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タマの来訪
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俺は6時過ぎに家に帰った。
皇紀が起きていて、みんなで食事をしながら、皇紀の話を聞いた。
みんな黙って聞いていた。
俺が自分の部屋に上がると、皇紀がノックして入って来た。
「タカさん。これ、アメリカ政府や軍部から預かったものです」
皇紀は一抱えの書類を持って来た。
俺は受け取り、皇紀をソファに座らせた。
「さっきも言ったが、本当にご苦労だった」
「はい。何とかロックハート家の方々のお陰でこなせました」
「そうか」
「タカさん。最後にレイさんと話した電話」
「ああ」
「レイさんがとても楽しみだって、静江さんに話していたそうです」
「そうか……」
「すみません。僕は勝手に、タカさんがレイさんに子どもを生ませたいと思ってるんだと感じたと、静江さんに話しました」
「そうか」
俺は皇紀の顔から眼を背けた。
「すみませんでした。僕なんかが言っていいことではなかったと、今は思います」
「いや。その通りだからな。あの時、レイに話しておけば良かったと思っている」
「タカさん!」
「まさかレイと、こんな別れ方をするとはな。俺の不徳だ」
「タカさん! やめて下さい! レイは精一杯に生きたんです!」
皇紀が立ち上がって俺を見ていた。
「そうだったな。すまん。お前の言う通りだ」
「タカさん……」
俺も立ち上がって、頭を下げた。
「お前を行かせて、本当に良かった」
「アルジャーノンさんが弔辞で言ってました。レイさんは「国と恋のために命を捧げた」のだと。僕は、それは最高の人生だったと思います」
「そうだな。レイは最高の女だ」
「はい!」
俺は皇紀に風呂に入れと言った。
他の子どもたちにも先に入るように伝えさせた。
俺は部屋でゆっくりし、最後に風呂に入り、リヴィングへ行った。
ロボがついてくる。
俺が酒を飲み、つまみを作る時におやつを貰えるのを分かっている。
俺は笑ってササミを焼いてやった。
自分のつまみは、豆腐を適当に切った。
ワイルドターキーを飲んでいると、部屋の隅で気配があった。
ロボが俺の後ろで起き上がって見ている。
着物姿の女が現われた。
「誰だ」
敵意は感じない。
驚くほど、美しい女だった。
幽霊ではないだろう。
あやかしだ。
「すぐに呼ばれると思ったんだが」
「なに?」
女は、女性の声で男言葉で話した。
「俺が心臓を取り戻したから、すぐにお前に呼ばれると」
「お前! まさかタマか?」
「そうだが」
「何で女の姿になってんだよ」
「あ? お前、ロボから聞いてないのか?」
「ロボ?」
俺はロボを振り返った。
ニャーニャー鳴いている。
「ロボが取り返してくれたんだ。それでお前に話せば喜ぶからって、そういう話を俺たちはしていたんだが」
「なに?」
「ニャーニャーニャー」
「ほら、そう言ってるじゃないか」
「お前ら! 俺にネコの言葉が分かるわけないだろう!」
「にゃ!」
俺はタマから事情を聴いた。
シベリアの「業」の施設にあったタマの心臓を、飛んで取りに行ったようだ。
施設はロボの「ばーん」で破壊したと。
「大きな獣が数頭いた。そいつらも死んでいる」
「そうか」
ジェヴォーダンだろう。
「その施設は、何をしていたんだ?」
「分かるわけないだろう。全部ぶっ飛ばしたんだからな」
「……」
「俺たちは心臓を取り戻して、すぐに帰った。まあ、お前がロボの言葉が分からないとは思ってもみなかった」
「アホか!」
タマに何か飲むかと聞いたら、俺と同じものでいいと言った。
ワイルドターキーをグラスで出してやる。
ロボには、もう一本ササミを焼いて、ミルクを出した。
「それじゃ、お前はもう自由でいいぞ。好きにしろよ」
「契約をしただろう」
「あれはもう終わりでいい。十分に助けてもらったからな」
「そうはいかん。俺は心臓を取り戻し、もっとお前の役に立ちたいと言ったはずだ」
「いいよ」
「俺が望んでもか?」
タマが俺の目を見ている。
「お前たちは超常の存在だ。だから俺たちの戦いに巻き込むことなく、役立ってくれると思った」
「俺は役立つぞ」
「「業」も、お前たちと同じものを操れると知った。お前たちにも危険が及ぶことが分かった」
「お前、俺たちの心配をしているのか?」
