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フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
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8月初旬の水曜日。
俺はレイと、俺の部屋のテラスで星を見ながら飲んでいた。
亜紀ちゃんは真夜と夜遊びで、柳はレポートの作成に追われていた。
倉庫に仕舞い込んだ「タカハシ」の天体望遠鏡を引っ張り出し、組み上げた。
二人で酒を飲みながら、惑星や月を眺める。
「石神さん、素敵ですね」
「星はいいよなー!」
月は満月に向かって膨らんでいくところだ。
望遠鏡で見てもいいし、肉眼で眺めてもいい。
椅子を二脚と、小さなテーブルを置いて、あれこれと話した。
♪ Fly me to the moon Let me sing among those stars ♪
俺はバート・ハワードの「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」を歌った。
レイは静かに聴いている。
「石神さんは、時々この歌を歌いますよね」
「ああ、そうだな」
レイは俺の言葉を待っていた。
白状しろという顔をしている。
俺は笑った。
「なんだよ、亜紀ちゃんみたいだな」
「石神さんの思い出のお話は素敵なので」
俺は以前に亜紀ちゃんに話した「ミユキ」の話をレイにした。
幼い頃の火傷で左半身が醜く引き攣れていたミユキ。
しかし、その傷を乗り越え、JAXAで輝かしい実績を挙げた。
俺の誇らしい友達。
「ミユキとは一度一緒に入院したことがあるんだ」
「そうなんですか」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
小学6年生の11月。
俺はいつものごとく、高熱が下がらずに入院していた。
普段は家で大人しくしているのだが、40度以上の熱が4日続き、お袋が心配して入院することになった。
俺は身体もでかくなっていたので、小児病棟ではなく一般病棟にいた。
どうせ仲の良い入院患者と遊びたがる。
だから歩き回らせないように、最初から大人の6人部屋に入っていた。
病院には「トラ文庫」があり、俺のためにみんなが寄付してくれた本棚がある。
入院した人が、もういらないからと置いて行ってくれたものや、医者や看護婦の人たちの寄付、そしてエロ魔人のチョーさんは沢山のエロ本を残して行ってくれた。
チョーさんは今はいないが、酒好きだから、どうせまた胃腸か肝臓を悪くして戻って来る。
俺は静馬くんにもらった、三島由紀夫の『美しい星』を家から持って来ていた。
何度も読んでいる、お気に入りだった。
熱が少し引き、39度台になった。
俺は病院内を少し歩き回るようになった。
それも、いつものことだ。
廊下でミユキに会った。
「石神くん!」
「ミユキじゃん! どうしたんだ?」
「石神くんこそ。また入院?」
「おう! もう大分いいけどな」
俺たちは廊下のソファに座って話した。
ミユキは、お父さんの勧めで皮膚移植を試みるのだと言っていた。
「太ももとかからね、切り取って顔に移植するんだって」
「そうなのか! 上手く行くといいな!」
「うん!」
俺は友達が一緒で嬉しくなった。
「トラ文庫」を見せ、好きな本を持って行けとミユキに勧めた。
エロ本が一杯で、ミユキが青ざめた。
「あ! まともな本もあるから!」
「え、でも……」
「俺のはそういうの! エロ本は他の人のだから!」
「でも「トラ文庫」って書いてあるよ?」
「あ、アハハハハハ!」
「ウフフフフ」
ミユキも笑った。
俺は知り合いの入院患者を紹介し、看護婦の仲のいい人や、俺に親切な医者も紹介していく。
俺が一番信頼する医者に、ミユキを紹介した。
