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『週刊特ダネ妖怪』

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 俺がご先祖の夢を見た翌日の月曜日。
 部下たちは、俺の機嫌が悪いのを察知していた。

 「あの、部長。週始めの報告をよろしいでしょうか?」

 一江が恐る恐る部屋に入って来た。
 俺が嫌そうな顔で睨むと、一層脅えた。

 「とっととやれ!」
 「は、はい!」

 いつも通りの報告を聞く。
 何の問題も無いが、俺の機嫌は更に最悪になった。
 一江の顔を見たせいだ。

 「以上です!」
 「おう」

 一江が出て行かない。

 「あの、部長、何かありました?」
 「何でもねぇ」
 「でも」

 こういう時にもちゃんと聞いて来るのが一江の長所だ。
 だから俺の右腕にしている。

 「お前の顔を見たくないだけだ」
 「それはちょっと酷くありません?」
 「酷いのはお前のツラだぁ!」
 「ヒィ!」

 一江が慌てて出て行った。
 大森から慰められている。
 それを見ながら、俺もちょっと反省した。
 部屋を出た。

 「おい、悪かったな」
 「部長!」
 「今のは本気じゃねぇ。お前に何か悪いものがあるわけでもねぇ」
 「そんな、いいんです!」

 「ちょっと面白くねぇことがあっただけだ。八つ当たりをしてすまん」
 「部長!」

 俺が頭を下げて部屋に戻ると、また一江が来た。

 「部長が面白くもない時に申し訳ないんですが」
 「なんだ?」
 「実は、一つお願いしたことがありまして」
 「なんだよ?」

 ここでは話せないというので、空いている会議室に移動した。

 そこで一江は、妖魔との戦闘に自分も協力したいと言った。

 「これまで、量子コンピューターを中心にですけど、部長の戦いに協力して来ました」
 「ああ」
 「先日の「太陽界」のテロを見て、本格的に戦いが始まると」
 「そうだな」

 一江にはほとんどを話している。
 御堂家の戦闘など、一江が知ると一江自身が危なくなるようなことは伏せている。

 「皇紀君の防衛システムは優秀です。でも、これからは、そういう物理的なものが通じない敵も出て来るかと」
 「まあ、お前は優秀だな」

 本当にそう思う。

 「早乙女さんが、対妖魔のチームを立ち上げたとのことで」
 「ああ」
 「私も、一度現場を見せて頂きたいのですが」
 「あ?」

 一江は自分にも何か出来ないかと考えていた。
 気持ちは嬉しいが。

 「でも、お前自身は弱すぎるからなぁ。現場に行くのはどうかと思うぞ」
 「大森も一緒に」
 「いや、大森でも対応出来ない。それに、そもそも警察でも極秘の部隊なんだ。何人も部外者が行くわけにはいかんよ」
 「部長! 私、どうしても! 許せないんです、人間がわけの分からない死に方をするということが!」
 「まあ、分かるけどなぁ」

 一江にしては珍しい感情だった。
 大事な仲間のためには何でもする女だが、そうでない人間は基本的に興味が無い。
 ドライな性格だ。
 その一江が、無辜の民の死に傷ついている。

 「人間同士が戦って死んだり傷つくのは、仕方がないとは思うんです。でも、あんな妖怪を使って殺されるなんて」
 「そうだな」

 まあ、俺も使っているが。

 「それに、私、先祖のことをもう一度ちゃんと調べたんです!」
 「あ?」

 俺の表情が変わったことに、一江は気付いていない。

 「実家にですね、江戸時代の先祖が作っていた瓦版があったんですよ!」
 「『週刊特ダネ妖怪』か!」
 「よく御存知ですね?」
 「ああ、麗星さんから聞いてるからな」
 「え、うちの先祖のものだと知ってたんですか?」
 「いや、そうじゃなくてな、アレだ」

 俺は口ごもった。
 一江は気にしていないようだった。

 「まあ、それなんですよ。「妖子」という名前で作っていたようですね」
 「そ、そうなのか」
 
 一江は先祖の「妖子」が、旗本の依頼で妖怪の情報を集めていたことが分かったのだと言った。

 「「妖子」がどのようにして、妖怪の情報を集めていたのかはまだ分かりませんけどね。でも、先祖がそういうことに関わっていたと知って、私も燃えました!」
 「あ、そう」

 「でも、流石に道間家でも保管していたんですね」
 「ああ。あ、そうだ。随分と癖字で、解読が大変だって言ってたな。お前、読めるのか?」
 「はい。確かに先祖の字は癖がありますけどね」
 「お前も字が汚ねぇよなぁ」
 「余計なお世話ですよ! でも、やっぱり家系なんですかね。先祖の字はみんな読めますけどね」
 
 俺は思いついて一江に言った。

 「じゃあよ。麗星さんに、教えてやってくれよ。それは本当に、今すぐにお前にやってもらいたいことだ」
 「いいですよ?」
 「一度電話で話して、ワードかなんかのデータで送れば、麗星さんも助かるだろうよ」
 「はい、分かりました!」

 「それと、早乙女の件は、ちょっと考えさせてくれ。俺の一存でも出来ないし、何より、お前を危険な目に遭わせたくないからな」
 「部長……」

 一江が潤んだ目で俺を見る。
 気持ち悪くなった。
 顔を背けた。

 「ところでよ、お前の先祖を支援したっていう旗本の名前は分かってねぇんだよな?」
 「はい。でも毎号の文末に、「奉虎」と書かれてるんです。なんですかね?」
 「へ、へぇー」

 間違いねぇ。

 「それと、何と「妖子」の日記まであったんですよ!」
 「なんだと!」
 「まだ読んでませんけどね。楽しみですよー」
 「おい、俺に貸してくれ」
 「はい?」

 「俺も読んでみたい」
 「ダメですよ。幾ら部長と言っても、うちのご先祖のものですからね。貴重なんでダメです」
 「そこを何とか!」
 「すいません。これだけは、本当に」
 「金は幾らでも出す!」
 
 一江が俺を見ている。

 「どうしたんですか、部長?」
 「え、いや、別に」
 「おかしいですね。何でそんなに必死なんですか?」
 「だってほら! 妖怪のことがまた分かるかもしれないじゃないか!」
 「それは私がちゃんと読みますって。大体、うちの家系の人間しか読めないものですよ。瓦版なんて、ずっと他の人間にも読みやすくしてるのに、こんなに読めないんですよ? 私的な日記なんて、それこそ他の人には」

 それもそうだ。
 だが、俺は日記を抹消すればいいだけだ。

 「部長」
 「あんだ?」
 「日記はうちにはありません」
 「お、おう」
 「一応伝えておきますから」
 「なんだよ、一江ちゃん」
 
 「ウフフフ」
 「ワハハハハ!」



 

 流石に一江は隙が無い。
 一江が「石神虎之介」の名を知ったら、タマに言って記憶を消すか。
 俺は真剣に悩んだ。



 ご先祖よー。
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