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亜紀ちゃんとドライブ Ⅱ

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 陳さんの店で最高に美味い北京ダックを、俺は1羽、亜紀ちゃんは3羽食べた。
 亜紀ちゃんはもっと食べられるが、そこで辞めた。
 
 「なんだよ、遠慮するなよ」
 「いいんです。今日は女らしくするんです」
 「え?」
 「なんですか!」
 「いや、3羽喰う女っていねぇと思うぞ?」
 「でも、六花さんも食べますよね」
 「あー、そうかー」
 
 そういえばそうだ。

 「ところでさ。士王がそろそろ離乳食になるんだ」
 「あー! そうですか!」
 「栞ももちろん勉強してるけど、桜花たちはプロ並みだからな」
 「タカさんも勉強してますよね!」
 「いや、俺はあんまし。任せてるよ」
 「そうですか?」
 「まあ、いろいろ喰わせたいとは思ってるけどな」
 「楽しみですね!」
 
 亜紀ちゃんがニコニコして言う。

 「そうなんだよな。早く一緒に飯を食いたいよな!」
 「お酒も!」
 「それはしばらく先だ。あ! お前絶対に飲ませるなよ!」
 「分かってますよ!」

 まあ、分かってるだろうが。

 「でもな、山中が言ってたことがやっと分かったよ。あいつ、毎日子どもが成長するのが楽しいんだって言ってた。その通りだな」
 「はい!」
 「早く一緒に酒を飲みたいってこともな。よく分かるよ」
 「そうですねー!」
 「まあ、もう長女とは飲んでるけどな!」
 「アハハハハハ!」

 アワビのスープが来た。
 アツアツのものを二人で食べる。

 「士王ちゃんはイモムシにならなかったんですよね」
 「ああ、そうだけど、よく考えると、やっぱり亜紀ちゃんたちへの特別な思いだったんだろうなぁ」
 「どういうことです?」
 「四六時中一緒にいる家族というかな。柳は、そこでほんのちょっと短いからな。そういうことじゃないかと思うよ」
 「なるほど」
 「俺はずっと一人だった。お袋が再婚して遠くに行っちゃってな。二十年間独りでいたわけだ。でも、突然亜紀ちゃんたちが来た。俺は毎日が一変して楽しかったんだよ」
 「嬉しいですよ!」
 
 アワビがまた美味かったので、追加で二人前頼んだ。

 「本当にな。俺が知らない、本当に楽しい日々になった。今でもな。だからだろうなぁ。突然それが無くなることを、俺は自分でも分からないほど、恐れていたんだな」
 「そうですか」
 「人間は厄介だよ。当たり前と思っていても、それを喪うこともある。でもな、それを恐れていたら、何も出来ない。一歩も進めない」
 「はい!」
 「お袋は仕方ないとしても、奈津江やレイのことで、俺は臆病にもなっているんだろう」
 「そんなことは……」
 「いや、それを認めなければ、俺も進めない。俺は恐れながら、前に進まなければならない」
 「はい」

 陳さんが、伊勢海老の蒸し物を持って来た。

 「トラちゃん! 今日の伊勢海老は絶品よ」
 「ありがとうございます。ああ、本当に美味そうだ!」
 「アハハハハ! 今日はこれ、お店のサービスね」
 「ダメですよ、陳さん!」
 「いいのいいの。沢山食べてくれたお礼」
 「困ったなー」
 「そろそろタピオカにする?」

 俺は亜紀ちゃんに注文しろと言ったが、亜紀ちゃんはもういいと言った。

 「じゃあ、ゆっくり食べててね。タピオカも一杯用意するよ」
 「ありがとうございます」

 伊勢海老もまた美味かった。
 ほんのりとライムの香りがする。
 締めにいいものだった。

 陳さんがでかいグラスに、たっぷりのタピオカココナッツミルクを持って来た。
 俺は会計を頼んだ。

 「今度はよ」
 「はい?」
 「せめてネコになってくれ」
 「アハハハハハハ!」
 「もう、何の文句もなく、お前らを可愛がってやるから」
 「じゃあ、そうしますね」
 「頼むわ」

