上 下
805 / 2,840

石神家 in フィリピン Ⅱ

しおりを挟む
 顕さんと話した翌週。
 桜は現地の真岡という男が案内役になると言って来た。

 「自分もやっぱり行きます!」
 「お前が来てもなー」
 「いえ! 明日の飛行機を押さえましたから」
 「ほんとに来んの?」
 「はい!」

 「まあいいけど。俺たちは金曜の夜になる。向こうの待ち合わせ場所を決めてくれ。その夜のうちに終わらせるからな」
 「え!」
 「俺らは忙しいんだよ。ああ、亜紀ちゃんと双子を連れて行く。食事の用意を頼むな。食事は分かってるな!」
 「は、はい!」

 「ヤサは掴んでいるか?」
 「はい! 現地ですぐにご案内します!」
 



 そして金曜の夕方。
 俺は早めに仕事を上がり、4時に家に帰る。
 亜紀ちゃんたちは準備が出来ている。

 「じゃあ、行くか」
 「「「はい!」」」

 全員手ぶらだ。
 何の準備も無い。
 俺はスマホと財布を持っているだけ。
 後は子どもたちが、GPSと一応の変装用のウィッグと塗料を持っているだけ。
  
 タイガーストライプのコンバットスーツと、ビブラムソールのブーツ。
 それで全てだ。



 庭から上空へ上がり、亜紀ちゃんの先導でフィリピンへ向かった。
 恐らく様々なレーダーに捕捉されているだろうが、俺たちを追える相手はいない。
 謎の高速飛翔物体であり、それ以上のことは分からない。

 本当に30分で着いた。



 人目を避けてマニラ・オーシャン・パークに降り、待ち合わせの桜たちに合流した。

 「お前、ほんとにいたのか」
 「石神さん、そりゃないですよ」
 「まあいい。まずは飯だ」
 
 真岡の運転するハイエースで、郊外のテラスレストランへ行った。
 俺たちは一応ジーンズにTシャツになっている。
 マニラはまだ6月だが異常に暑い。
 もう30度を超えている。

 「タカさん、暑いね」

 ルーが言う。

 「ああ。早く仕上げて帰ろう」
 「うん」

 現地時間でまだ6時半だ。
 日本時間で5時半。

 「店の人間は準備だけしていません。貸し切りにしました」
 「そうか」

 桜が気を回していた。
 俺たちが適当に座ると、桜と真岡が肉を焼いて持って来る。
 それをたらふく喰った。

 「桜、ありがとうな」
 「いいえ!」
 「また俺の家に来たらホモビデオ見せてやるからな」
 「え、いえ、それは」
 
 真岡が桜を驚いて見ていた。

 「だって、こないだ俺んちで観たじゃん」
 「確かに観ましたけど」

 真岡が桜からちょっと離れた。

 「遠慮すんなって」
 「は、はい」
 
 コーヒーが配られ、真岡が14Kのアジトの説明をした。

 「大体、この時間に集まってます。金曜は幹部も全員来ますよ」
 「丁度いいな」

 俺は周辺の地図を見た。

 「千万組とは接点はあるのか?」
 「いえ。うちらは別系統の組織です。どちらかと言うと敵対的な相手ですね」
 「じゃあ、遠慮なくぶっ潰してもいいんだな?」
 「はい!」

 真岡の運転で、14Kのアジトのビルへ行く。



 中国は長い歴史の中で、黒社会を三合会が支配するようになった。
 幾つかの派閥があるが、14Kは最大派閥であり、海外でも中国人地区を拠点に発展している。
 フィリピンでは現地のギャングと提携し、人員の交流も盛んだった。
 それが、今では独立組織として活動しているようだ。
 フィリピンには20万人の中国人がいる。
 だから一つの勢力になってもおかしくはない。
 今回、奴らは10億ドルの示談金を請求していた。



 アジトのビルは、マニラ市街の東側にあった。
 10階建ての大きなビルだ。
 離れた場所で車を降り、桜たちは車に残す。
 車の中で、俺たちは顔を黒く塗り、ウィッグを被っていた。
 俺たちは屋上から侵入した。

 屋上のドアは施錠されているので、ハーが吹っ飛ばす。
 最上階でルーとハーが波動で幹部の集会を探す。
 こういう時は、こいつらの特殊能力が本当に便利だ。
 5分も掛からずに、会議室を見つけた。

 廊下に立っているガード二人を襲い、ドアを蹴破る。
 ガードは廊下の先まで吹っ飛んだ。
 20人程がでかい円卓を囲って集まっていた。

 「この中で、〇〇商業施設に関わっている奴は誰だ?」

 俺が英語で言った。
 全員が驚いて立っている。
 俺は手前の人間の腕を折った。

 「誰だ?」

 もう一人の肩を掴んで潰した。
 背後の廊下で、こちらへ向かってくる人間を、双子が吹っ飛ばしている。
 亜紀ちゃんが「虚震花」で廊下を潰した。
 二人の人間が手を挙げた。

