798 / 2,840
亜紀ちゃんと蓮花研究所 Ⅴ
しおりを挟む
俺と亜紀ちゃんはまた7時頃に起きた。
朝食は鮭の炊き込みご飯にイクラ。
出汁巻き卵。
ナスとベーコン炒め。
オクラとホワイトアスパラとポテトの温野菜サラダ。
それに俺には緑色の自然薯がついていた。
「自然薯は、緑唐辛子とココナッツミルクと若干の香辛料を入れています」
「タイカレーのイメージか」
「はい」
亜紀ちゃんが欲しそうに見ているので、一口やった。
「美味しい!」
まあ、家でも俺に一品多いことも普通なので、自分も欲しいとは言わない。
自然薯は精力食物だ。
蓮花なりの礼なのだろう。
食事の後で、俺たちはミユキとシロツメクサの花壇を見に行った。
「ああ、綺麗だな」
20メートルもの長さの大きな花壇だった。
丁度開花期で、一面に花が咲いていた。
亜紀ちゃんが自分のスマホで写真を撮って行く。
俺とミユキも花壇の前で写真を撮られた。
「私にはもったいないような、美しい花です」
「そんなことはない。ミユキのような可憐な花だ」
「ありがとうございます」
ミユキは嬉しそうに笑っていた。
我が子を慈しむ母のような優しさに満ちていた。
俺と亜紀ちゃんはミユキに礼を言って中へ戻った。
ミユキはまだ花壇を見ていた。
「ミユキは時間があると、ああやって花壇を眺めています」
「そうか」
蓮花が話してくれた。
「皇紀がくれたからですかね?」
亜紀ちゃんが言う。
「それもあるだろうけどな」
「他に何か?」
「ミユキは子どもを産めない。鷹と同じだ。子宮を喪って生体チップが入っている」
「!」
「ミユキはシロツメクサを育て、増やして、それを慈しみ自分の歓びとしている」
「タカさん、じゃあ……」
「いいじゃないか。自分の子どもじゃなくたって。人間はそういう優しい心も持っているんだ」
亜紀ちゃんが笑顔で俺の腕を掴んで一緒に歩く。
「なんだよ」
「いいえ、何となく!」
俺はしばらくして気付いた。
ミユキのことを話していてそんなつもりは全く無かったのだが、そういえば俺がよく知っている奴がいた。
昼食は俺の希望で、近くの山林までピクニックに行く予定だった。
そのための準備を俺と亜紀ちゃん、蓮花で始めた。
俺と蓮花で大量の握り飯を作る。
亜紀ちゃんはひたすら唐揚げ等を作った。
昼前に全員で出発する。
山林は俺の所有だ。
以前にも来た広場でシートを敷き、みんなで昼食を摂る。
今日はみんな穏やかに笑っている。
ミユキや前鬼、後鬼たちはもちろん、アナイアレーターたちも嬉しそうに笑っていた。
「今日の食事は石神様と亜紀様が作って下さいました」
蓮花が言うと、全員が立ち上がり頭を下げた。
「普段は何も出来ないからな。こんなもので申し訳ないが沢山食べてくれ」
全員が礼を述べ、各々座って食べ始めた。
亜紀ちゃんも笑顔で頬張っている。
目の前に唐揚げの山がある。
「蓮花、俺はこの光景を忘れないよ」
「はい、わたくしも」
「みんな、こんなに笑って楽しく食事をしている。これがみんなの本当の姿だ」
「はい」
俺は全員を修羅の戦場へ赴かせようとしている。
アレスだ。
ミユキが俺に近寄って来た。
「石神様」
「どうした?」
「私は、今日の日を忘れません」
「なに?」
俺はミユキの唐突な言葉に驚いた。
「共に戦う皆とこのように穏やかな時間を」
「ミユキ」
「これで、心置きなく戦場で散れるというものです」
「お前……」
「あの日、私が再び魂を取り戻した日。私はあの日から石神様のために戦うことを望んでいます」
「……」
「どうか、私たちを戦場へお連れ下さい」
「分かった。必ずな」
「はい!」
見ると全員が俺とミユキを見ていた。
俺と亜紀ちゃんは蓮花の研究所を出た。
シボレー・コルベットで高速をぶっ飛ばす。
「亜紀ちゃん」
「なんですか?」
「肉を喰ってくか」
「え、どうして?」
「なんか悲しそうな顔をしてるからよ」
「え!」
亜紀ちゃんは俺を見ていた。
「タカさんだって」
「俺はいいんだよ」
「どうしてですか」
