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今週のオロチ当番

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 子どもたちも朝食を食べ終え、俺たちは出ることにした。
 
 「申し訳ない。急いで行かなきゃいけないんで、掃除もろくに出来なかった」
 「そんなこと! こちらこそ、いろいろとありがとうございました」

 仕事で来れない人間もいたが、多くの「紅六花」のメンバーが見送りに来てくれた。

 「じゃあ、みんな元気でな! 何かあったらすぐに言うんだぞ!」
 
 大歓声の中で見送られた。
 本当にいい連中だ。




 響子が隣に座っている。
 あまり構ってやれなかったので、運転しながらしょっちゅう頭を撫で、頬を突き、肩を叩き、ぺたんこのオッパイを触った。

 「いやー」
 「響子、眠かったら寝ていいんだぞ?」
 「寝れないじゃん!」

 御堂家に向かっている。
 柳を送りながら、昼食をご馳走になる予定だ。
 澪さんが大変だろうとは思いながら、みなさんが来てくれと言ってくれている。
 ありがたいことだ。

 俺の運転なら二時間ほどで着く。
 子どもたちに手伝わせることも出来るだろう。
 途中のサービスエリアにも寄らない。

 俺がしつこく構っていると、響子が俺の手に嚙みついた。
 笑って、分かったと言った。

 「響子、途中で寄らないけどオシッコは大丈夫か?」
 「うん」
 「ウンコは?」
 「大丈夫だよ!」
 「まあ、お前のウンコはいい匂いだからな!」
 「そうだよ!」

 みんなが笑った。



 御堂家が近付き、柳が電話をした。

 「柳! お前が今週のオロチ当番だからな!」
 「またですか!」
 「そうだよ。ちゃんと世話するんだぞ?」
 「何するんですかぁ!」

 みんなで笑った。

 寒い中、また御堂家ではみなさんで出迎えてくれた。
 
 「オワァァァーーー!」

 オロチもいた。
 後ろに気付かず、みなさんが驚いていた。
 寒いが、オロチは冬眠しないようだ。
 生態は俺も知らん。
 御堂家のみなさんが腰を抜かしそうになっていた。

 「またお世話になります!」
 「なんで石神が来るとオロチが出て来るんだ!」
 
 御堂も流石に驚いていた。
 俺はオロチに近づき、寄せて来た頭を抱いた。

 「寒いのに、わざわざ出て来てくれたのか。子どもたちは元気か?」
 
 オロチが首を縦に振った。

 「そうか!」

 「石神、お前やっぱり会話できるんじゃ……」
 「ああ。今度『一〇日でマスター! ヘビ語初級者篇』を送ってやるよ」
 「頼む」

 単語の暗記と長文読解が重要だと言うと、もういいと言われた。




 座敷でコーヒーを頂き、俺は子どもたちにすぐに手伝えと言った。
 カレーにしてもらっている。
 米はもう炊かれているだろうから、食材のカットを中心にさせてもらった。
 大勢でかかるので、準備はすぐに出来た。
 俺は澪さんと柳を呼んで、後はうちの子どもたちに任せた。

 「手伝っていただいて、助かりました」
 澪さんが言った。

 「いや、こちらこそ。わざわざ昼食をご馳走になってしまって」
 「石神さん、今日は本当に泊まれないのかね」
 
 正巳さんが残念そうに言う。

 「すみません。また夏にお邪魔させて下さい」
 「そうかぁ」
 「正巳さんと菊子さんこそ、お時間があったら是非うちに来て下さいよ」
 「ほんとか!」
 「もちろんです。うちでの柳も見てもらいたいですし」
 「ああ、本当に考えよう」
 「お願いします」

 柳も嬉しそうだ。

 「ああ、御堂と澪さん。報告があるんだ」
 「なんだ?」
 「柳に夜這いされてな。それでつい……」

 「い、い、石神さん!!」

 柳が慌てて立ち上がって叫んだ。

 「そういうことなんだ。御堂に許可は貰っていたけど、俺としては大学を卒業……」
 「石神さん! やめてくださいよ! 何言ってんですかぁ!」
 「柳、もうちゃんと話そう。隠しておきたいお前の気持ちも分かるけどな」

