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戦友たち

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 俺の話を聞いて、六花は衝撃を受けていた。
 こいつは俺と共に生き、俺と共に死ぬのだと言っている。
 それは愛ゆえのことだったが、そこに「意味」を見出した。
 俺たちの「戦い」は、自分に深い因縁がある、と。
 六花は黙って遠くを見詰めていた。

 「石神先生、チェルノブイリへ行きましょう」
 「待て、六花。もう「業」は移動しているだろう」
 「え?」
 「今の話は、一年前のものなんだ。早乙女が漸く掴んでくれた情報なんだが、時間が経ちすぎている。「業」はもう目的を達して別な場所にいる可能性が高い」

 「そうですか」

 六花は納得してくれた。

 「「業」は必ず俺の前に現われる。俺たちは必ず戦うことになる」
 「その時にはぁ!」

 六花は立ち上がり叫んだ。
 全員が立ち上がり、雄叫びを挙げた。

 「俺は京都へ行く」
 「え、タカさん!」

 亜紀ちゃんが俺を見た。

 「途中でひっくり返ってもな。麗星に会わなければならない」
 「でも」
 「道間一族を締め上げてでも、「業」の情報を得なければならん」
 「じゃあ、私も一緒に行きます!」
 「石神先生、私も!」

 亜紀ちゃんと六花が言った。

 「まあ待て。俺も少し考える。それと、麗星は敵じゃねぇ。場合によっちゃ分らんがな。「業」や綺羅々を生み出した連中だけどな。旧い家系だ。いろいろと深いんだろうよ」

 俺は一旦解散だと言い、夕飯にし、その後で六花を送って行った。



 「六花、大丈夫か?」

 六花は夕飯をあまり食べなかった。

 「はい。何だか今日は一杯あり過ぎて」
 「そうだったな」

 15分ほどで六花のマンションに着く。
 俺は一緒に部屋まで行った。
 いつもは玄関に入るなり服を脱ぎ、抱き着いて来る女が、黙って家に入った。

 「石神先生」
 「どうした?」
 「今日はちょっと、そういう気分には」
 「お前! 俺がしたがってると思ってんのかぁ!」

 俺たちはやっと笑った。
 六花をリヴィングのソファに座らせ、俺はミルクを温めてやった。

 「石神先生、私の母は」
 「ああ。前に話したよな」

 六花の祖父は政府高官だったが、チェルノブイリ原発事故の後で発生した謎の病気に関わって破滅した。
 娘の六花の母・サーシャさんも政府に追われ、日本へ脱出した。

 「「業」は蓮華にやらせていたように、人間の改造に興味がある。俺は蓮華が自分の意志で考えてやっていたと思っていたが、そうではなかったのかもな」
 「え?」
 「蓮華は「業」の命令で動いていたのかもしれん」
 「そうですか」

 六花は蓮華との戦いを実際に経験している。

 「蓮花を見ていて思う。蓮花は優しい心を持つ女だ」
 「そうですね」
 「その姉が全く違うとは、俺にも思えない」
 「はい」

 蓮花は蓮華が俺に倒されて、呪縛から逃れたというようなことを言っていた。

 「これから色々と調べなければならんな」
 「はい、私にお手伝いできることがあれば仰って下さい」
 
 六花が真っすぐに俺を見ていた。

 「一つあるんだ」
 「はい! 何でも!」
 「お前みたいな綺麗な女が目の前にいるとな」
 「はい?」

 「どうしても我慢できねぇ!」

 六花が笑った。

 「石神先生は、本当にセックスがお好きですね」
 「お前に言われたくねぇ! まあ、セックスが好きと言うよりもな」
 「はい」
 「お前が大好きなんだよ」
 「ウフフフ」

 六花が眠ったのを確認し、俺はマンションを出た。





 翌日の月曜日。
 俺は昼食に栞、鷹、一江、大森を誘って、昨日の話をした。

 「石神くん!」

 栞には道間家の話は伏せていた。
 自分の弟がとんでもない「改造」をされていたことを、教えたくなかった。

 「「業」は……」
 「栞、お前は抜けてもいいんだぞ」
 「石神くん……」
 「兄弟で争うなんて、元々無茶なことを言ってたんだ」
 「何言ってるの。そんなこと、私は最初から分かってるよ」
 
 栞は俺を見て言った。

 「そうか」

 俺たちは黙って食事をした。
 聘珍楼の個室だ。

 「一江! ここまでの話でお前はどう思う?」
 「はい! まずは情報を。道間麗星さんに会うのもそうですが、花岡斬、それと蓮花さんにも話を聞くべきかと」
 「他には?」
 「ロシアでの情報が欲しいですね」
 「そっちはロシア大使館の伝手を使ってみるけどな。それと早乙女も引き続き追ってくれている。ロシアは日本の公安も警戒しているからな」
 「早乙女さんには、もっと出世して欲しいですね」
 「なるほど。そっちの方面もやってみるか」
 「はい?」

 「手柄があればいいんだろうよ!」

 俺は獰猛に笑った。

 「部長、悪い顔をしてますねぇ」
 「善人だったことはねぇ」

 みんなで笑った。



 その夜。
 俺は早乙女と会った。
 早乙女のマンションへ行く。
 早乙女にも、俺が考えた「業」の行方を話した。
 六花の名前は伏せ、チェルノブイリの近くの村で発生した病気の話もする。

 「なるほど」
 「お前があの時に邪魔しなきゃな。もっと早く辿り着いていたんだろうが」
 「それは申し訳ない」

 早乙女が謝った。

 「冗談だよ、親友!」

 早乙女が顔を輝かせて俺を見る。

 「お前が掴んできてくれた情報のお陰だ。感謝しかねぇよ」
 「石神……」

 早乙女は、先日俺が見舞いに来た礼を言った。

 「石神が持って来てくれたフルーツはどれも美味かった」
 「そうか」
 「わざわざ千疋屋で買って来てくれたんだな」
 「ああ。お前がちょっと時間が欲しいって言ってたからな」
 「高いものなんだろう?」
 「まあな。桃は一つ六千円だったな」
 「え!」
 「アハハハハ!」

 「俺が出すよ!」
 「やめとけ、公務員」
 「でも!」
 「俺は金は十分にあるんだ。知ってるだろ?」
 「しかし……」

 「早乙女、お前にはまだまだ世話になる。「業」の情報を頼むな」
 「分かっている。これは公安の仕事としても重要なことだ」
 「それでな。お前にはもっと出世して欲しいんだ」
 「え?」

 早乙女はヘンな顔をした。

 「もっと情報を得るためにな。お前にはある程度の裁量で出来るようになって欲しいんだよ」
 「それはもちろん」
 「俺たちも協力する。まあ、情報収集じゃあまり役には立たんけどな。でもぶっ壊すのは大得意だ」
 「なるほど」

 「そういう手柄になる話なら、いつでも言ってくれ、親友!」

 早乙女は目に涙を浮かべていた。

 「分かった、親友!」

 楽しい奴だ。




 早乙女は純粋な男だ。
 今の下らない、おつむの良いお綺麗な連中と付き合って来なかったのが良かったのだろう。
 本当に優しく、美しい男だ。



 俺の戦友に相応しい。
 純粋なことにかけては、聖と同じだ。
 俺は早乙女の肩を叩き、部屋を出た。

 俺は笑いながら家に帰った。 
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