「俺が石神高虎だからだよ」
「なんですか、それ!」
亜紀ちゃんが笑った。
「石神高虎はなぁ、みんなを地獄に連れて行く悪い奴だからな」
「何言ってんですか」
「てめぇら、覚悟しろってなぁ」
「アハハハハハ」
亜紀ちゃんが悲しそうな顔で笑った。
「タカさん」
「おう」
「また来ましょうね」
「そうだな」
「地獄かどこかは知りませんけど。私はずっとタカさんの傍にいますから」
「バカだな」
「そうです」
「お前らを酷い目に遭わせるって言ってるのにな」
「平気ですよ」
「そうかよ」
「そうです!」
首都高に戻った。
もう家は近い。
「タカさん、後ろから物凄いスピードで来る車がいますよ?」
俺も気付いている。
バックミラーに白い車が映った。
「「アァー!」」
俺と亜紀ちゃんは同時に叫んだ。
白いランドクルーザーが次々と前方の車を危険走行で追い上げている。
栞だった。
俺と亜紀ちゃんは大笑いした。
栞も特徴的な俺の車に気付いたか、クラクションを鳴らした。
俺たちに並走してくる。
「石神くーん!」
亜紀ちゃんが窓を開け、ルーフに半身を乗り出した。
「亜紀ちゃーん!」
「ヨーイ!」
亜紀ちゃんが叫んだ。
「ドーン!」
俺はギアをトップに入れ、アクセルを踏み込んだ。
弾かれたようにランドクルーザーを引き離す。
栞もスピードを上げたが、まったくついて来れない。
車の性能が違い過ぎる。
その日、首都高で15台の玉突き事故があった。
俺たちのせいではない。
たぶん。
朝食は鮭の炊き込みご飯にイクラ。
出汁巻き卵。
ナスとベーコン炒め。
オクラとホワイトアスパラとポテトの温野菜サラダ。
それに俺には緑色の自然薯がついていた。
「自然薯は、緑唐辛子とココナッツミルクと若干の香辛料を入れています」
「タイカレーのイメージか」
「はい」
亜紀ちゃんが欲しそうに見ているので、一口やった。
「美味しい!」
まあ、家でも俺に一品多いことも普通なので、自分も欲しいとは言わない。
自然薯は精力食物だ。
蓮花なりの礼なのだろう。
食事の後で、俺たちはミユキとシロツメクサの花壇を見に行った。
「ああ、綺麗だな」
20メートルもの長さの大きな花壇だった。
丁度開花期で、一面に花が咲いていた。
亜紀ちゃんが自分のスマホで写真を撮って行く。
俺とミユキも花壇の前で写真を撮られた。
「私にはもったいないような、美しい花です」
「そんなことはない。ミユキのような可憐な花だ」
「ありがとうございます」
ミユキは嬉しそうに笑っていた。
我が子を慈しむ母のような優しさに満ちていた。
俺と亜紀ちゃんはミユキに礼を言って中へ戻った。
ミユキはまだ花壇を見ていた。
「ミユキは時間があると、ああやって花壇を眺めています」
「そうか」
蓮花が話してくれた。
「皇紀がくれたからですかね?」
亜紀ちゃんが言う。
「それもあるだろうけどな」
「他に何か?」
「ミユキは子どもを産めない。鷹と同じだ。子宮を喪って生体チップが入っている」
「!」
「ミユキはシロツメクサを育て、増やして、それを慈しみ自分の歓びとしている」
「タカさん、じゃあ……」
「いいじゃないか。自分の子どもじゃなくたって。人間はそういう優しい心も持っているんだ」
亜紀ちゃんが笑顔で俺の腕を掴んで一緒に歩く。
「なんだよ」
「いいえ、何となく!」
俺はしばらくして気付いた。
ミユキのことを話していてそんなつもりは全く無かったのだが、そういえば俺がよく知っている奴がいた。
昼食は俺の希望で、近くの山林までピクニックに行く予定だった。
そのための準備を俺と亜紀ちゃん、蓮花で始めた。
俺と蓮花で大量の握り飯を作る。
亜紀ちゃんはひたすら唐揚げ等を作った。
昼前に全員で出発する。
山林は俺の所有だ。
以前にも来た広場でシートを敷き、みんなで昼食を摂る。
今日はみんな穏やかに笑っている。
ミユキや前鬼、後鬼たちはもちろん、アナイアレーターたちも嬉しそうに笑っていた。
「今日の食事は石神様と亜紀様が作って下さいました」
蓮花が言うと、全員が立ち上がり頭を下げた。
