上 下
737 / 2,840

レイとのデート

しおりを挟む
 柳が四月の祝日に言った。

 「石神さん」
 「あんだよ」
 
 俺は朝食後のコーヒーを飲んでいる。

 「あのですね」
 「だからなんだよ」
 「ちょっとデートと言うか」
 「あ?」
 「だからその、行きませんか?」

 そう言えば、こいつがうちに来てから全然構ってやってない。
 部屋を与え、一緒に食事をし、たまに少し話したりする。
 でも、最近は稲城会との揉め事や、先日は綺羅々との戦闘があった。
 俺に余裕が無かったのもある。
 柳はもっと違った生活を夢見てもいたのだろう。
 少し可哀そうになった。

 「よし! じゃあ出掛けるか!」
 「嬉しい!」

 柳が嬉しそうに微笑んだ。
 まあ、俺が忙しそうにしているので、遠慮していたのだろう。
 酒が飲めないので亜紀ちゃんとの飲み会にも一緒にいたいと言わない。
 風呂にも遠慮している。

 「どこか行きたい所はあるか?」
 「あの、ディズニーランドに!」
 「え?」
 「一度も行ったことないんです」
 「あ、俺も」
 「そうなんですか!」
 「全然興味ねぇからな」
 「!」

 「亜紀ちゃんたちと行けよ」
 「そんなー!」
 「柳さん! いいですね、行きましょうよ!」
 「「あたしたちもー!」」
 「いや、私はね」
 「皇紀も行くでしょ?」
 「分かったよー」
 「じゃ、じゃあみんなで」
 「俺は行かないぞ」
 「えぇー……」


 哀れな女だ。


 「じゃあ、レイ! 俺たちはどっか行こうか!」
 「本当ですか!」
 「ああ。お前とデートしたことはねぇもんな」
 「はい!」

 「どこか行きたい所はあるか?」
 「石神さんと一緒ならどこでも!」
 「お前はカワイイなぁ」
 「エヘヘヘ」

 柳が泣きそうになっていた。




 俺は酒を飲みたかったので、電車でレイと出掛けた。
 ダンヒルの黒の革のジャケットに、白いシャツとダンヒルの白のパンツ。
 黒のドミニク・フランスのネクタイを締める。
 ラッタンジーの黒のリザードの靴。
 レイは俺に合わせて黒のライダースジャケットに白のブラウスとパンツ。
 無地の白いサテンのネクタイを締めた。
 白いエナメルのハイヒールを履いた。
 俺と身長が並ぶ。

 銀座へ行き、二人でショップを回った。
 ブルガリでレイに似合いそうなサングラスを買い、虎屋で帽子を探した。
 イタリー亭でピザを頼み、ワインを飲んだ。

 腕を組んで二人で歩いていると、みんなが俺たちを見た。
 テイクアウトのコーヒーを買い、歩行者天国のテーブルに座って飲む。

 「柳さん、良かったんですか?」
 「ああ、あいつとはまたな」
 「でも、ちょっと可哀そうで」
 「レイが遠慮しているからな」
 「え?」

 「柳は自分が欲しいものをちゃんと言える人間だ。でもレイはそれがねぇ」
 「はぁ」
 「アメリカ人っていうのは、逆なんじゃねぇの?」
 「アハハハハ」

 通り過ぎながら、またみんなが俺たちを見ていく。
 レイは愛想よく手を振ってやり、喜ばせている。

 「レイ、何を遠慮しているんだ?」

 レイが俺から視線を逸らせた。

 「拒絶されるのが。私は石神さんからダメだと言われるのが怖いんです」
 「なんだよ、それ」
 「石神さんは多くの女性から慕われて。でも私はそこへ入ろうとして断られたらと」
 「レイはもう「虎曜日」の女だろ?」
 「アハハハハ!」

