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五度目の別荘 X
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翌朝。
朝食の後で、みんなでピクニックの準備をする。
おにぎりを基本に、唐揚げ(大量)、だし巻き、煮物、ウインナー(大量)、ハム(大量)、カップサラダ(義務)、他を作って行く。
俺と鷹、栞がおにぎりをどんどん作り、他の料理を亜紀ちゃんが柳と子どもたちを指揮して作って行く。
俺は別途、稲荷寿司を作った。
六花と響子とロボは『ポピーザぱフォーマー』を観ている。
大爆笑だ。
準備が出来、俺と響子、ロボは手押し車に乗った。
でかいワゴンのようなものだが、6人くらいは乗れる。
今は食事がたくさん乗っている。
蓮花の研究所でティーグフを見て思いつき、皇紀に作らせた。
電動アシストも可能だったが、面倒なので人力にした。
子どもたちが押す。
奴隷だからだ。
響子は大変喜んだ。
ロボもウキウキして身を乗り出している。
「やっぱり奴隷にやらせると、気分がいいなー!」
俺が言うと、子どもたちが笑った。
栞を乗せてもいいのだが、振動が結構ある。
皇紀に改良させよう。
倒木の広場に着いた。
荷台のドアを開け、響子とロボを降ろす。
みんなでレジャーシートを敷き、食事を並べた。
「響子、楽しかったか?」
「うん!」
みんなで食事を始める。
「外で食べると美味しいよね」
栞がニコニコして言った。
みんなが栞にどんどん食べろと言う。
「妊娠すると食の好みが変わるって言いますよね?」
鷹が言った。
「うーん、普通かな。でもちょっとお酒が飲みたいなぁー」
「子どもが酒好きなのかもな」
「石神くんの血だからね」
「亜紀ちゃんのいい飲み友達になりそうだな」
「あー! いいですね!」
亜紀ちゃんはそう言いながら、唐揚げ戦争で忙しい。
六花も大好物なので、必死だ。
響子は珍しくさつま揚げをよく食べていた。
「お前、それ好きだったっけ?」
「うん、美味しいよ?」
「お腹の子か?」
「うん!」
みんなが笑った。
俺が稲荷寿司を食べ始めると、鷹も摘まんだ。
「あ、美味しいですね!」
「そうか。お袋が作ってたもので、俺の好物なんだよ」
「え! タカさん、初めて聞きました!」
「そうだったか? まあ、お前らは肉ばっかしだもんな」
「教えてくださいよ!」
「だってお前らは喰わないだろう」
「えぇー! だって、栗ご飯しか好物って聞いてないです」
「別に俺の好みなんか知らないでいいよ。自分で食いたきゃ作るしな」
「そんなぁー!」
栞と鷹が笑っている。
「お袋は料理が下手でなぁ。それに面倒がってた」
「それは意外ですね。石神先生はお料理が得意なので、てっきりお母様もお上手だったのかと」
鷹が言った。
「いや、俺は独学でやったんだよ。高校になってからは城戸さんに随分と教えてもらったけどな」
「そうなんですか」
「親父は料理人だったけど、家では全然作ってくれなかった。お袋の役目だったんだな。まあ、親父の料理全集なんかは重宝したけど」
「はぁ」
「うちは、まあ金が無いのが大きいけど、おかずなんて毎回一品だけよ。あとはご飯と味噌汁。ご飯はお替りするともうねぇというな。こいつらだったら反乱が起きてたよなぁ」
みんなが笑う。
「うちの夕飯が早いのは、お袋がそうだったということもあるんだ。お袋は夜はゆっくりしたかったから、夕飯を早く終わらせてたのな。うちは5時とかに喰うこともあるじゃない」
「そうですね。でも全然構いませんよ?」
亜紀ちゃんが言った。
「お前らに意見を言う資格はねぇ!」
「アハハハハハ!」
「それで、この稲荷寿司は?」
鷹が聞いて来る。
「ああ、あれは小学三年生の時の遠足だったな」
