909 / 2,840
終戦
しおりを挟む
「タカさん……」
亜紀ちゃんがまた俺を呼んだ。
座っている俺を、背中から抱き締めて来る。
何度か、それを繰り返している。
俺の名を呼び、俺を抱き締めた。
それだけを繰り返した。
二つの軍事基地を消滅させ、大規模な米本土の破壊を行なった俺は、亜紀ちゃんの必死の制止によって、ようやく止まった。
しばらく続いた米軍機の攻撃も、ミサイル攻撃も、亜紀ちゃんと双子が全て撃破した。
その間、双子は核ミサイルの警戒を続けていた。
しかし、そこまでの攻撃はなく、やがて米軍も沈黙した。
亜紀ちゃんと双子から、また麗星の丸薬を飲まされた。
それは、俺の心の嵐を鎮め、俺に冷静な心を取り戻させた。
俺は静かに泣くことしか出来なくなった。
夜になった。
亜紀ちゃんは俺を抱き締め、ルーとハーが警戒を続けた。
三人とも、誰も帰ろうとは言わなかった。
ただ、俺の涙に付き合ってくれた。
俺たちに近づくヘリがあった。
CH53Dシースタリオンだ。
双子が構えたが、攻撃はしなかった。
波動で分かったのだろう。
シースタリオンは俺たちの200メートル先に着陸し、一人の男が近づいて来た。
「タイガー!」
俺は振り向いた。
ターナー少将だった。
大きな包みを持っていた。
「ここまでとはな。恐れ入った」
「悪いな、やっちまった」
俺は、そう返す余裕があった。
それは悲しいことだった。
「アメリカは完全降伏だ。これ以上は勘弁してくれるか?」
「これからホワイトハウスへ行く。それからアメリカ軍の全基地を破壊する」
「そうか。じゃあ、まずは飯を喰ってくれ。腹が減っては大変だろう」
大きな包みは、ハンバーガーだった。
40個ほど入っている。
「グアムで俺たちは出会った。あの日から俺はお前に惚れ込んでいる。そして俺とお前はこれを喰いながら再会した。あの日から、俺はお前と一緒の戦場で戦いたいと思っていた」
「そうか」
「タイガー。俺たちマリーンはお前と一緒に行く。先ほど、上の人間がホワイトハウスで絶交状を叩きつけて来た」
「アメリカを捨てるのか」
「そうだ。レイのことは知っている。あんなに善良な女をアメリカは食い物にした。絶対に許せん」
「レイを?」
「ああ。ロックハートの家で何度も会っている。そして昨年の海上輸送を直接頼みに来たのがレイだった」
「そうだったのか」
「自分が最も愛する人間の大切な荷物なんだと。自分も命懸けで守るから、手伝って欲しいのだと言っていた」
「そうか」
「レイは本当に命懸けで守ったな。本当にいい女だった。最高の女だった」
「そうだぁー!」
俺は叫んだ。
「レイをよくもぉー! 俺は絶対に許さん!」
「タカさん」
亜紀ちゃんがまた俺を抱き締めた。
「タイガー。お前がアメリカを滅ぼすと言うのなら、俺たちも手伝おう。俺も絶対に許さん」
「ターナー少将……」
「そこの三人のお嬢さんたちも同じだろう。レイと共に海上で戦ったのも、その三人なんだろう?」
亜紀ちゃんと双子が俺を見ていた。
まだ一緒にやるという目だった。
「攻撃が止んだな」
「ああ、全面降伏だ。お前はアメリカを好きなように出来る」
「分かったよ。アメリカにはまだ、レイのような奴がいるかもしれん。ロックハートの家もあるし、聖もいるしな」
「そうか」
「あんたやジェイたちの家族も。ああ、ニューヨークでは知り合いもいるな。ジャンニーニたちやエイミーもな」
「そうか」
「アラモでは俺をバカみたいに歓迎してくれた連中がいる。いい奴らだった。他にも、結構な人数がいるな」
「そうか」
俺は子どもたちにハンバーガーを喰えと言った。
俺も一緒に食べる。
「ヘリの中に、あと二袋ある。ああ、飲み物も」
亜紀ちゃんが取りに行った。
「ホワイトハウスはどんな様子だ?」
「アルが行ってる。タイガーへの攻撃を止めるように進言したのもアルだ」
「そうか」
「タイガーの要求をすべて飲むように言っている」
「何も無いよ。俺たちは喪っただけだ」
「アルは、アラスカの割譲を提案しているはずだ」
「アラスカ?」
「そこの二人のお嬢さんが、いつかアラスカを手に入れて、原住民を解放すると言っていたのだと聞いている」
「「あ!」」
双子が叫んだ。
以前に別荘で俺と聖のアラスカの話をした時に、確かにそんなことを言っていた。
「娘のキョウコが話していたと聞いた。お前たちならばやるかもしれないと」
「そうか。ここは響子とレイの祖国だよな」
「それと、最も重要なことだが、タイガーたちの生活を守ることだ。この攻撃は他国が知ることになるだろうが、我々はタイガーたちのことは何とか隠すようにする」
「そうか、ありがとうな」
「「カルマ」のことも話している。恐らく、対外的にはこの攻撃が「カルマ」の軍勢だというように発表されるだろう」
「そうか、ざまぁかんかんだな」
ルーとハーが俺にハンバーガーを寄越した。
俺は受け取り、頭を撫でてお前らも喰えと言った。
詳しい話はまた後日とし、俺たちはニューヨークのロックハート家に戻った。
庭に下り立った俺たちを、静江さんが迎えた。
俺たちは土下座をし、詫びた。
「レイは最高の恋をしました」
静江さんのその言葉に、俺たちはまた泣いた。
亜紀ちゃんがまた俺を呼んだ。
座っている俺を、背中から抱き締めて来る。
何度か、それを繰り返している。
俺の名を呼び、俺を抱き締めた。
それだけを繰り返した。
二つの軍事基地を消滅させ、大規模な米本土の破壊を行なった俺は、亜紀ちゃんの必死の制止によって、ようやく止まった。
しばらく続いた米軍機の攻撃も、ミサイル攻撃も、亜紀ちゃんと双子が全て撃破した。
その間、双子は核ミサイルの警戒を続けていた。
しかし、そこまでの攻撃はなく、やがて米軍も沈黙した。
