前のダンスを見せてくれ」
「ワハハハハ!」
「楽しみにしているぞ」
俺たちは風呂を上がった。
ジャングル・マスターは嬉しそうな顔をして建物に戻った。
午前中は、また子どもたちが御堂家の掃除をした。
皇紀も恒例の草むしりをする。
俺はロボと縁側で涼んでウトウトしていた。
澪さんがスイカを持って来た。
一緒に座る。
ロボが澪さんに喜んで、膝に頭を預ける。
「御堂はやってますか」
「はい、早速」
「澪さんは今まで通りで大丈夫ですからね」
「そうですか?」
「まあ、あいつが総理大臣になるまでは」
「え?」
「だって、ファーストレディですよ?」
「エェー!」
俺は笑った。
「各国の首脳と一緒に食事をしたりするんです。まあ、大したことはありませんよ」
「そ、そんな、石神さん!」
「あれ、御堂が総理大臣になることは知ってましたよね」
「それは、あの。でも私が何かやるとは」
「何言ってるんですか。夫を支えるのが澪さんの役目でしょう」
「それはそうなんですけど」
俺は笑ってスイカを勧めた。
澪さんが無意識に齧る。
「大丈夫ですよ。澪さんのことだって、ジャングル・マスターがちゃんとやってくれます」
「そうでしょうか。あの、本当に宜しくお願いします!」
俺は昨日の夕方にジャングル・マスターと話したことを教えた。
「あいつが御堂にね。大物政治家になるために、御堂は何人もの女を抱かなければならないと言ったんですよ」
「そうなんですか!」
「でも御堂がね、それは出来ないって。澪さんがいるから、自分は絶対にそんなことはしないと言った」
「え」
「ジャングル・マスターは、じゃあお前の手伝いは出来ないと言いました。御堂はそれは仕方が無いと。自分はそれでも必ず俺の役に立つと言ったんです」
「まあ!」
澪さんは驚いたが、大変なことになったと思っていた。
「そうしたらね。ジャングル・マスターが大笑いして。「悪かった」と。「自分のたった一つの試験だった」と言ったんですよ。目的を遂げるために、安易な道を進む奴はダメなんだと。あいつはそういう奴です」
「ええ、良かったです」
澪さんはホッとしていた。
「あいつはあんな妖怪みたいな顔をしてますけどね。心根は優しいんです。御堂のことも皆さんのことも、大切にしてくれますから」
「そうですか」
澪さんは嬉しそうに笑った。
「そのうちに建設の専門家の「パピヨン」も来ますけどね。そいつも同じで優しい奴です。まあ、あっちの方が分かりやすいですが」
「そうなんですか。楽しみです」
俺は頭を下げた。
「御堂家のみなさんには本当に苦労を掛けます。すいません」
「石神さん。私たちはいつでも一緒ですよ。石神さんと一緒に行きますから」
「ありがとうございます」
澪さんが明るく笑っていた。
亜紀ちゃんと柳が、皇紀の草むしりを手伝おうと庭に出て来た。
「あ! スイカだぁ!」
二人で駆け寄って来る。
「一口ぃー!」
「ばかやろう! これは二十歳になってからだ!」
「亜紀ちゃん、超高校生ですから!」
俺は笑って、じゃあ来いと言った。
柳も嬉しそうに来る。
「何でお前まで来るんだよ?」
「私、二十歳過ぎましたけどー!」
「ああ!」
俺は笑って二人に喰わせた。
後で皇紀も呼べと言った。
澪さんが大笑いしていた。
1
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
こずえと梢
気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。
いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。
『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。
ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。
幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。
※レディース・・・女性の暴走族
※この物語はフィクションです。
~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました
深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる