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NY Passion X

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 ニューヨーク最後の晩だ。
 またロドリゲスがステーキを大量に焼いてくれた。
 子どもたちと六花がガンガン食べる。
 次々に運ばれて皿を置かれるので、戦争は無い。

 俺はアルと静江さん、響子と一緒のテーブルにいる。
 俺の隣に六花が座っていた。

 「お前はタイガー・レディは失格だから」
 「!」
 「明日からスパイダー・レディな」
 
 六花が泣きそうになる。

 「冗談だ!」
 
 俺のステーキを六花の口に突っ込んだ。
 ニコニコした。

 「次はタイガーマスクでやりますね!」
 「上半身裸か!」
 「はい!」

 見てみたい。
 今度買ってやろう。

 「響子、明日は帰るけど、お前はもうちょっといるか?」
 「ううん、一緒に帰るよ」
 「そうか」
 「うん!」

 アルと静江さんが響子を見て微笑む。

 「またいつでも来れるようになったしな!」
 「うん!」

 「アル、静江さん。響子はここに来るのを本当に楽しみにしてて」
 「そうか」
 「「遠足の前みたい!」って言うんだよ」
 「へぇ」
 「でも、「お前、遠足って行ったことないじゃん」って言ったら、ものすごく怒って」
 「「アハハハハハハ!」」

 二人が笑った。

 「なあ、六花! 大変だったよな」
 「はい。むくれちゃって。絶対に遠足に今度連れて行けって」
 「おう。どうすりゃいいんだ、それ?」
 「学校とか入らないと無理ですよね」
 「そうだよなぁ」

 「絶対連れてって!」

 「あ!」
 「どうした?」
 「「暁園」でやりましょうよ!」
 「おお!」
 「響子、出来ますよ!」
 「やった!」

 みんなで笑った。

 「これでやっと「遠足の前みたい」って言えるな!」
 「うん!」

 ロドリゲスが来た。

 「今日は負けませんよ」
 「そうなのか」
 「はい。今日は900ポンド(約300キロ)用意しましたから」
 「牛一頭だな!」
 「はい!」

 亜紀ちゃんが来て、ロドリゲスとハイタッチした。

 結局、子どもたちが全部食べた。
 ロドリゲスが感動なのかよく分からない涙を流していた。




 その夜、俺はアルと静江さんに呼ばれた。

 「タカトラ、本当にありがとう」
 「いや、こちらこそ。お二人のお陰で何もかもスムーズに終わることが出来た」
 「それは良かった。これからも何でも協力させて欲しい」
 「宜しく頼む」

 また山田錦が出た。
 刺身や和食の酒肴だった。

 「シズエが作ったんだ」
 「そうですか。美味しいですね」
 「ありがとうございます」

 「キョウコが本当に元気そうだ」
 「そうだな」
 「そして何よりも幸せそうです」
 「そうですか」

 二人が響子のアルバムを見せてくれた。
 どの写真の響子も笑っていた。
 愛されて育ったことがよく分かる。

 「君が送ってくれた写真はもっといい。笑っている響子もいいが、泣いている響子や怒っている響子もいる。君の傍で、一生懸命に生きていることがよく分かる」
 「そうか」
 「もう嫁に出したような気分だ」