「そうだ。お前たちが人間と同じように死ぬのかは知らん。だが傷つき、苦しみ、少なくともこの世から滅することが出来る存在だと分かった。ならば戦うのはいい。俺たちで何とかする」
「俺はお前の力になりたい」
タマが真直ぐに俺を見て言った。
「ロボもそうだ。俺たちは友達だ。二人でお前の力になろうと誓った」
「お前ら……」
「ロボが心臓を取り戻してくれたのも、お前の力になると思ったからだ。お前のためだ。そして俺もお前のために力を取り戻したかった」
「そうかよ」
「タヌ吉か。あいつも嬉しそうだ。あいつがあんなにはしゃいで何かをやろうとするのは久しぶりだ。いや、初めてかもしれん。相当お前のことが気に入ったようだぞ」
「あれは江戸を作ったんだろう?」
「あれはヒマ潰しだ。あいつの力など、ほとんど使っていない」
「へぇー」
「あいつの《地獄道》を見ただろう」
「ああ、正面じゃねぇけどな」
「あれは、俺たちはもちろん、「神」を名乗る者でさえ磨り潰す。入れば助からん」
「……」
麗星が脅えていた。
あいつは何を見たのだろうか。
「お前は何が出来るんだ?」
「攻撃の力はそれほどではない。まあ、ロボと同程度は出来るけどな。でも、俺の真価は心を操ることだ。この日本の国の人間程度ならば、どうにでも出来るぞ」
「そうか。まあ、俺は人間を操りたいとは思ってないからな。先日、そういう連中をぶっ飛ばしたところだ」
「それはお前に任せる。操ると言っても、いろいろな形があるからな」
「考えておく。ああ、お前の姿は他の人間にも見えるのか?」
「出来る。お前が望めば、どのようなこともしよう」
俺は考えていた。
「俺を操ろうとは思わないのか?」
「無理だ。契約以前に、お前にそのようなことが出来る者はいない。お前は……」
突然タマは言葉を切った。
「とにかく無理だ。それに俺もそうしたいとも思わない」
「そうか」
タマは脅えていた。
小さく手が震えていた。
「分かった。必要な時は呼ぼう。これからも宜しくな」
「いつでも、我が主」
タマは消えた。
「片付けていけー」
また現われて、自分のグラスを洗って消えた。
ロボが椅子に乗って、俺の顔を舐めて来た。
「お前はネコのままでいてくれよなー」
「ニャー」
まあ、俺の言葉を理解しているのは分かっていたが。
「「ばーん」はちっちゃくな!」
「ニャー」
多分ちっちゃくない。
皇紀が起きていて、みんなで食事をしながら、皇紀の話を聞いた。
みんな黙って聞いていた。
俺が自分の部屋に上がると、皇紀がノックして入って来た。
「タカさん。これ、アメリカ政府や軍部から預かったものです」
皇紀は一抱えの書類を持って来た。
俺は受け取り、皇紀をソファに座らせた。
「さっきも言ったが、本当にご苦労だった」
「はい。何とかロックハート家の方々のお陰でこなせました」
「そうか」
「タカさん。最後にレイさんと話した電話」
「ああ」
「レイさんがとても楽しみだって、静江さんに話していたそうです」
「そうか……」
「すみません。僕は勝手に、タカさんがレイさんに子どもを生ませたいと思ってるんだと感じたと、静江さんに話しました」
「そうか」
俺は皇紀の顔から眼を背けた。
「すみませんでした。僕なんかが言っていいことではなかったと、今は思います」
「いや。その通りだからな。あの時、レイに話しておけば良かったと思っている」
「タカさん!」
「まさかレイと、こんな別れ方をするとはな。俺の不徳だ」
「タカさん! やめて下さい! レイは精一杯に生きたんです!」
皇紀が立ち上がって俺を見ていた。
「そうだったな。すまん。お前の言う通りだ」
「タカさん……」
俺も立ち上がって、頭を下げた。
「お前を行かせて、本当に良かった」
「アルジャーノンさんが弔辞で言ってました。レイさんは「国と恋のために命を捧げた」のだと。僕は、それは最高の人生だったと思います」
「そうだな。レイは最高の女だ」
「はい!」
俺は皇紀に風呂に入れと言った。
他の子どもたちにも先に入るように伝えさせた。
俺は部屋でゆっくりし、最後に風呂に入り、リヴィングへ行った。
ロボがついてくる。
俺が酒を飲み、つまみを作る時におやつを貰えるのを分かっている。
俺は笑ってササミを焼いてやった。
自分のつまみは、豆腐を適当に切った。
ワイルドターキーを飲んでいると、部屋の隅で気配があった。
ロボが俺の後ろで起き上がって見ている。
着物姿の女が現われた。
