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NY Passion Ⅳ

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 俺はアルと打ち合わせた直後からアメリカ政府の人間たちと面会していった。
 場所は全てロックハート家の特別室だ。
 電波暗室になっており、盗聴は出来ない。
 また、入室前に徹底した持ち物検査をされた。

 行政の人間とは、主にアラスカの「虎の穴」基地への資源や人員の手配や資金調達について。
 そして対「業」の準備や各国への通達内容。
 軍事関係者や情報組織へは、もっと直接的な「業」の脅威の一部開示と対策について。

 俺は途中で食事をしながら、面会と会談を進めた。
 各部署の人間には、あらかじめ話す内容と返答をアルと用意していた。
 流石は巨大財閥の当主で、抜かりなく内容の下案まで作ってくれていた。
 もちろんアル一人の力ではなく、優秀な側近やスタッフがいるのだ。
 俺に不足しているのは、そういう人材だった。
 ロックハート家が協力してくれることは、非常にありがたい。





 何とか今日の予定を全て終え、アルがジェシカを連れて来ていいか尋ねた。

 「ああ、もちろんだ。随分と待たせてしまったな」

 時間は既に午後11時を過ぎていた。
 ジェシカが入って来た。

 「あの、このような時間に申し訳ありません」
 「こちらこそ。今日は多忙なものだったんで、女性をこんな深夜に」
 
 俺は早速ジェシカの決意を聞いた。

 「私は石神さんの話を聞いて、すぐにお手伝いしたいと思いました。静子様にお願いしたんです」
 「それはどうして?」
 「レイさんのことを知っていましたから。私の敬愛する方でした」
 「……」

 「石神さんは、レイさんのために、アメリカを滅ぼそうとまでお怒りになった。どれだけ愛の深い方かと思いました」
 「そうか」
 「石神さんの敵のことは詳しくは聞いていません。ですが恐ろしい相手だと。世界を滅ぼすかもしれない強大な敵と聞きました。それでも石神さんは戦おうとされている。私は大したことは出来ないかもしれませんが、精一杯で石神さんのために何かがしたい」
 「ありがとう」
 
 俺はジェシカに少し待って欲しいと言い、部屋からノートPCを持って来た。
 HDDを繋げて、俺たちの戦闘記録の一部を見せる。

 新宿公園での蓮華、フランス外人部隊との戦闘。
 赤星綺羅々との異質な戦闘。
 太平洋上でのジェヴォーダンとの戦闘。
 そして先日蓮花研究所を襲った「業」との戦闘。

 「これが俺たちの戦いだ。今度、もっと熾烈で大きなものになっていくのは確実だ。命が幾つあっても足りない」
 「はい。でも、石神さんはやるんですよね?」
 「そうだ。俺は絶対に止まらない」
 「分かっています」
 「君は命を落とすかもしれない。しかも酷い方法でだ。レイは「業」ではない相手にそうされて殺された」
 「はい」
 「それでも、俺たちと一緒に戦ってくれるか?」
 「そのつもりです。私は石神さんのために死にたい」
 
 「何故?」

 ジェシカは俺を見据えた。

 「石神さんを愛しています」
 
 ジェシカは微笑みながらそう言った。

 「俺を?」
 「はい」
 「会ったことも無いのに?」
 「それでもです。私はレイさんから石神さんのお話を聞いていました。以前から可愛がってもらっていましたが、レイさんがこちらに戻って来て、すぐに呼ばれました。一緒に石神さんを手伝ってもらえないかと」
 「去年のことか?」
 「そうです。人材が足りないのだと。その時に、いろいろ石神さんのお話を聞いて、私もそうしたいと思っていました」
 「そうだったか」
 「レイさんがあんなことになって、その話も立ち消えになってしまいましたが。でも、私の中で石神さんへの思いは大きくなっていたようです」
 「静江さんやアルには?」
 「お話ししています。石神さんのお許しがあれば、いつでもと」
 「そうか」
 
 ジェシカは全てを語り、気が楽になっていたようだった。

 「君のご家族は?」
 「おりません」
 「そうか」
 「防衛システムの輸送中に亡くなりました」
 「!」

 「技師として「セブンスター」に乗り込んでいましたが、運悪く」
 「そうだったか。じゃあ、あの時甲板に出ていたのか」
 「はい。レールガンの調整を手伝うつもりで」

 俺は立ち上がり、頭を下げた。

 「すまなかった。俺のせいだ」
 「いいえ! 両親は自分の意志で戦って死んだんです! 私は立派な最期と思っています」

 ジェシカがそう言った。
 その通りだと思った。
 命を擲って決意したことを、汚すことは出来ない。

 「分かった。俺もそうだと思うよ」
 「ありがとうございます」

 「ジェシカ、もう一度だけ聞く。君はこの戦いで命を落としても構わないのか?」
 「はい!」

 ジェシカが明るく応えた。

 「分かった。じゃあ、これから宜しく頼む」
 「はい! こちらこそ!」
 「ようこそ、「虎」の家族へ」
 「ありがとうございます!」

 俺たちは握手を交わした。

 「ジェシカ、君は日本の俺たちの研究所へ行って欲しい」
 「はい! 分かりました!」
 「蓮花という女性が切り盛りしている所だ。俺たちの根幹の研究をしている」
 「はい!」
 




