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暗黒龍とアークトリスメギラ Ⅲ
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石神に連れて行かれた焼肉店は、無茶苦茶だった。
もちろん、店自体のことではない。
店は有名な高級店だ。
事前に予約していたのだろう。
俺たちは笑顔で通された。
石神と四人の子どもたち。
レイという外国人の女性と柳という親友の娘だと言う女性。
総勢七人だが、とにかく子どもたちの食べっぷりが凄かった。
「今日は好きなものを好きなだけ喰っていいぞ!」
石神がそう言うと、メニューも見ずに子どもたちが頼んでいく。
二十皿単位だ。
しかも、通常の盛り方ではない。
石神家が注文する時の特別な、通常の3倍量だという。
「あと、テールスープを人数分と、ご飯も!」
「いつもありがとうございます!」
顔見知りらしい店の人間が愛想よく去っていく。
店が最初から石神たちのために用意しているらしい。
大盛にされた皿がどんどん来る。
コンロは二つだ。
俺は石神とレイ、柳と一緒のコンロに座らされた。
「早乙女、あっちには行くなよ。死ぬぞ?」
「え?」
すぐに分かった。
子どもたちは物凄い勢いで食べ始めた。
時々殴り合っている。
プロボクサー以上のパンチが飛び交う。
空気を裂く音が、こちらまで響く。
石神たちは慣れているのか、普通にニコやかに食べていく。
「柳、ちょっと皿持って来いよ」
「え! 危ないですよ!」
「もう俺たちのがねぇじゃん」
「もしもの時は助けて下さいね」
「分かってるよ」
子どもたちの向こうにある皿を、柳が取りに行った。
亜紀が蹴りを放つ。
石神が空の皿を投げる。
亜紀がそれを受け止めて唸っている間に、柳が帰って来た。
「やっぱり危ないじゃないですかー!」
「アハハハハ!」
「次はレイ、松坂牛の皿を持って来い」
「死にますって!」
「皇紀を使え」
レイが皇紀に皿を欲しいと言う。
皇紀は額に汗を流し、高速パンチを姉妹に放つ。
逆襲を受けている間に、レイが皿を持って来る。
双子が取り返しに来た。
石神が睨む。
「なんだ?」
怯んで引き下がった。
皇紀は目の上を切っていたが、すぐに血が止まった。
「今日は記録更新ですよ! 420万円です!」
会計で店員が嬉しそうに言う。
俺は少し出そうかと思ったが、諦めた。
石神は子どもたちを睨んだが、子どもたちは階段で駆け去った。
石神の家で風呂を借り、酒が出された。
石神と亜紀が何か作り始める。
味噌田楽。
茄子の煮びたしと素揚げ。
ふろふき大根。
もろきゅう。
各種ソーセージとハモンセラーノ。
漬物各種。
非常に手際がいい。
何を飲むかと聞かれ、レイと同じウォッカをもらった。
「あんまり飲んじゃダメですよ」
「はい」
レイに言われた。
「さて、今日の戦闘をみんなに見せるからな」
テーブルのPCで、戦闘に行かなかった人間が映像を観る。
石神は、自分たちは運命共同体なのだと言った。
信じられない戦闘に、みんな驚いている。
しかし、思ったよりも動揺はない。
俺が不審に思っているのを見て、石神が言った。
「こいつらはああいうものに慣れているんだ。去年は亜紀ちゃんや双子たち、それにレイが100メートルの怪物にいきなり襲われた。驚いている暇なんてないさ。いつでも必死に戦っている」
その映像は俺も観た。
ただ、現実感が無かった。
「皇紀、どう思う?」
「はい。ジェヴォーダンとは違うものですね」
「そうだな」
「開発されたものではなく、もっと根源的なものかと」
「なるほど」
「ルーとハーはどう見た?」
「クロピョンと同じかな」
「そうか」
「人間に入り込む奴がいるんだね」
「そうだな」
二人が口々に応えた。
意味が分からない単語もあるが、俺は口を挟まなかった。
「まあ、答え合わせはまたにしよう」
石神が言った。
「早乙女、今日は頑張ったな!」
「いや、俺は」
「お前、あんなバケモノに全然怯まなかったなぁ」
「そんなことは」
「お前が最初に傷をつけた」
「ああ」
「お前が最後に止めを刺した」
「いや、あれはもう死んでいただろう」
「そうじゃない。戦闘の終わりを、お前が刻んだんだ」
「石神……」
俺が戸惑っていると、レイがグラスに注ぎ足してくれた。
レイがにっこりと笑ってくれた。
俺は、その笑顔に救われた。
「ところで早乙女。この始末は警察内でどうするんだ?」
俺は自分の考えを話した。
綺羅々たちの悪行は、幾つか掴んでいる。
あいつらがいなくなれば、それは上にも通るだろう。
何よりも石神から預かった資料が役立つはずだ。
俺が掴んでいない隠れ家などの場所もある。