 俺たちは店を出て、乾さんの店に向かった。
 乾さんには連絡しなかった。
 驚かせようと思った。




 丁度昼時だったので、乾さんは店にいなかった。
 ディディと上で食事をしているらしい。

 「今呼んで来ますよ」
 
 顔馴染みなった店員の男性が言ったが、俺は断って、二階に上がらせてもらった。
 亜紀ちゃんと、二階のドアをノックする。

 「ちょっと待て! 上がって来るなと言っただろう!」
 「こんにちはー! 俺ですよー!」
 「と、トラぁー!
 「そうですよー! 遊びに来ましたー」
 「おい! ちょっと待て! 今出るから!」

 亜紀ちゃんと顔を見合わせた。
 食事中とは聞いたが、何かおかしい。

 「入りますよー!」
 「待てってぇー!」

 バタバタと音が聞こえる。
 数分後、ドアが開いた。

 「連絡しろよ!」
 「すいません。驚かせようと思って」
 「驚いたよ!」

 乾さんのズボンのジッパーが開いていた。

 「ズボン、開いてますよ?」
 「!」

 乾さんが慌てて上に引き上げた。
 ディディも出て来る。

 「石神様、ようこそ。先日は大変お世話になりました」
 「ああ、いいって。ディディ、俺が命令する。正直に答えろ」
 「はい」

 「今、ヤッテた?」
 「はい」

 「ディディー!」

 俺と亜紀ちゃんは大笑いした。

 「すいませんでした。下で待ってますね」
 「おい、トラ!」
 
 二人で下に降りた。
 ソファに座ってると、乾さんの指示だろうが、コーヒーが出された。
 亜紀ちゃんと飲みながら、店の中を見ていた。
 乾さんが降りて来る。

 「乾さん、早いですね!」
 「うるせぇ!」

 乾さんが赤い顔をしていた。

 「今度から連絡しますね」
 「と、当然だぁ!」
 「でも、不味いタイミングだったら、そう言って下さいね?」
 「おい!」
 「娘の教育上の問題もあることですし」
 「トラぁ!」
 
 亜紀ちゃんが笑っていた。

 ディディが降りて来た。
 ニコニコしている。
 まあ、ディディは乾さんが大好きなので、何も恥ずかしいこともない。

 乾さんに食事を聞かれたが、陳さんの店で食べて来たと伝えた。

 「すいません。もうここでゆっくり話をするしかなくて」
 「いや、いいけどよ」
 「じゃあ、何の話をしましょうか」
 「トラ、もう勘弁しろ」

 みんなで笑った。

 俺は乾さんに、オリジナルのバイクの開発の話を聞いた。
 国内の有名なメーカーにエンジンの調達を頼んでいる。
 乾さんの設計で組んでもらう予定だ。

 「トラの口利きのお陰で、スムーズに進んでいるよ」
 「そうですか。まあ、うちは丁度株主にもなってますしね」
 「お前はすげぇなぁ」
 「いや。バイクが好きなだけですよ」

 乾さんは今、フレームの設計を始め、各種パーツの選定も始めている。
 
 「でもな、俺なんかの作ったバイクを誰か買うのかな」

 俺が手を挙げた。
 亜紀ちゃんも手を挙げる。

 「アハハハハ! そうか、宜しくな」
 
 俺は一つのアイデアを言った。
 
 「乾さんは名家の家系じゃないですか」
 「お前、よく知ってんな」
 「だからライトを十文字にしましょうよ」
 「ああ、うちの家紋か」
 「はい。絶対カッチョイイですって!」
 「面白そうだな!」

 俺は紙と鉛筆を借り、デザイン画を描いた。
 乾さんが乗って来る。

 「いいな!」
 「そうでしょ!」
 「素敵ですよ!」

 亜紀ちゃんも喜んだ。
 三人で話し合い、幾つもデザイン画が出来た。
 乾さんに検討してもらう。
 
 夕方になり、俺たちは帰ると言った。

 「おい、夕飯を喰ってけよ」
 「いいですよ」
 「遠慮すんなって!」
 「いや、ディディが寂しそうですし」
 「おい!」

 「アハハハハハ!」

 帰ることにした。
 乾さんとの夕飯も楽しそうだが、亜紀ちゃんと出掛けたかった。




 「亜紀ちゃん、あそこへ行くか」
 「え、どこです?」
 「城ケ崎に行こう」
 「ああ!」

 前に亜紀ちゃんとドライブに行った場所だ。
 奈津江のことを初めて話した。




 俺たちの思い出の場所だ。
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