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独りで良かった。

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 俺は久しぶりに亜紀ちゃんと風呂に入り、ニューヨークでの話を聞いた。

 「タカさんの言う通り、ジャンニーニさんに仕事を頼みました」
 「ああ、あいつは腐ってもマフィアだ。何か掴むかも知れん」
 「でも、危険は無いんでしょうか」
 「あるさ。だけど、あいつは大丈夫だ。そういう感覚もちゃんとある。そうじゃなきゃ、ニューヨークで裏社会なんて牛耳ってられないよ」

 「それで、聞いた口座は嘘だったようですよ?」
 「聖が振り込むさ。だから俺たちは聖に送ればいいんだよ」
 「え! 聖さん、断られてましたよ?」
 「アハハハ! でもあいつは「じゃあやめる」とは言ってないだろ?」
 「はぁ、確かそうでしたけど」
 「だったら振り込むよ。聖はやると言ったことは必ずやる男だ」
 「へぇー、そういうもんですか」

 俺は久しぶりの亜紀ちゃんパイをよく見せろと言うと、突き出してきた。
 よく見た。

 「でもそうしたら、聖さんは嫌がりませんか?」
 「あいつはあんまり考えない奴だからな。こっちへ突き返すというのは面倒に思うだろう」
 「そうですか」




 俺たちは風呂を上がり、酒を飲んだ。

 「あー、向こうじゃほとんど飲まなかったですからねぇ」
 「当たり前だ!」
 「レイさんに連れられて、一度だけバーに行きました」
 「そうか」
 
 亜紀ちゃんが、その時の話をした。

 「何て言うか、みんな自由に飲んでるって感じでしたね」
 「日本人は礼儀正しいからな。騒いでいるのは酔っ払いで、みんな嫌がるよな」
 「はい。ニューヨークではみんな騒いでましたし、そうじゃない人も、別に迷惑な顔はしてませんでした」
 「まあ、国民性だな。「自由」というのが何にも増して尊重されるんだよ」
 「なるほど」
 「前に向こうで映画を観たのな。もうみんな大騒ぎよ」
 「アハハハ」

 「リアクションが大きいと言うかなぁ。ちょっと日本人とは違うから、向こうのコメディってあんまり笑えないじゃない」
 「そうなんですね」
 「役者が大笑いすると面白いって感じかな。日本人だと、真面目な顔をして変なことを言うのが面白いだろ?」
 「なるほど」
 「まあ、最近だとちょっと違ってきているけどな」

 俺たちは楽しく話した。




 「亜紀ちゃんは久しぶりに酒だけど、皇紀なんかも久しぶりだよな」
 「何がですか?」
 「オナニーに決まってるだろう!」
 「アハハハハ!」

 亜紀ちゃんは最後の晩に、みんなで風呂に入った話をしてくれた。

 「ちょっと触っただけでおっきくなっちゃいましたよ」
 「可哀そうなことはするなよ」
 「じゃあ、今は!」
 「ニコニコしてやってるだろうなぁ!」
 「ずっと真面目に働いてましたもんね!」
 「一週間も、よく我慢したな! 流石の気遣いのレイも、そっちには気が回らなかっただろうよ」

 「「フッフッフ」」
 俺たちは目を合わせて笑った。




 「皇紀! 入っていいか?」
 俺たちは皇紀の部屋のドアをノックして聞いた。
 皇紀の部屋へ入る時には、必ずみんなノックすることになっている。
 お互いに気まずい思いをしないようにだ。
 俺の作ったプレートにそう書いてある。

