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桜
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俺たちはロックハートの家で風呂に入った。
双子が俺の背中を流し、亜紀ちゃんは俺の前を洗おうとするので、笑って断った。
亜紀ちゃんは俺の髪を洗った。
俺も三人の背中と髪を洗った。
亜紀ちゃんは俺の胸の傷を見ていた。
肉は小さく爆ぜていたが、もう収まっている。
「金剛花」が自動的に発動し、肉体を守った。
俺はレイの弾丸で死んでも良かった。
恐らく、「オロチ」か「Ω」の作用なのだろう。
風呂を上がり、俺は三人を寝かせた。
三人はすぐに眠った。
相当、疲れていたのだろう。
俺は聖へ連絡した。
「セイントPMC」へタクシーで向かった。
ゲートが開いており、聖が俺を待っていた。
「また世話になったな」
「なんでもねぇよ」
俺たちは歩き出した。
広い場所に聖が案内した。
小さなテーブルセットが置いてあり、酒の用意がしてあった。
聖がグラスに氷を入れ、俺の前に置いた。
俺たちは無言で飲み始めた。
「ここでよ、ガキ共をボコボコにしてやったんだ」
聖が言った。
「そうか。大変だったろう」
「ああ、何しろトラの子どもたちだからな。結構本気でやった」
広い敷地だった。
ここで聖は懸命に亜紀ちゃんと双子を鍛えてくれたのだろう。
目に浮かぶようだ。
「いいガキ共だな。俺が幾らボコっても、ちゃんと立ち向かって来た」
「ああ」
「自分のためだったら、最初に諦めてる。お前のために強くなりたいって連中だ」
「そうだ」
「俺もそうだ」
聖が言った。
「え?」
「俺もお前のためだ。お前を守るために今日まで来た。お前は俺のたった一人の友達だからな」
「聖、お前……」
「お前が戦場を離れるって。だったら俺は戦場で強くなって、お前を守ると決めた。あの日にな」
俺の目から涙が零れた。
「お袋さんのために医者になるってな。お前はじゃあ弱くなる。ならば俺が強くなって、お前を守ればいい」
「お前はずっとバカのままだな」
「そうだよー! バカな俺を大事に思ってくれるお前が何より大事なんだぁー!」
「聖、ありがとう」
「バカだかんな! お前は全然弱くならなかった。アメリカと喧嘩して勝っちまうなんてよ! お前は最高だぜ」
「俺はお前以上にバカだからな。頭の良い奴らがやらないこともガンガンやるからな」
俺たちは飲んだ。
つまみは無い。
酒だけを飲んだ。
「お前が助けてくれってさ! あの日、俺がどんなに嬉しかったか。あんまり嬉しいんで、全然趣味じゃねぇアンジーと結婚しちまった。お前のせいだぞ」
「悪い、全然分かんねぇ」
「アハハハハハハ!」
聖が高らかに笑った。
「トラが引き合わせてくれたんだと思った。実際いい女だしな」
「そうか。良かったな」
「死んだ女も、いい女だったか」
「そうだ。最高の女だ」
「そうか。お前は昔からいい女と知り合うよな」
「そうだな」
やがて酒が少なくなった。
聖がどこかへ電話した。
部下の誰かに酒を持って来させるのだろうと思った。
ジャンニーニが来た。
「セイント! 俺は酒屋じゃねぇ!」
「よう! 一緒に飲もうぜ!」
ジャンニーニは文句を言いながらも、嬉しそうに座った。
ジャンニーニの部下たちが大量の酒瓶を地面に置いた。
そして大量のチーズをテーブルに置いて去った。
「なんなんだよ、一体!」
「いいじゃねぇか! 折角トラが来てくれたんだ。お前も一緒に飲もう!」
「ヘッ! まあいい。久しぶりだな、トラ」
「ああ、いろいろと子どもたちが世話になったな」
「まったくだ。やっぱお前の子だ。とんでもねぇ」
「アハハハハハ!」
「ジャンニーニ、俺ももうすぐ子どもが生まれる!」
聖がニコニコとして言った。
「冗談じゃねぇ! お前ら、頼むからうちには来ないでくれ!」
