上 下
859 / 2,840

御堂家、大騒動 Ⅲ

しおりを挟む
 まずはロボだ。
 ロボは亜紀ちゃんと一緒にいた。

 「おーい、ロボ」

 俺の姿を見てトコトコと駆け寄って来る。
 カワイイ。
 俺は畳に座ってロボを抱いた。

 「お前なぁ。御堂の家に来ていきなり撃つなよなぁ」

 ロボは俺の顔をペロペロ舐めている。

 「誤魔化そうったってダメだ。もうやるなよな」

 ロボは俺の顔をじっと見ている。

 「やーるーなー!」
 「ニャ」

 分かったらしい。
 まあ、一応は被害が出ないように上空へ撃った。
 こいつなりに気遣いはあるのだろう。
 
 「タカさん、どうしてロボは……」

 亜紀ちゃんが言う。

 「俺に聞かれてもなぁ」
 「オロチを攻撃したんですかね?」
 「それはないな。そうだったら、まっすぐオロチにぶっ放したはずだ」
 「じゃあ、一体」
 「あいさつ、うーん、まあ示威行為かな」
 「それって?」
 「要は、舐められないように、かな?」
 「へぇー」

 よくは分からん。
 でも、ロボもオロチが途轍もない奴だと一瞬で分かったのだろう。
 もしも攻撃するのならば、ただじゃ済まさん、と。
 もしかしたら、俺たちを守るつもりだったのかもしれん。
 だったら、俺が仲良しだと分かって、もう大丈夫だろう。
 分らんが。


 「もう帰ろうかなー」
 「やめて下さいよ!」

 


 俺は麗星に電話した。

 「石神様!」

 麗星は嬉しそうに言ってくれた。

 「大変申し訳ないのですが」
 「いいえ! 何でも仰って下さいませ!」

 俺は麗星にこれまでの経緯を話した。
 オロチが5月に床下を叩き、俺が呼ばれて御堂の家に来たこと。
 不思議な夢と、その時の状況。
 今日、また御堂の家に来たら、オロチが出迎え、虹色の小さなヘビを見たこと。

 「「羅天遠呂智」は稀に「大虹龍破魔王」を地上に顕現させると、古文書に記述があります」
 「ダイコウリュウハマオウ?」

 麗星は字を教えてくれた。

 「数千年に一度。この世の危機に現われる究極の一体です。世界でただ一体の救世の存在です」
 「あの、五匹いたんですが?」
 
 「……」

 「あの、麗星さんへの信頼度が40パーセント減りました」
 「そんなに!」

 麗星はちょっとだけ待って欲しいと言った。
 10秒ほど保留になる。

 「あの、古文書には最大5体だとありました」
 「絶対、今作りましたよね!」

 「とにかく大変な事態でございます」
 「それでね、麗星さんに一度見て頂きたいのですが」
 「もちろんです」

 俺は御堂家の住所を告げた。

 「すぐに向かいます。今日の夕方には必ず」
 「お手数をお掛けします」

 出発してから、具体的な時間などをすり合わせることにした。




 俺は御堂と一緒に正巳さんの部屋へ行った。

 「申し訳ありませんでした!」

 畳に頭を擦り付けた。
 本当に申し訳ない。
 折角呼んで下さったのに、とんでもないことをしてしまった。

 「石神さん、お顔を挙げて下さい」

 正巳さんが笑って言った。
 美味そうに、俺の土産のコイーバをふかしている。
 菊子さんがコーヒーを運んで来た。

 「石神さんがコーヒー好きなんで、自分たちもすっかり。いや、美味いものですな」
 
 俺はロボはもう暴れないことを約束した。
 そしてオロチの子について話す。
 正巳さんも初めて聞いたようで、驚いていた。
 俺は麗星から聞いた話をした。

 「正嗣!」
 「うん」
 「すぐに祝いの準備を!」
 「分かった」

 「絶対やめてー!」

 俺は必死で止めた。

 「まだ秘密にして下さい。あれは今は幼体です。他に知れては不味い」
 
 正巳さんは考えていた。
 尤もらしいことを言ったが、俺は以前の大宴会に辟易としていた。

 「静かに見守る時期です。他の人間にはまだ話さないで下さいね」
 「分かった。石神さんの言う通りだ。いや、早まったことを考えてしまった」
 「いいえ。でも、流石は御堂家ですね。とんでもない守り神が、今度は世界を守るものを生み出したんですから」
 
 俺が言うと、正巳さんが嬉しそうだった。

 「それで、一度ああいうものの専門の家の人間に相談したいんです」

 俺は道間家のことを簡単に話し、今その当主がこちらへ向かっていることを話した。

 「それは是非そうして欲しい。ああ、大きな祝いはできんが、せめて今晩はみんなで祝おう。その方も一緒に」
 「ありがとうございます」

 麗星の了承を得た。
 これで一通りのことはやった。
 俺は御堂と食事の座敷へ行った。





 子どもたちと柳は、昼食の準備を手伝っている。
 食事のためだけであれば、家を6時に出ることはない。
 準備を手伝うためだ。
 俺はルーに言って、茶を頼んだ。
 澪さんが持って来た。

 「柳まで手伝っているんですよ」

 澪さんが嬉しそうに御堂に言った。

 「そうなのか。ありがとう、石神」
 「いや、柳が俺の家でも率先してやってただけだよ」
 「まあ」

 澪さんが微笑んだ。

 「本当は石神さんが、そうして下さったんでしょ?」
 「アハハハハ! まあ、うちの家族にもなったわけですからね」
 「ありがとうございます」

 澪さんはまた厨房へ戻った。


 麗星から電話が来た。
 三時に松本空港に着くらしい。
 俺が迎えに行くと言うと喜んだ。
 片道一時間くらいだ。
 一服して、俺は部屋に行った。
 亜紀ちゃんがロボと一緒にいる。

 俺はロボを連れ、庭に出た。
 もう二度とあんなことはさせてはならない。
 ロボを抱きかかえ、オロチのいる軒下へ行った。

 「おい、ロボ。もうやるんじゃないぞ」

 ロボは俺の顔を見ている。

 「オロチー!」

 呼んだ。
 出て来る。

 「オロチ、こいつは俺の家族のロボだ。大事な奴なんだ」

 オロチは俺を見ている。

 「ロボ、オロチだ。オロチも俺の大事な奴なんだ」

 ロボはオロチを見た。
 俺はロボを降ろした。
 何かあれば、俺が止める。
 ロボに威嚇や警戒の兆候は無い。
 オロチは――――分らん。
 ヘビの威嚇姿勢ってどんなだ?

 二頭が見合っている。
 10分経った。

 オロチが軒下の奥へ戻って行った。
 ロボはそれを見送り、上半身を伸ばし、俺の腰に前足を掛けた。
 抱けという合図だ。
 俺は笑ってロボを抱き上げ、座敷に戻った。




 ロボはずっと、俺の顔を舐めていた。
 ヒリヒリした。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

こずえと梢

気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。 いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。 『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。 ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。 幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。 ※レディース・・・女性の暴走族 ※この物語はフィクションです。

~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました

深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...