 レイが俺を見た。

 「石神さん、私を抱いて下さいますか?」

 日本語の言い回しをよく勉強している。

 「まあ、いつかな」
 「どうして今じゃないんでしょうか」
 「俺は誰とでも寝る男じゃねぇ。それをレイに知ってもらいたいかな」
 「どういうことですか?」

 「そりゃ、何人とも関係はあるよ。でも、俺はセックスのために付き合ってるんじゃない」
 「はい」
 「大事な人間がいるだけなんだよ。お前もその一人だ」
 「はい」
 「セックスは男女の関係を強くする。だけどな、それだけじゃないよ」
 「はい、でも」

 「奈津江とは一度もそういう関係にならなかった。「いつか」ってお互いに言ってたけどな。その日が来る前に死んでしまった」
 「はい」
 「でも、奈津江は俺の中で今も大事な女として存在している」
 「……」

 「レイ、お前のことが大好きだ。でも、まだ寝る関係を考えられない」
 「釈然としませんが。まあ、今は分かりました」

 レイは日本に恋するために来たと言った。
 素晴らしい女だと、俺は思った。
 俺たちは、タクシーを拾って浅草「花屋敷」へ行った。




 「ここは、遊園地ですよね?」
 「そうだな!」
 「石神さんは、あまりこういう場所はお好きじゃないんでは?」
 「そうだな!」
 「だったら、どうして」
 「レイとなら来たかった!」
 「え?」

 「それにここは、前にも一度来たんだ。子どもたちを連れてな」
 「そうなんですか」
 「さあ、入ろう」
 「はい」

 俺たちはジェットコースターに乗り、俺はよく分からないが、様々なアトラクションを次々に楽しんだ。
 レイも嬉しそうに笑っている。

 ベンチに座った。

 「なかなか面白いなぁ」
 「そうですね」

 ベンチにいると、遊びに来たらしい子どもが集まって来る。
 俺とレイが目立っているのだ。
 一人の子どもが俺の前に来た。

 「あの」
 「うん?」
 「もしかして、前にも来ましたか?」
 「ああ、あの時にいたのかぁ!」
 
 レイに、前にここでパフォーマンスをしたと話した。

 「じゃあ、今日も見せてやるかぁ!」

 俺は演武を見せる。
 数十メートルも飛び上がると、みんな喜んだ。
 次第に人垣が出来ていく。
 俺はレイを呼び、両腕を繋ぎながら二人で回転して飛んだ。

 大きな拍手が沸いた。
 手を振りながら、人垣から離れた。

 「みんな喜んでましたね!」
 「そうだな!」

 俺たちはお化け屋敷に入った。
 レイは結構反応し、俺にしがみつく。

 「キリスト教って、幽霊は認めてないんじゃないのか?」
 「そんなの! 今はアメリカだって心霊物は流行ってますよ!」
 「ああ、『パラノーマル・アクティビティ』!」
 「そうです!」

 俺は栞が俺に抱き着きたくて一緒に入って、予想以上に怖くて腰が抜けたと話した。
 レイは大笑いした。

 「なるほど! そうすれば良かったんですね」
 「まだまだ日本に疎いな!」
 「そうですね!」

 俺たちはあんみつ屋に寄って、また銀座へ戻った。
 レイを響子が好きな焼き鳥屋に誘う。
 家に電話をした。

 「今日はレイと一緒に夕飯を食べるからな。お前らはミッキーマウスでも焼いて喰え!」

 レイは笑った。
 焼き鳥が美味しいと言った。
 響子と今度一緒に来ようと言った。

 「今度は柳さんを誘ってあげてくださいね」
 「そうだな」




 俺たちが帰ると、子どもたちはみんなで楽しかったと言っていた。
 柳が大量の土産の袋を抱えて言った。

 「石神さんがいなくても、楽しかったです!」

 このやろう。

 「レイ、またデートしような」
 「石神さん!」

 レイが柳に、次は柳さんとデートだと帰りに話していたと言った。

 「ごめんなさいー!」

 柳が泣いて謝った。
 まったく、面倒なことだ。
 俺はロボを呼んでブラッシングをした。

 「お前だけだよ、俺の心を分かってくれるのは」
 「にゃー」
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

こずえと梢

気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。 いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。 『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。 ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。 幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。 ※レディース・・・女性の暴走族 ※この物語はフィクションです。

~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました

深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...