俺と聖は笑った。
「子どもとの散歩コースにするからな。庭にブランコと滑り台を置け」
「なんだと!」
「うちの子らには肉な。ステーキを飽きるほど喰わせてくれればいい」
「冗談じゃねぇ! あいつら牛を丸ごと喰うじゃねぇか!」
「小遣いも頼むな」
「ああ、うちの子にもな」
「やめてくれぇー!」
俺たちは笑い、ジャンニーニも楽しそうだった。
朝まで話し、俺と聖は時々殴り合った。
ジャンニーニはどっちか殺されろと言った。
朝方に、ジャンニーニが潰れた。
「トラ、帰れそうか?」
「ああ。ありがとうな」
「お前のためならな。またいつでも声を掛けてくれ」
「頼む、親友」
「うん!」
聖はテーブルでまた飲み出した。
俺と別れるためだ。
もう、酒を飲む必要は無い。
あいつは俺のためだけに飲んだ。
俺はジャンニーニを担いで去った。
ゲートの外で、ジャンニーニの部下が待っていた。
ジャンニーニを中へ入れ、一緒に乗せてもらった。
その日の昼に、ロックハートの自家用ジェットで日本へ帰った。
後日、アルジャーノンから連絡が来た。
俺たちとアメリカとの約定だ。
俺たちが国ではないので、調印は行なわない。
アラスカの売却。
これはアメリカのダミー企業が土地を買収し、最終的に俺たちのものになる。
実質は割譲だ。
表向きは、特殊軍事施設の設置になる。
アメリカとの軍事同盟。
「業」の脅威に対抗するために、相互に軍事同盟を結ぶ。
但し、俺たちは非公開の軍勢力となり、機密扱いの組織だ。
これにより、アラスカの新規施設の建造と使用が可能となり、アメリカの全軍の全面的協力を得られる。
また、海兵隊の指揮権を委譲され、維持費はこれまで通りに米国が担うが、俺が自由に運用できるようになった。
更に、この同盟により、俺たちへの絶対不可侵といかなる工作も調査も行なわないこととなっている。
ロックハート家と「セイントPMC」への不可侵。
これは俺が条項として明記するように言った。
今回の俺の襲撃に、この二つが密接に関わったのは明確だ。
だからそのことで一切の不利益を被らないことを納得させた。
まあ、結果的にアメリカの壊滅を阻止した功労者なのだから、反対する者もほとんどいなかった。
「ヴァーミリオン」計画の全ての移譲と廃棄。
「ヴァーミリオン」計画の全情報とデータの引き渡しと、その後の廃棄を約束させた。
そして更に、「業」の勢力によってこの計画が行なわれていたことを公表し、その非人道的な実験を世界中に告発する。
「業」の攻撃を阻止し、悪魔的な実験施設を破壊したのが、今回軍事同盟を結ぶ俺たち、というシナリオだ。
一応、俺たちはアメリカ国内の極秘組織ということにする。
アメコミのようだ。
賠償。
ロックハート家に10億ドル支払うように命じた。
それとは別に、「セイントPMC」へ1億ドル、これは情報の提供料だ。
聖たちの懸命な軍隊の制止の呼びかけがなければ、被害はさらに拡大していた。
そして、ユタ州D基地跡地の造成。
そこへ500本の桜の植樹をさせた。
レイと過ごした花見を思い出した。
あの日、俺たちはレイと楽しく笑い、過ごした。
レイの好きな物をほとんど知らなかった。
レイは桜が綺麗だと言った。
それしか、俺には出来なかった。
日本から桜の専門家が呼ばれ、丁寧に植樹された。
レイが最後に俺に「愛している」と言った場所。
造成が終わり、植樹が完了した後で、俺は院長に頼み込んで遠いここまで来てもらった。
院長に、光を注いで欲しいと言った。
「ここは、どういう場所なんだ?」
「はい。俺の大切な人間が死んだんです」
「そうか。分かった」
それだけの言葉で、院長は倒れそうになるまで注いでくれた。
毎年、そこでは桜が美しく咲き乱れるようになった。
恐らく、世界で一番美しく桜の咲く場所。
翌年、最初にその見事な桜吹雪を浴びながら、俺は潰れるまでウォッカを飲んだ。
何百回もレイの名を叫んだ。
