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ジェシカと蓮花研究所

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 コーヒーを飲んで一休みし、俺と蓮花で研究所内を案内した。
 これまで、内部のことはもちろん、場所でさえ一切ジェシカには話していなかった。
 今日はその一切の縛りが無い。
 詳細は今後だが、ジェシカに研究所内のほとんどを見せ、説明した。
 移動も「ティーグフ」だ。
 ブランたちにも紹介した。
 残る5体のブランも見せた。
 
 「「業」により壊された人間たちだ。何をしたわけでもない。ある日突然に「業」に連れ去られ、多くの者は家族を殺され、そして自身も壊された」
 「どうして殺さなかったのですか?」
 「恐らくは「業」の実験に使われたんだ。人間を変革させ、自分に絶対服従を誓う者にな。それが失敗し、心を破壊された」
 「でも、生かされていた」
 「ああ。まだ何かに使う予定があったのだろう。実際に使われて、何人も死んでいるだろうな」
 「可哀そうに」

 最後に残ったブランたちは、まだ心を甦らせることが出来ない。
 蓮花も頑張ってはいるが、方法は見つかっていない。

 ジェシカには他にもデュール・ゲリエの開発や「ヴォイド機関」の製造、そしてレールガンや荷電粒子砲、さらにそれらを超える超兵器の製造も見せた。
 実用化が近い「カサンドラ」も実際に自身で使わせた。

 「凄い兵器ですね!」
 「これがあれば、「花岡」を習得していない人間でも戦える」
 「そうですね! ああ、でもそうなると誰でも使えるということで、敵の手に渡ると厄介ですね」
 「それは安全装置が付いている」
 「そうなんですか! 指紋認証とか?」
 「いや、もっとウイアード(奇怪)なものだよ」
 「Weird?」
 「ああ。俺が認める人間、俺が好きなタイプの人間しか扱えない。その機能は「Ωスーツ」という防御服にも備えてある」
 「一体どうやって!」
 「そこはジェシカの勉強次第だな。「愛」の数式化だからな!」

 ジェシカが驚き、そして笑った。

 「そうですね! 私も一生懸命に勉強します!」
 「おう!」

 蓮花も微笑んでいた。
 最後に、最近蓮花と建設を始めたロボットを見せた。

 「驚くなよ?」
 「はい」

 本館の近くに新たに建てられた大きなハンガーに行く。
 蓮花がタブレットを操作し、高さ20メートルの扉がスライドしていく。
 ジェシカは目を丸くして眺めていた。

 俺たちが中へ入ると、ライトが灯った。
 扉が背後で閉じていく。
 天井から吊り下げられていたカーテンが巻き上げられる。

 「こ、これは!」

 高さ8メートルの巨大人型ロボットだった。

 「俺と蓮花で「武神」と名付けた。対ジェヴォーダン用の兵器だ」
 
 全身の黒い金属は「Ω鋼合金」という「Ω」の粉末を使った特殊合金だ。
 強度は、50m級のジェヴォーダンのマッハの突進に耐える。
 髑髏の顔に武者の兜のようなものを被っており、額からは1mの巨大な角が生えている。
 角は亜紀ちゃん級の「トールハンマー」を撃ち出し、兜は全方位の量子感知レーダーになっている。
 つまり、未来予測をしながら敵を感知していくシステムだ。
 人型になっているのは、「花岡」を使うためだ。
 その分、移動速度はジェヴォーダンに及ばないが、いずれ「飛行」を習得し、その不利を解消する。

 「一つ困った問題があってな」
 「なんですか?」
 「まだ、破壊検証をしてないんだ。動かすのもこの研究所内でな。とても「花岡」の威力を試す場所がねぇ」
 「なるほどー」
 「まいったな」

 まあ、「飛行」が出来るようになったら、どこかで試すつもりだが。

 「でもな。一体目の配置はもう決まってるんだ」
 「どこなんですか?」
 「俺の家の近くでな。まあ、あの辺一帯を守らせるつもりだよ」
 「へぇー」

 早乙女の家だが。
 まあ、文句も言うだろうが、あいつなら誤魔化せる。

 蓮花が近くのコンソールを操作し、4mの大画面に、CGで作った「武神」の戦闘シミュレーションを見せた。
 市街戦を想定した戦闘では、ジェヴォーダンがビルを破壊していく中、額の角から「トールハンマー」を撃って一瞬で何頭も殲滅させ、「槍雷」や「トールハンマー」で狙い撃って行く。
 高速移動しているジェヴォーダンが、次々に撃破されていく。
 砂漠戦、ジャングル戦、寒冷地戦でもAIコンピューターが計算した性能で、ジェヴォーダンを撃破していった。

 「あのソードは何ですか?」

 砂漠戦で、「武神」は腰に佩いた長大な刀を振るう。

 「あれはまだ未実装なんだけどな。実はある特殊な鉱物を発見したんだ。それで刀を作るつもりなんだが、何しろ大きなものなんでなぁ。特別な炉を作る必要もあって、実際には出来ていない。まあ、俺はやるつもりだけどな」
 「別に刀は必要無いと思うのですが」
 
 蓮花が言った。
 
 「ばかやろう! 「武神」なんだから、刀持って無いとカッチョ悪いだろう!」
 「オホホホ」
 「お前の「動物移動車」と同じだ! 別にアニマルヘッドは必要ないじゃないか」
 「ああ、よく分かりました」

 ジェシカが俺たちの遣り取りに笑った。

 



