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I ♡ NY Ⅸ

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 「よし、これで完了だ」
 皇紀はヘッドマウントディスプレイを外し、目を揉んだ。

 「あとはテストプログラムを流して」
 キーボードを操作し、テストプログラムを起動する。
 ディスプレイに表示されるテストの進捗と結果を見ながら、魔法瓶のスープを飲んだ。
 テスト項目が無事に終了した。

 「じゃあ、これから頼むよ、「クロノス」」
 皇紀は量子コンピューターと繋がった防衛システムに呼び掛けた。

 「かしこまりました、皇紀様」
 皇紀は部屋を出た。



 外でレイが皇紀を待っていた。
 まだ早朝の4時だ。

 「レイさん、ずっと待ってたんですか?」
 皇紀は抱き締められた。

 「はい、もちろんです。ありがとうございます、皇紀さん」
 顔が胸に埋まり、皇紀は困った。

 二人で庭を歩いた。

 「夕べ、亜紀さんが外に出られて」
 「はい?」
 「建物に向かって「がんばれ」と仰ってました」
 「そうですか」
 皇紀が笑顔になった。

 「お風呂に入りますか? それともお食事を」
 「お風呂にします。食事は姉や妹たちと一緒に」
 「でもお疲れでは?」
 「まだ大丈夫ですよ。姉たちの方が酷いんじゃないですか?」
 「それはもう!」
 二人で笑った。

 「お背中を流しますね」
 「いいえ! お断りします!」
 「そうですか。ウフフフ」
 皇紀は着替えを持って風呂に入った。
 綺麗だ。
 きっと姉たちが掃除したのだろうと思った。
 風呂から上がり、姉たちが起きて朝食になるまでの間に、皇紀は本を読んだ。
 石神から借りた、ロープシンの『黒馬を見たり』だ。
 皇紀は、その最後の描写に胸を打たれた。


 《撃ったのは彼らだけではない。我々もまた撃ったのだ》

 
 (そうだ。戦いは一方が悪なわけではないんだ。僕たちも敵と同じことをするんだ)

 皇紀は、石神のことを思った。

 (タカさんは僕らを守るために必死で考え、戦っている。僕も戦いますよ、タカさん)

 皇紀は立ち上がり、窓に近づいた。
 ズボンのファスナーが空いていることに気付き、そっと上げた。




 「皇紀!」
 「「皇紀ちゃん!」」
 亜紀と双子が食堂に現われた皇紀に抱き着いた。

 「頑張ったね」
 「エライね」
 「よくやったね!」
 口々に言い、皇紀を席に座らせる。
 すぐに、大量のステーキが運ばれる。
 四人で次々に食べた。

 「皇紀、夕方に聖さんから食事に誘われてるの。一緒に行こう」
 「いや、僕はこのあと寝るから。みんなで行って来て」
 「皇紀ちゃん、一緒に行こうよ!」
 「ごめんね。本当に眠いんだ」

 「じゃあ、もしも起きたらね!」
 「うん、そうだね」
 食事の後、皇紀は寝た。
 レイがそっと覗くと、清々しい寝顔だった。


 
 「亜紀ちゃん、今日は何しよっか」
 「ジャンニーニ?」
 「えぇ、ちょっと可哀そうだよ」
 「じゃあ、うーん」

 「午後からでしたら、私がご案内しましょうか?」
 レイが言った。

 「ほんとですか!」
 「はい。午前中は皇紀さんの機械のチェックがありますが、午後でしたら」
 「「お願いしまーす!」」
 「じゃあ、昼食後に」

 亜紀たちは、午前中にまたロックハートの屋敷を掃除した。
 使用人たちから、口々に礼を言われた。




 昼食を摂り、三人はレイに連れられて屋敷を出た。

 「みなさんは美術館とか興味はあるかな?」
 「「「ないです!」」」
 「アハハハハ」
 「じゃあ、まずは「自由の女神」でも行きますか」
 「「「はーい!」」」
 
 「へぇ」
 「ねえ、亜紀ちゃん。コレ、何で壊す?」
 「うーん、やっぱ「虚震花」かなぁ」
 「「槍雷」は?」
 「思いっきりやればいけるかも」
 「……」


 「じゃあ、次は「エンパイアステートビル」へ」
 「「「はーい!」」」
  
 「へぇ」
 「ねえ、亜紀ちゃん。コレ、何で壊す?」
 「うーん、やっぱ「虚震花」かなぁ」
 「「槍雷」は?」
 「思いっきりやればいけるかも」
 「……」


 セントラルパークへ行った。
 四人でソフトクリームを買い、ベンチでまったりした。

 「ここは壊さないでね?」
 「「「うん!」」」

 いろいろな人間がいる。
 ベンチで休んでいる人、何かの勉強をしている人。
 ジョギングの人、散歩の人、音楽を聴いて踊っている人。
 平和だった。
 レイは三人をどこへ連れて行こうかと考えていた。
 普通の観光には興味が無いようだ。

