上 下
799 / 2,840

くしゃみ

しおりを挟む
 蓮花の研究所から家に帰ると、ロボが物凄いスピードで階段を駆け降りて来た。
 二本足で立って俺に抱き着いて来る。

 「おう、ただいま、ロボ」

 抱き上げて上がると、亜紀ちゃんが俺の靴を仕舞う。
 階段の途中で駆け上がって来て、亜紀ちゃんもロボを撫でた。
 ロボは嬉しそうに壮大にゴロゴロと喉を鳴らした。

 リヴィングでは食事の用意を皇紀と双子、柳でやっていた。
 今日はカレーライスだ。
 レイはまだ戻っていない。

 「「「「おかえりなさーい!」」」」

 「おう、ただいま」
 「ただいまー」

 俺と亜紀ちゃんは着替えに行く。
 ロボは俺にべったりだ。
 寂しかったのだろう。
 俺はベッドにロボを置いて着替えた。

 《クチッ》

 ロボがくしゃみをした。
 見ると、小さな鼻提灯が出ている。
 物凄くカワイイ。
 ロボは前足で鼻をこすった。

 「おい、カゼ引いたのか?」

 俺が服を着てロボの頭に触る。
 少し熱いような気がする。

 「大丈夫かよ?」
 「ニャー」

 俺はリヴィングへ行った。



 「ロボがくしゃみをした」

 俺がそう言うと、柳が説明してくれた。

 「石神さんがいないんで、家中探してたんですよ。夜は一緒に寝ようかと誘ったんですが、一時は一緒にいても、すぐに石神さんのベッドに行って。夜中も何度も寝室と玄関を行き来してたみたいです」
 「そうなのか」

 この二日は結構朝晩は冷えた。

 「ちょっと食欲も無かったんですよ」

 ルーが言った。
 俺はロボの食事を準備した。
 マグロの柵を切ってやり、卵黄をまぶしてやった。
 ロボは夢中で食べる。

 「あ! 美味しそうに食べてる!」

 ルーが叫んだ。

 「まあ、しばらく温かくしてれば大丈夫だろう」
 
 今日はタイカレー(グリーンカレー)だ。
 蓮花の作ったタイカレー風の自然薯で刺激された。
 レシピは『カレーのすべて―プロの味』を参考に、ナスとオクラを入れ、エビはクルマエビを使うように指示した。
 蓮花の研究所を出る前に電話した。
 双子は辛いものが苦手だったが、タイカレーは気に入ったようだ。
 俺がココナッツミルクを少し甘くして出してやると、バカみたいに飲んだ。




 月曜日。

 昼頃に響子の部屋へ行こうとすると、六花から響子が風邪気味だと聞いた。
 熱は37度程度だ。
 部屋へ行くと、六花はマスクをしていた。
 俺も聞いているので着けている。

 「おい、風邪を引いたんだって?」
 「うん」
 「また夜中に出歩いたんだろう」
 「やってないよ」

 《クチュッ》

 響子がくしゃみをした。
 少し洟が出た。
 カワイイ。
 六花がティッシュで拭ってやる。

 「しばらく、温かくしてろ」
 「うん」

 俺はSDカードを響子のタブレットに挿し、首都高での映像を見せてやった。
 ドライブレコーダーの動画だ。

 「偶然、栞に会ったんだ」

 響子が爆笑する。

 「お前、絶対に栞の車には乗るなよな」
 「うん、こわいよね」
 「こないだバイクのハンドルがルーフに刺さってたからな」
 「なんでぇー!」
 「「首都高の人喰いランクル」って呼ばれてるらしいぞ」
 「こわいー!」

 俺と六花で笑った。

 「お前だって「真夜中の妖精少女」って呼ばれてるかもしれないじゃん」
 「そんなのないよー」
 「ふと目が覚めたら、可愛い美少女が病室のドアから自分を見てた、とかな」
 「なんか怖いよ」
 「見られた患者は三日以内に死ぬ」
 「そんなことしないよ!」

