上 下
762 / 2,859

番外編:「石神くんスキスキ乙女会議」 in丹沢

しおりを挟む
 「紅六花」ビルから戻った翌日。
 俺はハマーに女たちを連れて丹沢に行った。

 一江、大森、栞、六花、レイ、ルーとハー。

 俺はルーとハーに、あんまり無茶なことはするなと言い、一江のスマホには「α」の破片を貼り付け、何かあったら連絡しろと言った。

 「大丈夫ですよ、部長。ただの女子会ですから」
 「お前らの女子会はただで終わったことがねぇだろう!」
 「でも今回は大丈夫です! 栞が暴れても六花とルーちゃんとハーちゃんが止めてくれますし」
 「それで246で偉い騒ぎになっただろう!」
 「もうあんなことはありませんって。双子ちゃんがキャンプの醍醐味を教えてくれるって」
 「まあ、そっちの心配があるんだがな。栞は知っての上で来るからいいんだけどよ」
 「はい?」

 「レイ、やっぱりやめとけよ。一緒に帰ろう」
 「石神さん、私みんなとキャンピングしたいです」
 「キャンプじゃねぇんだが」
 「はい、サバイバルですよね! そっちの方が楽しそうです!」
 
 「分かった。着替えは一応持って来てやるからな」
 「「「?」」」

 みんな俺の家に来て、双子が用意したジャージに着替えさせられた。
 自分で決めたことだ。
 俺もちゃんと止めた。
 それでもやるのなら、それもいい。
 悪魔に唆されるのも、人生だ。





 二週間前。
 双子が病院に遊びに来た。
 響子とセグウェイなどで遊んでくれる。
 帰る前に、俺の部屋へ挨拶に来た。

 「あら、ルーちゃんとハーちゃん! 来てたのね」
 一江が出迎えた。

 「「一江さん、みなさん、こんにちはー」」
 明るく挨拶した。

 「おう、もう帰るのか?」
 「はい! お邪魔しました」
 「俺はこの後でまたオペがあるからな。今日は遅くなるから」
 「「はーい!」」

 俺は二人の頭を撫でて、オペに向かった。

 その後で、どうやら一江と大森をキャンプに誘ったらしい。
 女子会を丹沢の俺の山でやったらどうか、と。
 自然の中でサバイバル気分を味わいながら飲むと最高だ、と。
 栞とも前にやって、大好評だった、と。

 一江が乗り気になった。

 後から知って、前回のキャンプであったことを教えて止めた。
 一江は裸になるのは嫌だと言い、そこは止めると言った。
 レイが参加すると聞いて、同じく話したが、レイは逆に双子のサバイバルを体験したいと言いやがった。
 無人島からはるばるアメリカまで辿り着いた双子に、尊敬の念すら抱いていた。

 俺は嫌だが、ああいうのがいいと言う人間もいるわけだ。
 お好きにどうぞ。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「タカさん、行ったね」
 「もう見えないね」
 ルーとハーが言った。

 「わー、久しぶりだわ、ここ」
 一江が言う。

 「じゃー、水場のあるとこまで登りますよー!」
 ルーが全員に声を掛ける。

 大森が一江を背負い、全員で走った。
 レイも「花岡」を習得し、遅れることはない。
 笑顔で付いて行った。

 一時間後。
 山の中腹に近い、湧き水がある場所に付いた。
 小川になるほどの水量があり、その途中に窪地があって、ちょっとした池になっている。
 良く見ると、池の底と四囲が板で囲われていた。
 双子が作った。
 板を立てると、窪地の脇を水が流れるようになっている。
 皇紀の設計の「風呂」だった。

 小さなログハウスもある。
 双子が購入し、皇紀と一緒に組み上げた。
 中には布団も毛布も置いてある。

 「わー! いいとこじゃない!」
 一江が喜ぶ。

 周囲は50メートル四方に渡って木が伐採(引っこ抜き)され、なだらかな平地になっている。
 木によって簡易なテーブルとベンチも作られていた。
 近くには、別な高さ1メートルほどのテーブルがあり、調理台として使えるようになっている。
 