亜紀ちゃんと双子から、また麗星の丸薬を飲まされた。
それは、俺の心の嵐を鎮め、俺に冷静な心を取り戻させた。
俺は静かに泣くことしか出来なくなった。
夜になった。
亜紀ちゃんは俺を抱き締め、ルーとハーが警戒を続けた。
三人とも、誰も帰ろうとは言わなかった。
ただ、俺の涙に付き合ってくれた。
俺たちに近づくヘリがあった。
CH53Dシースタリオンだ。
双子が構えたが、攻撃はしなかった。
波動で分かったのだろう。
シースタリオンは俺たちの200メートル先に着陸し、一人の男が近づいて来た。
「タイガー!」
俺は振り向いた。
ターナー少将だった。
大きな包みを持っていた。
「ここまでとはな。恐れ入った」
「悪いな、やっちまった」
俺は、そう返す余裕があった。
それは悲しいことだった。
「アメリカは完全降伏だ。これ以上は勘弁してくれるか?」
「これからホワイトハウスへ行く。それからアメリカ軍の全基地を破壊する」
「そうか。じゃあ、まずは飯を喰ってくれ。腹が減っては大変だろう」
大きな包みは、ハンバーガーだった。
40個ほど入っている。
「グアムで俺たちは出会った。あの日から俺はお前に惚れ込んでいる。そして俺とお前はこれを喰いながら再会した。あの日から、俺はお前と一緒の戦場で戦いたいと思っていた」
「そうか」
「タイガー。俺たちマリーンはお前と一緒に行く。先ほど、上の人間がホワイトハウスで絶交状を叩きつけて来た」
「アメリカを捨てるのか」
「そうだ。レイのことは知っている。あんなに善良な女をアメリカは食い物にした。絶対に許せん」
「レイを?」
「ああ。ロックハートの家で何度も会っている。そして昨年の海上輸送を直接頼みに来たのがレイだった」
「そうだったのか」
「自分が最も愛する人間の大切な荷物なんだと。自分も命懸けで守るから、手伝って欲しいのだと言っていた」
「そうか」
「レイは本当に命懸けで守ったな。本当にいい女だった。最高の女だった」
「そうだぁー!」
俺は叫んだ。
「レイをよくもぉー! 俺は絶対に許さん!」
「タカさん」
亜紀ちゃんがまた俺を抱き締めた。
「タイガー。お前がアメリカを滅ぼすと言うのなら、俺たちも手伝おう。俺も絶対に許さん」
「ターナー少将……」
「そこの三人のお嬢さんたちも同じだろう。レイと共に海上で戦ったのも、その三人なんだろう?」
亜紀ちゃんと双子が俺を見ていた。
まだ一緒にやるという目だった。
「攻撃が止んだな」
「ああ、全面降伏だ。お前はアメリカを好きなように出来る」
「分かったよ。アメリカにはまだ、レイのような奴がいるかもしれん。ロックハートの家もあるし、聖もいるしな」
「そうか」
「あんたやジェイたちの家族も。ああ、ニューヨークでは知り合いもいるな。ジャンニーニたちやエイミーもな」
「そうか」
「アラモでは俺をバカみたいに歓迎してくれた連中がいる。いい奴らだった。他にも、結構な人数がいるな」
「そうか」
俺は子どもたちにハンバーガーを喰えと言った。
俺も一緒に食べる。
「ヘリの中に、あと二袋ある。ああ、飲み物も」
亜紀ちゃんが取りに行った。
「ホワイトハウスはどんな様子だ?」
「アルが行ってる。タイガーへの攻撃を止めるように進言したのもアルだ」
「そうか」
「タイガーの要求をすべて飲むように言っている」
「何も無いよ。俺たちは喪っただけだ」
「アルは、アラスカの割譲を提案しているはずだ」
「アラスカ?」
「そこの二人のお嬢さんが、いつかアラスカを手に入れて、原住民を解放すると言っていたのだと聞いている」
「「あ!」」
双子が叫んだ。
以前に別荘で俺と聖のアラスカの話をした時に、確かにそんなことを言っていた。
「娘のキョウコが話していたと聞いた。お前たちならばやるかもしれないと」
「そうか。ここは響子とレイの祖国だよな」
「それと、最も重要なことだが、タイガーたちの生活を守ることだ。この攻撃は他国が知ることになるだろうが、我々はタイガーたちのことは何とか隠すようにする」
「そうか、ありがとうな」
「「カルマ」のことも話している。恐らく、対外的にはこの攻撃が「カルマ」の軍勢だというように発表されるだろう」
「そうか、ざまぁかんかんだな」
ルーとハーが俺にハンバーガーを寄越した。
俺は受け取り、頭を撫でてお前らも喰えと言った。
詳しい話はまた後日とし、俺たちはニューヨークのロックハート家に戻った。
庭に下り立った俺たちを、静江さんが迎えた。
俺たちは土下座をし、詫びた。
「レイは最高の恋をしました」
静江さんのその言葉に、俺たちはまた泣いた。
2
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
こずえと梢
気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。
いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。
『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。
ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。
幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。
※レディース・・・女性の暴走族
※この物語はフィクションです。
~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました
深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる