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五度目の別荘

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 金曜日の夜。
 いよいよ明日から別荘に行く。
 前祝ということでもないが、俺は亜紀ちゃんとまた軽く飲んだ。
 気軽に飲める相手がいることは嬉しい。
 女子高生だが。

 今日は冷酒にした。
 切った山芋の梅肉乗せ。
 シシトウとナスの炒め物に摺り下ろしたショウガ。
 味噌田楽。
 亜紀ちゃん用ハム炒め。

 「流石の亜紀ちゃんも、最近デブになってきたな」
 「そんなことないですよー!」
 「体重は幾つよ?」
 「え」
 「ほら、言え」
 「計ってません」
 
 それでもハムを喰う。

 「まあ、デブでもいいけどな」
 「ほんとですかー!」
 「連れ歩かんけどな」
 「えー!」
 
 俺は山芋を口に入れ、冷酒で流し込んだ。
 亜紀ちゃんは自分の腹の肉を掴んでいる。
 俺にも摘まんでみろと言う。
 掴むと、まあ贅肉はない。
 亜紀ちゃんが親指を立てる。

 「ところでよ」
 「はい!」

 俺たちは別荘でのメニューを話し合った。
 毎日バーベキューばかりしているのは、人間として不味い。

 「あそこのスーパーの店長も、俺たちが異常だと思ってるだろう」
 「いいじゃないですか、別に」
 「あのなぁ。お前らで買い物に行くんならいいよ。俺は毎回恥ずかしいんだ」
 「えー」
 「どこの家で、肉を20キロ買った翌日に40キロまた買いに行くんだよ!」
 「鰻だって買ったじゃないですか!」
 「尚悪いだろう!」

 亜紀ちゃんが目に涙を浮かべている。

 「あのなぁ。俺もお前らには腹いっぱいに喰って欲しいと思ってたんだよ」
 「はい」
 「今でもそうなんだけどな。でも今後お前らが外で恥を掻くんじゃないかと思うとな」
 「大丈夫です」
 「あのなぁ」
 「外に行きませんから!」
 「弱ったなぁ」

 本当に困った。

 「亜紀ちゃんも大学に行くだろう。それで友達と外で食事をしてだなぁ」
 「別にしなくてもいいですし、して一杯食べて何を言われようと構いません」
 「確かになぁ」

 その通りなんだが。
 こいつは「自分」をちゃんと確立している。
 外聞を気にするようなひ弱な人間に育てていない。

 「しかし、お前らあれだけ喰って、どうして太りもしないんだ?」
 「あ! やっぱり太ってないですよね!」
 「まーなー。でも、普通はそれって病気だぞ?」
 「そうなんですか?」
 「サナダムシとかなぁ。風呂に入ってると、お尻から紐が出て来ないか?」
 「なんですか、それ!」

 俺はサナダムシの生態を説明した。
 亜紀ちゃんは物凄く嫌な顔をした。

 「絶対嫌です」
 「まーなー」

 俺も寄生虫の類だとは考えていない。
 ただ、原因が分かれば対処も取れる。

 「でもタカさん。外では結構そんなに食べてませんよ?」
 「嘘つけ! こないだも学校から学食の利用で懇願されたんだぞ!」
 「にゃははははは」

 笑って誤魔化しやがる。

 「真夜も恥ずかしがってるだろう」
 「え? 真夜も最近5人前食べますよ?」
 「なに!」
 「私の親友ですからね!」

 伝染すんのか!

 「よく食べるようになったら、「花岡」の習得も進んで。結構強くなりました」
 
 真夜にも「花岡」を教えている。
 亜紀ちゃんの友達ならば、俺たちが巻き込んだに等しい。

 「まあ、お前らが元気であることが一番大事なんだがな」
 「はい! それと、亜紀ちゃんカワイイですよー!」

 俺はギョッとしてキッチンで酒の瓶を確認した。
 良かった、「霊破」じゃない。
 まあ、「霊破」は俺が厳重に仕舞っているのだが。

 俺たちは解散した。
 



 翌朝。
 8時に朝食を終え、荷物を積み込んだ。
 俺はコーヒーを飲みながら、待った。

 「ロボ、忘れんなよー」
 「はーい!」

 亜紀ちゃんがロボを乗せた。
 栞と鷹も来た。
 鷹は、夕べから栞の家に泊まっている。
 栞が助手席に乗る。
 
 「また宜しくね、石神くん」
 「ああ」
 「石神先生、お世話になります」
 「ああ、遠慮しないで楽しんでくれな」

 亜紀ちゃんは後ろで鷹と座った。
 ロボと双子はその後ろのシートだ。
 皇紀は一番後ろにいる。
 ロボは今は双子といるが、あいつは自由だ。
 好きな場所で寝る。

 六花と響子も来た。
 特別移送車だ。
 俺はドアを開け、二人にキスをした。

 「じゃあ、出発しようか!」
 「はい!」

 六花が明るく笑う。




 お盆を避けたので、道はそれほど混んではいない。
 子どもたちも元気で、歌を歌い騒いでいる。

 「ロボも歌ってー」

 ハーが言うと、にゃーにゃー鳴き出した。
 みんなで拍手した。
 うちの家族はみんなノリがいい。
 冷房を入れている。
 鷹が皇紀に頼んで、荷物からひざ掛けを出してもらった。
 栞に渡す。

 「ありがとう」

 栞が言い、鷹が微笑んだ。

 途中のサービスエリアで食事にする。
 亜紀ちゃんの陣頭指揮で、子どもたちと六花が買い出しに行く。
 響子は俺の隣に座り、ニコニコしている。

 「どうだ、気分は悪くないか?」
 「ぜっこうちょー!」
 「そうか」

 俺も笑った。

 「栞も大丈夫か?」
 「うん、ありがとう。平気だよ」

 鷹が俺を見て頷く。
 大量の食材をみんなで食べた。
 響子もカレーを一人前食べる。
 まあ、やっぱりこういうのがいい。
 子どもたちに我慢させるなんて、俺が間違っていた。
 こいつらは、いつだって大食いでいて欲しい。





 別荘には昼過ぎに着いた。
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