 「完璧だな!」
 大森が笑って、食材の荷物を降ろした。

 「じゃあ、早速「石神くんスキスキ乙女会議 イン・丹沢キャンプ」をやろうか!」
 
 「いいね!」
 「はい、そこうるさいよ!」
 「えぇ!」
 栞が叱られた。

 「一江さん、ちょっと待って」
 「なーに、ルーちゃん?」
 「今日はサバイバル体験がメインだから」
 「そうだったね?」
 「一江さんがいるから、ちょっとハードルを下げたけど」
 「ありがとう?」
 「食事は自分で狩らなきゃダメ!」
 「はい?」
 「それと、最低限裸にならないと」
 「?」

 ハーが手を揺らした。
 生暖かい風が吹き、全員の服が消し飛んだ。

 「なにこれ!」
 一江が叫ぶ。
 大森は焦った。
 栞は笑っている。
 レイも驚くが笑った。
 六花は何の変化も無い。


 「一江さんと大森さんは、とにかく薪を一杯集めて火を焚いて! 寒いと一江さん死んじゃうよ!」
 「わ、分かった!」

 「栞ちゃん、六花ちゃん、レイ、一緒に狩に行くよ!」
 「「「はい!」」」

 五人は山頂へ上がり、ハーの索敵能力で獲物を探した。

 「二時方向にイノシシ!」
 無言でハーが先導し、他の四人が追う。

 ハーが止まり、後ろに手を上げる。
 全員が止まって、ハーが指し示す方向を見た。
 イノシシが二頭いた。

 「左は私、右は六花ちゃん、任せていい?」
 「はい」
 「「龍刀」で首を落として。毛皮は後で使うからね」
 六花が頷く。

 ハーと六花が無言で飛び出した。
 イノシシは振り向いたが、次の瞬間に絶命した。

 「ハー! ベースに運ぶね!」
 ルーが一頭のイノシシを担いで行った。

 

 「次は栞ちゃんとレイでやってみて」
 また二頭のイノシシがいた。
 二人とも難なく斃す。

 「じゃあ、それをベースに運んでね! あたしはもうちょっと狩ってから行くから」

 ベースキャンプでは既に大森が料理を始めていた。
 基本的にはバーベキューと野菜スープだ。
 スープの野菜と調味料を双子に頼まれた。
 寸胴や鍋や他の食材は双子が用意すると言っていた。
 「他の食材」がどういうものかは、もう分かった。

 血まみれになって、ルーと六花が帰って来た。
 そのまま下流の小川で血抜きをし、解体していく。
 皮を剥いで小川で洗い、短時間で乾燥させる。
 「花岡」の技の「電子レンジ」を更に改良した技だった。
 穴を空け、一江に持って行く。

 「はい! まずは一江さんね!」
 一江は恐る恐る腕を通して羽織った。

 「あ! あったかい!」
 ルーはニコニコして一江が喜ぶのを眺めた。

 ルーはもう一頭を取りに戻った。
 六花はルーに教わった通りに皮を洗い、乾燥させていく。
 その間に栞とレイが戻る。
 そしてルーがイノシシを担いで戻り、ハーがタヌキ、アナグマ、イタチ、雉を獲って来た。

 「えーと、七人だからもう一頭必要だよね」
 「そーだねー」
 「ハー、またクマとかいない?」
 「うーん、いるけどちょっと遠いっぽい」
 「どこ?」
 「あっちだけど、完全にうちの山じゃないよ」
 「いいじゃん!」
 「でもタカさんに言われてるじゃん」
 「サバイバルは問答無用よ!」
 「そっか!」

 ここに石神はいない。
 それが全てだった。





 「栞ちゃん!」
 「なーに?」
 「クマ狩にいくよ!」

 「ガハハハハハ!」
 栞が獰猛に笑った。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

甘灯の思いつき短編集

甘灯
キャラ文芸
 作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)                              ※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……思わぬ方向へ進んでしまうこととなってしまったようです。

四季
恋愛
継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...