富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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羊羹

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 蓮花の研究所に行く前に、斬の家に寄った。
 連絡はもちろんしてない。
 でかい門の横のインターホンを押した。

 「おーい」
 「……」

 斬が出てきた。
 いつもの、苦虫を嚙み潰した男のウンコを嚙み潰したような顔だ。

 「なんじゃ」
 「トイレ貸して」
 「なんだと?」

 斬は怪訝な顔をしたが、俺たちを中へ入れてくれた。
 車は屋敷の前に置いたままだ。
 ロボも降ろさない。
 この辺は、どうせ私有地だ。
 駐車違反もないだろう。
 六花に、お前も行っておけと言い、使わせた。
 俺も後から借り、ちょっと便器の脇にも振り撒いておいた。

 「じゃーな!」
 「ちょっと待て!」
 帰ろうとすると、斬に止められる。

 「なんだよ」
 「お前! それだけのために来たのか!」
 「そうだけど?」
 「……」

 「なんだ、独りで寂しいのか?」
 俺は寂しかった。

 「茶でも飲んでいけ」
 斬は座敷へ案内した。
 前に見た女が、三人分の茶を運んで来た。
 なんだ、独りではなかった。
 羊羹も置いていく。
 六花がニコニコしている。
 美しい。

 「今、子どもたちがアメリカへ行っているんだ」
 「ロックハートか」
 「ああ。防衛システムを組んでいる」
 「そうか」

 「ここにも置いてやろうか?」
 「いらん」
 斬はこちらを見ようともしない。

 「なんだ、仲間はずれにされて拗ねてんのか?」
 「なにを!」
 俺を見た。

 「心配するな。ここにも置く。順番はまだだけどな」
 「必要ない」
 「お前も大事な子分なんだ。守らせてくれ」
 「ふん」
 「基礎工事は、図面を渡すからお前が手配しろ」
 「分かった」

 俺は防衛システムの概要を話した。
 レールガン、荷電粒子砲、そして「轟閃花」の機械的再現。
 
 「あれを機械がやるのか!」
 「そうだ。俺たちの最大のシークレットだ」
 「信じられん」
 「信じなくても構わん。ただ使え」
 「……」




 「その防衛システムな。前に船で運んだ時に、でかい奴に襲われた」
 「?」
 「100メートルを超える化け物だ。海上を時速500キロで滑走してやがった」
 「なんだそれは?」
 「「業」のペットだろうよ。エサ代が大変そうだ」
 「体当たりか?」
 「ああ。それと「槍雷」が使えたようだ」
 「!」

 「重機関銃も、対物ライフルも、スティンガーも効かない。対艦ミサイルでもダメだった。F15やF16が散々撃ったけどな」
 「それも「花岡」か?」
 「そうなんだろうが、何しろ表皮が鎧みたいに頑丈だ。厚さ50ミリの鋼鉄以上だとよ。捕獲した奴を調べた」
 「複数いたのか」
 「ああ、合計で15頭。一時はやばかった」
 「なんということだ」

 「「花岡」は効かない。双子が「轟閃花」を撃ったが、流された。多少は効いたようで、突進は止めたと言っていたが」
 「どうやって斃した!」
 「ニュースを観てないのか?」
 「マスコミに漏れているのか!」
 「冗談だ」

 「……」



 「必殺技で斃した。出来れば使いたくなかったがな。仕方がない」
 「そうか」
 「「トールハンマー」と「ブリューナク」だ。後でお前にも教える」
 「なぜだ?」
 斬が驚いて半腰を上げた。

 「お前も対抗手段として必要だからだ。お前ならば使えるようになるだろう」
 「……」
 「言っただろう、可愛くはないが、お前は大事な子分だって。必要なことは教えるさ」
 「……」

 六花は羊羹を食べつくして、少し悲しい顔をしていた。
 俺の分をやると、途端に顔を輝かせた。

 「お前の女は美しいな」
 「まあな」
 「顔もそうだが、魂が美しい」
 「お前にも分かるのかよ」
 俺は少し驚いた。

 「俺は地獄以外に行くつもりもない」
 「そうかよ」

 「お前はこんなに美しい女に愛されるのだ。お前は地獄へは来るな」
 「……」

 俺は六花が羊羹を喰い終わるのを待って、外に出た。
 斬に「トールハンマー」と「ブリューナク」を教える。

 「練習だからって、ここでやるなよ? 相当でかい出力になるからな」
 「分かった」
 「じゃあな!」

 「お前」
 「なんだよ!」
 「これを教えるために寄ってくれたのか?」
 「あ? トイレ借りに来ただけだろう!」

 「感謝する」
 斬が深々と頭を下げた。
 似合わない奴だと思った。
 俺は手を振って斬の屋敷を出た。




 「石神先生!」
 「なんだ?」
 「羊羹、美味しかったです」
 「そうだな!」

 「石神先生は召し上がってなかったじゃないですか」
 「いや、美味かったよ」
 「そうですか?」




 俺と六花は蓮花の研究所へ向かった。
 六花はラビに会いたいと言っていた。

 「鷹の案内に、「シャノア」っていうのが付いたんだよ」
 「シャノア?」
 「フランス語で「黒猫」という意味だ。正確には「シャノアール(chat noir)」だけどな」
 
 「ネコ!」

 「その名の通り、黒いネコの顔だったな」
 「会いたいです!」
 「ラビはどうすんだ?」
 「シャノアは2号です」

 「あー、なるほどな!」
 俺たちは笑った。



 蓮花の研究所では、ハマーが着くと同時に門が開いた。
 中へ入ると、蓮花が玄関で出迎えてくれた。

 六花が、笑って手を振った。
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