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双子とキャンプ

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 俺は翌日の水曜日に、パルコのアウトドア・ショップに行った。

 今後も使うつもりで、オガワ・グランドロッジの「クーポラ」を買う。
 広い室内は、子どもたち全員で使っても余る。
 その他にダッジオーブンなどのキャンプ用の調理器具一式。
 シュラフやエアマットなどの寝具等々。
 座り心地のいい、折り畳みチェア6脚。
 その他目についたもの。

 テーブルやベンチなどは既にあるので、俺が考えた他のものを買った。
 特別料金を払い、明日届けてもらう。
 幾つか取り寄せになるものもあったが、今回の双子とのキャンプで必要なものは全て揃った。

 梅田精肉店にキャンプ用の肉を頼み、双子に金曜日に他の食材を買いに行かせた。
 亜紀ちゃんたちにも、ちょっといい肉を大量に頼んだ。

 「よし!」

 そう言った亜紀ちゃんの頭をひっぱたいた。





 土曜日の朝。
 ハマーに荷物を積んで出発した。
 ルーが助手席に乗り、楽しそうだった。
 ハーも俺のシートの背中に貼りついて嬉しそうだ。

 「タカさん! ありがとうね!」

 ルーが言った。

 「いや、俺もお前らと行きたかったからな。今日は楽しもう」
 「「うん!」」

 俺たちは楽しく歌いながら走った。

 「前にね、一度だけキャンプに行ったの!」

 ハーが言った。
 「前」というのは、山中たちが生きていた頃だろう。

 「場所は覚えて無いけど、山の中のキャンプ場」
 「そうか。でも山中は車の運転は出来なかっただろう?」
 「うん。電車で行った」
 「そうか」

 大変だったろう。

 「お父さんとお母さんがテントを立ててね。夜はバーベキューだった」
 「美味しかったよねー!」
 「それとね……」

 二人の話が止まらなかった。
 こいつらも気付いていないのだろう。
 懐かしくて仕方がないのだ。
 二度と戻れないあの日に、ルーとハーが浸っている。
 俺はニコニコと笑いながら聞いていた。
 本当に楽しそうな思い出だった。



 麓の家にハマーを停め、三人で荷物を抱えて上がった。
 中腹の「ベースキャンプ」と名付けた場所に出る。
 俺は昼食の準備をし、ルーは薪と草集め。
 ハーは風呂の掃除をした。

 俺は石の竈に火を入れ、一羽鶏に塩コショウをし、中に香草を詰めて腹を閉じた。
 串を刺し、竈に入れた。
 丸焼きだ。
 三羽入れる。

 別な竈でダッジオーブンでキノコのリゾットを作る。
 他に野菜のブイヨンスープを用意した。
 スープは今回用意したコンロに乗せる。

 合間にハーの掃除を見て、ルーが集めて来た草を確認した。
 二人とも、仕事が早い。
 ハーはルーを手伝って草や薪を一緒に集めた。


 三人で昼食にする。
 二人とも美味しいと喜んだ。

 「普通の人間様のキャンプはなー」

 二人が笑った。

 「いつもの生活が出来ないってことなんだ。だから少しでも快適になるように、工夫するし面倒な作業もする。それを「楽しむ」ということなんだな」
 「なるほど!」
 「寝床を作るんだって、こうやって草を集めて柔らかい地面にする。ゴツゴツとした床じゃ嫌だろ?」
 「「うん!」」
 「夏の暑さはどうしようもないけど、もう寒いから温かくする必要もある。食事だって普通の人間様は現地調達できねぇから、重い思いをして担いでくる。山中たちもそうやって苦労して運んだはずだ」
 「「うん!」」