「お前たちのことはもちろん伏せる。綺羅々たちは行方不明ということになるだろう」
「そうか」
「上には俺から上手く話す。お前たちには迷惑は掛けない」
「そうか」
石神は満足そうに頷いた。
「石神、一つだけ教えて欲しい」
「なんだ?」
「綺羅々の部下たちだ。あいつらも化け物に通じていたのか?」
「ああ。ルー! 話してやってくれ」
「はい! あの時、亜紀ちゃんが一人相手にしたじゃないですか。あれは当然バケモノになっていたよね?」
「あ、ああ」
「他の連中も同じ。どいつもこいつも、とんでもない下衆な色をしてたよ。あんなのはもう人間じゃないよね」
「色?」
「最初に早乙女さんが撃ったじゃない。あの時に魂がすぐに地面に消えた。物凄いのが手を伸ばしてきたよ」
「?」
「この二人は普通の人間に見えないものが見えるんだよ。まあ、信じるかどうかはお前次第だ」
「分かった。ありがとうな」
「うん!」
その後は楽しい宴会になった。
俺は石神のエピソードを子どもたちに聞き、笑った。
石神がギターを持って来て、凄い演奏を聴かせてくれた。
その後でみんなで歌を歌った。
俺も石原裕次郎の曲を歌わされた。
ヘタクソだと言われた。
「六花よりはマシかぁ」
「そうですねぇ」
俺は信頼できる人間を通して、赤星綺羅々たちの悪行の数々を上に通した。
綺羅々の隠しマンションから、手の指をすべて切断され、両足を膝から喪った少年の遺体を見つけた。
天井裏から、大量の虐殺のDVDやビデオが出てきた。
他の部下たちの部屋や隠していたマンションからも、虐殺や拷問の証拠が大量に出てきた。
石神から渡された資料で、それらは迅速に回収された。
俺は自分で調べたことや、情報提供者から多くを得たと言い、公安内で高い評価を得た。
何人かの上の人間が更迭された。
綺羅々との強い結びつきのあった連中だ。
俺は今回の業績を評価され、綺羅々に替わる公安内の攻勢の組織を任されることになった。
これで石神と共に、来るべき「業」との戦いに備えられる。
俺は部下の教育の他に、上層部とのパイプや他の官公庁とも伝手を拡げて行った。
石神に話した。
「そんな無理はするなよ」
笑って言われた。
「そんなことより、早乙女の親父さんとお姉さんの墓参りをさせてくれ」
俺は石神を案内し、石神は丁重に弔ってくれた。
寺に頼んで供養の手続きまでしてくれた。
「みんな、戦って死んだんだ。それでいいよな」
石神の言葉に、俺はやっと泣くことが出来た。
墓の前で俺が泣き止むまで、石神は経を唱えてくれた。
もちろん、店自体のことではない。
店は有名な高級店だ。
事前に予約していたのだろう。
俺たちは笑顔で通された。
石神と四人の子どもたち。
レイという外国人の女性と柳という親友の娘だと言う女性。
総勢七人だが、とにかく子どもたちの食べっぷりが凄かった。
「今日は好きなものを好きなだけ喰っていいぞ!」
石神がそう言うと、メニューも見ずに子どもたちが頼んでいく。
二十皿単位だ。
しかも、通常の盛り方ではない。
石神家が注文する時の特別な、通常の3倍量だという。
「あと、テールスープを人数分と、ご飯も!」
「いつもありがとうございます!」
顔見知りらしい店の人間が愛想よく去っていく。
店が最初から石神たちのために用意しているらしい。
大盛にされた皿がどんどん来る。
コンロは二つだ。
俺は石神とレイ、柳と一緒のコンロに座らされた。
「早乙女、あっちには行くなよ。死ぬぞ?」
「え?」
すぐに分かった。
子どもたちは物凄い勢いで食べ始めた。
時々殴り合っている。
プロボクサー以上のパンチが飛び交う。
空気を裂く音が、こちらまで響く。
石神たちは慣れているのか、普通にニコやかに食べていく。
「柳、ちょっと皿持って来いよ」
「え! 危ないですよ!」
「もう俺たちのがねぇじゃん」
「もしもの時は助けて下さいね」
「分かってるよ」
子どもたちの向こうにある皿を、柳が取りに行った。
亜紀が蹴りを放つ。
石神が空の皿を投げる。
亜紀がそれを受け止めて唸っている間に、柳が帰って来た。
「やっぱり危ないじゃないですかー!」
「アハハハハ!」
「次はレイ、松坂牛の皿を持って来い」
「死にますって!」
「皇紀を使え」
レイが皇紀に皿を欲しいと言う。
皇紀は額に汗を流し、高速パンチを姉妹に放つ。
逆襲を受けている間に、レイが皿を持って来る。
双子が取り返しに来た。
石神が睨む。
「なんだ?」
怯んで引き下がった。
皇紀は目の上を切っていたが、すぐに血が止まった。
「今日は記録更新ですよ! 420万円です!」
会計で店員が嬉しそうに言う。
俺は少し出そうかと思ったが、諦めた。
石神は子どもたちを睨んだが、子どもたちは階段で駆け去った。
