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南原陽子 Ⅳ
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「孝子さんが、そんなことを仰ってたのね」
陽子さんが俺を見ていた。
「なんだかね、あっちこっちで俺と陽子さんをくっつけようとしている人間がいたようですよ」
亜紀ちゃんが俺に抱き着いて陽子さんを睨む。
頭を引っぱたく。
「左門もそんなこと言ってたよな」
「そりゃトラ兄さんだもの。お姉ちゃんと結婚してくれたら最高だったよ」
「そうだな」
俺は左門の肩を叩いた。
「まあ、こういうのは運命だからな。周りがどう思おうと、本人同士がどうだろうとな。気づいたら、なるようになってるってものだ」
俺は士王の写真を見せた。
「俺にも子どもが生まれたんですよ」
「うん、左門から聞いてる。カワイイね」
「ありがとうございます」
子どもたちがニコニコしている。
「陽子さんと結婚してれば、もっとカワイイ子だったでしょうね」
「ウフフフ」
「左門、お前らはいつなんだよ」
「エェー! できないよ」
「根性出せ!」
「無理だって!」
リーが頑張ろうと言っていた。
「いろんな愛があるよな。シロツメクサを子どものように思っている女もいれば、アンドロイドを愛している人もいる」
「それって!」
「黙れ」
亜紀ちゃんが驚いていた。
ロボが俺の膝に乗って来た。
「俺はロボだしな!」
肩に前足をかけて顔をペロペロする。
みんなが笑った。
陽子さんに、ロボの抜け毛で枕を作っていると言った。
「あ、私も欲しい!」
「順番です!」
亜紀ちゃんがコワイ顔をした。
陽子さんが笑った。
「亜紀ちゃんと結婚してたら、毎日楽しいだろうな」
「そ、そうですよ!」
「子どもは大食いで」
「え、そうでもないですよ」
「毎日あれだけ喰っといて何を言う!」
みんなが笑った。
「タカさん、私は?」
ルーが言った。
「毎日「きもちいー光線」で幸せだな!」
「私は?」
「ハーもそうだけど、お前のオナラはきついからなー」
「いい匂いだよ!」
「トラちゃんはみんなに好かれてるのね」
「いや、こいつらを騙すのは簡単ですから」
「「「アハハハハハハ!」」」
「士王を生んでくれた栞もね。前に俺が病気を隠してたら家に乗り込んできて」
「大変でしたよね!」
「もうカンカンで家に入って来たんですよ。皇紀がぶっ飛ばされて、亜紀ちゃんも階段を蹴り上げられて」
「エェ!」
「俺が床に倒れて必死で起き上がる演技をしたんだよな」
「そうそう! 「ちょっと待ってろ! お前を抱き締めに行くから!」って。もう栞さん泣いちゃって、怒りもどっか行っちゃって」
「アハハハハハ!」
「もう、この人って人を騙す天才なんですよ!」
「このやろう!」
亜紀ちゃんの頭を引っぱたく。
「私たちもー!」
「騙されてスゴイ心霊スポットに連れてかれたよね!」
「あれ、結局お前ら必要無かったよな?」
「「ひどいよ!」」
「アハハハハハ!」
俺たちは楽しく話した。
夜も遅くなったので、俺が解散を宣言した。
「私、もう少しここにいていい?」
陽子さんが言った。
「構いませんよ。じゃあ、ミルクティでも如何ですか?」
「ありがとう!」
子どもたちを寝かせ、左門たちは帰った。
俺はキッチンでミルクティを二人分淹れた。
「ありがとう」
俺も座った。
二人で黙って飲んだ。
「美味しい」
「そうですか」
陽子さんが微笑んだ。
「いいおうちね」
俺は笑った。
「この家ね、もしも南原さんが先に亡くなったらお袋と住もうと思って建てたんですよ」
「そうなんだ」
「南原さんはお袋に遺産をと言ってくれてたけど。それはお断りして、お袋は俺が引き取ろうと思ってました」
「うん」
「南原さんの方が年上でしたしね。申し訳ないけどそんなことを考えて」
「でも、孝子さんはずっと山口にいたかもよ?」
「はい。俺もそうかもしれなかったと思います。陽子さんたちが、本当にお袋に優しかったから」
陽子さんが微笑んだ。
