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蓮花研究所 襲撃

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 二月最後の木曜日。
 蓮花の研究所が襲撃された。
 予想はしていたが、予想外の襲撃だった。

 そこが襲われることは分かっていた。
 栞が「花岡」の究極の子どもを生む。
 そのために蓮花の研究所で安全を期して滞在している。
 そう敵は考えるはずだった。

 実際に、栞は一度蓮花の研究所へ行っている。
 翌日には離れたが。
 しかし、敵はそれを知らない。
 徹底的な防御態勢は、付近一帯の接近を許さない。
 見張っている者がいたとしても、即座に排除される。
 
 そして蓮花の研究所はジェヴォーダンの襲撃にも十分に対応できる。
 その上で、俺は特別な人間を配していた。
 斬と千両だ。
 二人に、「業」の戦力を経験しておかせたかった。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「千両、来たようだぞ」
 「ああ。もう防衛システムが発動しているな」

 蓮花の研究所は敵襲を知らせるサイレント共に、防衛システムが起動し、ミユキたちやアナイアレーター、そして500体のデュール・ゲリエが出動していた。
 
 レーダーは20キロ前から敵の侵入を感知した。
 突如、異常な時速300キロで研究所に向かう者がいたためだ。
 しかも舗装された道路ではない。
 一直線にそれは進んでいた。

 「「業」の兵隊か?」
 
 千両が作戦司令室で聞いた。

 「分かりません。ですが、そうだとすると、相当な相手ですね」

 蓮花が応えた。
 斬は目を閉じている。
 斬は防衛システムよりも早く、敵襲を察知していた。

 「来ます」

 蓮花が冷静に告げる。
 外壁の前で敵が立ち止まった。
 5人だ。

 「たったこれだけか?」
 「はい、斬様。別働や控えている者はいないようです」
 「舐められたものだ……いや、待て!」
 
 斬が緊張したのが二人にも分かった。

 「あいつ! まさかあいつが来たのか!」
 「斬、それは!」

 

 「「業」だ!」



 「「!!」」


 
 斬と千両はすぐに部屋を出た。
 最短ルートで外に出る。
 その時、ジェヴォーダンの攻撃にも耐える外壁が破壊された。

 四体が敷地に入り、左右に散って行った。
 それらをミユキたちとデュール・ゲリエが迎え撃った。

 斬と千両はゆっくりと入って来る男を待った。

 「よう、お前らだけか?」

 人間の声の他に、地響きのような振動が伴っていた。

 「栞を出せ。そうすればすぐに殺してやる」
 「「業」!」
 「よせ、お前らでは何も出来ない。早く栞を呼んで来い」

 斬が「虚震花」を放った。
 「業」の左右の壁が崩壊する。
 「業」の周囲には激しい風が渦巻いただけだった。

 斬が「ブリューナク」を撃った。
 数メートルの光が「業」を覆う。

 「これが新しい技か。なかなかだな」

 「業」は平然と光の帯を受けて笑った。
 漆黒の何かに覆われていた。

 「業」が動き、右手から黒い柱が伸びた。
 斬はその軌跡から逃げようとしたが、黒い柱から無数の触手が伸びた。

 「キェェェェ!」

 千両が気合と共に黒い柱を斬る。
 黒い柱は消え、斬に伸びていた触手が粉々になって散って行った。
 それでも避け切れずに何本かに触れられただけで、斬は息を荒くしていた。

 「ほう、「虎王」か。なかなか大したものだ」

 「業」が微笑んでいた。
 邪悪な笑みだった。

 「斬!」
 「おう!」

 斬が「轟閃花」を放った。
 「業」の背から無数の黒い触手が伸び、「光」を吸い取って行く。
 そこへ千両が裂帛の気合を込めて突っ込んだ。
 刃を防ぐ触手が次々と切断されていく。

 「業」の左肩に千両の切っ先がめり込んだ。
 次の瞬間、「業」の身体が数メートル移動した。

 「!」

 「業」が笑って立っていた。

 「今のは少し驚いたな」
 
 斬と千両は「業」を睨んでいる。
 何をどうされたか千両の服は数十カ所も裂け、そこから血が滲んでいた。
 「業」が建物を見ている。

 「そうか、ここにはいないのか。見事に騙されたか」

 「業」が呟いた。
 そして驚愕した。

 「これは! なるほど、あいつもなかなかやる」

 「業」の周囲の空間が歪んでいる。

 「厄介だな。今日はここまでか。この俺が何も出来ないとはな」

 また「業」の身体が歪み、今度は数百メートルも移動していた。
 そのまま走り去る。

 「千両、俺たちも離れるぞ」
 「追わないのか?」
 「無理だ。妖魔の罠が動き出した。下手に追えば巻き込まれる」
 「そうか」

 タヌ吉が設置した「地獄道」の防衛システムだった。




 「業」の兵士はミユキと前鬼、後鬼が二体、アナイアレーターたちが一体、そしてデュール・ゲリエたちが一体を仕留めた。
 「花岡」を使う兵士だったが、相手にはならなかった。
 研究所の被害は外壁の破壊に留まった。
 24時間、厳戒態勢でいたが、やがて解除された。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 蓮花から連絡を受け、俺は即座に「飛んだ」。
 しかし「業」は既に離れており、追うことは出来なかった。
 千両は体中に裂傷を負っていたが、命に別状はなかった。
 俺が全てを縫い合わせた。

 「何も出来ませんでした」
 「いい。あれは別格だ。あいつ自身が乗り込んでくるとは、俺も考えていなかった」
 「途轍もない敵です」
 「そうだ」
 「次は必ず」
 「頼むぞ」

 千両は目を閉じた。

 「カメラには映らなかった。黒い柱のようなものが伸びて来た」
 「そうか」

 斬が俺に説明する。

 「あれは「花岡」の技ではない。あいつ自身の特殊な能力だろう」
 「綺羅々も同じような技を使っていた。一撃で地面が裂けるような攻撃だった」
 「それとも違う気がするがな。あれは命そのものを吸い取って干からびさせるようなものだと感じた」
 「吸われたのか?」
 「大したことはない。「螺旋花」で対応できた」
 「そうか」
 「まあ、千両が斬らなければ危うかったかもしれん」
 「情けねぇな」
 「フン!」

 斬は「ブリューナク」も通じなかったと言った。
 最終的には「地獄道」を見て退却したようだ。
 しかし、それは逃れられるものではなかったはずだ。

 「業」は子どもを生んだばかりの栞を狙って来た。
 恐らく「士王」も攫おうとしたのだろう。

 「おい、じじぃ」
 「なんじゃ」

 「若死にしなくて良かったな」

 斬が俺を見、目を閉じていた千両も見ていた。
 二人が同時に大笑いした。

 「なんとか孫の顔は見れそうじゃねぇか」
 「そうだな」
 「曾孫までというのは欲張り過ぎだぞ!」
 「フン、見てやるさ」
 
 斬はそう言って床に崩れた。
 やはり激戦だったのだ。
 俺は抱え上げ、ベッドに座らせた。




 俺が生まれた「士王」の写真をスマホで見せてやった。
 斬が見たこともないような優しい笑顔でそれを見ていた。
 
 「似てないですな」

 千両がそう言うと、斬が千両の胸を叩いた。
 千両が顔を歪めながら笑った。 
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