 「まあ、俺はお前らなんかのために苦労はしたくねぇから、こんなんだけどな」
 「「アハハハハハハ!」」

 三人で全部食べ切った。
 ドリップのコーヒーをルーが淹れ、ハーが洗い物をした。
 
 一休みして、俺たちはテントの整地をした。
 丁寧に石を除き、砂を集めて敷いて行く。
 その上に、二人が集めた枯れ草を敷いて行った。
 俺が具合を監修する。

 テントを組み立てた。
 昔のような面倒さは、今のテントにはない。
 幾つかのペグを打ち込んで立てた。
 双子がテントの美しさに感動する。

 「なにこれ!」
 「素敵すぎだよ、タカさん!」
 「ワハハハハハハ!」

 広い内部で双子がはしゃぐ。
 枯草の幽かな匂いがする。

 外に出て、お茶を淹れた。
 紅茶だ。
 ティーバッグのものだが、外で味わうと美味い。
 ミルクと砂糖をたっぷり入れた。
 三人でまったりした。

 「どうだ、やるべきことをやってのんびりするのはいいだろう?」
 「「うん!」」

 「寝る場所は快適にした。食糧も十分だ。カワイイ女が二人もいる」
 「「アハハハハハ!」」
 「最高だな!」
 「「うん!」」

 紅茶をそれぞれもう一杯飲んだ。

 「タカさん、どうして今回は私たちだけなの?」
 「お前らとはあまり出掛けることが無かったからな。亜紀ちゃんとは結構あちこちに行ったし、皇紀とも蓮花の研究所によく行く。でもお前らとはそういう機会も少なかった。別に誰が特別ということはないけどな。たまにはお前らとのんびりしたかったんだ」
 「私たちが無茶なことばっかやるから?」

 俺は笑った。

 「そうじゃねぇよ。まあ、流石の俺も驚くことも多いけどな」
 「「アハハハハハ!」」
 「でも、全部お前らがやることは、不思議と俺たちにとって重要なことに繋がる。本当に不思議だけどな」
 「「うん」」
 「キャンプが好きみたいだったからさ。だから誘った」
 「「ありがとー!」」

 双子が抱き着いて来た。
 テントの中でトランプをやった。
 楽しかった。

 陽が翳って来たので、外で夕食の準備をした。
 三人で楽しくバーベキューの食材を作って行く。
 俺は大鍋でコーンスープを作った。
 ポテトサラダも大量に作る。
 こいつらはサラダ一般を喰わないが、ポテトサラダだけは好物だ。
 ダッジオーブンで松茸の炊き込みご飯を作る。
 いい香りがした。

 三人で、バーベキューを焼きながらテーブルでゆっくりと食べた。
 少し肌寒いが、それもまた良かった。
 双子がここの訓練での面白い話を聞かせてくれる。
 俺たちは笑いながら食事を楽しんだ。




 ルーが洗い物をし、ハーが風呂の準備をした。
 水を溜めて行く。
 俺は焚火の準備をした。
 コーヒーを淹れた。

 二人が戻って来て、俺が並べた折り畳み椅子に座る。
 しばらく、黙って焚火の火を三人で見ていた。

 「あったかいね」
 ルーが言った。

 「お前らがいるからな」
 二人が笑って、椅子を俺に近づけた。
 俺の両側に座る。

 俺はエグザイルの『Lovers Again』を歌った。


 ♪ 初雪にざわめく街で 見覚えのあるスカイブルーのマフラー ふり向いた知らない顔にうつむく ♪

 「!」


 歌い終わると、双子が泣いていた。
 俺は両側の肩を抱いた。

 「お前ら、こないだ寂しそうな顔で帰って来たな」
 双子が夕飯に遅れた時だ。

 「「……」」

 「お前らが寂しそうな顔をするのは、一つだけだ」
 「「タカさーん!」」
 「何か思い出したのか?」
 
 双子が、吉祥寺で山中たちにそっくりな夫婦を見たことを話した。

 「そうだったか」
 二人の頭を撫でた。

 「俺たちはどんなに会いたくても会えない人間がいる。でも、いつか必ず会おうな」
 「会えるの?」
 「そう信じろ。俺は信じている」
 「「うん!」」



 「キャンプでは、こういう時にコワイ話をするんだけどな」
 双子が緊張する。

 「お前らは苦手だからなぁ」
 二人が笑った。

 「コイバナは?」
 ハーが言う。

 「お前らできねぇだろう!」
 「「アハハハハハ!」」

 「そうだな」





 俺は奈津江の思い出を話した。
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