「孝子さんね、トラちゃんの負担になりたくなかったのよ」
「え?」
「トラちゃんに子どもの頃に何も出来なかったって。だから年取って自分の面倒なんかさせたくなかったんだと思うな」
「そうですか」
「よく、最後は養老院に入るんだって言ってた」
「お袋が?」
「うん。私たちにも世話をさせたくなかったみたい。もちろん許さなかったけどね!」
「アハハハハ!」
二人でまた黙ってミルクティを飲んだ。
俺は陽子さんを中庭に誘った。
「ちょっと寒くて申し訳ないんですが」
外へ出て、諸見の描いた虎の鏝絵を見せた。
「素敵ね」
「諸見という左官がやってくれたんです」
「そうなんだ」
「諸見も俺を慕ってくれる奴でしてね。純粋ないい男なんですよ」
「うん、この絵を見ていると分かる気がする」
「普段まったく喋らない男で。口が利けないんじゃないかっていうくらいに」
「ウフフフ」
「でもね、俺が鏝を見せてくれって言ったら、そりゃたくさん喋ったんですよ。俺に一つ一つ説明してくれてね。俺なんかのために、立派な壁を作ろうと思ってくれて。毎日朝も夜中も眺めに来てたんです。「光の当たり方で壁は表情が違うから」って。俺は普通に仕上げてくれれば良かったんですけど、これですよ」
「いい人ね」
「本当にね」
二人で黙って壁を見た。
「嬉しかったな」
「え?」
陽子さんが嬉しそうに笑っていた。
「孝子さんが、私とトラちゃんに結婚して欲しかったなんて」
「ああ」
「本当にそうなってたらな!」
「あれは嘘ですから」
「え?」
「俺って人を騙すのが得意だってあいつらも言ってたでしょ?」
「ウフフフフ」
陽子さんがまた笑った。
「ダメよ、トラちゃん。それが嘘」
「アハハハハ!」
「嘘だったとしても、私は騙されるもん」
「そうですか」
「今の旦那もいい人なんだけどね。好きよ? でも、孝子さんがそう言ってくれたのは本当に嬉しい」
「はい」
「トラちゃん、その時に思い通りにはならなくたって、人は幸せになれるのね」
「そうですね」
俺たちは諸見の虎の絵を眺めた。
何処へ向かっているとも知れない、虎の孤独な道の先を思った。
陽子さんが俺を見ていた。
「なんだかね、あっちこっちで俺と陽子さんをくっつけようとしている人間がいたようですよ」
亜紀ちゃんが俺に抱き着いて陽子さんを睨む。
頭を引っぱたく。
「左門もそんなこと言ってたよな」
「そりゃトラ兄さんだもの。お姉ちゃんと結婚してくれたら最高だったよ」
「そうだな」
俺は左門の肩を叩いた。
「まあ、こういうのは運命だからな。周りがどう思おうと、本人同士がどうだろうとな。気づいたら、なるようになってるってものだ」
俺は士王の写真を見せた。
「俺にも子どもが生まれたんですよ」
「うん、左門から聞いてる。カワイイね」
「ありがとうございます」
子どもたちがニコニコしている。
「陽子さんと結婚してれば、もっとカワイイ子だったでしょうね」
「ウフフフ」
「左門、お前らはいつなんだよ」
「エェー! できないよ」
「根性出せ!」
「無理だって!」
リーが頑張ろうと言っていた。
「いろんな愛があるよな。シロツメクサを子どものように思っている女もいれば、アンドロイドを愛している人もいる」
「それって!」
「黙れ」
亜紀ちゃんが驚いていた。
ロボが俺の膝に乗って来た。
「俺はロボだしな!」
肩に前足をかけて顔をペロペロする。
みんなが笑った。
陽子さんに、ロボの抜け毛で枕を作っていると言った。
「あ、私も欲しい!」
「順番です!」
亜紀ちゃんがコワイ顔をした。
陽子さんが笑った。
「亜紀ちゃんと結婚してたら、毎日楽しいだろうな」
「そ、そうですよ!」
「子どもは大食いで」
「え、そうでもないですよ」
「毎日あれだけ喰っといて何を言う!」
みんなが笑った。
「タカさん、私は?」
ルーが言った。
「毎日「きもちいー光線」で幸せだな!」
「私は?」
「ハーもそうだけど、お前のオナラはきついからなー」
「いい匂いだよ!」
「トラちゃんはみんなに好かれてるのね」
「いや、こいつらを騙すのは簡単ですから」