しかし、レイは現われてはくれなかった。
レイは、もういないのだ。
双子が俺の背中を流し、亜紀ちゃんは俺の前を洗おうとするので、笑って断った。
亜紀ちゃんは俺の髪を洗った。
俺も三人の背中と髪を洗った。
亜紀ちゃんは俺の胸の傷を見ていた。
肉は小さく爆ぜていたが、もう収まっている。
「金剛花」が自動的に発動し、肉体を守った。
俺はレイの弾丸で死んでも良かった。
恐らく、「オロチ」か「Ω」の作用なのだろう。
風呂を上がり、俺は三人を寝かせた。
三人はすぐに眠った。
相当、疲れていたのだろう。
俺は聖へ連絡した。
「セイントPMC」へタクシーで向かった。
ゲートが開いており、聖が俺を待っていた。
「また世話になったな」
「なんでもねぇよ」
俺たちは歩き出した。
広い場所に聖が案内した。
小さなテーブルセットが置いてあり、酒の用意がしてあった。
聖がグラスに氷を入れ、俺の前に置いた。
俺たちは無言で飲み始めた。
「ここでよ、ガキ共をボコボコにしてやったんだ」
聖が言った。
「そうか。大変だったろう」
「ああ、何しろトラの子どもたちだからな。結構本気でやった」
広い敷地だった。
ここで聖は懸命に亜紀ちゃんと双子を鍛えてくれたのだろう。
目に浮かぶようだ。
「いいガキ共だな。俺が幾らボコっても、ちゃんと立ち向かって来た」
「ああ」
「自分のためだったら、最初に諦めてる。お前のために強くなりたいって連中だ」
「そうだ」
「俺もそうだ」
聖が言った。
「え?」
「俺もお前のためだ。お前を守るために今日まで来た。お前は俺のたった一人の友達だからな」
「聖、お前……」
「お前が戦場を離れるって。だったら俺は戦場で強くなって、お前を守ると決めた。あの日にな」
俺の目から涙が零れた。
「お袋さんのために医者になるってな。お前はじゃあ弱くなる。ならば俺が強くなって、お前を守ればいい」
「お前はずっとバカのままだな」
「そうだよー! バカな俺を大事に思ってくれるお前が何より大事なんだぁー!」
「聖、ありがとう」
「バカだかんな! お前は全然弱くならなかった。アメリカと喧嘩して勝っちまうなんてよ! お前は最高だぜ」
「俺はお前以上にバカだからな。頭の良い奴らがやらないこともガンガンやるからな」
俺たちは飲んだ。
つまみは無い。
酒だけを飲んだ。
「お前が助けてくれってさ! あの日、俺がどんなに嬉しかったか。あんまり嬉しいんで、全然趣味じゃねぇアンジーと結婚しちまった。お前のせいだぞ」
「悪い、全然分かんねぇ」
「アハハハハハハ!」
聖が高らかに笑った。
「トラが引き合わせてくれたんだと思った。実際いい女だしな」
「そうか。良かったな」
「死んだ女も、いい女だったか」
「そうだ。最高の女だ」
「そうか。お前は昔からいい女と知り合うよな」
「そうだな」
やがて酒が少なくなった。
聖がどこかへ電話した。
部下の誰かに酒を持って来させるのだろうと思った。
ジャンニーニが来た。
「セイント! 俺は酒屋じゃねぇ!」
「よう! 一緒に飲もうぜ!」
ジャンニーニは文句を言いながらも、嬉しそうに座った。
ジャンニーニの部下たちが大量の酒瓶を地面に置いた。
そして大量のチーズをテーブルに置いて去った。
「なんなんだよ、一体!」
「いいじゃねぇか! 折角トラが来てくれたんだ。お前も一緒に飲もう!」
「ヘッ! まあいい。久しぶりだな、トラ」
「ああ、いろいろと子どもたちが世話になったな」
「まったくだ。やっぱお前の子だ。とんでもねぇ」
「アハハハハハ!」
「ジャンニーニ、俺ももうすぐ子どもが生まれる!」
聖がニコニコとして言った。
「冗談じゃねぇ! お前ら、頼むからうちには来ないでくれ!」
俺と聖は笑った。
「子どもとの散歩コースにするからな。庭にブランコと滑り台を置け」
「なんだと!」
「うちの子らには肉な。ステーキを飽きるほど喰わせてくれればいい」