 アルが遠い目をして言った。

 「ああ、先日プロポーズしたからな!」
 「え!」

 「一緒に出掛けて、五番街のティファニーを俺が出たら、響子にぶつかったんだ。その場ですぐに結婚してくれと言った」

 二人が顔を見合わせて大笑いした。

 「最高のプロポーズですね」
 「そうでしょう?」

 三人で笑った。
 楽しく響子の話題で笑い、二人はそろそろ休むと言った。

 「みなさんの所へ戻ってあげて下さい。きっと待っているでしょう」
 「あいつらなんか、いつでも一緒ですから。でもそろそろにしますか」

 俺が食堂に行くと、子どもらと六花が飲み食いしていた。
 あれほど肉を喰ったのに、まだつまみを食べている。
 ロドリゲスが一緒にいたので驚いた。

 「石神さん、お邪魔しています」
 「いいよ、一緒に飲もう」
 「すいません。一度お話ししたくて、シズエ様にお願いしてしまいました」
 
 ロドリゲスはそう言って笑った。

 「ここに来て一番世話になってるのがロドリゲスだからな。いつもありがとう」
 「いいえ! 私こそ本当に楽しくて」

 「おい、お前ら! ロドリゲスの料理で何が一番美味かったのか言え!」
 「「「「「「ステーキ!」」」」」」

 「悪い、また頼むな」
 
 ロドリゲスが大笑いした。
 俺は外で食う時などは、事前に店に電話して仕入れを増やしてもらうのだと話した。

 「それでもいつも途中で無くなるんだからよ」
 「お寿司なんか大変ですよね!」
 「おう。もう魚市場から調整しなきゃならねぇ」

 みんなで笑った。

 「亜紀ちゃんの学校から電話が来たんだよ」
 「なんです?」
 「「お宅のお嬢さんが学生食堂を使う場合には、必ず事前にご連絡下さい」ってさ。他の学生が食べられなくなっちゃうんだよ」
 「ワハハハハハハ!」

 「日本じゃ小学校は給食なのな。それで双子は毎日大皿が置かれて、クラスの連中がみんなそこへ自分の分を入れるんだ」
 「えぇ!」
 「こいつら小学校を支配してんのな。最近じゃ近所の中学やら高校なんかも支配下にしやがってよ」
 「なんですか!」
 「俺にも分からんよ」
 「親が日本の有数のヤクザを支配下に置いてますからね!」
 「ばかやろう!」

 亜紀ちゃんの頭をはたいた。
 
 ロドリゲスが、以前に亜紀ちゃんたちがクッキーを焼いてくれた話をした。

 「あれは感動しました」
 「ロドリゲスよ」
 「はい」
 「お前、クッキーをもらって自分はステーキやらがんがん作らされてんだぞ」
 「はい?」
 「バランスがとれてねぇだろう!」
 「あ、タカさん! 酷いですよ!」

 みんなで笑った。

 「でも、ロドリゲスさんが作るものって、全部美味しいですよね」

 柳が言った。

 「そうだよな。俺も驚いている。流石だよな」
 「ありがとうございます」
 「静江さんも言ってたよ。ロックハート家の中枢にロドリゲスがいてくれて良かったって」
 「ほんとですか!」
 「ああ。ここに来た人間をみんな喜ばせてくれるんだってさ。とくにうちな!」
 「アハハハハハハ!」
 「うちじゃ肉を出すといつも戦争なんだよ。血を分けた兄弟で死肉を奪い合うっていうな」
 「アハハハハハ!」
 「でもここじゃ十分に喰わせてくれるから」
 「はい、ようございました」
 「この柳なんて、結構上流の人間だったんだよ」
 「なんで過去形なんですか!」
 「でも、もうすっかり石神家の人間でな。一緒に死肉を奪い合ってる」
 「アハハハハハハハ!」

 俺たちが英語で話しているので、六花や皇紀、双子は会話に入って来ない。
 でもなんとなく分かっているようだ。
 双子がロドリゲスの両頬にキスをした。
 ロドリゲスが礼を言う。

 「ああ、こいつらは相当好きな人間にしかキスしないのな。俺たちの他は何人もいない」
 「そうなんですか。ありがとうございます」

 双子がニコニコしている。

 「まあ、またキス一つでステーキをガンガン焼かされるんだけどな」
 
 ロドリゲスが大笑いした。






 俺は一旦解散し、亜紀ちゃんと柳、六花を連れて外へ飲みに行った。
 俺と亜紀ちゃんと六花が潰れ、柳が三人を抱えて帰った。
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