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スーの一族

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 「タカトラー!」

 二月下旬の金曜日。
 いつものように俺が行くと響子が甘えて来る。

 「響子ぉー!」

 まあ、俺も甘える。

 「やー!」

 パンツを降ろそうとすると頭を叩かれる。
 本当に誤魔化されなくなった。
 カメラを抱えた六花が「チッ!」と舌打ちを打った。

 「なんだよ、俺たちのラブラブ挨拶じゃないか!」
 「違うよ!」
 「あー、響子は全然俺に「おケケ日記」書かせてくれないしなー」
 「書かないでよ!」

 まあ、こっそり隠し撮りをしているが。
 響子の頭を洗ってやっている最中に、六花がサッと撮って行く。
 ついでに俺のアレも撮って行く。

 六花がニコニコして寄って来た。

 「石神先生! 私のをまた書きましょうよ!」
 
 響子が目を丸くして六花を見る。

 「六花もう生えてるじゃん?」
 「ですから、一度全部剃ったんです」
 「え?」
 「そこで最初から石神先生に、イタイ!」

 六花の頭にチョップを落とした。

 「お前、子どもの前で何を言う!」
 「だって石神先生が最初に!」

 やった。

 「とにかく、その話はここでするな!」
 「はーい」

 響子が俺を睨んでいる。
 ちなみに俺もやってみた。
 一緒に風呂に入った亜紀ちゃんに爆笑された。





 その晩。
 オペで遅くなった俺は10時頃に帰宅した。
 
 「ルー! ハー!」
 「「はーい!」」
 「一緒にお風呂に入ろうか!」
 「「はーい!」」

 カメラとノギスを持って来た。

 「タカさん、なにそれ?」
 「まさか「日記」?」
 「そーだよ」
 
 取り上げられた。
 三人で仲良く風呂に入った。

 「タカさん、今日庭でスズメが怪我してたの」
 
 ちょいモジャのハーが言った。

 「そうなのか。可哀そうだな」
 「うん! だから家に入れて手当したんだけど」

 双子の場合、「手当」は万能だ。

 「家の中かよ」
 「ダメ?」
 「フンとかどうすんだ?」
 「カゴを買った」
 「純金か?」

 こいつらならやる。

 「竹だけど?」

 やらなかった。

 「でもカゴの中じゃまた可哀そうだよなぁ」
 「だからね、トイレだけ中で、そうじゃないときは部屋の中で」
 「躾けられるのかよ」
 「もうやってるよ?」

 やってた。

 「まあ、それならいい。後で俺にも紹介してくれ」
 「「うん!」」


 


 風呂を上がって、双子の部屋へ行った。
 ベッドにスズメがいた。
 寝ていたようだが、俺が入ると身体を起こす。

 「チュン」

 カワイイ。
 俺がベッドに行くと近付いて来る。
 俺が両手を合わせると、その中に入って来た。
 気持ちよさそうに目を閉じる。

 「やっぱりタカさんだねぇ」
 「動物キラーだよね」

 そりゃお前らだ。

 「まだ飛べないのか」
 「うん。羽が折られちゃったみたい」
 「俺もスズメは治せないなぁ」
 「しばらく面倒見ていい?」
 「ああ。元気にしてやれよ」
 「「うん!」」

 「命名! 《スー》!」
 「「わーい!」」

 喜んだ。

 その日からルーとハーがスーの面倒を見て、スーの観察日記を付け始めた。
 やはり、日記は愛情だ。




 スーはうちのみんなに慣れた。
 食事も一緒に摂るようになった。
 双子が世話をしているが、俺がいると俺の傍にいたがる。
 ロボが近付くと逃げる。

 「ロボ、あれは一応家族みたいなものだからな」
 「にゃ」

 そのうちロボにも慣れ、ロボも頭に乗せたりしている。
 なんか嬉しそうだった。

 夜は双子の部屋で寝た。
 一緒のベッドで、枕の上で寝ていることもあれば、二人の間の布団に潜っていたりする。
 仲良しだ。
 ルーもハーも本当に可愛がっている。

 頭の良いスズメだった。
 俺が「焼き鳥」と言うと、仰向けになって目を閉じることを覚えた。
 みんなに見せると爆笑した。

 エサはワームやすり餌、そして生米を与えた。
 そのうちに、石神家の作法を身に着けた。

 「スー! あっち行って!」
 
 肉争いの最中に亜紀ちゃんが頭を突かれる。
 流石に亜紀ちゃんも攻撃はしない。
 だからスーは悠々と亜紀ちゃんをつっつき、顔の前で羽ばたく。

 「もーう!」

 双子が悠々と肉を攫って行く。
 笑っている。

 ルーとハーは俺の「焼き鳥」芸を面白がり、毎日スーに教えるようになった。
 「花岡」だった。
 冗談だった。
 まあ、動きを覚えさせて楽しもうという程度だった。

 それが、ちょっと覚えた。

 「イッターイ!」

 亜紀ちゃんが叫んだ。
 頭からちょっと血を流していた。

 「「「螺旋花」!」」
 「なによ!」

 みんなで驚いた。
 スーがでかいステーキを咥えて双子の皿に入れた。

 「「「金剛花」!」」

 肉争いの時には、スーはカゴに入れた。




 スーがすっかり元気になり、飛べるようになった。
 庭に出してやり、スーは羽ばたいてどこかへ行った。
 その写真が『スーちゃん日記』の最後の写真になった。
 4月上旬の土曜日だった。

 「お前ら、よく世話をしたな」
 「「うん!」」

 二人は泣いた。
 夕飯はスズメの丸焼きだと言うと、本気で殴られた。
 



 数か月後。
 庭にスズメの集団が遊びに来るようになった。
 ルーとハーが喜んで、生米を撒いた。
 集団が争って食べた。

 「あ、一羽吹っ飛んだよ?」
 
 尋常な争いではなかった。

 「「あ!」」

 双子が同時に叫ぶ。

 「「スー!」」

 一羽のスズメが飛んで来た。
 二人が涙目で両手を開いて迎える。
 俺の肩に止まった。

 「「なんでよ!」」

 俺の頬に顔を擦り付けていた。
 双子に尻を蹴られた。

 「ああ、スーの子どもたちか」
 「なるほど!」
 「スーの家族だね!」

 双子が生米を撒くので他のスズメが集まることもある。
 しかし、スーの一族がやってきてそれを蹴散らす。
 カラスが襲いにくると、それをぶっ殺す。

 「「スーの一族だね!」」

 双子は喜んでいるのだが。






 対「業」の戦力になればとも思ったが。
 それほど強くはなかった。
 まあ、スズメか。
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