「冗談じゃねぇ! あいつら牛を丸ごと喰うじゃねぇか!」
「小遣いも頼むな」
「ああ、うちの子にもな」
「やめてくれぇー!」
俺たちは笑い、ジャンニーニも楽しそうだった。
朝まで話し、俺と聖は時々殴り合った。
ジャンニーニはどっちか殺されろと言った。
朝方に、ジャンニーニが潰れた。
「トラ、帰れそうか?」
「ああ。ありがとうな」
「お前のためならな。またいつでも声を掛けてくれ」
「頼む、親友」
「うん!」
聖はテーブルでまた飲み出した。
俺と別れるためだ。
もう、酒を飲む必要は無い。
あいつは俺のためだけに飲んだ。
俺はジャンニーニを担いで去った。
ゲートの外で、ジャンニーニの部下が待っていた。
ジャンニーニを中へ入れ、一緒に乗せてもらった。
その日の昼に、ロックハートの自家用ジェットで日本へ帰った。
後日、アルジャーノンから連絡が来た。
俺たちとアメリカとの約定だ。
俺たちが国ではないので、調印は行なわない。
アラスカの売却。
これはアメリカのダミー企業が土地を買収し、最終的に俺たちのものになる。
実質は割譲だ。
表向きは、特殊軍事施設の設置になる。
アメリカとの軍事同盟。
「業」の脅威に対抗するために、相互に軍事同盟を結ぶ。
但し、俺たちは非公開の軍勢力となり、機密扱いの組織だ。
これにより、アラスカの新規施設の建造と使用が可能となり、アメリカの全軍の全面的協力を得られる。
また、海兵隊の指揮権を委譲され、維持費はこれまで通りに米国が担うが、俺が自由に運用できるようになった。
更に、この同盟により、俺たちへの絶対不可侵といかなる工作も調査も行なわないこととなっている。
ロックハート家と「セイントPMC」への不可侵。
これは俺が条項として明記するように言った。
今回の俺の襲撃に、この二つが密接に関わったのは明確だ。
だからそのことで一切の不利益を被らないことを納得させた。
まあ、結果的にアメリカの壊滅を阻止した功労者なのだから、反対する者もほとんどいなかった。
「ヴァーミリオン」計画の全ての移譲と廃棄。
「ヴァーミリオン」計画の全情報とデータの引き渡しと、その後の廃棄を約束させた。
そして更に、「業」の勢力によってこの計画が行なわれていたことを公表し、その非人道的な実験を世界中に告発する。
「業」の攻撃を阻止し、悪魔的な実験施設を破壊したのが、今回軍事同盟を結ぶ俺たち、というシナリオだ。
一応、俺たちはアメリカ国内の極秘組織ということにする。
アメコミのようだ。
賠償。
ロックハート家に10億ドル支払うように命じた。
それとは別に、「セイントPMC」へ1億ドル、これは情報の提供料だ。
聖たちの懸命な軍隊の制止の呼びかけがなければ、被害はさらに拡大していた。
そして、ユタ州D基地跡地の造成。
そこへ500本の桜の植樹をさせた。
レイと過ごした花見を思い出した。
あの日、俺たちはレイと楽しく笑い、過ごした。
レイの好きな物をほとんど知らなかった。
レイは桜が綺麗だと言った。
それしか、俺には出来なかった。
日本から桜の専門家が呼ばれ、丁寧に植樹された。
レイが最後に俺に「愛している」と言った場所。
造成が終わり、植樹が完了した後で、俺は院長に頼み込んで遠いここまで来てもらった。
院長に、光を注いで欲しいと言った。
「ここは、どういう場所なんだ?」
「はい。俺の大切な人間が死んだんです」
「そうか。分かった」
それだけの言葉で、院長は倒れそうになるまで注いでくれた。
毎年、そこでは桜が美しく咲き乱れるようになった。
恐らく、世界で一番美しく桜の咲く場所。
翌年、最初にその見事な桜吹雪を浴びながら、俺は潰れるまでウォッカを飲んだ。
何百回もレイの名を叫んだ。
しかし、レイは現われてはくれなかった。
レイは、もういないのだ。
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