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クリームソーダとハンバーグ
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「亜紀も皇紀もカワイかったけど、あなたたちはカワイさ二倍ね!」
お母さんは、そう言っていつも私たちの髪を洗ってくれた。
今でも思い出す。
一緒にお風呂に入るのが大好きだった。
よく、髪を洗われながら嬉しくてハーと向き合って笑った。
「ほら、目にシャンプーが入っちゃうでしょ!」
目に染みて痛かった。
でも、二人でニコニコと笑った。
お風呂から上がると、よくお父さんがビールを飲んでいた。
「ルー、ハー! こっちへ来いよ!」
二人でお父さんに抱き着いた。
お父さんはそうするといつも喜んだ。
「おー! カワイイなー!」
ニコニコと、赤い顔で私たちを撫でてくれた。
「いい匂いがするな!」
「「エヘヘヘヘ」」
お母さんが後から髪を乾かして入って来る。
「あらあら、今日も仲良しね」
「「うん!」」
今でも思い出す。
涙が出るほど懐かしい。
「ハー、ちょっと臭いな」
「くさくないもん!」
タカさんはよく、そう言ってハーをからかう。
「最近はちゃんとトイレでウンコしてるか?」
「してるよ!」
「やっと覚えたか!」
「知ってるよ!」
ハーに、それは良かったと笑って言う。
前に使っていたよりも、ずっと高級なボディ・ソープとシャンプー。
特にシャンプーは美容室で使う、特別に高級なものだった。
タカさんはハゲになりたくない。
私たちも、亜紀ちゃんも皇紀ちゃんも、髪はツヤツヤだ。
匂いもずっといい。
でも、安いシャンプーでいいから、やっぱりお母さんに洗って欲しかった。
無理なのは分かっている。
前に、タカさんと散歩して、公園でまったりしてた。
向こうから、両親と手を繋いだ男の子が来た。
甘えて、その手にぶら下がったりしている。
ハーもじっと見詰めていた。
私たちは、お互いに何を考えているのかが分かる。
同じことを考えていた。
「おい!」
タカさんに呼ばれた。
思い切り空に投げられた。
私は空中で伸身ひねりをしながら着地した。
「百点! じゃあ、ハーな!」
ハーが着地に失敗し、植え込みに上半身が埋まった。
慌ててタカさんと掘り起こして、走って逃げた。
三人で笑った。
笑わせてくれて、ありがとう、タカさん!
御堂さんが家に来て、夜にタカさんと飲みながら、あの時の話をしていた。
「双子が幸せそうな親子を見てたんだ。堪らなかったよ」
私たちは、部屋で盗聴器を聞いていた。
ハーと顔を見合わせた。
すぐに走って行ってタカさんに抱き着きたかった。
私もハーも、タカさんが大好きだ。
タカさんのためなら、何でもする。
死んでもいい。
地獄に行ってもいい。
私とハーは、一つの趣味がある。
いろんな喫茶店で、クリームソーダを飲み比べることだ。
もう、90カ所くらい回った。
美味しいお店はタカさんと一緒にまた行きたい。
時々、第三者判定のために、皇紀ちゃんも連れて行く。
皇紀ちゃんもニコニコして一緒に飲む。
その日、私とハーは吉祥寺のお店に行った。
中央線で行く。
「宮沢賢治の作品からお店の名前を取ったんだって」
「タカさん、『銀河鉄道の夜』が好きだよね!」
「あと、カラスの話!」
「『烏の北斗七星』ね!」
「それそれ!」
「『雨ニモ負ケズ』は大嫌いだよね」
「アハハハハハ!」
「「気持ち悪い奴だよなぁ」だって!」
「「サウイフモノニ ワタシハナリタイ」!」
「ギャハハハハハ!」
気が付くと、隣でおばあちゃんがニコニコ笑っていた。
「本が好きなのね?」
「「はい!」」
「タカさんって、お兄さん?」
「父です!」
「まあ! そうなの。お父さんは一杯本をお持ちなのね」
「はい! 10万冊以上です!」
「へぇー!」
「おばあちゃんも本は好きですか?」
「ええ。もう何の楽しみもなくて、本ばかり。でも最近は目が弱ってなかなか読めないのよ」
「そうなんですか」
「どんな本がお好き?」
「「カントの『純粋理性批判』!」」
「まぁ!」
ちょっと見栄を張った。
吉祥寺まで、三人で楽しく話した。
お店のクリームソーダは美味しかった。
7種類を二人で全部飲んだ。
「ラピスラズリの、綺麗だったね!」
「ザクロも美味しかったー!」
「夜のワインのも知りたいなー」
「亜紀ちゃん連れて来ようか」
「でも、亜紀ちゃん、高校生だよ!」
「アハハハハハ!」
ゆっくりと飲んでいたので、すっかり夕方になっていた。
「夕飯の支度、ギリギリだね」
「タクシーで帰ろうか!」
「タカさんが、子どもは歩けって」
「じゃあ、走って帰る?」
「タカさんが、大物はゆったりと進むもんだって」
「どうすりゃいいの!」
「「アハハハハハ!」」
二人で早足で駅に向かった。
「あ!」
ハーが何かを見ていた。
私もハーの顔の先を見た。
「あ!」
その後ろ姿を見て叫んだ。
まさか。
でも……。
夫婦らしい二人の背中。
私たちは黙って後を付いて行った。
商店街で買い物をしている。
まだ、ほとんど背中しか見てない。
でも、本当に似ている。
ちょっと横顔が見えた。
(お母さん……)
そっくりだった。
男の人の体つきも、ちょっと太ったお父さんにそっくりだった。
声は掛けられなかった。
違うと言われたくなかった。
気付きたくなかった。
そっと、ずっと後を歩いた。
二人は買い物を終えて、家に帰るようだった。
ここは私たちが住んでいた町じゃない。
でも……。
住宅街に入って行く。
小さな家の門に入った。
玄関が開き、小さな男の子が見えた。
「おかえりなさーい!」
「ただいま。今、お夕飯を作ってあげるね」
「今日はハンバーグだぞ!」
「わーい!」
橙色の玄関の灯の中で、三人が幸せそうだった。
「ルー、帰ろう」
ハーが私の手を握って言った。
「うん、帰ろう」
帰りは二人とも黙っていた。
随分と遅くなった。
玄関に入ると、亜紀ちゃんが降りて来た。
ロボが身体をこすりつけて来る。
「こらー! どこ行ってたのよ!」
「「ごめんなさーい」」
「もう! 皇紀と二人でご飯を作ったのよ!」
「「ごめんなさーい」」
タカさんが降りて来た。
「おう、おかえり! ほら、早く来いよ、待ってたんだ!」
タカさんが笑顔でそう言った。
涙が出そうだった。
「「タカさーん!」」
「どうした、おい! さあ、飯にしよう」
「「うん!」」
「もう、タカさんは双子に甘いんだから」
亜紀ちゃんが呆れた顔で言った。
食事はハンバーグだった。
「それで、どこまで行ってたの?」
「まあ、いいじゃないか。たまには寄り道をしたくなるさ」
タカさんが、亜紀ちゃんを宥めてくれた。
「タカさん!」
「ちゃんと帰って来たんだ。俺たちの家はここだからな」
「「!」」
「ほら、いつものように一杯喰えよ! 亜紀ちゃんと皇紀が一生懸命に作ってくれたんだ」
「「タカさーん!」」
「なんだよ、早く喰え!」
「「はーい!」」
亜紀ちゃんも皇紀ちゃんも笑っていた。
ここには、たくさんのハンバーグがある。
無いものもあるけど、たくさんのものがある。
たくさんのものは、タカさんが用意してくれた。
タカさんでも、手に入れられないものはあるけど、だからたくさんのものを用意してくれた。
その日はハーと一緒に泣きながらハンバーグを食べた。
「おいおい、今日はヘンな奴らだな」
タカさんがそう言って笑っていた。
量はちゃんと、いつも通り食べた。
タカさんが、大笑いしていた。
私とハーも笑った。
タカさんに抱き着いた。