「南条先生! ミユキは俺の友達なんです!」
「そうか、よろしくね。でも今診察中だからね」
「ミユキ、南条先生なら絶対大丈夫だよ。俺が頼んでやる!」
「ほんとに!」
「ああ、この病院で最高の医者だからな!」
「おい、トラ!」
「南条先生! ミユキの手術をお願いします!」
「無理言うな!」
「頼みますよー!」
「俺は内科だ! それと、早く出て行け!」
ミユキが大笑いした。
俺はよくミユキの病室へ遊びに行った。
ミユキは俺が大人たちに混じっているので、ちょっと苦手そうだった。
たまに来ると、みんなが俺を冷やかした。
「トラ! 彼女か!」
「病院の中でヘンなことすんなよ!」
「うるせぇ!」
ミユキは最初は怖がっていたが、自分の容姿を気にしない連中に、次第に慣れて一緒に笑うようになった。
俺はミユキを誘って、夜に屋上へ上がった。
俺は毛布を二枚持って行った。
「石神くん、こんなことしていいの?」
「大丈夫だよ」
外はもう寒い。
俺たちは毛布にくるまって、屋上で星を眺めた。
「綺麗ね」
「寒くなるとさ、星が良く見えるんだよ」
「へぇー!」
俺はオリオンの三つ星を示し、いろいろな星の話をした。
外へ抜け出して居酒屋でもらった焼き鳥を、二人で食べた。
「美味しいね!」
「隠れて食べると美味しいだろ?」
「うん!」
焼き鳥は冷めていたが、本当に美味しかった。
毛布を身体に巻き付け、二人で横になった。
「ふらい・みー・とぅー・ざ・むーん」
ミユキが歌った。
「ここまでしか知らないの。でも大好きな歌なんだ」
「へぇー!」
二人で、「ふらい・みー・とぅー・ざ・むーん」と繰り返し歌った。
「私を月に連れてって、って意味なんだって」
「そうかぁ! いい歌だな!」
俺がそう言うと、ミユキが喜んだ。
屋上のドアが開く音がした。
カツカツとこちらへ向かう足音がする。
「とーらーちゃーん!」
顔見知りの看護婦が怖い声で言った。
「すみません!」
「何やってるの!」
「ちょっと星を見たいとか、アハハハ」
「バカァ!」
俺は土下座した。
「トラちゃん! いくら彼女と仲良くしたいからって!」
「すみませんでしたー!」
ミユキが嬉しそうに笑っていた。
「あ! 焼き鳥食べたの!」
「あれ、そういえば落ちてますね」
「あんた! 口が焼き鳥臭いわよ!」
「ああ、俺でしたー! アハハハハハハ!」
「笑ってごまかすな!」
ミユキが大笑いした。
「ミユキちゃん、こいつはバカなんだからついて来ちゃダメよ」
「すいません」
「俺が無理矢理誘ったんです」
「そんなこと分かってるわよ!」
俺たちは病室に戻された。
翌朝、俺はいろんな人に「ふらい・みー・とぅー・ざ・むーん」の歌を知らないか、歌ってみせて聞いて回った。
みんな、聞いたことはあるけど、歌えないと言った。
「南条せんせー!」
「またお前か! 今は診察中だぁー!」
「「ふらい・みー・とぅー・ざ・むーん」って歌、知ってますか?」
「後にしろ!」
俺は看護婦たちに追い出されそうになった。
「お願いします! 友達が歌いたいってぇー!」
「先生、俺は後でいいですから」
服をまくっていた男性が言った。
「お前なぁ。分かったよ! でも後にしろ! 明日レコードを持って来てやる!」
「ありがとうございます! やっぱ南条先生は最高の医者だぁ!」
みんな笑っていた。
翌日、南条先生がレコードを持って来てくれた。
歌詞もあった。
「英語じゃん」
俺は途方に暮れた。
フランク・シナトラのそのシングルレコードを持って、英語が出来る人を探した。
みんなバカだった。
「南条せんせー!」
「トラ! いい加減にしろ! 診察中に来るんじゃねぇ!」
「歌おしえてー」
南条先生に忙しい中教えてもらった。
メロディは、貢さんのしごきのお陰もあり、すぐに覚えた。
歌詞も必死に覚えた。
俺はまたミユキを屋上に誘った。
「石神くん、またまずいよ」
「今日は短い時間だからさ!」
♪ Fly me to the moon Let me sing among those stars ♪
ミユキの顔が輝いた。
歌い終わると、ミユキが俺の手を両手で握ってくれた。
「すごいよ! 石神くん!」
「エヘヘヘヘ」
もう一度聴きたいと言うので、俺はまた歌った。
「これでいつでもミユキのために歌えるからな!」
「ありがとう!」
ミユキの皮膚移植が始まった。
俺はずっと祈っていた。
ミユキがあんなに苦しんでいた火傷。
もう、いい加減に終わっていいはずだ。
あんなにいい奴が、あんなに苦しんでいいわけがない。
俺は必死に祈った。
しかし、ミユキの顔は元には戻らなかった。
皮膚の深い所まで冒されていた。
「石神くん、ダメだったよ」
「うん」
退院したミユキが悲しそうに言った。
《もし自分の假に享けた人間の肉體でそこに到達できなくても、どうしてそこに到達できない筈があらうか》
「それは何?」
「俺の大好きな三島由紀夫の『美しい星』の最後に出て来る言葉なんだ。俺はこの言葉が大好きなんだ」
「そうなの」
「俺たちは出来ないことがあるよ。どんなに望んでもダメなことは多い。でもさ、三島はそうじゃないんだって言ってる」
「!」
「ミユキの魂は物凄く綺麗だ」
「石神くん!」
「ミユキなら、どこだって到達できるよ!」
「うん!」
ミユキが喜んでいる。
「俺の皮なら幾らでもやるんだけどなー」
「え?」
「でも、俺もボロボロじゃん」
「ウフフフ」
「こんなのもらっても、だろ?」
「ううん、欲しいかな!」
「そうか!」
「うん!」
「じゃあ、今度南条先生に頼んでみよう!」
「えー、あの先生、内科じゃない」
「あ、そうかぁー!」
二人で笑った。
ミユキはその後父親の仕事の都合で引っ越して行った。
ずっと手紙のやり取りをしていたが、俺が高校卒業後にアメリカへ渡り、途絶えてしまった。
俺は何度か手紙を出そうとも思ったが、辞めた。
もう、ミユキと関わる資格は無いと思っていた。
でも、ずっと友達でいたいと思っている。
今も。
まだ。
俺はレイと、俺の部屋のテラスで星を見ながら飲んでいた。
亜紀ちゃんは真夜と夜遊びで、柳はレポートの作成に追われていた。
倉庫に仕舞い込んだ「タカハシ」の天体望遠鏡を引っ張り出し、組み上げた。
二人で酒を飲みながら、惑星や月を眺める。
「石神さん、素敵ですね」
「星はいいよなー!」
月は満月に向かって膨らんでいくところだ。
望遠鏡で見てもいいし、肉眼で眺めてもいい。
椅子を二脚と、小さなテーブルを置いて、あれこれと話した。
♪ Fly me to the moon Let me sing among those stars ♪
俺はバート・ハワードの「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」を歌った。
レイは静かに聴いている。
「石神さんは、時々この歌を歌いますよね」
「ああ、そうだな」
レイは俺の言葉を待っていた。
白状しろという顔をしている。
俺は笑った。
「なんだよ、亜紀ちゃんみたいだな」
「石神さんの思い出のお話は素敵なので」
俺は以前に亜紀ちゃんに話した「ミユキ」の話をレイにした。
幼い頃の火傷で左半身が醜く引き攣れていたミユキ。
しかし、その傷を乗り越え、JAXAで輝かしい実績を挙げた。
俺の誇らしい友達。
「ミユキとは一度一緒に入院したことがあるんだ」
「そうなんですか」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
小学6年生の11月。
俺はいつものごとく、高熱が下がらずに入院していた。
普段は家で大人しくしているのだが、40度以上の熱が4日続き、お袋が心配して入院することになった。
俺は身体もでかくなっていたので、小児病棟ではなく一般病棟にいた。
