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アラスカ「虎の穴」基地 Ⅱ

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 「ここはどこなの!」
 「アラスカ「虎の穴」基地だ。来るべき戦いのために、タイガーが建設している」
 「あの物凄い建物は?」

 栞はヘッジホッグの凶悪で異様な建物を指差した。

 「あそこに君が住むんだ、シオリ。この基地の中枢「ヘッジホッグ」だよ」
 「やだよー、あんな魔王城みたいの! 帰りたいよー!」
 「ここが君の家であり町だ」
 「やだー!」

 その時、桜花と椿姫が浮かびかけた栞に取りついた。
 危うく空中に逃げられるところだった。
 
 「いけません!」
 「どうかお鎮まり下さい!」

 地上に降り立った時、二人が吹き飛ばされた。
 睡蓮が栞の前に座り、短刀を持ち自分の腹を出した。

 「分かったわよ!」

 自分がいなくなれば、三人が死ぬことが分かった。
 ターナー少将は胸を撫で下ろした。




 ハンヴィーでの移動の間、栞は不機嫌だった。
 しかし、ヘッジホッグでの自室に案内された時、栞は上機嫌になる。

 「ひろーい!」

 置かれた調度を撫で回し、寝室や他の部屋も確認していく。

 「さすがは石神くんね!」
 「素敵なお部屋です」
 
 桜花たちも栞に言って行く。
 三人が作る夕飯に、栞も満足して寝た。
 その夜は桜花が控室で警戒した。

 しばらくは穏やかに過ごした。
 栞は快適な部屋と美味しい食事を満喫した。
 時々ターナー少将や月岡が来て話し相手になった。

 しかし、徐々に退屈を感じ始めた。

 ドライブがしたいと言うので、月岡がジープを用意した。
 桜花たちに、栞に運転はさせないように言われた。
 基地内の商店街に行き、入れる区画を回る。
 そんな予定でいた。

 「ねぇ、商店街まで運転させて」
 「でも、栞さんにはハンドルを握らせるなって」
 「日本に戻ってから困るよー。その前もペーパーで運転を思い出すのに苦労したんだし」
 「だけどねぇ」
 「あのさ。咄嗟の時には私が運転して逃げる場合もあるんだよ?」
 「そうだなぁ」

 トラック三台が横転し、配達のバイクが店のウインドウに突っ込んだ。

 「栞さん……」
 「ちょ、ちょっと久しぶりだったからさ! 慌てちゃったの! いつもは違うんだからね!」
 「……」

 いつも通りだった。
 奇跡的にハンヴィーは動き、カラカラとヘンな音を立てながら帰った。




 「タコが食べたい!」
 「すいません。食材には限りがありまして」
 「食べたいよー!」

 ただのワガママだった。
 退屈でイライラしているだけだ。
 しかし桜花たちは逆らえない。
 椿姫に護衛を任せ、桜花と睡蓮であちこちの商店を探し歩いた。
 基地内では見つからず、外の街へハンヴィーで出掛けた。
 戻ったのは夜の10時だった。

 「栞様! 遅くなって申し訳ありません! タコを見つけて来ました!」
 「え?」
 「もう夕食は召し上がったんでしょうが、少しだけ食べてみませんか?」
 「あなたたち、どこまで行ったの?」
 「ええ、アンカレッジまで。生きのいいのが手に入りましたよ!」
 「桜花、あなた寝てないの?」

 三人は交代で栞が寝ている間の護衛をする。
 翌朝に他の二人に任せて休む。
 昨晩は桜花が徹夜で起きていた。

 「はい? ああ、全然大丈夫ですよ! 私たちは何日も寝ないでも栞様を護衛できますからね!」
 
 栞は立ち上がって頭を下げた。
 そのままタコを受け取り、捌いた。
 三人が自分たちがやると言ったが、栞が止めて自分でやった。

 「ごめんなさい。二人はあとでちゃんと夕飯を食べてね。その前にこれをせめて」

 三杯酢でキュウリとタコを和えたものを出した。
 急いで作った。

 「栞様……」
 「お願いします!」

 三人は微笑んで食べた。
 栞の料理が上手いと褒めた。

 「じゃあ、今後は私も時々作るね!」
 「いいえ!」
 「だって退屈なんだもん。やらせてよ」

 桜花たちは笑ってお願いしますと言った。
 それまでも仲が悪いわけでは無かったが、四人は一層仲良くなった。




 改めて椿姫と睡蓮が付いて、商店街へドライブに出た。
 栞は服が見たいと言った。
 マリーンの人間が運転し、高級ブティックに栞を案内する。
 三人で中に入った。
 オートクチュールの店であり、ほぼ栞のための店だった。

 店長が生地のサンプルを持って来る。
 栞は眺めながら、三枚を選んだ。
 仕立てのサンプルをまた選んだ。

 「それでは御採寸を」
 「じゃあ、椿姫、測ってもらって」
 「はい?」
 「あなたにはこの赤のものがいいと思うんだけど」
 「栞様?」
 「さあ。睡蓮はその後でね」
 「はい?」
 「今日はいないんですが、後日もう一人採寸してください。このピンクの生地で」
 「かしこまりました」

 仕上がった二週間後。
 栞はドレスを三人に着せて、街の高級レストランへ連れて行った。
 桜花が運転したが、栞がワインを飲ませようとする。

 「帰りの運転がありますから!」
 「帰りは私がするわよ!」

 「「「絶対やめてください!」」」

 「えーん!」

 桜花がマリーンに連絡し、帰りの運転を頼んだ。
 護衛があるので、三人は一杯ずつだけ飲んだ。
 ワインによく合う料理だった。
 三人は大事に一口ずつ飲んだ。

 嬉しそうに食べる三人を見て、栞はニコニコとしていた。




 仲良くやっていたが、やがて栞の限界が来た。

 「石神くんはなんで来ないのー!」
 「栞様! どうか落ち着いて下さい!」
 「睡蓮! 早くタコを!」
 「はい!」

 不思議とタコを出すと栞が大人しくなることを知った。

 「う……」
 「さあ、栞様、タコを召し上がってどうか」

 別に栞はタコが好物なわけではない。
 ただ、あの日遠くの街まで桜花たちが自分のワガママでタコを探し回ったことに罪悪感があるだけだ。
 あの日だって、食材を見てタコが無いことを知っての上でのワガママだった。
 しかし、何を勘違いされたか、栞がタコが大好きなのだと思われ、あの日以来切らしたことがない。

 「きょ、今日はタコじゃ誤魔化されないよー!」
 「栞様!」
 「この窓をぶっ飛ばして、石神くんに会いに行くんだからー!」
 「栞様! どうか!」

 栞は暴れようとする。
 睡蓮はターナー少将に緊急連絡を入れた。
 万一の場合、石神へ連絡を入れる必要がある。

 「やあ、スイレンか! 丁度良かった。こっちから連絡するつもりだったんだ」
 「ターナー少将様! 今栞様が!」
 「タイガーが三日後に来るって! シオリにも伝えてもらえないかな?」
 「はい?」

 一瞬後、睡蓮が大声で叫んだ。

 「石神様がいらっしゃいますぅ!」
 「え?」
 「「え?」」

 「三日後です! ですから栞様! どうかぁ!」

 「うん!」

 しがみついていた桜花と椿姫が床にへたり込んだ。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 ターナー少将と月岡から、様々な話を聞いた。

 「栞、お前元気一杯だな!」
 「エヘヘヘヘヘ」



 栞の頭を引っぱたいた。 
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