 一通り案内し、今日は終わりにすると言った。

 「そう言えばそろそろ夕飯時だけど、蓮花は一緒にいて良かったのか?」
 「はい。今日はバーベキューですので」
 「そうか! でも今日は子どもたちはいないぞ?」
 「バーベキューは、ここで最高の歓待の食事ですゆえ」
 「なるほどな!」

 俺たちは庭に移動した。
 ブランたちが、バーベキューの準備をしていた。
 何人かが蓮花に味の確認をしに来る。
 蓮花はスープの味を見、食材の下ごしらえを確認して行った。
 今日は研究所の職員たちも全員いる。
 以前は俺の顔を見ないようにされていたが、もう解除してある。
 新しい仲間であるジェシカを歓迎するために来た。

 「みんな仲良しなんですね」
 「ああ。戦友たちであり、家族だからな。みんな蓮花を慕ってるんだよ」
 「石神さんもですね」
 「なんだかな」

 俺とジェシカがテーブルに案内され、何人もが挨拶に来る。
 ジェシカは必死に名前を覚えようとしていた。
 早く自分も家族になりたいのだろう。
 
 バーベキューが始まり、蓮花が俺たちのテーブルにビールを持って来た。

 「御食事中はビールで宜しいですか?」
 「ああ、最高だ」

 暑くなってきたので、よく冷えたビールが美味い。
 焼かれた串が、真っ先にミユキによって運ばれて来た。
 俺たちは礼を言って食べ始めた。

 「いいですね、こういうの!」
 「うちのバーベキューは串は無いんだよ」
 「そうなんですか?」
 「子どもたちの喰い方を知ってるだろ? 最初に串に打ってやったら、皇紀がズブズブ刺されたから辞めたんだ」
 「!」
 「串を取ろうと手を出すじゃない。亜紀ちゃんに「ズブ」って手を刺されちゃってさ。焼けた網で火傷するわなー。あー、なんか懐かしいなー」
 「石神さん!」
 「動きを止めようと双子が太ももにズブってやるしよ。大変だったぜ」
 「……」

 「まあ、今ならそんな下手は打たないだろうからな。そろそろ串を使うかな」
 「やめときましょうよ」
 「そう思う?」
 「はい」

 蓮花が笑った。

 「亜紀様の「旋風脚」はお見事ですよね?」
 「ああ、あれも最近は返し技が出来てよ」
 「そうなんですか!」
 「皇紀が双子に圧されて額でガシンって受けるのな。トップスピードになる前にな」
 「アハハハハハ!」
 「こないだ、そのまま亜紀ちゃんの足を双子が叩き落としてなぁ。亜紀ちゃんのズボンが燃えた」
 「まあ!」
 「……」

 そろそろステーキを焼くというので、俺が焼きに行った。
 全員が皿を持って並び、俺が入れて行った。
 序列は無い。
 自由に並び、順番を待った。
 ブランたち46名と研究所員120名。
 結構な量だが、俺も結構鍛えられている。
 難なく全員分を焼き切った。
 蓮花はニコニコしながら、俺のために肉を運んでくれた。
 ジェシカはまたブランや研究所員たちと楽しそうに話していた。



 楽しい食事も終わり、俺は蓮花とミユキと一緒に風呂に入った。

 「また石神様は逞しくなられ、それにまたお若くなりましたね」
 「そうか?」
 
 蓮花が俺の身体を洗いながら言った。

 「確かに。髪も太くなったような気がいたします」
 「ミユキ! 今日は思い切りやるぞ!」

 嬉しくなった俺はミユキを押し倒し、超絶テクで全身を痙攣させた上で、本気で愛して失神させた。
 蓮花に迫ると、ちょっと手加減して下さいと言われたが、本気を出した。
 俺が湯船に運んだが、しばらく二人とも無言だった。


 ジェシカも風呂から上がり、俺は庭に連れ出した。

 「酒を用意してるんだけどな。ちょっと遅くなるみたいだ」
 「そうですか。みなさん、お忙しいですもんね」
 「あ、ああ。まあな」

 ちょっと反省した。

 俺はミユキが世話しているシロツメクサの花壇を案内した。
 皇紀とミユキの思い出を話す。

 「そうだったんですか。いいお話ですね」
 
 ジェシカは少しだけライトアップされた花壇を見た。
 蓮花がミユキが夜にもよく来るので、ライトを置いた。

 「ここはまた、守りたい場所ですね」
 「大丈夫だ。うちのトップガーディアンが守ってるからな」
 「はい?」

 「クロピョン!」

 花壇の隅から、黒い触手が現われる。
 その先端に目が開いた。

 「!」

 ジェシカが驚嘆している。

 「クロピョンだ」
 「これが……」
 「本体は長野にいる、のかなぁ。俺にもよく分からん。今はロシアを中心に、地下資源をガンガンアラスカに運ばせてるしな」
 「え!」
 「アラスカの「虎の穴」は何しろ資材や資源が不足してたからなぁ。クロピョンのお陰で全部解決し、物凄い勢いで建設が進んでるよ」
 「はぁ……」

 「ここは特別にクロピョンに守らせている。まあ、誰も荒らしたり出来ないよ」
 「そ、そうですか」

 俺はクロピョンを帰し、ジェシカと本館へ戻った。





 ジェシカが俺に近づき、自然な動作で腕を組んで来た。
 俺が微笑んでいるのを見て、ジェシカも微笑んだ。
 
 「ジェシカ、お前は死ぬなよ」
 「はい」
 「蓮花と一緒に、俺たちの戦いを見通してくれ」
 「はい!」

 俺はジェシカを抱き締め、長いキスをした。
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