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早乙女の恋

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 夕飯はまたバーベキューだった。
 但し、ステーキが多い。
 また、ブランたちが子どもたちの食欲に驚いている。

 本当は蓮花の美味い料理を食べさせたい気持ちもあるが、まあこいつらは「肉」だ。
 結局蓮花も大量の肉を焼かなければならないので、手間だ。
 子どもたちは積極的にミユキたちやアナイアレーターたちと話しに行き、楽しそうにしている。
 俺は蓮花とそれを眺めながら、ロボの肉を焼いていた。

 「にゃー」
 ロボがいつになく欲しがる。
 あまり構ってやれなかったので、どんどん焼いて喰わせた。

 「なんだ、今日は随分と腹ペコなんだな」
 笑って焼いて行く。

 2キロも食べたか。

 「お前もついに「肉菌」に感染したか」
 「にゃー」

 ロボは満足し、蓮花の膝に乗った。
 蓮花が優しく毛を撫でている。


 今日はそのまま酒を出し、大宴会になった。
 子どもたちが歌い、踊り、盛り上げる。
 俺は蓮花が持って来たギターを弾いた。
 ブランたちが黙って聴いていた。

 俺は蓮花のテーブルに戻り、また飲み始める。

 「みんな楽しそうだな」
 「はい。わたくしは、こういう楽しませ方を知らなくて」
 「いいさ。俺たちが来る」
 「ありがとうございます」
 
 蓮花も嬉しそうに見詰めていた。

 「あいつらに、料理でもやらせろよ」
 「はい?」
 「蓮花の料理は美味い。あいつらも出来るようになれば、嬉しいだろう」
 「なるほど」
 「お前は何でも自分でやろうとするからな」
 「はい」

 蓮花が笑った。

 「俺を見てみろ。もう雑用は全部子どもたちにやらせてるだろう」
 「はい。楽しそうになさいますね」
 「そうだろ? 別に遊ばせる必要はない。お前と一緒にいて、お前が笑ってくれれば、あいつらは楽しいんだよ」
 「はい」

 俺たちは楽しい夜を過ごし、翌朝に帰った。







 昼頃に家に戻り、寛いだ。
 今日は月曜日で、俺は明日も休むことにしている。
 のんびりするつもりだ。

 肉うどんの昼食を食べ、俺は双子を連れて近所を散歩した。
 いつもの公園・ソフトクリームコースではなく、近所の俺の土地を見て回った。

 途中で青梅街道沿いのタイ焼き屋で幾つか買う。
 桜の木のある家のベンチで三人で食べた。

 「どうだ、疲れたか?」
 「うーん、ちょっとかなー」
 「ああいう訓練を毎日するって、スゴイよね」

 二人とも、感心している。

 「そうだな。どこの軍隊だって、同じようなことをやる。みんな毎日ヘトヘトだ」
 「私たちもやるかなー」
 「お前らには、俺の面倒を看るという重要な役割がある」
 「「アハハハハハ!」」

 「もっと俺を笑わせて楽しませろ!」
 「「はい!」」

 タイ焼きを食べたら、腹が刺激されたか、もうちょっと何か食べたくなった。
 三時のお茶のために、ケーキを買って行こうということになった。
 道路へ出ると、知っている背中があった。

 「早乙女ぇー!」

 早乙女が振り向き、駆け寄って来た。

 「おい、どうした。何かあったのか?」
 「いや、そうじゃない。いや、お前に相談したいことがあったんだが」
 「なんだよ?」
 「あ、ああ。実はな、見合いを勧められていて」
 「あ?」
 「だからだな、俺が見合いを……」
 