「カワイイ子どもタカちゃんですね!」
亜紀ちゃんが喜ぶ。
「遠足が大雨で中止になったんだ。近所の山を歩く予定だったんだけどな。俺は楽しみにしてたんだけどなぁ。それで家で独りでお袋が作ってくれた稲荷寿司を食べたんだ」
「一人だったんですか?」
「ああ、共働きだったからな。確かお袋は5キロくらい離れた工場で働いていたんだ」
「小学三年生なのに」
栞が言う。
「しょうがないよ。うちはそういう家だったんだ。外は大雨で、前の道路も見えねぇ。窓に叩きつける雨が怖かったな」
「かわいそう」
響子が言った。
俺は響子に稲荷寿司を一つやった。
「テレビはお袋がいる時しか点けちゃいけない。そのうち停電になって、家の中が薄暗くなった」
「こわいね」
「響子のうちはそういうことは無かったろうけどな。当時は停電はしょっちゅうだったんだ。俺は薄暗い中でやることもねぇから、弁当を食べたんだよ」
「タカさーん!」
亜紀ちゃんが泣きそうな声で言う。
「でもな、一口食べたら感動したんだ! 物凄く美味くてなぁ。心細い気持ちも一気に消えた。夢中で食べたよ」
「良かったですね」
「何か特別な稲荷寿司だったんですか?」
鷹が聞く。
「いや、今食べてるこれだったんだ。別に何も入ってない。当たり前の稲荷寿司よな」
「ヘェー!」
「食べ終わって、本当に幸せな気分になった。あんまり嬉しかったんで、お袋にありがとうって言いたくなってな」
六花も口に唐揚げを頬張りながら俺を見ていた。
「土砂降りの雨だったけど、お袋に会いに行った。まあ、寂しい気持ちもあったんだろうな。傘なんてさせないくらいの勢いだったから、濡れながら行ったよ」
「すごいね」
俺は響子を抱き寄せた。
「一歩目でもうびしょびしょ。10月だったから、まあ台風よな、多分な。それで走ってお袋がいる工場へ行った。1時間くらいかかったかな」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
俺は夢中で走った。
体温が急激に奪われるのを感じた。
途中で濁流のようになっている道路を渡った。
何度か流されそうになった。
寒かったが、お袋に礼を言いたかった。
喜ぶお袋の顔が見たかった。
工場では、10人くらいの女性が基盤を組み立てていた。
ドアを開けると、みんなが一斉に俺を見た。
「高虎!」
お袋が叫んだ。
俺はお袋の所へ駆け寄った。
「どうしたの!」
「うん! あのさ、今日のお稲荷さんがさ! すごく美味しかった!」
「何言ってんの!」
「だからさ、一言お袋に言いたくて!」
「バカ!」
「ありがとうな! 本当に美味しかったよ!」
他の女性が俺にタオルを持って来てくれた。
お袋が礼を言い、タオルで俺を一生懸命に拭いてくれた。
「あんたは、こんな雨の中を本当に」
お袋は拭きながら俺に言っていた。
「また作ってくれよ! あ、材料って高い?」
「バカ!」
みんなが困った顔をしていた。
「お袋、もういいよ! どうせまた帰りに濡れるから」
「高虎はここにいなさい」
「え、でも邪魔しちゃ悪いよ」
「いいから!」
工場の男性の人が、俺に椅子を持って来てくれ、お茶をくれた。
お袋は何度も頭を下げて謝っていた。
俺はずっとお袋を見ていた。
お袋も時々俺を見た。
お袋が泣いていた。
「おい、坊主。そんなに母ちゃんの稲荷寿司が美味かったのか」
工場の男性が俺に言った。
「はい! もう今まで食べたことがないくらい! 俺、毎日あれでもいいな!」
「それでわざわざ言いに来たのかよ」
そう言って俺の頭を撫でてくれた。
「お前の母ちゃんな、お前が病気ばっかするから心配だってよ」
「うーん、そこは申し訳ない」
「お前、こんな濡れちゃって大丈夫か?」
「はい! 全然平気ですよ!」
三時になり、休憩になった。
お袋は配られたまんじゅうを俺にくれた。
俺は半分に分け、お袋に渡した。
「石神さん、いいお子さんだね」
男性が言った。
俺は照れ臭かった。
でも、お袋と一緒にいられて嬉しかった。
みんなが俺にまんじゅうをくれようとした。
「平気です! 俺、さっき物凄く美味しいお稲荷さんを食べて来ましたからぁー!」
そう言うとみんなが笑った。
お袋が頭を下げて礼を言っていた。
「トラちゃん、お母さんの料理で他に好きな物は?」
「はい! こないだお袋が作ってくれたすいとんが、また美味かった! ね、お袋?」
お袋は恥ずかしそうに下を向いていた。
今なら分かるが、あまりにも質素なうちの食事だった。
お袋が小声で、すき焼きが好きだと言いなさいと言った。
「え、すき焼き? ああ、美味かったけど、あれって何年前だっけ?」
みんなが笑った。
みんな、やっぱりまんじゅうを喰えと言った。
俺はありがたく頂いた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「今だとお袋の恥ずかしさも分かるんだけどな。でも俺は本当に嬉しかったんだ」
「タカさーん!」
亜紀ちゃんが涙ぐんでいる。
「なんだよ! 折角俺の美味しい思い出を話してやったのに!」
「だって、私たちこんなに食べ散らかして」
「ばかやろー! お前らがこんなに美味そうに喰ってるのに、嬉しくないわけがないだろう!」
「だってー!」
「俺も本当に美味かったんだ。どうしようもないくらいにな。だけどなー、お袋は二度とあの稲荷寿司を作れなかった。偶然だったんだな。酢飯の加減とか稲荷の煮方も調味料もな。だから俺は自分の舌の記憶で試行錯誤してようやく作れるようになったんだ」
みんなが寄って来て、稲荷寿司を全部持ってってしまう。
「おい! 俺の分は!」
「また私が作りますよ」
鷹が言った。
「今喰いたいんだぁー!」
みんなが笑った。
でも、みんな美味しいと言ってくれた。
お袋が褒められたようで、俺も嬉しかった。
朝食の後で、みんなでピクニックの準備をする。
おにぎりを基本に、唐揚げ(大量)、だし巻き、煮物、ウインナー(大量)、ハム(大量)、カップサラダ(義務)、他を作って行く。
俺と鷹、栞がおにぎりをどんどん作り、他の料理を亜紀ちゃんが柳と子どもたちを指揮して作って行く。
俺は別途、稲荷寿司を作った。
六花と響子とロボは『ポピーザぱフォーマー』を観ている。
大爆笑だ。
準備が出来、俺と響子、ロボは手押し車に乗った。
でかいワゴンのようなものだが、6人くらいは乗れる。
今は食事がたくさん乗っている。
蓮花の研究所でティーグフを見て思いつき、皇紀に作らせた。
電動アシストも可能だったが、面倒なので人力にした。
子どもたちが押す。
奴隷だからだ。
響子は大変喜んだ。
ロボもウキウキして身を乗り出している。
「やっぱり奴隷にやらせると、気分がいいなー!」
俺が言うと、子どもたちが笑った。
栞を乗せてもいいのだが、振動が結構ある。
皇紀に改良させよう。
倒木の広場に着いた。
荷台のドアを開け、響子とロボを降ろす。
みんなでレジャーシートを敷き、食事を並べた。
「響子、楽しかったか?」
「うん!」
みんなで食事を始める。
「外で食べると美味しいよね」
栞がニコニコして言った。
みんなが栞にどんどん食べろと言う。
「妊娠すると食の好みが変わるって言いますよね?」
鷹が言った。
「うーん、普通かな。でもちょっとお酒が飲みたいなぁー」
「子どもが酒好きなのかもな」
「石神くんの血だからね」
「亜紀ちゃんのいい飲み友達になりそうだな」
「あー! いいですね!」
亜紀ちゃんはそう言いながら、唐揚げ戦争で忙しい。
六花も大好物なので、必死だ。
響子は珍しくさつま揚げをよく食べていた。
「お前、それ好きだったっけ?」
「うん、美味しいよ?」
「お腹の子か?」
「うん!」
みんなが笑った。
俺が稲荷寿司を食べ始めると、鷹も摘まんだ。
「あ、美味しいですね!」
「そうか。お袋が作ってたもので、俺の好物なんだよ」
「え! タカさん、初めて聞きました!」
「そうだったか? まあ、お前らは肉ばっかしだもんな」
「教えてくださいよ!」
「だってお前らは喰わないだろう」
「えぇー! だって、栗ご飯しか好物って聞いてないです」
「別に俺の好みなんか知らないでいいよ。自分で食いたきゃ作るしな」
「そんなぁー!」
栞と鷹が笑っている。
「お袋は料理が下手でなぁ。それに面倒がってた」
「それは意外ですね。石神先生はお料理が得意なので、てっきりお母様もお上手だったのかと」
鷹が言った。
「いや、俺は独学でやったんだよ。高校になってからは城戸さんに随分と教えてもらったけどな」
「そうなんですか」
「親父は料理人だったけど、家では全然作ってくれなかった。お袋の役目だったんだな。まあ、親父の料理全集なんかは重宝したけど」
「はぁ」
「うちは、まあ金が無いのが大きいけど、おかずなんて毎回一品だけよ。あとはご飯と味噌汁。ご飯はお替りするともうねぇというな。こいつらだったら反乱が起きてたよなぁ」
みんなが笑う。
「うちの夕飯が早いのは、お袋がそうだったということもあるんだ。お袋は夜はゆっくりしたかったから、夕飯を早く終わらせてたのな。うちは5時とかに喰うこともあるじゃない」
「そうですね。でも全然構いませんよ?」
亜紀ちゃんが言った。
「お前らに意見を言う資格はねぇ!」
「アハハハハハ!」
「それで、この稲荷寿司は?」
鷹が聞いて来る。
「ああ、あれは小学三年生の時の遠足だったな」
「カワイイ子どもタカちゃんですね!」
亜紀ちゃんが喜ぶ。
「遠足が大雨で中止になったんだ。近所の山を歩く予定だったんだけどな。俺は楽しみにしてたんだけどなぁ。それで家で独りでお袋が作ってくれた稲荷寿司を食べたんだ」
「一人だったんですか?」
「ああ、共働きだったからな。確かお袋は5キロくらい離れた工場で働いていたんだ」
「小学三年生なのに」
栞が言う。
「しょうがないよ。うちはそういう家だったんだ。外は大雨で、前の道路も見えねぇ。窓に叩きつける雨が怖かったな」
「かわいそう」
響子が言った。
俺は響子に稲荷寿司を一つやった。
「テレビはお袋がいる時しか点けちゃいけない。そのうち停電になって、家の中が薄暗くなった」
「こわいね」
「響子のうちはそういうことは無かったろうけどな。当時は停電はしょっちゅうだったんだ。俺は薄暗い中でやることもねぇから、弁当を食べたんだよ」
「タカさーん!」
亜紀ちゃんが泣きそうな声で言う。
「でもな、一口食べたら感動したんだ! 物凄く美味くてなぁ。心細い気持ちも一気に消えた。夢中で食べたよ」
「良かったですね」
「何か特別な稲荷寿司だったんですか?」
鷹が聞く。
「いや、今食べてるこれだったんだ。別に何も入ってない。当たり前の稲荷寿司よな」
「ヘェー!」
「食べ終わって、本当に幸せな気分になった。あんまり嬉しかったんで、お袋にありがとうって言いたくなってな」
六花も口に唐揚げを頬張りながら俺を見ていた。
「土砂降りの雨だったけど、お袋に会いに行った。まあ、寂しい気持ちもあったんだろうな。傘なんてさせないくらいの勢いだったから、濡れながら行ったよ」
「すごいね」
俺は響子を抱き寄せた。
「一歩目でもうびしょびしょ。10月だったから、まあ台風よな、多分な。それで走ってお袋がいる工場へ行った。1時間くらいかかったかな」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
俺は夢中で走った。
体温が急激に奪われるのを感じた。
途中で濁流のようになっている道路を渡った。
何度か流されそうになった。
寒かったが、お袋に礼を言いたかった。
喜ぶお袋の顔が見たかった。
工場では、10人くらいの女性が基盤を組み立てていた。
ドアを開けると、みんなが一斉に俺を見た。
「高虎!」
お袋が叫んだ。
俺はお袋の所へ駆け寄った。
「どうしたの!」
「うん! あのさ、今日のお稲荷さんがさ! すごく美味しかった!」
「何言ってんの!」
「だからさ、一言お袋に言いたくて!」
「バカ!」
「ありがとうな! 本当に美味しかったよ!」
他の女性が俺にタオルを持って来てくれた。
お袋が礼を言い、タオルで俺を一生懸命に拭いてくれた。
「あんたは、こんな雨の中を本当に」
お袋は拭きながら俺に言っていた。
「また作ってくれよ! あ、材料って高い?」
「バカ!」
みんなが困った顔をしていた。
「お袋、もういいよ! どうせまた帰りに濡れるから」
「高虎はここにいなさい」
「え、でも邪魔しちゃ悪いよ」
「いいから!」
工場の男性の人が、俺に椅子を持って来てくれ、お茶をくれた。
お袋は何度も頭を下げて謝っていた。
俺はずっとお袋を見ていた。
お袋も時々俺を見た。
お袋が泣いていた。
「おい、坊主。そんなに母ちゃんの稲荷寿司が美味かったのか」
工場の男性が俺に言った。
「はい! もう今まで食べたことがないくらい! 俺、毎日あれでもいいな!」
「それでわざわざ言いに来たのかよ」
そう言って俺の頭を撫でてくれた。
「お前の母ちゃんな、お前が病気ばっかするから心配だってよ」
「うーん、そこは申し訳ない」
「お前、こんな濡れちゃって大丈夫か?」
「はい! 全然平気ですよ!」
三時になり、休憩になった。
お袋は配られたまんじゅうを俺にくれた。
俺は半分に分け、お袋に渡した。
「石神さん、いいお子さんだね」
男性が言った。
俺は照れ臭かった。
でも、お袋と一緒にいられて嬉しかった。
みんなが俺にまんじゅうをくれようとした。
「平気です! 俺、さっき物凄く美味しいお稲荷さんを食べて来ましたからぁー!」
そう言うとみんなが笑った。
お袋が頭を下げて礼を言っていた。
「トラちゃん、お母さんの料理で他に好きな物は?」
「はい! こないだお袋が作ってくれたすいとんが、また美味かった! ね、お袋?」
お袋は恥ずかしそうに下を向いていた。
今なら分かるが、あまりにも質素なうちの食事だった。
お袋が小声で、すき焼きが好きだと言いなさいと言った。
「え、すき焼き? ああ、美味かったけど、あれって何年前だっけ?」
みんなが笑った。
みんな、やっぱりまんじゅうを喰えと言った。
俺はありがたく頂いた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「今だとお袋の恥ずかしさも分かるんだけどな。でも俺は本当に嬉しかったんだ」
「タカさーん!」
亜紀ちゃんが涙ぐんでいる。
「なんだよ! 折角俺の美味しい思い出を話してやったのに!」
「だって、私たちこんなに食べ散らかして」
「ばかやろー! お前らがこんなに美味そうに喰ってるのに、嬉しくないわけがないだろう!」
「だってー!」
「俺も本当に美味かったんだ。どうしようもないくらいにな。だけどなー、お袋は二度とあの稲荷寿司を作れなかった。偶然だったんだな。酢飯の加減とか稲荷の煮方も調味料もな。だから俺は自分の舌の記憶で試行錯誤してようやく作れるようになったんだ」
みんなが寄って来て、稲荷寿司を全部持ってってしまう。
「おい! 俺の分は!」
「また私が作りますよ」
鷹が言った。
「今喰いたいんだぁー!」
みんなが笑った。
でも、みんな美味しいと言ってくれた。
お袋が褒められたようで、俺も嬉しかった。
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