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五度目の別荘 XⅥ
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「皇紀!」
「はい!」
「すぐに一江さんに連絡!」
「はい!」
「テレビ局の映像を手に入れてもらって!」
「分かった!」
亜紀ちゃんが興奮している。
「おい、よせよ」
俺が言うと俺に近寄って来た。
「顕さんが録画したのはちゃんとありますよね?」
「え?」
「タカさん! ボケてちゃ困ります! まだ顕さんの家にあるんですよね?」
「ああ、多分な」
「うちにはビデオデッキもありますよね?」
「ああ、あるな」
「柳さん!」
「は、はい!」
「帰ったらすぐに探しに行きますよ!」
「うん、分かった」
「ルー、ハー!」
「なに?」
「明日からテレビ局の株を買い集めて!」
「え、どこの局?」
「タカさん! どこですかぁ!」
「あ、ああ。確かFテレビ」
「Fテレビよ!」
「うーん、あそこ、結構めんどい」
「前に買収しようとした奴が、とんでもない目に遭ってるもんね」
「やって!」
「「はい!」」
亜紀ちゃんが鬼の顔で双子に命じた。
「亜紀ちゃん、落ち着けよ」
「何言ってんですかぁ! タカさんと奈津江さんの映像ですよ!」
「そうだけどよ」
「何で今まで黙ってたぁ!」
「おい!」
何で怒られるんだろうか。
「栞さん! 知ってました?」
「う、うん。奈津江が嬉しそうに教えてくれた」
「録画は!」
「うち、ビデオデッキはその頃なくって」
「なんでぇー! お金持ちでしょう!」
「そんなこと言われても。あんまりテレビって見ないから。あ、生では見たよ?」
「うらやましぃー!」
「鷹さんは!」
「まだ石神先生と会ってもいないよ」
「一緒だぁー!」
「いや、亜紀ちゃんは生まれてもいないだろう」
「タカさーん!」
抱き着かれた。
もう大混乱だ。
響子が笑っている。
六花が「お腹空きましたね」と言い、亜紀ちゃんに怒られた。
双子が立ち上がった。
「みんな! 静かに!」
俺たちは一瞬で変わった。
興奮していた亜紀ちゃんも真剣な顔になる。
「誰かが来る!」
「二人だね」
俺の気配感知には圧は引っ掛からない。
敵ではないということだ。
「こんな時間に誰?」
亜紀ちゃんが言う。
中山夫妻とかではないだろう。
この別荘を訪ねて来る人間は限られている。
怪しいことは怪しい。
俺は亜紀ちゃんに合図し、屋上に出た。
飛び降りて物陰に潜む。
タクシーが近付いて来た。
別荘の前で止まった。
この辺りに家は無い。
当然、俺たちが目当てなのは分かっていた。
二人の男女が降りた。
玄関のインターホンを鳴らしている。
俺たちはそっと近づいた。
「花岡」を使っているので、気配は無い。
「出ませんね」
女が言った。
「おい」
俺が声を掛け、二人が振り向いた。
「麗星さん?」
「早乙女かよ!」
なんでこいつらが……。
麗星が間に合ったとか、無事で良かったとか言う。
なんなんだ、一体。
もう時間も遅い。
取り敢えず、中へ入れた。
麗星は、俺に危険が迫っているのを感じたと言った。
早乙女に新幹線を手配させ、一緒に来たらしい。
早乙女は、俺の無事な顔を見て泣いた。
麗星はさっさと風呂に入りに行った。
急いで来たと言いつつ、土産をちゃんと買っている。
泊まる用意がある。
綺麗な着物を着ている。
すでに寛いでいる。
そういうことだ。
騙され利用された早乙女が憐れだった。
早乙女に麗星が利用しただけだと言うのは気が引けた。
真面目な奴で、ただ俺のために尽くしてくれただけだ。
心配のあまり、自分まで出張って来た。
哀れだが、最高の奴だ。
俺は屋上に案内し、ワイルドターキーをロックで勧めた。
早乙女は、「幻想空間」に圧倒されていた。
「ここは素晴らしいな!」
子どものように目をキラキラさせていた。
泣いて充血した目が痛々しい。
「まあ、心配させたようだが、大丈夫だ。俺たちも明日帰るから、今日は泊って行けよ」
「本当か! ありがとう!」