どうせ仲の良い入院患者と遊びたがる。
だから歩き回らせないように、最初から大人の6人部屋に入っていた。
病院には「トラ文庫」があり、俺のためにみんなが寄付してくれた本棚がある。
入院した人が、もういらないからと置いて行ってくれたものや、医者や看護婦の人たちの寄付、そしてエロ魔人のチョーさんは沢山のエロ本を残して行ってくれた。
チョーさんは今はいないが、酒好きだから、どうせまた胃腸か肝臓を悪くして戻って来る。
俺は静馬くんにもらった、三島由紀夫の『美しい星』を家から持って来ていた。
何度も読んでいる、お気に入りだった。
熱が少し引き、39度台になった。
俺は病院内を少し歩き回るようになった。
それも、いつものことだ。
廊下でミユキに会った。
「石神くん!」
「ミユキじゃん! どうしたんだ?」
「石神くんこそ。また入院?」
「おう! もう大分いいけどな」
俺たちは廊下のソファに座って話した。
ミユキは、お父さんの勧めで皮膚移植を試みるのだと言っていた。
「太ももとかからね、切り取って顔に移植するんだって」
「そうなのか! 上手く行くといいな!」
「うん!」
俺は友達が一緒で嬉しくなった。
「トラ文庫」を見せ、好きな本を持って行けとミユキに勧めた。
エロ本が一杯で、ミユキが青ざめた。
「あ! まともな本もあるから!」
「え、でも……」
「俺のはそういうの! エロ本は他の人のだから!」
「でも「トラ文庫」って書いてあるよ?」
「あ、アハハハハハ!」
「ウフフフフ」
ミユキも笑った。
俺は知り合いの入院患者を紹介し、看護婦の仲のいい人や、俺に親切な医者も紹介していく。
俺が一番信頼する医者に、ミユキを紹介した。
「南条先生! ミユキは俺の友達なんです!」
「そうか、よろしくね。でも今診察中だからね」
「ミユキ、南条先生なら絶対大丈夫だよ。俺が頼んでやる!」
「ほんとに!」
「ああ、この病院で最高の医者だからな!」
「おい、トラ!」
「南条先生! ミユキの手術をお願いします!」
「無理言うな!」
「頼みますよー!」
「俺は内科だ! それと、早く出て行け!」
ミユキが大笑いした。
俺はよくミユキの病室へ遊びに行った。
ミユキは俺が大人たちに混じっているので、ちょっと苦手そうだった。
たまに来ると、みんなが俺を冷やかした。
「トラ! 彼女か!」
「病院の中でヘンなことすんなよ!」
「うるせぇ!」
ミユキは最初は怖がっていたが、自分の容姿を気にしない連中に、次第に慣れて一緒に笑うようになった。
俺はミユキを誘って、夜に屋上へ上がった。
俺は毛布を二枚持って行った。
「石神くん、こんなことしていいの?」
「大丈夫だよ」
外はもう寒い。
俺たちは毛布にくるまって、屋上で星を眺めた。
「綺麗ね」
「寒くなるとさ、星が良く見えるんだよ」
「へぇー!」
俺はオリオンの三つ星を示し、いろいろな星の話をした。
外へ抜け出して居酒屋でもらった焼き鳥を、二人で食べた。
「美味しいね!」
「隠れて食べると美味しいだろ?」
「うん!」
焼き鳥は冷めていたが、本当に美味しかった。
毛布を身体に巻き付け、二人で横になった。
「ふらい・みー・とぅー・ざ・むーん」
ミユキが歌った。
「ここまでしか知らないの。でも大好きな歌なんだ」
「へぇー!」
二人で、「ふらい・みー・とぅー・ざ・むーん」と繰り返し歌った。
「私を月に連れてって、って意味なんだって」
「そうかぁ! いい歌だな!」
俺がそう言うと、ミユキが喜んだ。
屋上のドアが開く音がした。
カツカツとこちらへ向かう足音がする。
「とーらーちゃーん!」
顔見知りの看護婦が怖い声で言った。
「すみません!」
「何やってるの!」
「ちょっと星を見たいとか、アハハハ」
「バカァ!」
俺は土下座した。
「トラちゃん! いくら彼女と仲良くしたいからって!」
「すみませんでしたー!」
ミユキが嬉しそうに笑っていた。