 「おい」
 「なんだ」
 「俺がお前に言ってやりたいことがある」
 「なんだ! 是非教えてくれ!」
 
 「お前に声掛けなきゃ良かった」
 「……」

 仕方なく、俺は早乙女を連れて家に戻り、双子にケーキを沢山買って来いと言った。





 「あれ、早乙女さん?」
 「ああ。気にしなくていいぞ。すぐに帰るから」
 「石神ぃー」

 俺はリヴィングに上げた。
 子どもたちの前なら、自分の情けない話はそれほどしないだろう。
 早々に追い出したかった。
 まあ、家に上げてやったが。

 ルーとハーがケーキを買って戻った。
 30個はある。

 亜紀ちゃんがコーヒーを淹れ、俺たちはお茶にした。
 早乙女にも出す。

 「それで。見合いがどうとか言ってたな」
 「あ、ああ!」

 こいつ、子どもたちの前でも話すつもりだ。

 「上司からの勧めでな……」

 早乙女は何も恥ずかしがらずに話した。
 早乙女の有能さを上司が確信し、自分との繋がりを強めたがっていること。
 その上司の姪との縁談を勧められていること。
 相手は29歳で、一部上場企業の受付をしていること。
 まあ、だから見栄えは良いだろうことは、俺が推測した。
 早乙女に美人かどうかを尋ねても無駄だ。
 まして、性格などはまったく興味もないだろう。

 「それで、俺に何の関係があるんだよ」

 俺は直球で言った。

 「頼む! 何かアドバイスをくれ」
 「そんなこと言われてもなぁ。お前が結婚したいならすればいいし、そうじゃないなら断れよ」
 「そのことなんだがな」
 「あんだよ」

 「自分でよく分からん」

 こいつも直球だった。

 「私、顕さんの家の掃除に行きますね!」

 柳が言った。

 「じゃあ、私も!」
 「「私たちもー!」」
 「にゃー」

 全員が逃げた。
 
 「俺もー!」
 「石神ぃー!」

 逃げられなかった。


 


 みんないなくなった。
 
 「お前、そのことでわざわざうちに来たのかよ」
 「すまない。病院へ連絡したら、今日は休みで家にいるはずだと」
 「誰が吐いたか言え」
 「一江さん」
 「おし!」

 「なあ、石神。俺はどうすればいいと思う?」
 「まあ、お前は別に結婚したくないということじゃないんだよな?」
 「そうだが、でも俺なんかと結婚してもなぁ」
 「そう思うならやめとけよ」
 「そうなのか?」

 早乙女が俺を見ている。

 「お前は別に上司に心証を良く、なんて考えてないだろう?」
 「そうだけど?」
 「じゃあ簡単な話だ。お前が結婚に自信が無いと言うのなら、やめればいいだけじゃないか」
 「ああ」

 早乙女は落ち込んでいる。
 本当にめんどくさい。


 「なあ、俺に一言言わせてくれよ」
 「ああ、なんだ?」
 「俺はお前には幸せになって欲しい」
 「!」

 早乙女が涙を流しそうになる。

 「おい、しっかりしろ!」
 「だって、石神……」
 「お前が大事だった人たちも、みんなそう思っているだろうよ。こないだここで、レイを見ただろ?」
 「ああ!」
 「死んだって俺たちのことを思ってる。俺たちはそれを教えてもらった」
 「そうだ!」

 早乙女の目が輝いた。

 「だったらよ。まあ、結婚しろとは言わないが、お前がちゃんと元気にやってる、くらいは見せてやれよ。怖がってねぇでな」
 「分かった、石神!」

 「分かってもらって良かったよ」
 「あー! ここに来て本当に良かった! 俺の親友はやっぱりいい奴だった!」
 「よせよ」

 真直ぐなこいつに言われると照れ臭い。

 「じゃあな、石神」
 「ああ」
 「じゃあ、一度相手に会ってくれ」
 「はい?」
 「俺と一緒にさ。見合いを受けるかどうかはそれで決める」
 「おい」
 「なんだ?」
 
 「お前、早く帰れよ」




 「いしがみ~!」

 結局、一緒に会うことになった。
 面倒な友達だ。
 大事な友達だ。
 俺は、本当にこいつの笑顔が大事だ。
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