「俺の大事な友達がわざわざ来てくれたんだ。歓迎するよ」
「石神!」
また涙ぐむ。
「そうだ、腹が減ってるんじゃないか?」
「いや、ここに来る前に麗星さんと食事をした」
「そうか。じゃあ、つまみを喰ってくれよ。亜紀ちゃん!」
「はーい!」
多分、その食事も麗星にたかられたのだろう。
タクシー代も。
亜紀ちゃんは柳を連れ、下へ降りた。
「あら! 皆様お揃いで!」
入れ違いに麗星が上がって来た。
水色の地に竜胆をあしらった美しい浴衣を着ている。
「素敵な空間ですね! さすがはわたく、「みんなの」石神様!」
麗星が言い、みんな呆然とした。
麗星は勧める前に、俺の隣に座った。
「それで、どんな危険だったんだよ?」
俺が問いただす間に、自分でロックを作る。
「あー、それでしたらもう! わたくしが万事解決いたしましたから。さあ、今晩は楽しみましょう!」
「いや、もう寝るところだったんだが」
「そんなー!」
亜紀ちゃんと柳が、焼いたハムやチーズ唐揚げ、高野豆腐にソラマメの茹で物を持って来た。
「何のお話をなさってたんですの?」
「タカトラがテレビに出てたんだって」
響子が言った。
「まぁ! それは是非拝見したいものです」
「昔の話をしたんだ。俺の学生時代のな」
「それは!」
響子が眠そうだったので、六花に頼んだ。
皇紀と双子も寝る。
栞と鷹も降りた。
「本当に素敵な別荘でございますね」
「そりゃどーも」
「このガラス張りのお部屋は最高でございます」
「まーね」
麗星はニコニコしている。
早乙女も幸せそうな顔をしているので、麗星を怒鳴るのは辞めた。
「タカさーん! さっきのお話が台無しですよー」
亜紀ちゃんが文句を言う。
麗星を睨んだが、麗星はチーズ唐揚げが上手いと頬張っている。
相変わらず、面の皮が厚い。
「石神さん、奈津江さんは銀座から毎晩一人で帰ってたんですか?」
場の重い空気を何とかしようとしたか、柳が聞いて来た。
「それはな、顕さんの会社も銀座だったから。よく一緒に帰ってたよ」
「なるほど!」
「そのお陰というか、奈津江と三人でも何度か食事をしたな。楽しかったなー!」
俺はまた話した。
「はい!」
「すぐに一江さんに連絡!」
「はい!」
「テレビ局の映像を手に入れてもらって!」
「分かった!」
亜紀ちゃんが興奮している。
「おい、よせよ」
俺が言うと俺に近寄って来た。
「顕さんが録画したのはちゃんとありますよね?」
「え?」
「タカさん! ボケてちゃ困ります! まだ顕さんの家にあるんですよね?」
「ああ、多分な」
「うちにはビデオデッキもありますよね?」
「ああ、あるな」
「柳さん!」
「は、はい!」
「帰ったらすぐに探しに行きますよ!」
「うん、分かった」
「ルー、ハー!」
「なに?」
「明日からテレビ局の株を買い集めて!」
「え、どこの局?」
「タカさん! どこですかぁ!」
「あ、ああ。確かFテレビ」
「Fテレビよ!」
「うーん、あそこ、結構めんどい」
「前に買収しようとした奴が、とんでもない目に遭ってるもんね」
「やって!」
「「はい!」」
亜紀ちゃんが鬼の顔で双子に命じた。
「亜紀ちゃん、落ち着けよ」
「何言ってんですかぁ! タカさんと奈津江さんの映像ですよ!」
「そうだけどよ」
「何で今まで黙ってたぁ!」
「おい!」
何で怒られるんだろうか。
「栞さん! 知ってました?」
「う、うん。奈津江が嬉しそうに教えてくれた」
「録画は!」
「うち、ビデオデッキはその頃なくって」
「なんでぇー! お金持ちでしょう!」
「そんなこと言われても。あんまりテレビって見ないから。あ、生では見たよ?」
「うらやましぃー!」
「鷹さんは!」
「まだ石神先生と会ってもいないよ」
「一緒だぁー!」
「いや、亜紀ちゃんは生まれてもいないだろう」
「タカさーん!」
抱き着かれた。
もう大混乱だ。
響子が笑っている。
六花が「お腹空きましたね」と言い、亜紀ちゃんに怒られた。
双子が立ち上がった。
「みんな! 静かに!」
俺たちは一瞬で変わった。
興奮していた亜紀ちゃんも真剣な顔になる。
「誰かが来る!」
「二人だね」
俺の気配感知には圧は引っ掛からない。