「誰だ」
敵意は感じない。
驚くほど、美しい女だった。
幽霊ではないだろう。
あやかしだ。
「すぐに呼ばれると思ったんだが」
「なに?」
女は、女性の声で男言葉で話した。
「俺が心臓を取り戻したから、すぐにお前に呼ばれると」
「お前! まさかタマか?」
「そうだが」
「何で女の姿になってんだよ」
「あ? お前、ロボから聞いてないのか?」
「ロボ?」
俺はロボを振り返った。
ニャーニャー鳴いている。
「ロボが取り返してくれたんだ。それでお前に話せば喜ぶからって、そういう話を俺たちはしていたんだが」
「なに?」
「ニャーニャーニャー」
「ほら、そう言ってるじゃないか」
「お前ら! 俺にネコの言葉が分かるわけないだろう!」
「にゃ!」
俺はタマから事情を聴いた。
シベリアの「業」の施設にあったタマの心臓を、飛んで取りに行ったようだ。
施設はロボの「ばーん」で破壊したと。
「大きな獣が数頭いた。そいつらも死んでいる」
「そうか」
ジェヴォーダンだろう。
「その施設は、何をしていたんだ?」
「分かるわけないだろう。全部ぶっ飛ばしたんだからな」
「……」
「俺たちは心臓を取り戻して、すぐに帰った。まあ、お前がロボの言葉が分からないとは思ってもみなかった」
「アホか!」
タマに何か飲むかと聞いたら、俺と同じものでいいと言った。
ワイルドターキーをグラスで出してやる。
ロボには、もう一本ササミを焼いて、ミルクを出した。
「それじゃ、お前はもう自由でいいぞ。好きにしろよ」
「契約をしただろう」
「あれはもう終わりでいい。十分に助けてもらったからな」
「そうはいかん。俺は心臓を取り戻し、もっとお前の役に立ちたいと言ったはずだ」
「いいよ」
「俺が望んでもか?」
タマが俺の目を見ている。
「お前たちは超常の存在だ。だから俺たちの戦いに巻き込むことなく、役立ってくれると思った」
「俺は役立つぞ」
「「業」も、お前たちと同じものを操れると知った。お前たちにも危険が及ぶことが分かった」
「お前、俺たちの心配をしているのか?」
「そうだ。お前たちが人間と同じように死ぬのかは知らん。だが傷つき、苦しみ、少なくともこの世から滅することが出来る存在だと分かった。ならば戦うのはいい。俺たちで何とかする」
「俺はお前の力になりたい」
タマが真直ぐに俺を見て言った。
「ロボもそうだ。俺たちは友達だ。二人でお前の力になろうと誓った」
「お前ら……」
「ロボが心臓を取り戻してくれたのも、お前の力になると思ったからだ。お前のためだ。そして俺もお前のために力を取り戻したかった」
「そうかよ」
「タヌ吉か。あいつも嬉しそうだ。あいつがあんなにはしゃいで何かをやろうとするのは久しぶりだ。いや、初めてかもしれん。相当お前のことが気に入ったようだぞ」
「あれは江戸を作ったんだろう?」
「あれはヒマ潰しだ。あいつの力など、ほとんど使っていない」
「へぇー」
「あいつの《地獄道》を見ただろう」
「ああ、正面じゃねぇけどな」
「あれは、俺たちはもちろん、「神」を名乗る者でさえ磨り潰す。入れば助からん」
「……」
麗星が脅えていた。
あいつは何を見たのだろうか。
「お前は何が出来るんだ?」
「攻撃の力はそれほどではない。まあ、ロボと同程度は出来るけどな。でも、俺の真価は心を操ることだ。この日本の国の人間程度ならば、どうにでも出来るぞ」
「そうか。まあ、俺は人間を操りたいとは思ってないからな。先日、そういう連中をぶっ飛ばしたところだ」
「それはお前に任せる。操ると言っても、いろいろな形があるからな」
「考えておく。ああ、お前の姿は他の人間にも見えるのか?」
「出来る。お前が望めば、どのようなこともしよう」
俺は考えていた。
「俺を操ろうとは思わないのか?」
「無理だ。契約以前に、お前にそのようなことが出来る者はいない。お前は……」
突然タマは言葉を切った。
「とにかく無理だ。それに俺もそうしたいとも思わない」
「そうか」
タマは脅えていた。
小さく手が震えていた。
「分かった。必要な時は呼ぼう。これからも宜しくな」
「いつでも、我が主」
タマは消えた。
「片付けていけー」
また現われて、自分のグラスを洗って消えた。
ロボが椅子に乗って、俺の顔を舐めて来た。
「お前はネコのままでいてくれよなー」
「ニャー」
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