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KYOKO DREAMIN Ⅶ

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 「ゴブリン軍2000万! 「クロピョン」の《大喰い》により消滅!」
 「カイザー・ドラゴン150体! ロボさんの《ばーん》により消滅!」
 「レーザー級ギドラ群800体! 「タマ」の《エクリプス・ネメシス》により壊滅!」

 「「タヌ吉」の《地獄道》に敵主力の先頭が入りましたぁ!」

 妖魔たちの戦闘が、次々と戦略スクリーンに投影され、「蒼虎軍」の圧倒的な優勢を示して行く。
 しかし、「業(カルマ)」の百鬼夜行軍は戦線を崩しながらも、尚その膨大な数を残している。

 「優勢ですね」

 道間麗星が西安に築かれた作戦本部の大スクリーンを見ながら言った。

 隣にはルーとハーがいる。
 麗星はいつもの着物姿であり、ルーとハーは将官の制服を着ている。
 麗星の身長を超え、二人は178センチの長身になっていた。
 ストレートの長い髪は背中まで伸び、姉に似た端正な顔立ちをしている。
 亜紀が柔和な美人だとしたら、双子はクールな美人だ。
 「虎の穴」本部では、その美しさに魅かれている者も多い。
 戦場に出ることもあるが、主に各地の戦場は姉の亜紀の独壇場だった。
 双子は指揮系統で主に活躍していた。


 「そうなんだけどね」

 ルーが麗星の言葉に応える。

 「何かご不安が?」
 「そーじゃないんだけどー。なんかさ、さっきから量子コンピューター『オモイガネ』が言ってる名前がさ」
 「名前?」
 「クロピョンだのロボの「ばーん」だのタマだのって」
 「あー!」
 「なんか緊張感を欠くんだよね」
 「なるほど!」

 ハーは笑って聞いている。

 「でもタカさんが全部付けたんだよ?」
 「うーん。だからさー、文句は言えないんだけど」
 「私の軍では、そういうことはありませんね」

 双子が麗星を見ている。

 「?」

 「麗星さんの「赤龍軍」もさー、大概だよ?」
 「はい?」
 「大陀王院螺良鬼津奈だとか青美死灼花とかさー。ちょっと言うの恥ずかしいよ?」
 「そうですか?」

 戦闘が激化する。
 「業」の百鬼夜行軍は主力の集結によって、一気に戦線を盛り返そうとしていた。




 「業」は「バイオノイド」と「ジェヴォーダン」により、世界各地に侵攻を開始した。
 各国の軍隊は次々と撃破され、一部の大国のみがようやく反攻を見せるに留まった。
 核兵器はほぼ無効なことが、緒戦で明らかになる。
 「バイオノイド」は特殊な兵装と能力で核を凌ぎ、「ジェヴォーダン」は超高速移動により核の破壊を逃れた。
 同じく、通常のミサイルも無効であった。
 回避のスピードが、これまでの戦場の常識を覆していた。

 通常兵器ではほぼ対抗出来ず、戦車砲以上の威力の砲撃と、一部が開発されていたレーザーなどの兵器により、かろうじて戦うことができた。
 「虎」の軍の登場が無ければ、各国は「業」の軍に蹂躙されていたことだろう。
 「虎」は各国の要請を受け、自軍を派遣し、人類の最期の楯にして鉾となった。
 各国の軍隊に比較して圧倒的に数で劣る「虎」の軍ではあったが、その超絶的な戦力で「業」の軍を退けて行った。

 だが、「業」の軍は新たな戦力を投入してきた。

 《百鬼夜行》と呼ばれる、この世のものではない戦力だった。

 各地で魑魅魍魎による殺戮と破壊が起きた。
 多くの人間が、人類の破滅を予感した。
 人間が戦える相手ではなかった。
 銃砲やどのような兵器も「あやかし」にはほぼ無効だった。

 しかし、「虎」もまた、「あやかし」の軍を控えさせていた。
 各国は「虎」の力に平伏した。




 「あ、ちょっと「地獄道」を外れる奴がいるよ!」
 「お待ち下さい。「大母愚烈死薙」たちにやらせます」
 「また恥ずかしい名前がぁ!」
 「お静かに」

 麗星は瞑想し、自軍に指示を送って行く。

 「あー! 戻ってく! 流石だね!」
 「はい!」

 敵主力は「クロピョン」を目指して一直線に進んでくる。

 「でも、本当はあの辺って湖ですよね?」

 麗星が言う。
 
 「そんなこと言ったら、クロピョンの身体だって、エベレストに突き刺さってるじゃん!」
 「そーだよー」
 「不思議です」

 「麗星ちゃん! 前も説明したけど、このスクリーンは実際の戦闘を映してないのよ?」
 「はぁ」
 「『オモイガネ』が霊素の動きを感知しながら、私たちに理解できる形に組み替えてるの! だから実際にはチベットとインドで展開してないんだって」
 「なるほど!」
 「「分かってないでしょー」」
 「いえ、なんとなくは! わたくし、これでも京大卒ですから!」
 「「……」」