敵ではないということだ。
「こんな時間に誰?」
亜紀ちゃんが言う。
中山夫妻とかではないだろう。
この別荘を訪ねて来る人間は限られている。
怪しいことは怪しい。
俺は亜紀ちゃんに合図し、屋上に出た。
飛び降りて物陰に潜む。
タクシーが近付いて来た。
別荘の前で止まった。
この辺りに家は無い。
当然、俺たちが目当てなのは分かっていた。
二人の男女が降りた。
玄関のインターホンを鳴らしている。
俺たちはそっと近づいた。
「花岡」を使っているので、気配は無い。
「出ませんね」
女が言った。
「おい」
俺が声を掛け、二人が振り向いた。
「麗星さん?」
「早乙女かよ!」
なんでこいつらが……。
麗星が間に合ったとか、無事で良かったとか言う。
なんなんだ、一体。
もう時間も遅い。
取り敢えず、中へ入れた。
麗星は、俺に危険が迫っているのを感じたと言った。
早乙女に新幹線を手配させ、一緒に来たらしい。
早乙女は、俺の無事な顔を見て泣いた。
麗星はさっさと風呂に入りに行った。
急いで来たと言いつつ、土産をちゃんと買っている。
泊まる用意がある。
綺麗な着物を着ている。
すでに寛いでいる。
そういうことだ。
騙され利用された早乙女が憐れだった。
早乙女に麗星が利用しただけだと言うのは気が引けた。
真面目な奴で、ただ俺のために尽くしてくれただけだ。
心配のあまり、自分まで出張って来た。
哀れだが、最高の奴だ。
俺は屋上に案内し、ワイルドターキーをロックで勧めた。
早乙女は、「幻想空間」に圧倒されていた。
「ここは素晴らしいな!」
子どものように目をキラキラさせていた。
泣いて充血した目が痛々しい。
「まあ、心配させたようだが、大丈夫だ。俺たちも明日帰るから、今日は泊って行けよ」
「本当か! ありがとう!」
「俺の大事な友達がわざわざ来てくれたんだ。歓迎するよ」
「石神!」
また涙ぐむ。
「そうだ、腹が減ってるんじゃないか?」
「いや、ここに来る前に麗星さんと食事をした」
「そうか。じゃあ、つまみを喰ってくれよ。亜紀ちゃん!」
「はーい!」
多分、その食事も麗星にたかられたのだろう。
タクシー代も。
亜紀ちゃんは柳を連れ、下へ降りた。
「あら! 皆様お揃いで!」
入れ違いに麗星が上がって来た。
水色の地に竜胆をあしらった美しい浴衣を着ている。
「素敵な空間ですね! さすがはわたく、「みんなの」石神様!」
麗星が言い、みんな呆然とした。
麗星は勧める前に、俺の隣に座った。
「それで、どんな危険だったんだよ?」
俺が問いただす間に、自分でロックを作る。
「あー、それでしたらもう! わたくしが万事解決いたしましたから。さあ、今晩は楽しみましょう!」
「いや、もう寝るところだったんだが」
「そんなー!」
亜紀ちゃんと柳が、焼いたハムやチーズ唐揚げ、高野豆腐にソラマメの茹で物を持って来た。
「何のお話をなさってたんですの?」
「タカトラがテレビに出てたんだって」
響子が言った。
「まぁ! それは是非拝見したいものです」
「昔の話をしたんだ。俺の学生時代のな」
「それは!」
響子が眠そうだったので、六花に頼んだ。
皇紀と双子も寝る。
栞と鷹も降りた。
「本当に素敵な別荘でございますね」
「そりゃどーも」
「このガラス張りのお部屋は最高でございます」
「まーね」
麗星はニコニコしている。
早乙女も幸せそうな顔をしているので、麗星を怒鳴るのは辞めた。
「タカさーん! さっきのお話が台無しですよー」
亜紀ちゃんが文句を言う。
麗星を睨んだが、麗星はチーズ唐揚げが上手いと頬張っている。
相変わらず、面の皮が厚い。
「石神さん、奈津江さんは銀座から毎晩一人で帰ってたんですか?」
場の重い空気を何とかしようとしたか、柳が聞いて来た。
「それはな、顕さんの会社も銀座だったから。よく一緒に帰ってたよ」
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俺はまた話した。
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