タカさんが、一緒にお風呂に入ってくれた。
私たちの髪を洗ってくれた。
私たちは、もうこれでいい。
お母さんは、そう言っていつも私たちの髪を洗ってくれた。
今でも思い出す。
一緒にお風呂に入るのが大好きだった。
よく、髪を洗われながら嬉しくてハーと向き合って笑った。
「ほら、目にシャンプーが入っちゃうでしょ!」
目に染みて痛かった。
でも、二人でニコニコと笑った。
お風呂から上がると、よくお父さんがビールを飲んでいた。
「ルー、ハー! こっちへ来いよ!」
二人でお父さんに抱き着いた。
お父さんはそうするといつも喜んだ。
「おー! カワイイなー!」
ニコニコと、赤い顔で私たちを撫でてくれた。
「いい匂いがするな!」
「「エヘヘヘヘ」」
お母さんが後から髪を乾かして入って来る。
「あらあら、今日も仲良しね」
「「うん!」」
今でも思い出す。
涙が出るほど懐かしい。
「ハー、ちょっと臭いな」
「くさくないもん!」
タカさんはよく、そう言ってハーをからかう。
「最近はちゃんとトイレでウンコしてるか?」
「してるよ!」
「やっと覚えたか!」
「知ってるよ!」
ハーに、それは良かったと笑って言う。
前に使っていたよりも、ずっと高級なボディ・ソープとシャンプー。
特にシャンプーは美容室で使う、特別に高級なものだった。
タカさんはハゲになりたくない。
私たちも、亜紀ちゃんも皇紀ちゃんも、髪はツヤツヤだ。
匂いもずっといい。
でも、安いシャンプーでいいから、やっぱりお母さんに洗って欲しかった。
無理なのは分かっている。
前に、タカさんと散歩して、公園でまったりしてた。
向こうから、両親と手を繋いだ男の子が来た。
甘えて、その手にぶら下がったりしている。
ハーもじっと見詰めていた。
私たちは、お互いに何を考えているのかが分かる。
同じことを考えていた。
「おい!」
タカさんに呼ばれた。
思い切り空に投げられた。
私は空中で伸身ひねりをしながら着地した。
「百点! じゃあ、ハーな!」
ハーが着地に失敗し、植え込みに上半身が埋まった。
慌ててタカさんと掘り起こして、走って逃げた。
三人で笑った。
笑わせてくれて、ありがとう、タカさん!
御堂さんが家に来て、夜にタカさんと飲みながら、あの時の話をしていた。
「双子が幸せそうな親子を見てたんだ。堪らなかったよ」
私たちは、部屋で盗聴器を聞いていた。
ハーと顔を見合わせた。
すぐに走って行ってタカさんに抱き着きたかった。
私もハーも、タカさんが大好きだ。
タカさんのためなら、何でもする。
死んでもいい。
地獄に行ってもいい。
私とハーは、一つの趣味がある。
いろんな喫茶店で、クリームソーダを飲み比べることだ。
もう、90カ所くらい回った。
美味しいお店はタカさんと一緒にまた行きたい。
時々、第三者判定のために、皇紀ちゃんも連れて行く。
皇紀ちゃんもニコニコして一緒に飲む。
その日、私とハーは吉祥寺のお店に行った。
中央線で行く。
「宮沢賢治の作品からお店の名前を取ったんだって」
「タカさん、『銀河鉄道の夜』が好きだよね!」
「あと、カラスの話!」
「『烏の北斗七星』ね!」
「それそれ!」
「『雨ニモ負ケズ』は大嫌いだよね」
「アハハハハハ!」
「「気持ち悪い奴だよなぁ」だって!」
「「サウイフモノニ ワタシハナリタイ」!」
「ギャハハハハハ!」
気が付くと、隣でおばあちゃんがニコニコ笑っていた。
「本が好きなのね?」
「「はい!」」
「タカさんって、お兄さん?」
「父です!」
「まあ! そうなの。お父さんは一杯本をお持ちなのね」
「はい! 10万冊以上です!」
「へぇー!」
「おばあちゃんも本は好きですか?」
「ええ。もう何の楽しみもなくて、本ばかり。でも最近は目が弱ってなかなか読めないのよ」
