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「紅六花」ビル、再び Ⅴ

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 俺の話を聞いて、みんな笑っていた。

 「柳さん、さぞショックだったでしょう?」
 「それはもちろん、そうでしたけど」
 「けど?」
 「はい、やっぱり石神さんは石神さんでしたし」

 みんなが爆笑した。
 メロメロに惚れていることが分かるからだ。

 「そうだよな。お前、俺の特製オムライスを食べたら、もうご機嫌だったもんな!」
 「そうじゃないですよ! ショックだったけど、ヘンな雰囲気で別れたくなかったんです!」
 「ほう?」
 「ほうほう?」
 「そうなんだ?」

 柳がみんなにからかわれる。

 「だからあの時!」
 「へ?」
 「エッチな石神さんなら、私の裸を見たらすぐにって!」
 「あ? アァッー!」

 俺は御堂の家に行った時に、柳が風呂に入って来て困った話をした。
 みんな爆笑だった。
 柳は酒を飲んでないのに真っ赤になる。




 六花が響子を寝かし付けて降りて来た。

 「楽しそうですね。何の話ですか?」
 「ああ、みんなに俺の特製オムライスを作ってやろうかって話してたんだ。六花も食べるだろ?」
 「はい!」

 美しい笑顔が見れた。
 亜紀ちゃんが手伝うと言った。
 
 「柳、お前も来い! 居辛いだろう?」
 「そ、そんなことないですけど!」

 みんなが笑う。
 六花は仲間と話し出した。
 漏れ聞こえて、紫苑の話らしい。

 「いいか、柳。俺の特製オムライスは二つのポイントだ」
 「はい!」
 「一つはケチャップに醤油と少量の味噌を混ぜる」
 「はい!」
 「もう一つはセロリだ。あの苦みが隠し味になる」
 「なるほど!」
 「うちではカレーやシチューにもセロリを使う。まあ分量は違うけどな。それにセロリの噛み応えの食感もいいからな。その目的でアスパラなんかを入れることもある」

 小鉄が脇に来てメモを取っている。

 「小鉄、セロリとアスパラはあるか?」
 「はい!」
 「じゃあ、一緒に作ろうか」
 「ありがとうございます!」

 亜紀ちゃんと小鉄に作らせながら、俺は柳に説明していく。
 まだ50人程が残っていた。
 最初の十人前を作って柳に運ばせ、俺も加わって一気に作った。
 大好評だった。

 「石神さん! これもメニューにいれていいですか?」
 「いいけど、中華料理屋でいいのかよ?」
 「大丈夫です! うちはカレーもありますし!」
 「そうかよ」

 俺は笑って、レシピをメモしてやった。
 ついでにうちのカレーのレシピも教える。

 「こっちは市販のルーじゃねぇから大変だぞ?」
 「頑張ります!」




 特製オムライスを食べ、多くの連中が帰って行った。
 正月のような、潰れる奴はほとんどいなかった。

 「おい、動ける奴は散歩でもどうだ?」

 俺が誘うとタケとよしこ、キッチにミカの他数人が行くと言った。
 亜紀ちゃんと柳も来る。

 「小鉄、お前も来いよ!」
 「はい!」

 中で飲んでる奴らもいるので、空けても大丈夫だろう。
 俺は「紫苑六花公園」へ向かった。
 ゆっくりと30分以上かけて歩く。
 タケがダイヤル暗証番号の鍵を開けた。
 中へ入り、長いベンチにみんなで座った。


 「いいなぁ、ここは!」

 俺たちは無言で夜空を仰いだ。

 「紫苑は喜んでくれるでしょうか」

 六花が言った。

 「それは分からん」

 俺が言うと、全員の顔が暗くなった。

 「分からないよ。あの世のことはな。でもな、俺たちは考えて祈り続けてやっていくしかねぇ。何もしないより、何かした方が良くはないか?」
 「!」
 「前によ、亜紀ちゃんが覚えた料理だって俺に喰わせてくれた。まあ、不味かったよなぁ!」
 「タカさん、本当に激マズだって言いましたよね!」
 「アハハハハハ!」

 みんなも笑っている。

 「だけどな。嬉しかったよ。俺のために一生懸命に考えて作ってくれたんだ。不味かったけどな」
 「そこは心を汲んで、もうちょっといいように言ってくれても」

 亜紀ちゃんが抗議する。

 「美味いと言えば、もう努力しなくなるからな。褒められなかったから辞めるような根性なしでもないしなぁ」
 「それはぁ」
 「紫苑だって、もしも怒ったら夢にでも出てくれるんじゃねぇの? 会えて嬉しいじゃねぇか」

 タケたちが、そりゃそうだと言って笑った。
 六花も笑っていた。

 「石碑はどこに置きますか?」

 柳が言った。
 もう、柳の中でもここが大事な場所になっているのだろう。

 「そうだな、よしこ、どうする?」
 「紫苑の花畑はどうでしょうか?」
 「ああ! いいなぁ!」
 「石神先生」

 六花だ。

 「なんだよ?」
 「石碑の文章を考えてもらえませんか?」
 「なんだよ、お前らで考えろよ」
 「でも」
 「お前らの話を聞いて、俺も感動したんだからな。大丈夫だよ」
 「でも、みんな学が無くて」
 「あ?」
 「話すのはいいんですけど、文章って」
 「誰かいねぇのかよ」
 「いませんね」

 全員が頷いていた。
 俺は考えた。

 「じゃあ、俺が草稿は作ってやろう。でもお前らで絶対に手直ししろよな!」
 「はい!」

 俺たちはまたゆっくりと帰り、解散とした。
 楽しい夜だった。






 《「紫苑六花公園」縁起 この公園は二人の少女の友情の思い出を記念して造られました。病弱な少女が、母親を喪い荒れていた少女と巡り合い、ここで互いを思い合い、友情を育んだ。病弱な少女・紫苑は看護師になりたいという未来の希望を語り、もう一人の少女・六花はその夢を応援しました。しかし紫苑の病気は重く、ついに自分の死期を知り、親友の六花に最後の思い出にとここへ連れて来てもらう。まもなく後、紫苑は短い生涯を終えました。六花は紫苑の夢を背負い、苦難を撥ね退けて看護師になりました。人間にとり、「思い出」は全てです。美しい思い出があれば、どんな困難にも不幸にも立ち向かい、乗り越えることが出来ます。紫苑と六花のような美しい思い出を、ここでまた誰かが紡いでくれれば。その祈りにより、この公園は造られました。》  
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