「あ! 焼き鳥食べたの!」
「あれ、そういえば落ちてますね」
「あんた! 口が焼き鳥臭いわよ!」
「ああ、俺でしたー! アハハハハハハ!」
「笑ってごまかすな!」
ミユキが大笑いした。
「ミユキちゃん、こいつはバカなんだからついて来ちゃダメよ」
「すいません」
「俺が無理矢理誘ったんです」
「そんなこと分かってるわよ!」
俺たちは病室に戻された。
翌朝、俺はいろんな人に「ふらい・みー・とぅー・ざ・むーん」の歌を知らないか、歌ってみせて聞いて回った。
みんな、聞いたことはあるけど、歌えないと言った。
「南条せんせー!」
「またお前か! 今は診察中だぁー!」
「「ふらい・みー・とぅー・ざ・むーん」って歌、知ってますか?」
「後にしろ!」
俺は看護婦たちに追い出されそうになった。
「お願いします! 友達が歌いたいってぇー!」
「先生、俺は後でいいですから」
服をまくっていた男性が言った。
「お前なぁ。分かったよ! でも後にしろ! 明日レコードを持って来てやる!」
「ありがとうございます! やっぱ南条先生は最高の医者だぁ!」
みんな笑っていた。
翌日、南条先生がレコードを持って来てくれた。
歌詞もあった。
「英語じゃん」
俺は途方に暮れた。
フランク・シナトラのそのシングルレコードを持って、英語が出来る人を探した。
みんなバカだった。
「南条せんせー!」
「トラ! いい加減にしろ! 診察中に来るんじゃねぇ!」
「歌おしえてー」
南条先生に忙しい中教えてもらった。
メロディは、貢さんのしごきのお陰もあり、すぐに覚えた。
歌詞も必死に覚えた。
俺はまたミユキを屋上に誘った。
「石神くん、またまずいよ」
「今日は短い時間だからさ!」
♪ Fly me to the moon Let me sing among those stars ♪
ミユキの顔が輝いた。
歌い終わると、ミユキが俺の手を両手で握ってくれた。
「すごいよ! 石神くん!」
「エヘヘヘヘ」
もう一度聴きたいと言うので、俺はまた歌った。
「これでいつでもミユキのために歌えるからな!」
「ありがとう!」
ミユキの皮膚移植が始まった。
俺はずっと祈っていた。
ミユキがあんなに苦しんでいた火傷。
もう、いい加減に終わっていいはずだ。
あんなにいい奴が、あんなに苦しんでいいわけがない。
俺は必死に祈った。
しかし、ミユキの顔は元には戻らなかった。
皮膚の深い所まで冒されていた。
「石神くん、ダメだったよ」
「うん」
退院したミユキが悲しそうに言った。
《もし自分の假に享けた人間の肉體でそこに到達できなくても、どうしてそこに到達できない筈があらうか》
「それは何?」
「俺の大好きな三島由紀夫の『美しい星』の最後に出て来る言葉なんだ。俺はこの言葉が大好きなんだ」
「そうなの」
「俺たちは出来ないことがあるよ。どんなに望んでもダメなことは多い。でもさ、三島はそうじゃないんだって言ってる」
「!」
「ミユキの魂は物凄く綺麗だ」
「石神くん!」
「ミユキなら、どこだって到達できるよ!」
「うん!」
ミユキが喜んでいる。
「俺の皮なら幾らでもやるんだけどなー」
「え?」
「でも、俺もボロボロじゃん」
「ウフフフ」
「こんなのもらっても、だろ?」
「ううん、欲しいかな!」
「そうか!」
「うん!」
「じゃあ、今度南条先生に頼んでみよう!」
「えー、あの先生、内科じゃない」
「あ、そうかぁー!」
二人で笑った。
ミユキはその後父親の仕事の都合で引っ越して行った。
ずっと手紙のやり取りをしていたが、俺が高校卒業後にアメリカへ渡り、途絶えてしまった。
俺は何度か手紙を出そうとも思ったが、辞めた。
もう、ミユキと関わる資格は無いと思っていた。
でも、ずっと友達でいたいと思っている。
今も。
まだ。
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