「普段は何も出来ないからな。こんなもので申し訳ないが沢山食べてくれ」
全員が礼を述べ、各々座って食べ始めた。
亜紀ちゃんも笑顔で頬張っている。
目の前に唐揚げの山がある。
「蓮花、俺はこの光景を忘れないよ」
「はい、わたくしも」
「みんな、こんなに笑って楽しく食事をしている。これがみんなの本当の姿だ」
「はい」
俺は全員を修羅の戦場へ赴かせようとしている。
アレスだ。
ミユキが俺に近寄って来た。
「石神様」
「どうした?」
「私は、今日の日を忘れません」
「なに?」
俺はミユキの唐突な言葉に驚いた。
「共に戦う皆とこのように穏やかな時間を」
「ミユキ」
「これで、心置きなく戦場で散れるというものです」
「お前……」
「あの日、私が再び魂を取り戻した日。私はあの日から石神様のために戦うことを望んでいます」
「……」
「どうか、私たちを戦場へお連れ下さい」
「分かった。必ずな」
「はい!」
見ると全員が俺とミユキを見ていた。
俺と亜紀ちゃんは蓮花の研究所を出た。
シボレー・コルベットで高速をぶっ飛ばす。
「亜紀ちゃん」
「なんですか?」
「肉を喰ってくか」
「え、どうして?」
「なんか悲しそうな顔をしてるからよ」
「え!」
亜紀ちゃんは俺を見ていた。
「タカさんだって」
「俺はいいんだよ」
「どうしてですか」
「俺が石神高虎だからだよ」
「なんですか、それ!」
亜紀ちゃんが笑った。
「石神高虎はなぁ、みんなを地獄に連れて行く悪い奴だからな」
「何言ってんですか」
「てめぇら、覚悟しろってなぁ」
「アハハハハハ」
亜紀ちゃんが悲しそうな顔で笑った。
「タカさん」
「おう」
「また来ましょうね」
「そうだな」
「地獄かどこかは知りませんけど。私はずっとタカさんの傍にいますから」
「バカだな」
「そうです」
「お前らを酷い目に遭わせるって言ってるのにな」
「平気ですよ」
「そうかよ」
「そうです!」
首都高に戻った。
もう家は近い。
「タカさん、後ろから物凄いスピードで来る車がいますよ?」
俺も気付いている。
バックミラーに白い車が映った。
「「アァー!」」
俺と亜紀ちゃんは同時に叫んだ。
白いランドクルーザーが次々と前方の車を危険走行で追い上げている。
栞だった。
俺と亜紀ちゃんは大笑いした。
栞も特徴的な俺の車に気付いたか、クラクションを鳴らした。
俺たちに並走してくる。
「石神くーん!」
亜紀ちゃんが窓を開け、ルーフに半身を乗り出した。
「亜紀ちゃーん!」
「ヨーイ!」
亜紀ちゃんが叫んだ。
「ドーン!」
俺はギアをトップに入れ、アクセルを踏み込んだ。
弾かれたようにランドクルーザーを引き離す。
栞もスピードを上げたが、まったくついて来れない。
車の性能が違い過ぎる。
その日、首都高で15台の玉突き事故があった。
俺たちのせいではない。
たぶん。
1
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
こずえと梢
気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。
いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。
『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。
ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。
幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。
※レディース・・・女性の暴走族
※この物語はフィクションです。
~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました
深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる