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草野球

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 ロボがぶん投げた野球の硬球のせいで、ハーがダーティになった日。
 自分のおもちゃ箱から出すばかりで、絶対にロボは片付けない。
 だから硬球は亜紀ちゃんが拾った。
 じっとボールを見ていた。

 「タカさん!」
 「あんだよ?」
 「野球チームを作りましょうよ!」
 「あ?」
 「面白いじゃないですかぁ! この辺にも草野球やってる人っていますよね?」
 「多分いるだろうけどな。でも俺は興味ねぇ」
 「そんなこと言わずにー!」

 亜紀ちゃんは前に俺が見せた映画『地獄甲子園』と続編『デッドボール』が大好きだ。
 そのせいだろう。

 「大体、亜紀ちゃんは野球を知らないだろう?」
 「そんなことないですよ!」
 「二死満塁」
 「二人ぶっ殺したんですよね!」
 「そうじゃねぇよ!」
 
 やっぱり『地獄甲子園』しか知らねぇ。
 あの映画は相手を殺しながら野球をするというぶっ飛び設定だ。
 物騒過ぎる。

 「あのよ、野球って何人でやるか知ってるか?」
 「え?」
 「九人だよ! どうやってメンバー集めんだ、このボッチJK!」
 「ひどいですよ! えーと、今6人いますよね?」
 「俺は入れんな!」
 「あと、ロボ?」
 「本当に相手チームが吹っ飛ぶぞ!」
 
 「ばーん」を絶対やる。

 この日から、亜紀ちゃんのメンバー集めが始まった。




 俺の病院を中心に、亜紀ちゃんが声を掛け捲った。

 「私は無理だって、分るでしょ?」
 一江。

 「あたしもなー、石神先生のためには何でもしたいんだけど」
 「俺は関係ねぇから」
 「じゃー、無理だよ」
 「チッ!」
 大森。

 「仕事以外の体力ないから」
 「年だから」
 斎藤、斎木。
 他の部下たちも、仕事以外で俺に関わるのを恐れる。

 「妊婦だよー!」
 栞。

 「ハゲですから」
 鷹。

 「バットを入れてみたいとは思うんですが」
 変態。

 「タカトラー」
 甘えん坊。

 「ああ、亜紀ちゃん! みんな元気かな!」
 顕さん。

 そんな中、ちょっとずつだが、兄弟と柳、それに真夜が巻き込まれ、野球の練習モドキを始めた。
 東雲たちも、万一怪我をしたら仕事に障ると断った。
 便利屋が金で雇われた。

 「もうちょっとだぁ!」

 亜紀ちゃんは諦めない。



 思わぬ所で承諾があった。

 「面白そうだね。俺も野球は好きなんだよ」
 「私、高校の時にソフトボール部だったの」

 早乙女夫妻がノリ気になった。
 これで九人揃った。
 こうなっては、こいつらの無軌道振りは放置できない。
 俺も加わることにした。

 「警察官の草野球チームがあるんだよ」
 早乙女が言った。

 「へぇー」
 「チーム『スター・ゲイザーズ』(犯人(ホシ)を追う者たち)って言うんだ」
 「あんだ、そりゃ?」
 「野球が好きな人間たちで、楽しく相手してくれるよ?」
 「ほんとかよ。こっちはド素人っていうか、ほとんど野球初心者だぞ?」
 「うん、地域との交流もモットーの一つだから。気軽にやれるよ」
 「うーん」

 まあ、最初にメタメタにやられれば、熱も冷めるだろう。
 俺は早乙女に繋ぎを頼んだ。



 1月最終の土曜日。
 また双子がバカな金の使い方をして、東京ドームを借り切った。
 まあ、でも午前と午後を合わせても、100万円以下で済んだようだ。
 もちろん、うちの支払いだ。

 それで、どうせならと俺たちは揃いのタイガーストライプのユニフォームを作った。
 こっちは3900万円かかった。
 道具も込でだ。
 当然、最高級の品を揃えた。
 
 《ザ・オトメンズ》

 チーム名の刺繍に、早乙女達が喜んだ。

 ピッチャー:亜紀ちゃん
 キャッチャー:打たれ強い皇紀
 ファースト:身体能力抜群のハー
 セカンド:多分大丈夫な早乙女雪野
 サード:自信ありげな早乙女
 ショート:身体能力抜群のルー
 レフト:お金くれるんなら便利屋
 センター:可哀そうな真夜
 ライト:とにかくそこにいろ柳
 マスコット:かわいいロボ
 監督:ダンディ

 ロボもタイガーストライプのユニフォームを着ている。

 相手チームが来る前に、俺たちはキャッチボールをした。
 『スターゲイザーズ』が到着したら、練習交代だ。
 俺も球技である野球は得意ではない。
 適当にキャッチボールをした。
 
 我ながらひでぇ。
 他の連中もひでぇ。

 まともにやってるのは、早乙女夫妻くらいか。
 真夜と便利屋も結構やる。
 ルーとハーは豪速球をパンチでやり合っている。
 亜紀ちゃんは皇紀を座らせ、物凄い球で皇紀を吹っ飛ばしている。
 予備のミットが50ある。

 俺は柳とやったが、柳は上手い。
 俺はとんでもない。

 「石神さーん! せめて3メートル以内に投げてくださーい!」
 「お、おう!」

 面目ない。

 そのうちに相手チームが到着し、挨拶した。

 「東京ドームなんて! 初めてですよ」
 「いやー」
 「今日は宜しくお願いしますね!」
 「こちらこそ」

 明るくていい人たちだった。
 俺たちはグラウンドを空けて、相手チームの練習をみんなで見た。

 上手い。
 声を掛けながらバットでボールを飛ばし、美しい動作でキャッチしていく。
 そのボールをまた声を掛けながら、ベースで回して行く。
 外野はスライディングキャッチで見事なプレイを披露する。

 俺は全員を集めた。

 「おい」
 「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
 「相手にならねぇ」
 「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
 「だからって、絶対に無茶すんなよな!」
 「「「「「「「「はい!」」」」」」」」

 試合が始まった。





 俺たちは後攻になった。
 第一打席。

 亜紀ちゃんが初球を投げる。
 時速200キロ。
 全員がそのスピードに驚く。

 打者の目の色が変わった。
 亜紀ちゃんもそれを認識した。

 ズッヴァァァァーーーーン。

 皇紀が吹っ飛んだ。
 マッハ2。

 「……」

 「タイム! ピッチャー交代!」
 「えーーん」

 早乙女をピッチャーにした。
 亜紀ちゃんはショートだ。

 言うだけあって、早乙女はまあまあのコントロールだ。
 しかし、球速が遅い。
 打たれた。
 いい当たりだ。
 レフト方面への、大きな当たり。
 便利屋が備えた。

 亜紀ちゃんが跳び上がった。
 30メートル。

 「あ、あうとー?」
 審判が驚いている。

 「タイム! ショート交代!」
 「えーーん」

 あのアホ娘ぇ。
 便利屋と亜紀ちゃんを交代した。

 何とかその回を0点に抑えた。

 ルーが打席に入る。
 初球を真芯に合わせ、鋭い左中間のヒットを飛ばす。
 偶然構えていたショートのグローブにかすった。
 グローブが燃えた。

 「……」

 第二打席ハー。
 抜群の動体視力と身体能力でホームラン。
 ルーを返した。
 良かった、誰も怪我してねぇ。
 打ち込まれたライトスタンドの座席が数十吹っ飛んだ。

 相手チームの方々が呆然と見ている。

 第三打席、便利屋。
 こいつの実力は不明だが、さっきの動きはなかなか良かった。
 レフトとセンターの間に上手く飛ばし、ファーストへ。
 
 第四打席、亜紀ちゃん。
 
 「おい! 分かってるだろうな!」
 「はい! 任せて下さい!」
 
 「俺にまかせろー」とわけの分からんことを言いながら打席についた。

 初球。
 亜紀ちゃんがスイングする。



 全部吹っ飛んだ。



 バットは空気摩擦で燃え尽きた。



 俺は走って行き、頭を殴る。
 みんなでグラウンドに転がっている相手チームの方々と便利屋を回収し、ベンチに座らせた。
 幸い風圧で飛んだだけで、誰もほとんど怪我をしていない。

 「もう、試合はここまでということで」
 「はい」

 俺が中止を申し出ると、異議は無かった。

 「あなた方の勝ちということで」
 「いいんですか?」
 「もちろん」
 「それでは」
 
 「えーーん」

 亜紀ちゃんが泣いた。




 俺は用意していたケータリングの屋台に早めに入ってもらい、みんなで食事にした。
 午後に俺たちに付き合ってくれたお礼にと思っていたのだ。

 便利屋が皇紀を誘ってマウンドでピッチングを始めた。
 いい感じだ。
 なんだ、あいつをピッチャーにすれば良かった。
 皇紀も嬉しそうに、便利屋を褒めながらボールを返して行く。

 早乙女は雪野さんと楽し気にキャッチボールをした。

 俺は亜紀ちゃんと双子にもう何もするなと言った。
 三人は「喰い」に専念していたので、何の問題も無かった。

 柳を誘ってキャッチボールをした。
 相変わらず俺が下手なので、すぐにやめた。
 でも柳は嬉しそうだった。

 俺は相手チームの方々の所へ行き、どんどん食べてもらった。

 「本当にすみませんでした」
 「いいえ。早乙女さんから「花岡」のことは聞いてましたので。ここまでとは思いませんでしたが」
 「え?」
 
 公安の人間のチームだったらしい。

 


 ロボが広いグラウンドで喜んで走り回った。
 亜紀ちゃんが追い掛けて遊んだ。

 突風が始まったので、亜紀ちゃんの頭を引っぱたいてやめさせた。




 後日、スタンドの修理費の請求が来た。

 たった一回の遊びで、買い揃えたものと合わせ、一億円近くが喪われた。
 双子の運用で数分で戻るのだが。 

 ルーが「大谷翔平と契約する」と言ったので、頭を引っぱたいて辞めさせた。 
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