 「ちょっと待って下さい。はい、いいですよ!」
 俺と亜紀ちゃんは顔を見合わせて声を出さずに笑った。
 ドアを開けると、皇紀がベッドに座っていた。

 「なんですか?」

 亜紀ちゃんが獰猛な笑顔で皇紀を足で蹴り倒し、布団をめくる。
 エロDVDが10枚ほど顔を出す。

 「ガハハハハハハ!」

 俺は本棚の怪しい箱入りの本を出し、中身をぶちまける。
 エロDVDが顔を出す。

 「ガハハハハハハ!」

 「何すんですかぁ!」

 「「ガハハハハハハ!」」

 俺たちは笑いながらリヴィングに戻った。




 「ルーとハーは何やってんですかね?」
 「行ってみるか!」
 俺と亜紀ちゃんは再び階段を登った。
 双子の部屋のドアを開ける。

 「「?」」

 ルーとハーは裸になって、剥製の動物の頭をお互いの肩にあてがっていた。

 「お前ら何やってんの?」
 「もらった剥製を確認してるの」
 「へぇー」

 ニコニコしている。

 「良かったな!」
 「「うん!」」

 よく分からないので、亜紀ちゃんとリヴィングに戻った。

 「「……」」



 「まあ、とにかくお前らが無事で、仕事もちゃんと片付けて来て良かったよ」
 「私とルーとハーは行く必要はあったんでしょうか?」
 「それは護衛はもちろんだけど、一番の目的は聖に鍛えてもらうことだったからな」
 「えぇ!」

 「亜紀ちゃんたちが暇で何をするって、分かってるんだよ」
 「何でなんですかぁ!」
 「暴れたかっただろ? バカ喰いはロックハート家でやってくれるだろうから、暴れたいのをどうするかだよ」
 「そんなぁ!」

 「聖のことを思い出すに決まっている。だからあいつに頼めば良かったってな」
 「タカさん、なんで」
 「何でって、お前らは俺の子どもだろう! そのくらい分かるさ」
 「そうなんですかぁ」

 亜紀ちゃんが笑い出した。

 「ウフフフ、エヘヘヘ」

 「なんだよ」

 「なんか、嬉しくなっちゃって」
 「ばかやろう」

 二人で笑った。

 「聖さんには、いろいろ教えて頂きました」
 「そうか」
 「タカさんが考えた技を教えてもらいましたよ」
 「ああ、「奈落」か」
 「そういう名前だったんですね」
 「聖にも教えたんだけどな。やっぱり覚えてねぇ」
 「アハハハハハハ!」

 「一度口を開けば、何者でも堕ちるしかねぇ。だから「奈落」だ」
 「なるほど」
 「防御不能、回避不能の技だ。初撃が入ればな」
 「はい。倒れることも出来ませんでした」

 「核兵器は決戦兵器だ。だから使えば相手を殲滅できる。しかし、戦いというのは、それだけじゃない。決戦兵器だけのものではない。だから「奈落」のような技も必要なんだよ」
 「はい、分かります」
 「強さというのは、相手を毎回殺すことじゃない。「勝つ」ことだからな。そのためには、いろいろな「戦い」のやり方を覚える必要がある」
 「聖さんは、徹底してそれを教えて下さいました」

 「あいつは戦いの天才だからな」
 「はい」

 「他の部分はバカだけどな」
 「でも、タカさんみたいに優しい人ですよ」
 「分かるか」
 「はい!」

 また明日話そうと、俺たちは切り上げた。
 酒も泥酔するまで飲むものじゃない。




 寝室に向かうと、皇紀の部屋から女の声がする。

 「スピーカーを切り忘れてますね」
 俺のやったダリのスピーカーでいつもテレビを観ている。
 テレビのスピーカーを切ってヘッドホンをしているのだろうが、ダリのスピーカーを切り忘れている。

 「聞かなかったことにしてやれ」
 「はい!」



 ベッドに入ると、布団が冷たい。
 しかしロボとくっついていると、すぐに温かくなった。
 俺たちは一緒の家にいる。
 子どもたちも、すぐに温かくなって寝るだろう。

 俺は笑顔になっている自分に気付いた。

 こんなバカな姿を見られることなく、独りで良かったと思った。
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