 「もう手を出さないのなら、お前らの命は奪わない」
 
 亜紀ちゃんが部屋の天井を消失させた。
 全員が頷いた。
 俺は部屋の左側をすべて吹っ飛ばした。

 「約束を違えれば、今度はお前ら全員を消す。俺たちはいつでも簡単にそれが出来る」

 また全員が頷いた。
 俺たちは亜紀ちゃんが開けた穴から外へ出て、そのまま車で去った。




 「石神さん! ビルの上が吹き飛びました!」

 桜が驚いていた。

 「腹が減ったな」
 「はい?」
 「どこか屋台が一杯ある所へ連れてってくれ」

 俺は後ろで着替えながら言った。

 「子どもたちがまだ喰うってよ」
 「はい!」

 真岡が大笑いした。

 「石神さん! 最高です!」

 

 車を駐車場に停め、真岡の案内で屋台が並ぶストリートへ行った。
 俺は子どもたちに好きなように喰えと言った。
 金は両替してある。
 
 ブタの丸焼きがあった。
 いい色に焼けている。
 亜紀ちゃんが見つけ、早速3頭ほど買い、近くのテーブルで夢中で喰っていった。
 真岡が次々に美味そうなものを買ってくる。
 豚まんのようなものや、シウマイ、その他よく分からないもの。
 俺たちの喰いっぷりに、人が集まって来る。
 ガンガン食べていると、俺の後ろから声を掛けられた。

 「あれ? ルーちゃんとハーちゃん?」

 声で分かった。
 顕さんだった。
 亜紀ちゃんが咄嗟に俯く。
 俺はルーとハーの顔面に、豚の頭をくっつけた。
 そのまま急いで離れた。



 駐車場で待っていると、桜たちが走って来た。

 「すぐに出せ!」

 俺たちは、最初の公園へ行った。
 また車の中でコンバットスーツに着替える。

 「じゃあ、帰るからな!」
 「え!」
 「真岡! 今後も反対運動があったらすぐに知らせろ」
 「は、はい!」

 「じゃあな!」
 「本当にもうお帰りですか!」
 「おう! 二人とも、世話になったな」
 「「いいえ!」」

 俺たちは飛び去った。
   




 20分後、俺たちは栞の家の庭に降りた。
 栞が気付いて出て来た。

 「石神くん!」
 「おーす」
 「みんな、どうしたの?」
 「悪い、旅行の帰りなんだ」
 「え?」

 「フィリピンにな。ちょっとな」
 「何言ってんの?」

 「ああ、栞! 明日は昼飯でも喰いに来いよ」
 「え、うん。嬉しいけど」
 「じゃ、そういうことで」
 「ちょっと!」

 俺たちは塀を飛び越えて帰った。



 風呂に入り、四人でリヴィングで寛いだ。
 俺と亜紀ちゃんはワイルドターキーを呑み、双子は葛湯を大量に作り、でかいジョッキに氷を入れて飲んだ。

 「タカさん」

 亜紀ちゃんが言った。

 「あんだよ」
 「今度アメリカ行って支配しちゃいます?」
 「やめてやれ」

 「でも、いつでも海外旅行に行けるっていいですね」
 「お前、絶対に俺の許可なく「飛行」使って行くなよな!」
 「分かってますよ!」
 「ルーとハーもだぞ!」
 「「はーい」」
 
 絶対に大事を起こすに決まっている。

 

 


 数日後、顕さんから連絡が来た。

 「石神くん! こないだ話した反対運動がなくなっちゃったよ!」
 「え! そうなんですか?」
 「うん。なんか突然誰も来なくなっちゃって。本当によく分からないんだ」
 「そうなんですか。でも良かったじゃないですか!」

 「そうだけどなぁ。ああ! ルーちゃんたちにそっくりな子を見たんだよ」
 「ルーに?」
 「ハーちゃんもいた! 絶対そうだと思ったんだけどな。石神くんみたいに大きな人が連れてっちゃったんだ」
 「へー」

 「こっちへみんなで来てないよね?」
 「行くわけないじゃないですか」
 「そうなんだけどなー」
 「行ったら絶対に顕さんに会いに行きますって」
 「そうだよね。じゃあやっぱり勘違いか」
 「当たり前ですよ。それで顕さんはちょっとでも日本に帰って来れないんですか?」
 「まだやることが一杯でなぁ。時間が出来たらきっと行くよ」
 「待ってますよ!」

 顕さんは嬉しそうだった。

 「そのそっくりな二人な、レチョンのブタの顔を付けて逃げてったんだよ」
 「レチョン?」

 顕さんはブタの丸焼きのことだと言った。

 俺は電話を切り、双子のキャンプの写真を顕さんにメールに添付して送った。
 すぐに顕さんが大笑いしたと返信が来た。

 桜から、ゆっくり話がしたいと連絡が来た。

 「ブタの丸焼きを用意しておけ」

 桜は絶対に用意すると言った。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました

深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...