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Ⅰ ♡ NY Ⅳ

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 亜紀たちが聖に会いに行った頃。

 「皇紀さん、亜紀さんたちはどこへ行ったんでしょうね」
 「アハハハ、あんまり考えたくないですね」
 皇紀はレールガンシステムの画面を操作しながら言った。

 「あ、ちょっと離れて下さい。コードを打ち込みます」
 「はい」
 レイが部屋の隅に移動した。
 何度か、皇紀の指示でやっている。

 「はい、いいですよ!」
 「はい!」
 「姉たちは、思い切り食べてるか、もしかしたら喧嘩してるか」
 「えぇ!」
 「大丈夫ですよ。一般の人は殺したりあんまり酷いことにはしないですから」
 「えぇ!」
 「アハハハハ」

 「銃なんて、全然大丈夫です。離れた所から狙われたってね。僕らはそういうふうになりました」
 「そうですか」
 「こないだのジェヴォーダンなんかは別ですけどね。まあ、想定外過ぎるっていうか。タカさんはちょっと考えてはいたようですけど」
 「はい、そうでした」

 皇紀はまた画面を操作していく。

 「あの、その「ジェヴォーダン」っていうのは、どういう意味なんでしょうか?」
 「1764年から1767年にかけて、フランスのジェヴォーダン地方に出た怪物だったらしいですよ。見たことが無い大きな怪物で、人間を狙って襲っていたという。100人近くが死んだそうです」
 「そうなんですか」
 「タカさんから聞いたことですけどね。人間が作ったものだって言われています」
 「なるほど」

 「はい! ここは終わりです。今日中にレールガンの統合システムまで終わらせたいですね。ジェヴォーダンに唯一有効みたいですから」
 「ありがとうございます。皇紀さん、でも無理はなさらないでくださいね」
 「はい、大丈夫ですよ」




 翌朝。
 朝食を食べてから、亜紀たちはまた聖のマンションへ行った。
 一階で呼び出すと、聖が共用応接スペースで待ってろと言った。

 「今アンジーの中にぶちまけるとこなんだ! 邪魔しやがって!」
 「「「……」」」
 20分後、聖が降りてきた。

 「お前ら、タイミングが悪すぎだぜ」
 「すいません」
 「あ! もう8時50分じゃん! お前らなんで20分も遅刻すんだよ!」
 「「「え?」」」
 「俺、時間に遅れんのは大嫌いなんだ! 覚えとけよな」
 「「「すいません!」」」




 昨日と同じ訓練場に来る。

 「お前ら、あと何日いんの?」
 「多分、あと一週間ほどかと」
 「そんなにいんのかよ!」
 「え?」

 「二日間は休みな! 俺も風俗いかなきゃだから」
 「わ、分かりました」

 「おい、ブサイク姉」
 「はい!」
 「お前、昨日で気付いたことを言ってみろ」
 「はい! 私がどう動いても、聖さんはいつも私の横にいました」
 「それで?」
 「どうしてかは、まだ分かりません!」
 「そりゃ、お前がバカだからよ」
 「え?」

 「正面に向かったら横にいんだろ?」
 「ああ! じゃあ、最初から横を向けば」
 聖の高速ブロウで亜紀は吹っ飛ぶ。
 まったく避けられなかった。

 「ばーか! どっちの横に行くのか、お前分かんのかよ。大体横を向いて向かってくんなら、最初からボコられるだろう!」
 「なるほど!」
 「お前は前ばっかし見てんだよ。だから隙のある横に回られるのな」
 「はぁ」
 「攻撃することだけじゃねぇの、戦場は。防御も考えろ、ブサイク姉!」
 「はい!」
 「お前は攻撃しか考えねぇから、単純過ぎんだ! 敵はすぐにお前の動きが読めるのな。でかい砲身だって、真横はなんのこともねぇ。分かるか?」
 「はい!」

 「チビブサイクAB!」
 「「はい!」」
 「お前らは、それが「小細工」なんだ。そればっかり考えてるから、逆に敵には読みやすい。お前らみたいなバカが考えることなんて、一流の人間には筒抜けだと思え!」
 「「はい!」」

 「じゃあ、始めっぞ!」
 「「「はい!」」」


 三人が動かなくなった頃。

 「おい、メシを喰おうぜ」
 「「「……」」」
 「俺が優しく誘ってるうちに動け」
 「「「はい」」」

 

 食堂に案内された。
 屈強な男たちと、事務職員らしい人間。
 ランチタイムらしく、大勢が詰めかけていた。
 聖が厨房に合図する。
 席に座っていると、大量のハンバーガーが運ばれてきた。

 「よし、喰え!」
 「「「はい!」」」
 食べていると、分厚いステーキが三枚来た。

 「お前らはこっちの方が好きなんだろ?」
 「「「!」」」
 「早く喰えよ」
 「「「はい!」」」
 三人はむしゃぶりついた。
 身体に力が甦って来る。
 
 「昔よ。トラと傭兵の訓練所でも必死に喰ったよなぁ」
 「そうなんですか?」
 「俺たちはジャップだ。当時は人種差別が厳しくてな。最初は床に肉を投げられたんだ。ジャップの犬はそれを喰えってな」
 「どうしたんですか?」
 「トラと二人で投げた奴を半殺しにして。そうやって俺らが強いんだって見せつけなきゃやってられなかった」
 「はい」

 「一人教官ですげぇジャップ嫌いがいてな。パールハーバー? そこで親父だか爺ちゃんだかを殺されたって。毎回訓練で無茶苦茶やるんだよ」
 「それで?」
 「格闘訓練で虎が素手で腹割いてワタを引っ張り出した」
 「「「!」」」
 「普通は教官に手をあげたら処刑よ。俺も青くなった。でも訓練中の事故ってことでな。隊長のチャップがそれで大層トラを気に入ってなぁ。俺たちは特別な戦場を紹介してもらった」

 「そうなんですか」

 「おお、時間だ! またやっぞ!」
 「「「はい!」」」




 「じゃあ、レイさん。撃って下さい!」
 「はい!」
 レイはM16を撃った。
 レールガンの砲塔が見えない速度で回転する。

 「成功です! ちゃんと弾頭を捕捉しました」
 レイは皇紀に駆け寄った。

 「これが映像です。ね、ちゃんと弾頭をずっと捉えてるでしょ?」
 「はい!」
 「M16は時速600キロ近い速度で飛びます。それが捉えられたら、ジェヴォーダンも撃破できますよ」
 「皇紀さん! ありがとうございます!」
 「でも、これはここに量子コンピューターがあるのと、タカさんに言われて特殊な砲台を備え付けたからです」
 「はい!」

 「レイさんも、危険があったら敷地になんとか入って下さいね」
 「私は大丈夫ですよ」
 「そうですか」
 「私は、もっと安全な場所へ行きますから」
 「え、そうなんですか?」
 「はい!」



 皇紀に意味は分からなかったが、レイの嬉しそうな笑顔を見てそれ以上聞かなかった。
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