 「あやかし」の戦いは人間には不可視だった。
 観測、感知できるのであれば、人間にも戦いようがある。
 しかし霊的存在であるために、人間には対処できないままに撃破されていた。
 「あやかし」には「あやかし」しか対応できない。
 「虎」がそれに備えていたことに、各国の軍部は驚愕した。

 しかも、「虎」は更にそれの《指揮》が可能であり、《戦略》を構築し、「人間の戦い」を展開することが出来た。
 皇紀と双子が開発した超高速演算型量子コンピューター『オモイガネ』が、それを可能ならしめた。
 そして「あやかし」を捉える霊素の観測機が道間家との共同開発により生まれた。

 「まー、私たちなら「観る」ことも出来るけど」
 「まー、二日酔いじゃ済まないもんね」
 「わたくしもー!」

 麗星も仲間に入りたがる。

 「麗星ちゃんは違うじゃない」
 「そんなことはございません」
 「だって、前に「百万モメン」の空爆をモロに喰らいそうになったくせに」
 「あ、あれはちょっと油断というか」
 「なんでよ! わざわざ「百万モメン」が降りて来て、あそこから前に出るなって言ってたじゃない!」
 「そーでしたかしら?」
 「前に突撃しそうになるから焦ったんだよ!」
 「そうそう! お陰で敵軍の半分くらい逃げられちゃったし―!」
 「うー、ごめんなさい」

 大スクリーンでは、敵「百鬼夜行」軍の総勢二億が進軍を停止したことを告げていた。

 「やっと終わりかー!」

 ハーが叫ぶ。
 スクリーン上の敵を示す範囲が、どんどん縮小していく。
 
 「あれってどこに行くんですかね?」
 「麗星さん、それは知らない方がいいと思うよ」
 「うん。一度見たけど、あれはないわー」
 「そ、そうなんですか」

 「あ、そろそろ「赤龍」軍で掃討を始めて!」
 「はい!」

 麗星はまた瞑想し、自軍に指示を出した。

 「では、わたくしもこれから」
 「「やめとけ!」」

 双子が必死に止めた。

 「は?」
 「こないだ麗星さんが出てって大変なことになったじゃない!」
 「なんで二百万年生物が棲めない湖なんてできたのよ!」
 「さー」

 「お願いだからここにいて!」
 「分かりましたー」

 大規模な会戦がもう終わろうとしている。
 「蒼虎軍」も「赤龍軍」も被害はゼロだった。
 
 「ところで、石神様はいつこちらへ?」
 「え? 別に来ないよ?」
 「なんと!」

 「だってタカさん、忙しいし。ここは私たちで全然平気だし」
 「そんな~!」
 「何言ってるのよ。麗星さんだって忙しいでしょう」
 「わたくしは、もう2週間も石神様の御顔を拝見しておりません」
 「私たちなんて、もう二ヶ月よ。しょうがないじゃない」

 「先日は御寝所まで伺いましたのに」
 「え? タカさんが?」
 「いいえ、わたくしの一存で」

 双子が呆れ返る。

 「怒られたでしょー!」
 「はい。亜紀様が鬼のように」
 「大丈夫だった?」
 「石神様がお止め下さいました」
 「亜紀ちゃんが怒ったら死んじゃうよ?」
 「はぁ。でも恋は命懸けですので」
 「大したもんだね」

 亜紀は戦場に出る以外は、常に石神の護衛に付いていた。
 
 「まー、これが終わったら一緒に行ってあげるよ」
 「一杯お肉もってこ?」
 「ありがとうございます」
 「あたしらが亜紀ちゃんの相手をするからさ」
 「麗星さんはその間にタカさんに会いなよ」
 「なんと感謝してよろしいやら」

 「「だから最後まで気を抜くな!」」
 「……」



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 「恋は命懸けかー」

 栞は響子の寝言に気付いた。
 もう明るくなっている。

 「ウフフフ。カッコイイこと言っちゃって」

 栞は優しく響子の額を撫でた。
 響子が薄目を開ける。

 「あ、起きちゃった?」
 「うーん。まだ眠いのー」
 「うん、ごめんね。もう一度寝てね」

 栞はまた響子の額を撫でた。

 「ルーとハーがね」
 「うん、どうしたの?」
 「とっても綺麗になってたの」
 「そうなんだ」
 「背も高くてね」
 「へー」

 コトリとスイッチが切れたように、また響子が眠った。

 「楽しい夢ね」

 栞も微笑んで、また目を閉じた。
 一瞬、美しい双子の姿が見えたような気がした。

 「この子はどんな大人になるんだろう」
 
 栞は、自分が確かに幸せの中にいることを感じた。
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