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御堂家、大騒動 Ⅵ

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 驚いた。
 バーベキューだった。
 焼き係が正巳さんだった。

 「大丈夫ですか?」
 「やらせてくれ! ああ、「任せろ」!」

 やりたかったらしい。
 一応俺が正巳さんの後ろに立ち、腕を組んで見張る。
 子どもたちは猛獣の目で睨んでいる。
 御堂は既に大笑いしている。

 正巳さんが肉を乗せた。
 次々に置いて行く。
 嬉しそうだ。
 俺は焼き具合を見て、正巳さんの肩を軽く叩く。

 「よし!」

 猛獣共が一斉に肉に箸を伸ばす。
 ガシガシと争う音がする。
 正巳さんは大喜びだった。
 柳も参戦し、負けじと肉を奪い取って行く。
 正巳さんは一層喜んだ。

 「柳もやるようになったか!」

 御堂も澪さんも笑っている。
 俺は網の端で麗星とロボの肉を焼いた。
 自分の分も焼き、テーブルで一緒に食べる。
 子どもたちは、バーベキュー台に群がったままだ。

 「相変わらずお元気ですね」

 麗星が微笑みながら言った。

 「道間のお宅でもご迷惑を」
 「いえいえ。楽しゅうございました」

 正利が野菜多目でテーブルに来た。

 「おい、お姉ちゃんは変わっただろう」
 「アハハハハハ!」

 一応、みんな柳への攻撃は手加減している。
 皇紀のように、骨折や、後で血を吐くこともない。
 一度咀嚼して、「あ、これ不味い」と皿に入れられることもない。

 「御堂家のみなさんも元気そうで安心したよ」
 「まあ、こっちは何もありませんしね」
 「そんなことはねぇだろう。軒下に世界最大のヘビがいる家なんてねぇぞ」
 「アハハハハハ!」

 菊子さん、御堂と澪さんも来た。

 「正巳さんは大丈夫ですか?」

 菊子さんに聞いた。

 「これを楽しみにしてたんですよ。石神さんが見えるって聞いて、ある日「あぁ!」って叫んで」
 「へぇー」
 「自分が焼くことを思いついたんですって。もう喜んじゃって」
 「そうですか」

 俺も笑った。

 「後でみんなで体験してみますか」
 「えぇー、それは」
 「ほら、手を叩いて鯉が寄って来るようなものですよ」
 「石神さん、大分違うような」

 澪さんが言い、みんなで笑った。

 「でも、親父、本当に楽しそうだ」
 「そうですね」

 正巳さんは大喜びで肉を焼いている。
 俺はみんなを連れて行った。
 正巳さんにも少し食べてもらいたい。
 御堂から焼き始める。
 笑い出した。

 「石神! 確かに面白いな!」

 菊子さん、澪さん、正利にもやらせる。

 「正利! 分かってるわね!」
 「お姉ちゃん!」

 柳の前に置かれた肉は、正巳さんが奪って行った。
 
 「おじーちゃーん!」
 「ワハハハハハ!」





 俺は子どもたちに自由に焼くように言い、御堂家のみなさんをテーブルに連れて行った。
 俺がみなさんのために焼き始めると、猛獣どもは唸りながら自分たちで焼き始める。
 俺が焼いたものが一番美味いと知っているのだ。
 俺はテーブルに運んだ。

 澪さんが冷えたビールを持って来る。
 旧家の嫁は大変だ。
 正巳さんは嬉しそうだった。

 「石神さん! 楽しかったよ」
 「いつでもお任せしますよ」
 「ワハハハハハ!」

 子どもたちも満腹になり、スープを飲みながらゆっくりと食べ始めた。
 満腹ってなんだろう。
 ロボは俺の足の上に上半身を乗せ、ベンチで寛ぎ始めた。
 俺は身体をゆっくりと撫でてやる。

 「その猫も普通じゃないんだね」

 正巳さんが言った。
 俺はロボを引き取った経緯を話し、ある日尾が割れているのに気付いた話をした。

 「トランシルヴァニアか」

 正巳さんが言った。

 「麗星さん、ロボのことは何か分かりますか?」
 「生憎と外国の「あやかし」は。でもやはり、日本の者とは少々違いますね」
 「どのような?」
 「なんと申しましょうか。存在の格が違うのは確かです。それに明るいと言うか、無邪気と言うか」
 
 ロボが尾を揺らしている。
 自分の話だと分かっているようだ。

 「とにかく、石神様と一緒にいるのが楽しいようですね」
 「そうですか」

 俺が澪さんに断り、卵を7つ貰った。
 ロボを連れ、軒下へ行く。

 「オロチ、俺たち今夕食を食べてるんだ。お前らもこれを喰ってくれ」

 卵を割って置いた。
 オロチが顔を出した。
 子どもヘビも出て来る。
 子どもヘビが卵を啜っているのを、オロチは見ている。
 卵生動物にはない光景だ。
 やはり、何かが違う。

 「これから頼んで、お前らの分も置いてもらうからな」

 オロチが舌を出した。

 「じゃあ、ゆっくり食べてくれ」

 俺とロボはテーブルに戻った。
 大体食材も食べつくし、子どもたちは後片付けを始めていた。
 大人たちで酒を飲み始める。
 正巳さんがご機嫌だ。

 「本当はちゃんと祝いたいんだが」

 正巳さんが残念がった。

 「あいつらがもっと大きくなったら。まあ、何百年先か分かりませんが」
 「そんなにかぁ!」
 「長生きして下さいね」

 麗星が笑った。

 「「羅天遠呂智」様も、千年以上御堂家を守っておられるのでしょう」
 「はぁ。この家は平安以前からありますから。お分かりになるので?」
 「はい。古のご先祖の方と、堅い約束を交わしているようです」

 正巳さんと麗星が話している。

 「ほら、やっぱり御堂家の蛇じゃねぇか!」
 「でも、石神に懐いてるよ?」
 「石神様は特別です。「あやかし」は、みんな石神様に魅せられてしまう」
 「そうなの?」
 「はい。「あやかし」は、人間の中に現われる、「光」の者に魅かれるのです。そのために、この世界に来ているような」
 「へぇー」
 「以前にも申しましたが、石神様は途轍もない「光」を持っていらっしゃる。磨き上げた道間が電球とすれば、石神様は火山の噴火のような」
 「なんですか、それ!」

 テーブルを片付けに来た柳が大きな声で叫んだ。

 「人間ばかりか、動物にもおモテになるとか。しかも尋常ではなく」
 「そうなんですよ! 私なんか全然相手にしてもらえなくて!」

 柳の頭をはたいた。

 「しかも、無茶なことを平然とされる。何度この日本が壊滅するところだったか」
 「すいません」

 さっき、そのことで物凄い説教をされた。




 
 俺は雰囲気を変えるために、ギターを借りた。
 麗星も、篠笛を持って来たと言う。
 俺は麗星に篠笛を吹かせ、ギターを合わせた。
 片づけを終えた子どもたちも集まって来る。
 みんな静かに俺たちのセッションを聴いた。

 俺は柳に向かって、唇に指を立てた。
 柳が悟って左を見た。
 オロチたちが来ていた。

 「!」

 麗星が曲目を変えた。
 俺もそれに合わせた。
 美しい、長音が続く曲だった。
 御堂が灯を消した。

 



 俺たちは、月明かりの下で、「響き」を味わった。
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