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亜蘭の天国

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 10月に入り、東雲たちが戻って来た。
 元々、乾さんの店の基礎工事は完了していたが、小判の小芝居のために、少し残していたのだ。
 土曜の晩に、東雲たちを呼んでみんなで食事をし、飲んだ。
 亜紀ちゃんと柳、それに双子もいる。
 双子と諸見、亜蘭はクリームメロンソーダを飲んでいる。
 亜蘭は双子に挟まれてニコニコだ。

 小判の話でみんなで笑った。

 「旦那、でも乾さんはそんなに金もいらない人なんじゃないですか?」
 東雲が俺に言った。

 「まあな。でも、俺がガキの頃に聞いたことがあるんだ。いつか自分のオリジナルのバイクを作りたいんだってな」
 「そうなんですか!」
 「現実にはなかなか難しいよ。あの人はエンジンからやりたがる人だしな。自分で設計してさ。一度その図面も見せてもらったことがある。バカみたいな夢で恥ずかしいって言ってたなぁ」
 「いいじゃないですかねぇ」
 「そう思うだろ? だからさ、今回の金はそういうことに使って貰えたらと思うよ。もちろん乾さんの自由だけどな」
 「なるほどです!」

 双子が東雲に寄って行った。

 「東雲さん!」
 「なんですか、ハーさん」
 「ねぇ、キャンプいこ?」
 「あー、いいですね!」

 俺と亜紀ちゃんが酒を吹いた。
 柳が口に入れたシウマイを噴き出した。
 俺は向かってくるシウマイを避けたが、それが俺の後ろでササミを食べていたロボの頭にぶつかった。

 ロボが激怒し、伸身三回ひねりネコキックを柳にかました。
 最近、ネコキックのバリエーションが凄い。
 柳が椅子ごと倒れてぶっとんだ。

 「ロボ、ごめんって!」
 
 俺はロボを抱いて、布巾で拭いてやった。
 あの長い爪を出したので、それだけは絶対にダメだと言った。
 蓮花の研究所で、麗星が喰らっている。

 しばらく前に気になって五平所に電話をしたら、最近麗星は寝つきがいいと言った。

 「すぐに寝るんで私らも安心なんですが、寝る前にちょっとヘンな笑い方をしたりするんですよ」
 「へ、へー」
 「その後で、こてッと寝るんです」
 「そーなんだ」

 健康で良かった。

 俺はロボを優しく撫でて宥めた。

 「よちよちねー」

 ロボが機嫌を直した。
 東雲たちが呆然と見ていた。

 俺は亜紀ちゃんに写真を持って来いと言った。
 亜紀ちゃんが自分のPCを抱えて来た。

 「こないだ、マリーンのジェイたちが双子のキャンプに行った時の写真だ」

 うちの玄関でみんなで肩を組んでいる。
 全裸に、マンモスの牙のペニスケースだ。

 「なんですか、こりゃ」
 「お前らの来週の姿だ」
 「……」

 「まあ、バカみたいに強くなったけどな。その代わり、無事な奴はいなかったな。双子が向こうで瞬時に怪我を治すそうだけどなぁ」
 「そうなんですか」
 「やめとけよ」
 「はぁ」

 ルーとハーが来た。

 「普通のかっこでキャンプしよ?」
 「普通でいいんですか?」
 「「うん!」」
 「それなら行きましょうか! 旦那からも休暇を頂いてますし」
 「「やった!」」

 「普通」とは、双子の普通だ。
 まあ、騙される奴が悪い。
 それに、俺にとっては東雲たちよりも、双子がカワイイ。
 若干憐れに思いつつも、俺も許可した。
 強くはなるしな。




 翌週の金曜の晩。
 体育の日を含め、また三連休だ。
 東雲たち千万組の連中が8人と、亜蘭も参加している。
 今回は、俺も一泊参加することにした。
 あまり無茶なことをさせると、うちの工事に影響がある。
 それに、勝手に置いたレールガンやデュール・ゲリエたちも気になる。
 亜紀ちゃんも、俺が行くなら行きたいと言った。
 柳は断固拒否。
 皇紀も拒否。
 ロボはついてきた。



 ハマーと、東雲たちのハイエースに分乗していく。
 亜蘭はハマーに乗り、双子と一緒に座らせた。
 走って早々に、鼻にティッシュを詰めていた。

 「おい、マンモスはもうやめろよな」
 「「うん!」」
 
 麓の家に車を停め、山の中腹のベースキャンプまで登った。
 体力のまだ劣る亜蘭は、ハーが担いで走った。

 双子が小屋から「戦闘服」を持って来た。
 東雲たちは着替えさせられる。
 もちろんアニマルだ。
 東雲たちも、諦めて着た。
 一応、股間も何らかの動物で覆われた。
 亜蘭は双子に着付けを手伝われ、大変だった。

 「あれ、さっきはこれで入ると思ったのに?」
 「もうワンサイズ上のを持って来るね」
 
 「あれ、これでも入んないよ?」
 「こまったなー。亜蘭ちゃん、おっきいね!」

 亜蘭が鼻血を噴いて倒れた。
 結局、タヌキの胴を巻いた。

 俺と亜紀ちゃんはタイガーストライプのコンバットスーツだ。
 当たり前だ。

 ロボは全裸なのだが、ワニの頭を欲しがった。
 ワニの口から顔を出し、満足げだった。



 「じゃー! まずは基礎のハンティングだよー!」
 今回は亜蘭以外は「花岡」が使える。
 銃器は出さなかった。

 全員で山を疾走する。
 アランは今度はルーに担がれた。
 ロボも嬉しそうに一緒に走った。

 ポイントマンのハーが誘導し、獲物を探す。
 尾根から林を下り、東雲たちに、イノシシを三頭獲らせた。
 その間、ハーが亜蘭に「花岡」を教える。
 
 「まずは「絶花」ね。足を肩幅よりちょっと短く、そう。角度はこう。それでね……」
 「こうですか?」
 「あ!」
 
 ハーが叫んだ。

 「もうできちゃったよ!」
 「へー」
 俺が見に行くと、確かに「絶花」を稼働していた。

 「じゃー、次は「仁王花」ね。今度は腕をこうして……」
 「こうですか?」
 「できたぁー!」

 ハーはルーに亜蘭の指導を任せ、東雲たちを連れて狩を続けた。
 俺たちはベースキャンプまで戻った。

 ルーが亜蘭をマンツーマンで指導する。
 時々驚きと興奮の叫びを上げる。
 俺と亜紀ちゃんはコーヒーを飲みながら眺めていた。

 「亜蘭さんって、天才なのかも」
 「信じられんな。ボッチのヒッキーだったわけだろ?」
 「運動はからきしでしたもんね」
 「まあ、俺も別に運動神経がいいわけじゃないからなぁ」
 「球技はダメなんですよね」
 「「地獄甲子園」なら負けねぇけどな」
 「アハハハハハ!」

 ルーが俺たちのテーブルに来た。

 「タカさん! このまま奥義まで教えてもいいですか?」
 「ああ、いいだろう」
 俺も許可した。
 悪用する人間でないことは分かっている。
 あいつは自分に力がなくとも、双子のために命をかけようとする男だ。
 ロリコンだが。



 東雲たちが戻って来た。
 ハーの誘導で獲物がすぐに見つかるため、結構な量の食材(肉)が揃った。
 亜紀ちゃんは野菜を大量に担いで来たので、みんなで食事を作り始める。
 その間も、ルーは亜蘭を指導しながら料理を手伝った。

 途中で俺が亜蘭を指導した。
 確かに筋がいい。
 「花岡」の基本的な動きがなぞれる。
 
 「よし、あの岩に「震花」を最大で撃ってみろ」
 「はい!」

 亜蘭が撃った。
 5メートルほどの大岩が爆散した。
 その破壊力は、子どもたちや東雲を除けば最大だ。

 「お前、すげぇな!」
 「エヘヘヘヘ」

 

 亜蘭には、俺たちが世界的なテロリストと敵対していると話していた。
 だから自衛のつもりで、「花岡」の基礎は教えていた。
 ただ、普通の格闘技よりもやや上、という程度のことだ。
 誰も、亜蘭の才能には気づいていなかった。
 今日、キャンプに連れて来なければ、このままずっとそうだったかもしれない。

 大量の肉の夕食で、双子に挟まれた亜蘭は幸せそうにガンガン食べた。
 ルーに口の周りを拭かれ、卒倒しそうになった。
 鼻血を流しながら、その鼻血を補うように食べた。

 俺たちは大笑いしながら、幸せな亜蘭を眺めていた。



 「石神さん!」
 「なんだ!」
 「僕がルーちゃんとハーちゃんを守ります!」
 「おう!」

 別にいらねぇ。
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