「「「アハハハハハハ!」」」
「士王を生んでくれた栞もね。前に俺が病気を隠してたら家に乗り込んできて」
「大変でしたよね!」
「もうカンカンで家に入って来たんですよ。皇紀がぶっ飛ばされて、亜紀ちゃんも階段を蹴り上げられて」
「エェ!」
「俺が床に倒れて必死で起き上がる演技をしたんだよな」
「そうそう! 「ちょっと待ってろ! お前を抱き締めに行くから!」って。もう栞さん泣いちゃって、怒りもどっか行っちゃって」
「アハハハハハ!」
「もう、この人って人を騙す天才なんですよ!」
「このやろう!」
亜紀ちゃんの頭を引っぱたく。
「私たちもー!」
「騙されてスゴイ心霊スポットに連れてかれたよね!」
「あれ、結局お前ら必要無かったよな?」
「「ひどいよ!」」
「アハハハハハ!」
俺たちは楽しく話した。
夜も遅くなったので、俺が解散を宣言した。
「私、もう少しここにいていい?」
陽子さんが言った。
「構いませんよ。じゃあ、ミルクティでも如何ですか?」
「ありがとう!」
子どもたちを寝かせ、左門たちは帰った。
俺はキッチンでミルクティを二人分淹れた。
「ありがとう」
俺も座った。
二人で黙って飲んだ。
「美味しい」
「そうですか」
陽子さんが微笑んだ。
「いいおうちね」
俺は笑った。
「この家ね、もしも南原さんが先に亡くなったらお袋と住もうと思って建てたんですよ」
「そうなんだ」
「南原さんはお袋に遺産をと言ってくれてたけど。それはお断りして、お袋は俺が引き取ろうと思ってました」
「うん」
「南原さんの方が年上でしたしね。申し訳ないけどそんなことを考えて」
「でも、孝子さんはずっと山口にいたかもよ?」
「はい。俺もそうかもしれなかったと思います。陽子さんたちが、本当にお袋に優しかったから」
陽子さんが微笑んだ。
「孝子さんね、トラちゃんの負担になりたくなかったのよ」
「え?」
「トラちゃんに子どもの頃に何も出来なかったって。だから年取って自分の面倒なんかさせたくなかったんだと思うな」
「そうですか」
「よく、最後は養老院に入るんだって言ってた」
「お袋が?」
「うん。私たちにも世話をさせたくなかったみたい。もちろん許さなかったけどね!」
「アハハハハ!」
二人でまた黙ってミルクティを飲んだ。
俺は陽子さんを中庭に誘った。
「ちょっと寒くて申し訳ないんですが」
外へ出て、諸見の描いた虎の鏝絵を見せた。
「素敵ね」
「諸見という左官がやってくれたんです」
「そうなんだ」
「諸見も俺を慕ってくれる奴でしてね。純粋ないい男なんですよ」
「うん、この絵を見ていると分かる気がする」
「普段まったく喋らない男で。口が利けないんじゃないかっていうくらいに」
「ウフフフ」
「でもね、俺が鏝を見せてくれって言ったら、そりゃたくさん喋ったんですよ。俺に一つ一つ説明してくれてね。俺なんかのために、立派な壁を作ろうと思ってくれて。毎日朝も夜中も眺めに来てたんです。「光の当たり方で壁は表情が違うから」って。俺は普通に仕上げてくれれば良かったんですけど、これですよ」
「いい人ね」
「本当にね」
二人で黙って壁を見た。
「嬉しかったな」
「え?」
陽子さんが嬉しそうに笑っていた。
「孝子さんが、私とトラちゃんに結婚して欲しかったなんて」
「ああ」
「本当にそうなってたらな!」
「あれは嘘ですから」
「え?」
「俺って人を騙すのが得意だってあいつらも言ってたでしょ?」
「ウフフフフ」
陽子さんがまた笑った。
「ダメよ、トラちゃん。それが嘘」
「アハハハハ!」
「嘘だったとしても、私は騙されるもん」
「そうですか」
「今の旦那もいい人なんだけどね。好きよ? でも、孝子さんがそう言ってくれたのは本当に嬉しい」
「はい」
「トラちゃん、その時に思い通りにはならなくたって、人は幸せになれるのね」
「そうですね」
俺たちは諸見の虎の絵を眺めた。
何処へ向かっているとも知れない、虎の孤独な道の先を思った。
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