 「じゃあ見てるだけか」
 「うん、見てるだけ」

 「「出歩くんじゃねぇ!」」

 俺と六花で怒鳴った。
 三人で笑った。

 俺はルールを決めた。
 出歩くときは、必ずガウンを羽織ること。
 週に三回までで、一回の時間は15分以内。
 ナースセンターに寄って、散歩することを伝えること。
 セグウェイは音が出るので禁止。
 それと、行っていい場所と範囲を言った。

 俺は六花に、「散歩中」のカードストラップか何かを作るように言った。

 「響子が正式な散歩中と分かるようなものであれば、なんでもいいよ」
 「分かりました」

 響子は長い入院生活でストレスが溜まっている。
 ずっと室内にいるのは辛いのだろう。
 多少の院内の夜中の散歩も仕方がない。
 
 後日、六花がミツバチの触角付きのカチューシャを買って来た。
 物凄くカワイかった。
 ナースたちにも大好評だった。
 夜中に散歩中の響子を見ると、いいことがあるという噂が流れた。
 夜勤のナースたちの楽しみができた。




 俺は響子の部屋から戻り、午後のオペの資料を読んでいた。
 一江は朝からマスクをしている。
 風邪を引きやがった。
 しばらくオペは出来ない。

 《ヘクチュッ》

 俺は部屋から出て、一江の頭を引っぱたいた。

 「テメェ! なんのつもりだぁ!」
 「へ?」
 「なんだぁ、今のクシャミはぁ!」
 「は、はい、すみません!」

 「ロボや響子ならいいけどなぁ! テメェみたいなブサイクがやるんじゃねぇ!」
 「ひどいですよ!」
 「《ヘックショイ! アー!》とかやれ!」
 「できませんよ!」

 「お前、大体なんで風邪ひいたんだよ?」
 「ああ、大森と土曜に飲んで。そのまま寝ちゃいました」
 「最低だな!」
 「だからすいませんって!」
 
 俺はもう一度頭を引っぱたいた。

 「おし! 俺が直々に診察してやろう」

 俺はキャビネから聴診器を出した。

 「おう! 胸を見せろ!」
 「部長! セクハラですよ!」
 「治療行為だ!」
 
 一江が上の裾をまくった。
 下着の胸が見えた。

 「どうぞ!」
 「てめぇ! 何貧相なものを俺に見せてんだぁ!」
 「部長が言ったんじゃないですか!」
 「冗談だ! よくも気持ち悪いものを俺に!」
 「部長の裸の方が気持ち悪いですよ!」
 「あ! お前よくも俺が気にしてることを!」

 大森と斎木が俺たちを止めた。

 


 家に帰るとロボが元気よく迎えに来た。
 子どもたちに聞くと、全然洟も出ていないらしい。
 俺は快気祝いに、ロボの大好物の貝柱乗せステーキをロボに食べさせた。
 ロボは「ぐぉー」と唸りながら食べた。

 響子も翌日には治った。
 俺は六花にキハチのロールケーキを買って来させ、三人で食べた。
 響子は「うぉー」と喜んで食べていた。

 一江はまだ洟を啜っている。
 俺はバグームの「ミミズジャーキー」を喰わせた。

 「特効薬だ、喰え」
 「絶対嫌ですー!」
 「大森、押さえろ」
 「一江、すまん!」

 「ウゴゥォー!」

 そう叫んで、俺が無理矢理口に入れたものを呑み込んだ。





 翌日に、一江は洟を啜っていた。

 「特効薬じゃなかったな」
 「……」




 二日後に、一江は治った。
 ア〇ゾンで、幾つかの昆虫食を買っていた。

 なんか怖い。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

こずえと梢

気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。 いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。 『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。 ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。 幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。 ※レディース・・・女性の暴走族 ※この物語はフィクションです。

~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました

深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...