 俺は翌朝の朝食の席でジェシカを全員に紹介した。
 みんな、突然のことに驚いていたが、レイを尊敬し、俺たちの仲間になると言うと、大歓迎で迎えられた。

 「おい、曜日係!」
 「はい!」
 「後でジェシカに虎曜日の説明をしておけ!」
 「分かりました!」

 ジェシカが不思議そうな顔をしていた。
 響子が笑っていた。

 俺はその日も面会者と綿密に打ち合わせをした。
 大統領が補佐官と一緒に来て、ある情報をもたらした。

 「ミスター・イシガミ。一つ申し訳ない報告がある」
 「なんでしょうか?」
 「アメリカ国内で、君に反発する勢力が出来たようだ」
 「それは?」
 「まだはっきりしたことは分からない。しかし、軍部の一部と有力な政治家が結びついているようだ」
 
 そういう勢力が出来ることは想像してはいた。
 超大国アメリカが、易々と個人に敗北したのだ。
 納得できない人間がいるに決まっている。

 「それは証拠が無いということでしょうか? それとも実態をまだ把握出来ていないということですか?」
 「両方だ。一部の人間の名前は分かっている。しかし、どこまでの勢力になっているのかは分からない」

 補佐官が資料を俺に寄越した。
 陸軍の将官の名前と、リベラルで有名な政治家の名前が挙がっていた。

 「この人類の危急の事態に何をと思うが、こういう人間はいつの時代にもいる」
 「はい」
 「粛清は君に任せる。もちろん命じてもらえば、こちらで処理する」
 「いいですよ。ただ、俺が提示した条件に抵触しそうになったら、その時はお願いします」
 「分かっている。ロックハート家とセイントPMCなどへの攻撃だな」
 「そうです。それにアラスカへ攻撃すれば、自動的にアメリカ本土が迎撃されます」
 「分かっている! 絶対にそんなことはさせない!」

 大統領が青くなって言った。
 俺は技術者、研究者、数学者、物理学者などの提供を相談した。
 大統領は、対「業」のための技術提供を申し出て来たが、俺に却下された。

 「俺たちの技術はあまりにも強大です。でも、兵力をこちらへ下さるのなら、優先して防衛任務は担いましょう」
 
 大統領は考慮すると言った。
 しかし、実質アメリカが骨抜きになるという案なので、実現はしないだろう。
 俺たちは独自に戦力を集めるしかない。

 「では、ロシアからの亡命者を頼みます」
 「分かっている。既に向こうでエージェントが活動しているはずだ」
 
 今後、恐らくロシアは「業」に侵食されていく。
 優秀な人間を今のうちにこちらへ引き入れたい。
 恐らく、スパイなども入って来るだろうが、こちらにはそれを防ぐ手段がある。

 


 俺は全ての面会を終えた。
 概ねこちらの想定通りに終わった。
 夜の10時を回っていた。
 アルと静江さんが待っており、酒に誘われた。

 「お疲れ様。上手く行ったようだな」
 「ああ、アルのお陰で助かった。ありがとう」

 アルたちの段取りが無ければ、ここまで短時日で終わってはいない。
 下話も事前に通してくれていたために出来たことだ。
 その労力は尋常ではない。

 「明日は出掛けるんだね」
 「ああ、予定通りだ」
 「また響子を宜しくたのむ」
 「もちろんだ。ああ、静江さん。今日は響子と一緒に寝てやってください」
 「でも六花さんが」
 「あいつは俺が引き取ります」
 「そうですか。じゃあ、早速」

 静子さんは出て行った。
 俺はアルと飲んだ。

 「アル、アメリカが二つに割れるかもしれん」
 「ああ、予測はしていた。また南北戦争かな」
 「今度は堂々とした戦いではないよ。多分、気付いたら敵に掌握されている、という感じだろうな」
 「そうか」
 「そもそも、最後の瞬間まで気付かないかもしれない。俺たちに従順な振りをして、いきなり牙を剥くのかもな」
 「ここは安全だ。米軍が全部来ても戦える」
 「ハハハ、頼もしいな」

 俺はジェシカの礼を言った。

 「アルたちにとっても、優秀な人材なんだろう?」
 「もちろんだ。だからタカトラに勧めるんだしな」
 「大丈夫なのか?」
 「タカトラたちには、十分なものを受け取っているよ。技術的にも、多くの研究者が長い年月をかけて築き上げるようなものを、たくさん貰っている」
 「そうか」
 「それに我々はもう一つの組織だ。私も「虎」の軍の一員だよ」
 「ありがとう」






 部屋に帰ると、六花が裸で待っていた。

 「石神先生!」
 「おい、シャワーくらい浴びさせろ」
 「はい!」

 俺が部屋に備え付けのシャワー室へ入ると、六花も一緒に入って来た。
 「六花シャワー」を浴びさせられた。
 変態女と変態大好き男の夢の饗宴を繰り広げた。

 満足そうな六花の美しい寝顔を見た。
 明日はアラスカへ行く。
 栞と士王に会うのが楽しみだった。  






 ヘンタイのお父さんですまん。
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