 「だって! 何もしてくれなかったじゃないですかぁ!」

 全員で爆笑した。

 「そうだっけ?」
 「そうじゃないですか!」
 「でも夜這いはしたよな?」
 「!」

 真っ赤になって俯いた。
 みんなが笑っている。

 「お前なぁ」
 「何ですか!」
 「俺は御堂に何でも話す人間だって知ってるだろう」
 「!」

 また爆笑した。




 大量のカレーをガンガン子どもたちが食べ、正巳さんを喜ばせた。
 澪さんは自信ありげだったが、やはりご飯が無くなり、またうどんを慌てて作った。
 俺も手伝った。
 本当に申し訳ない。

 食後のコーヒーを頂き、全員でオロチを見に行くことにした。

 「あ! ちょっと待ってくれ!」
 「タカさん、どうしたんですか?」

 亜紀ちゃんが言う。

 「あのよ! 名前なんだっけ?」
 「はい?」
 「子どもヘビの名前だよ! あの時適当に付けたから、覚えてねぇ!」
 「タカさん! ちょっと酷くないですか!」

 御堂が大笑いしている。
 澪さんも笑っていた。

 「もう! いいですか、虹栞、虹花、虹鷹、虹柳、ニジンスキーです!」
 「お、おう! 流石、お姉ちゃん!」」
 「じゃあ行きますよ!」
 「ごめん、もう一回」
 
 亜紀ちゃんに頭をはたかれた。
 掴み合いになりそうだったが、柳と双子に止められた。
 なんとか覚えた。

 「オロチー!」

 俺は呼びながら、卵を6つ割って行った。
 オロチが出て来る。

 「おう! 呼んで悪かったな。俺たちはもう出るから、もう一度顔が見たくてな!」
 
 オロチが長い舌を出し入れする。
 喜んでいる。
 分からんが。

 「虹栞、虹花、虹鷹、虹柳、ニジンスキーは寝てるか? だったらいいんだけどよ」

 オロチが口を開いた。
 幽かに耳鳴りがする。
 呼んでいるようだ。

 少し待っていると、五匹の虹色の蛇が出て来た。

 「よー! 虹栞、虹花、虹鷹、虹柳、ニジンスキー! どれがどれだか分かんないけど」

 亜紀ちゃんに後頭部を叩かれる。

 「ちょっと大きくなったか!」

 今は1メートルにもなっている。
 本当に成長した。
 俺は一匹ずつ頭を撫でてやる。
 撫でると舌を出し入れした。
 喜んでいる。
 分からんが。

 「じゃあ、良かったら卵を喰ってくれ! また来るからな!」

 俺たちは離れた。
 正巳さんと菊子さんが最後まで手を合わせていた。

 座敷には戻らず、俺たちは出発することにした。

 「ゆっくりできないで申し訳ないな。別荘で鷹と待ち合わせているんだ。寒い中を待たせるわけにはいかんからな」
 「ああ、また来てくれ。いつでも待っている」

 御堂を握手を交わした。

 「みなさん、すみませんでした! ではまた!」
 
 子どもたちも挨拶する。

 「あ!」

 オロチがまた出て来た。
 何かを咥えている。
 小さな紐に見えた。
 俺は駆け寄った。
 オロチが頭を俺に近づける。
 抜け殻だった。
 サイズ的に、ニジンスキーたちのものだろう。

 「俺にまたくれるのか! ありがとうな!」

 五本の抜け殻を受け取った。

 「じゃあ、みんな元気でな! オロチ、御堂家を頼むぞ!」

 出発する俺たちを、全員が見送ってくれた。
 



 オロチが柳の頭に自分の頭を乗せ、柳は気を喪った。
 澪さんが慌てて抱き上げ、御堂が大笑いしているのがバックミラーで見えた。

 まあ、あいつは今週のオロチ当番だからな。

 俺も大笑いした。
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