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帰宅と団欒

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 翌朝。
 元旦だ。
 すっかり遊び惚けて、大晦日も蕎麦を喰わなかった。
 まあ、俺は以前からそういう習慣が無かったこともある。
 子どもたちが来てから、多少考えては見たが、別に無くても構わないと気付いた。
 クリスマスも、ほぼ栞の送別会で終わり、プレゼントの遣り取りもしなかった。

 しかし、ここに鷹がいる。
 鷹は和食の権化であり、節目を味わいたい人間だ。
 ということで、雑煮が作られることになった。
 流石にお節はない。
 多少、買い出しに行った時に昆布巻や栗きんとんなどを買ったくらいで、鷹にしてみれば味気ないものだろう。
 だから鷹は徹底的に雑煮に凝った。

 「餅つきをしましょう!」

 鷹が普段は言わないお願い事を口にした。
 鷹を愛する俺としては、「よし」という選択以外は無い。

 臼と杵は用意した。
 スーパーの店長に事前に手配を頼んで、中山夫妻が入れてくれている。
 もち米もある。

 朝食後に全員で庭に出る。
 雪かきは済ませてある。

 まずは見本ということで、俺が杵で鷹が臼を。
 いい感じで餅が出来上がった。
 息の合う恋人同士であることを見せつけてやった。
 亜紀ちゃんと皇紀。
 亜紀ちゃんが杵で皇紀が臼。

 「お姉ちゃん! その顔は止めてよ!」

 亜紀ちゃんが獰猛に笑っていた。
 俺が辞めさせた。
 臼と杵と皇紀がぶっ飛ぶのが分かったからだ。

 「えーん」

 ルーとハー。
 全国大会(あればだが)で優勝できそうなほど、息の合ったコンビだった。
 どうやっているのか、瞬時に二人が入れ替わる神業を見せた。
 その必要があるのかは知らん。

 俺と響子。
 響子が一生懸命に杵で打つ。
 超、カワイかった。

 俺とロボ。
 俺が杵で突き、ロボが肉球を餅に乗せる。
 超絶カワイイ。
 全員が褒め称え、ロボも満足そうだった。

 


 昼は鷹の渾身の雑煮だ。
 普段は食べない俺も、餅を食べた。
 非常に美味かった。
 子どもたちもどんどん食べ、雑煮が無くなったので磯辺焼きや様々な食べ方で楽しんだ。
 鷹が楽しそうだった。

 「たまには餅もいいもんだな!」

 俺がそう言うと、嬉しそうに笑った。

 餅は20キロ。
 肉ではないので結構余った。
 俺は持ち帰ることにする。

 片づけをし、俺たちは帰宅した。



 響子はまたベッドで眠り、病院へ着く頃に起きた。
 みんなで降りて響子を部屋まで送る。
 担当のナースに引き継ぎ、俺たちは帰った。

 「タカトラ! 楽しかった!」
 「そうか。また行こうな」
 「うん!」

 大量の餅をナースたちに預け、みんなで食べてくれと言った。

 鷹を送り、俺たちは5時頃に家に戻った。




 「やっと家かぁー!」
 「タカさん、お疲れ様でした」
 「ほんとにな!」

 子どもたちに荷物は頼み、俺はロボを連れて部屋に行った。
 亜紀ちゃんがすぐに風呂の用意をしてくれ、夕食は出前にした。
 何がいいかと聞かれたが、元旦はあまり店もやっていない。
 仕方なくピザにした。

 俺は数枚食べて風呂に入る。
 子どもたちは争って食べていた。
 元気で宜しい。

 風呂に入って、「幻想空間」で酒を飲もうと思った。
 俺がワイルドターキーを出すと、亜紀ちゃんが言った。

 「何かおつまみを持って行きましょうか?」
 「じゃあ、あっさりとしたものを頼むよ」
 「はーい!」

 こういう頼み方が出来るようになった。
 ありがたい。

 亜紀ちゃんが豆腐に幾つかの薬味をつけ、それと新ショウガの漬物、焼きナスを持って来てくれた。
 亜紀ちゃんも風呂に入り、後から来た。

 「ほんとにお疲れ様でした」
 「まあな。やっぱり家が落ち着くな」
 「そうですねー」
 「亜紀ちゃんはどこでも大丈夫だろう」
 「アハハハハハ! まあ、タカさんの傍でしたら」
 「そうか」

 本当に寛ぐ。
 皇紀と双子も来た。
 
 「私たちも梅酒飲んでもいいですかー?」

 俺は笑って許可し、何かで割って飲むように言った。
 家族五人で飲む。

 「なんか、こういうのも久しぶりですね!」
 亜紀ちゃんが笑顔で言う。

 「そうだな。ずっと誰かがいたからな」
 「それも楽しくていいんですけどね」
 「ああ、でも俺たち五人もいいよな」
 「「「「はい!」」」」

 他の人間も家族だが、この五人はいつでも一緒にいるメンバーだ。




 「タカさんは独りっ子だったんですよね?」
 亜紀ちゃんが言った。

 「そうだな」
 「寂しくは無かったんですか?」
 「そういうものだと思っていたからな。もちろん、兄弟がいる家は知っていたけど、別に自分が独りで寂しいと思ったことはないな」
 「そうですか」

 「でも、お前らを見ていると、やっぱり兄弟はいいものだと思うよ」
 「エヘヘヘヘ」
 「お前らは仲良しだけど、まあそうじゃなくてもな。一緒にいる運命というのは格別だな」
 「はい」

 亜紀ちゃんが嬉しそうに笑う。
 他の三人も笑顔だ。

 「皇紀が生まれて、亜紀ちゃんは可愛がってたよなぁ」
 「そうですか?」
 「なんだよ、毎日皇紀の顔とかペロペロ舐めてたじゃないか! 可愛くてしょうがないってなぁ」
 「えー! 覚えてません!」
 「僕もー!」

 亜紀ちゃんと皇紀が驚く。

 「そうかよ? あれは相当だったぞ。俺なんか、そのうち間違いが起こるんじゃねぇかって心配したくらいだ」
 「「ゲェー!」」

 俺は笑った。

 「本当に覚えてないのかよ」
 「タカさん、私たちはー?」
 ルーが言った。

 「ああ、お前らは生まれながらに悪魔だったからな」
 「えー!」

 「よくあやそうとしてた亜紀ちゃんの顔にパンチを入れ、皇紀にも蹴りを入れてたじゃない」
 「そうなの!」

 「ハイハイが出来るようになるとまたなぁ。食事中によく二人の皿にハナクソ入れてたよな」
 「あんたたちー!」

 亜紀ちゃんが怒った。

 「タカさん、止めて下さいよ!」
 皇紀も言う。

 「止めたよ! 山中たちもな。ハナクソだけじゃねぇ。ゴミだの虫だのってやってたからな。もう諦めちゃった」
 
 亜紀ちゃんが「表に出ろ!」と言った。
 俺は笑って止めた。

 「まあ、そのうちにそれは無くなったからな。やっぱり兄弟の良さが分かったんじゃねぇの?」
 「そう言えば、二人は悪戯ばっかりでしたね」
 「そうだよね」

 亜紀ちゃんと皇紀が思い出しているようだった。

 「そうだよなぁ。奥さんも疲れ果てて、山中が俺を呼ぶようになった。俺も大変だったけど、山中も痩せちゃって、奥さんはもっとゲッソリしてたからな。断るわけにも行かなかった」
 「「アハハハハハ!」」
 「お前らは笑うんじゃねぇ!」

 みんなで笑った。

 


 懐かしく、思い出した。
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