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鷹の帰宅

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 翌日の夜。
 俺は鷹を迎えに行った。
 荷物はそれほど無いので、ベンツで行く。


 雨が降って来た。


 蓮花が傘をさして玄関で俺を待っていた。
 蛇の目傘ではない。
 安いビニール傘だった。
 ちょっと幻滅した。

 「石神様、わざわざすみません」

 ♪ 蛇の目でお迎え嬉しいな! ♪

 「?」

 俺が歌うと、蓮花が不思議そうな顔をした。

 「鷹は?」
 「まだお部屋にいらっしゃいます」
 俺は蓮花から包を受け取った。
 俺たちは鷹の部屋へ向かった。

 「鷹、迎えに来たぞ」
 「石神先生、本当にすみません」
 俺は鷹の荷物を持った。

 「じゃあ蓮花。すぐに帰って済まないな」
 「いいえ。お食事は不要ですか?」
 「なんだ、作ってくれたのか?」
 「いいえ、お急ぎでしょうから、こちらで処分いたします」
 「いや、折角作ってくれたんだ。頂いて行こう」
 「ありがとうございます」

 俺と鷹は食堂へ向かった。
 また豪華な食事があった。

 「一食儲かっちゃったな!」
 「ウフフフ」
 鷹は元気そうだった。
 本当に悩みを突き抜けた人間は明るい。

 「石神様に喜んでいただくのが、わたくしの趣味でございます」
 「お前の趣味って多いな!」
 食事の礼を言い、鷹と出発した。
 蛇の目の傘を渡されたが、断った。

 「お前も時代遅れだな、蓮花」
 蓮花は驚いた顔をし、声を上げて笑った。

 「でも、ちゃんと持ってるんだな」
 「はい。先ほどは失礼いたしました」

 


 高速を走っていると、対向車やテールランプのライトが滲んで美しい。

 「鷹、眠かったら寝ろよな。もうちょっとかかるからな」
 「はい、ありがとうございます」
 「ああそうだ。家に勝手に入ったぞ。渡しておきたいものがあったからな」
 俺は以前に鷹から合鍵を渡されていた。

 「構いません。ご自由に出入りできるように鍵をお渡ししたのですから」
 「お前の凄いパンツも見たからな!」
 「そうですか」
 「もう、被っちゃったからな!」
 「アハハハ!」

 「もう、ベッドに寝転んで、思い切りお前の匂いを嗅いだから」
 「そうなんですか」
 「いい匂いだったなぁ」
 「アハハハハ」
 「一回オナニーしたからな」
 「何回でもどうぞ」

 鷹は嬉しそうに笑った。


 鷹はいつの間にか、寝息を立てていた。
 家に帰れることで、安心したのだろう。
 俺はなるべく揺れないように走った。




 鷹のマンションに着いたのは、夜の11時頃だった。
 鷹が部屋に入り、微笑む。

 「綺麗にして下さったんですね」
 「簡単な掃除だけだ」
 テーブルの生け花を見て、鷹が泣いた。

 「石神先生に、こんなにご負担を」
 「そうだよ、お前、これから覚悟しろよな!」
 「はい、何でもいたします」
 「おお、言ったな!」

 俺は鷹と風呂に入った。
 少しだけ愛し合った。
 鷹は涙を流して喜んだ。




 風呂から上がり、タカは俺にコーヒーを淹れてくれた。
 二人でゆっくりと飲んだ。
 俺は奥の部屋から、箱を4つ持って来た。

 「なんですか、それは?」
 俺は開いて見せる。
 ウィッグだ。

 鷹が驚いていた。

 「ちゃんとしたものは、後日鷹の頭を測ってからだ。でも時間がかかるようだからな。今はこの既製品で勘弁してくれ」
 「石神先生!」

 一つは以前の鷹と同じ黒いストレートの髪。
 一つは同じストレートで、明るい茶の髪。
 一つは少しウェーブがかかったショートの茶の髪。

 「そしてこれだ」

 巨大なアフロヘア。

 「アハハハハハ!」
 鷹が声を上げて笑った。

 「じゃあ、これを付けてみろ!」
 鷹が笑いながら被った。
 俺は洗面所に連れて行き、鏡を見せた。
 鷹が爆笑した。



 その後で、一つ一つ被らせて、鏡でチェックしてもらう。
 黒髪ももちろん良かったが、明るい茶の髪も良かった。

 「私、今まで染めてみたことがなくて」
 「そうか、でもよく似合っているぞ?」
 「そうですね」
 「せっかくハゲになったんだ。いろいろ変えて楽しめよ」
 「まあ! ウフフフ」



 リヴィングに戻り、もう一度コーヒーを飲んだ。

 「石神先生」
 「なんだ?」
 「先生は私を泣かせないように、あんなアフロまでご用意してくださったんですね」
 「いや、俺の趣味だよ。俺はアフロの女が大好きなんだ」
 鷹が笑った。

 「絶対被って外に出ろよ!」
 「どうしましょうか」
 俺は蓮花から受け取った包をテーブルに開いて見せた。
 鷹が思わず泣き出した。

 「ちゃんと泣かせる用意もあるんだよ、俺は」
 「石神先生!」
 鷹から剃り落した鷹の黒髪だった。

 「これを使って最高のカツラを作るからな。鷹は茶の髪も似合うけど、時々は漆黒の美しい髪もいいだろうよ」
 「はい」
 「お前はどんな髪でも美しいよ」
 「ありがとうございます」




 「じゃあ、ゆっくり休めよな。何か必要なものがあったら連絡してくれ。牛乳とかでもいいからな」
 鷹がまた泣いた。

 「石神先生」
 「なんだ」
 「前に、石神先生は私の漆黒の髪が美しいと褒めて下さいました」
 「そうだったな」

 「すみませんでした」

 「お前が美しいって言いたかったんだよ。悪いな、俺は言葉が下手で」
 「いいえ」
 「鷹、お前は綺麗だよ。今でももちろんな」
 「ありがとうございます」

 「愛している、鷹」
 「はい、私も石神先生を。もう、どうしようもなく」




 俺たちは抱き合ってキスをした。
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