「そうなんですか」
「どんな本がお好き?」
「「カントの『純粋理性批判』!」」
「まぁ!」
ちょっと見栄を張った。
吉祥寺まで、三人で楽しく話した。
お店のクリームソーダは美味しかった。
7種類を二人で全部飲んだ。
「ラピスラズリの、綺麗だったね!」
「ザクロも美味しかったー!」
「夜のワインのも知りたいなー」
「亜紀ちゃん連れて来ようか」
「でも、亜紀ちゃん、高校生だよ!」
「アハハハハハ!」
ゆっくりと飲んでいたので、すっかり夕方になっていた。
「夕飯の支度、ギリギリだね」
「タクシーで帰ろうか!」
「タカさんが、子どもは歩けって」
「じゃあ、走って帰る?」
「タカさんが、大物はゆったりと進むもんだって」
「どうすりゃいいの!」
「「アハハハハハ!」」
二人で早足で駅に向かった。
「あ!」
ハーが何かを見ていた。
私もハーの顔の先を見た。
「あ!」
その後ろ姿を見て叫んだ。
まさか。
でも……。
夫婦らしい二人の背中。
私たちは黙って後を付いて行った。
商店街で買い物をしている。
まだ、ほとんど背中しか見てない。
でも、本当に似ている。
ちょっと横顔が見えた。
(お母さん……)
そっくりだった。
男の人の体つきも、ちょっと太ったお父さんにそっくりだった。
声は掛けられなかった。
違うと言われたくなかった。
気付きたくなかった。
そっと、ずっと後を歩いた。
二人は買い物を終えて、家に帰るようだった。
ここは私たちが住んでいた町じゃない。
でも……。
住宅街に入って行く。
小さな家の門に入った。
玄関が開き、小さな男の子が見えた。
「おかえりなさーい!」
「ただいま。今、お夕飯を作ってあげるね」
「今日はハンバーグだぞ!」
「わーい!」
橙色の玄関の灯の中で、三人が幸せそうだった。
「ルー、帰ろう」
ハーが私の手を握って言った。
「うん、帰ろう」
帰りは二人とも黙っていた。
随分と遅くなった。
玄関に入ると、亜紀ちゃんが降りて来た。
ロボが身体をこすりつけて来る。
「こらー! どこ行ってたのよ!」
「「ごめんなさーい」」
「もう! 皇紀と二人でご飯を作ったのよ!」
「「ごめんなさーい」」
タカさんが降りて来た。
「おう、おかえり! ほら、早く来いよ、待ってたんだ!」
タカさんが笑顔でそう言った。
涙が出そうだった。
「「タカさーん!」」
「どうした、おい! さあ、飯にしよう」
「「うん!」」
「もう、タカさんは双子に甘いんだから」
亜紀ちゃんが呆れた顔で言った。
食事はハンバーグだった。
「それで、どこまで行ってたの?」
「まあ、いいじゃないか。たまには寄り道をしたくなるさ」
タカさんが、亜紀ちゃんを宥めてくれた。
「タカさん!」
「ちゃんと帰って来たんだ。俺たちの家はここだからな」
「「!」」
「ほら、いつものように一杯喰えよ! 亜紀ちゃんと皇紀が一生懸命に作ってくれたんだ」
「「タカさーん!」」
「なんだよ、早く喰え!」
「「はーい!」」
亜紀ちゃんも皇紀ちゃんも笑っていた。
ここには、たくさんのハンバーグがある。
無いものもあるけど、たくさんのものがある。
たくさんのものは、タカさんが用意してくれた。
タカさんでも、手に入れられないものはあるけど、だからたくさんのものを用意してくれた。
その日はハーと一緒に泣きながらハンバーグを食べた。
「おいおい、今日はヘンな奴らだな」
タカさんがそう言って笑っていた。
量はちゃんと、いつも通り食べた。
タカさんが、大笑いしていた。
私とハーも笑った。
タカさんに抱き着いた。
タカさんが、一緒にお風呂に入ってくれた。
私たちの髪を洗ってくれた。
私たちは、もうこれでいい。
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