 「ねえ、どんな所へ行きたい?」
 「うーん、歌って踊れる、みたいな?」
 「じゃあ、ブロードウェイに行こうか」
 「「「うん!」」」

 大小様々な劇場が林立している。
 歩く人々も、ちょっと変わっている。
 音楽が聴こえる。
 楽しそうな雰囲気だ。
 三人のテンションが上がって来る。

 「ここはね、いろんなミュージカルが掛かっているの。何か見たいものがあったら……」

 突然、三人が歌い出した。
 レイは知らないが『ガラスを割れ』だ。

 ♪ OH OH OH OH OH... HEY! HEY! ♪

 通行人が何事かと立ち止まる。
 三人の少女が歌いながら踊り出す。
 キレキレのダンスに声援が来る。
 突然、小さな女の子二人が空中に跳んだ。
 30メートルの高さから、伸身三回転宙返りで見事に着地する。
 その間も歌っている。

 長身の少女が跳んだ。
 50メートル以上の高さだ。
 少女の上空に、大きな電光が迸った。
 誰もが驚愕した。

 ♪ 吼えない犬は犬じゃないんだ! ♪

 地面に膝を付き、片手を揃って上げて、パフォーマンスが終わった。
 人垣が出来ており、大喝采が湧いた。
 拍手をしながら三人が抱き締められ、握手を求められた。

 「……」


 レイは三人の手を引いて、キャブを呼び止めて中へ押し込んだ。

 「レイ、楽しかったね!」
 「ソウデスネ!」

 三人はニコニコだ。





 タイムズスクエアに行き、お茶を飲んだ。

 「みんなオシャレですね」
 亜紀ちゃんが呟いた。

 「そうだ! ちょっと服を見に行こうよ!」
 「「「はい!」」」
 双子のために子供服を見に行く。
 二人とも夢中で見て、気に入ったものをどんどん買う。

 「支払いはロックハートでするからね」
 「大丈夫だよ?」
 ルーがカードで支払った。
 ブラックカードだった。
 
 「……」

 亜紀もどんどん買い、ルーのカードで支払っていく。
 寸法直しがあるので、ロックハートに届けてもらうようにした。

 「あー楽しかった! こんなに買い物したのは初めてですよ」
 「そうだよね。いつもタカさんが払うから、ちゃんと選んでるもんね」
 「ちょっと買い過ぎかもだけど、面白かったよね!」
 「それは良かったわ」
 「「「ありがとー、レイ!」」」
 レイは苦笑したが、石神さんのお子さんなんだと理解した。

 「じゃあ、レイ。そろそろ帰りましょうか」
 「そうですね」
 レイは笑いながら、キャブに乗って帰った。
 タクシーの中で、レイはジャンニーニさんの家で何をしたのか聞いた。

 「うん、聖に言われてね、戦闘訓練」
 「いきなりでびっくりしたよねー。100人くらいいたっけ」
 「108人。でも、あんまし銃を撃って来なかったよね」

 「あの、そのジャンニーニって、まさか」
 「うん、マフィアだって!」
 「……」

 「昨日も行ったよね」
 「あ、車借りただけですよ」
 「……」

 「じゃあ、聖さんって人は?」
 「なんだっけ」
 「セイントPMCの社長なんだよ、あいつ」
 「!」

 「タカさんの親友なんですよ。丁度ニューヨークに来たから、ちょっと鍛えてもらおうって」
 「ソウデスカ」

 レイもセイントPMCは知っている。
 世界最高峰の民間軍事会社だ。
 どんな紛争地でも依頼を達成して来る精鋭たちの会社だ。

 


 屋敷に着いた。

 「レイさん、今日はいろいろありがとうございました」
 「「ありがとう!」」

 「イイエ、トンデモナイ」

 レイは静江に報告し、静江がまた大笑いしていた。
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