石神の家で風呂を借り、酒が出された。
石神と亜紀が何か作り始める。
味噌田楽。
茄子の煮びたしと素揚げ。
ふろふき大根。
もろきゅう。
各種ソーセージとハモンセラーノ。
漬物各種。
非常に手際がいい。
何を飲むかと聞かれ、レイと同じウォッカをもらった。
「あんまり飲んじゃダメですよ」
「はい」
レイに言われた。
「さて、今日の戦闘をみんなに見せるからな」
テーブルのPCで、戦闘に行かなかった人間が映像を観る。
石神は、自分たちは運命共同体なのだと言った。
信じられない戦闘に、みんな驚いている。
しかし、思ったよりも動揺はない。
俺が不審に思っているのを見て、石神が言った。
「こいつらはああいうものに慣れているんだ。去年は亜紀ちゃんや双子たち、それにレイが100メートルの怪物にいきなり襲われた。驚いている暇なんてないさ。いつでも必死に戦っている」
その映像は俺も観た。
ただ、現実感が無かった。
「皇紀、どう思う?」
「はい。ジェヴォーダンとは違うものですね」
「そうだな」
「開発されたものではなく、もっと根源的なものかと」
「なるほど」
「ルーとハーはどう見た?」
「クロピョンと同じかな」
「そうか」
「人間に入り込む奴がいるんだね」
「そうだな」
二人が口々に応えた。
意味が分からない単語もあるが、俺は口を挟まなかった。
「まあ、答え合わせはまたにしよう」
石神が言った。
「早乙女、今日は頑張ったな!」
「いや、俺は」
「お前、あんなバケモノに全然怯まなかったなぁ」
「そんなことは」
「お前が最初に傷をつけた」
「ああ」
「お前が最後に止めを刺した」
「いや、あれはもう死んでいただろう」
「そうじゃない。戦闘の終わりを、お前が刻んだんだ」
「石神……」
俺が戸惑っていると、レイがグラスに注ぎ足してくれた。
レイがにっこりと笑ってくれた。
俺は、その笑顔に救われた。
「ところで早乙女。この始末は警察内でどうするんだ?」
俺は自分の考えを話した。
綺羅々たちの悪行は、幾つか掴んでいる。
あいつらがいなくなれば、それは上にも通るだろう。
何よりも石神から預かった資料が役立つはずだ。
俺が掴んでいない隠れ家などの場所もある。
「お前たちのことはもちろん伏せる。綺羅々たちは行方不明ということになるだろう」
「そうか」
「上には俺から上手く話す。お前たちには迷惑は掛けない」
「そうか」
石神は満足そうに頷いた。
「石神、一つだけ教えて欲しい」
「なんだ?」
「綺羅々の部下たちだ。あいつらも化け物に通じていたのか?」
「ああ。ルー! 話してやってくれ」
「はい! あの時、亜紀ちゃんが一人相手にしたじゃないですか。あれは当然バケモノになっていたよね?」
「あ、ああ」
「他の連中も同じ。どいつもこいつも、とんでもない下衆な色をしてたよ。あんなのはもう人間じゃないよね」
「色?」
「最初に早乙女さんが撃ったじゃない。あの時に魂がすぐに地面に消えた。物凄いのが手を伸ばしてきたよ」
「?」
「この二人は普通の人間に見えないものが見えるんだよ。まあ、信じるかどうかはお前次第だ」
「分かった。ありがとうな」
「うん!」
その後は楽しい宴会になった。
俺は石神のエピソードを子どもたちに聞き、笑った。
石神がギターを持って来て、凄い演奏を聴かせてくれた。
その後でみんなで歌を歌った。
俺も石原裕次郎の曲を歌わされた。
ヘタクソだと言われた。
「六花よりはマシかぁ」
「そうですねぇ」
俺は信頼できる人間を通して、赤星綺羅々たちの悪行の数々を上に通した。
綺羅々の隠しマンションから、手の指をすべて切断され、両足を膝から喪った少年の遺体を見つけた。
天井裏から、大量の虐殺のDVDやビデオが出てきた。
他の部下たちの部屋や隠していたマンションからも、虐殺や拷問の証拠が大量に出てきた。
石神から渡された資料で、それらは迅速に回収された。
俺は自分で調べたことや、情報提供者から多くを得たと言い、公安内で高い評価を得た。
何人かの上の人間が更迭された。
綺羅々との強い結びつきのあった連中だ。
俺は今回の業績を評価され、綺羅々に替わる公安内の攻勢の組織を任されることになった。
これで石神と共に、来るべき「業」との戦いに備えられる。
俺は部下の教育の他に、上層部とのパイプや他の官公庁とも伝手を拡げて行った。
石神に話した。
「そんな無理はするなよ」
笑って言われた。
「そんなことより、早乙女の親父さんとお姉さんの墓参りをさせてくれ」
俺は石神を案内し、石神は丁重に弔ってくれた。
寺に頼んで供養の手続きまでしてくれた。
「みんな、戦って死んだんだ。それでいいよな」
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