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お引越しするそうです。

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 11時頃に寝て、夕方の5時に起きた。
 ロボはいない。
 子どもたちと遊んでいるのだろう。
 頭脳は明晰だ。
 もうバカなことは口走らない。

 俺は蓮花に電話した。
 鷹が問題なく、明後日には帰れると言っていた。
 家でゆっくりした方がいいだろう。
 俺が迎えに行くと伝えた。
 一江にも電話した。
 鷹が完全に治った件と、ウイッグを頼んだ。

 「金は幾らかかってもいい。最高のものを頼む」
 「分かりました」
 もう調べてくれているようだ。
 流石俺の部下だ。

 下に降りると、夕飯の準備が出来ていた。
 当然肉だ。
 唐揚げと豚の生姜焼きだ。
 俺は生姜焼きだけもらった。
 ロボは胸肉を焼いてもらっている。
 食べ終わり、俺の椅子の下で毛づくろいをする。
 尻尾を丁寧に舐めて手入れしている。

 「?」

 一瞬尻尾が割れた。
 俺は食事を中断し、床に這いつくばった。
 
 「タカさん、どうしたんですか?」
 亜紀ちゃんが見ている。

 「あ、ああ。ちょっと零しちゃってな」
 「そうですか?」
 俺は食事に戻った。




 早目に亜紀ちゃんと風呂に入り、部屋へ入った。
 ロボもついてくる。
 俺はロボをベッドに横たえ、身体を撫でてやった。
 さり気なく尻尾を撫でる。

 やはり二本あった。
 普段はピッタリとくっつけているので気づかれない。
 尻尾が二股あった。

 「ロボ、いつからだ?」
 「にゃー」
 「ちょっと尻尾を開いて見せてくれ」
 ピースサインをするように、尻尾が二本に分かれた。

 「!」

 「お前さ。あんまり他の人間に知られないようにしてくれよ。知られたらしょうがねぇけどな」
 「にゃ」
 分かったようだ。
 かくれんぼをしたり、立ってゾンビダンスをしたり。
 おかしなネコだと思っていたが。

 猫又かよ。

 まあ、可愛いネコなのだが。
 尻尾が二本ある他は、大体普通のネコだ。
 言葉が多少分かるようだけど。




 翌朝。
 俺は普通に出勤した。
 一江といろいろ話し、病院の状況を聞いた。

 「一応、鷹は事故で怪我をしたことになっています。頭部を打ったので、精密検査をしていると」
 「ああ、それでいい」
 「髪の件はどうしますか?」
 「火傷を負ったことにしよう。それでウィッグを付けるようになったってな」
 「なるほど!」
 「毟って見ようとするような奴もいないだろうしな」
 「部長くらいですよね」

 一江の頭にチョップを入れる。

 「だって! 前にハーゲンダッテの人のカツラ、取ってちゃってたじゃないですかぁ!」
 「うるせぇ! 面白いだろう!」
 俺は一江にウィッグのカタログを見せてもらった。

 「本当は本人の頭の形に合わせますが、取り敢えずは既存の製品を用意します」
 「ああ。当座は仕方ないな」
 「メッシュではなく、人造皮膚のものですので、ほとんど分かりませんよ」
 「ありがとう。お前は優秀だ」
 「鷹は私の数少ない友達ですからね」
 「本当に少ないよな」
 「どうでもいいでしょう!」
 「なんだ、陰険女ぁ!」

 俺は幾つか選んで用意するように言った。
 一江が何か言いたそうだったが、黙った。




 響子の部屋へ行った。
 セグウェイの巡回から戻ったところだった。
 六花にプロテクターを外してもらっていた。

 「タカトラー!」
 俺は抱き締めて、パンツを降ろしてやった。
 
 「何するの!」
 「お前のお尻にただいまって言いたくて」
 「じゃあ、早く言って!」
 「ただいま、チュッ」
 響子が喜んだ。

 「石神先生……」
 「そんな顔をするな。鷹は無事だ」
 「はい」
 六花が悲しそうな顔をする。

 「明日、俺が迎えに行く」
 「よろしくお願いします」
 「病院に出てくるのは来週だけどな。もう大丈夫だよ」
 「ありがとうございました」
 「鷹、怪我しちゃったの?」
 響子が心配そうな顔をする。

 「ああ、頭を火傷したんだ。事故でな」
 「可哀そう」
 「そうだな。あんなに綺麗な黒髪だったのにな」
 俺は響子を抱き締めた。

 「鷹が出てきたら、明るく接してやってくれ」
 「うん、分かった!」



 千両に電話し、礼を言った。

 「あんなもので、申し訳ありません」
 「何を言ってる。本当に楽しかったぞ」
 「それは何よりです。女たちも喜んでいました」
 「そうか!」
 「石神さんがいらしたら、また是非呼んで欲しいと」
 「うん、行く行く!」
 千両が声を上げて笑った。

 「まったく素晴らしい方にお仕え出来て幸せです」
 「そうかよ」



 電話を切ると、アビゲイルから電話が来た。

 「イシガミ! やっとプレゼントの用意が出来そうだよ」
 「なんだよ、いらないって言っただろう」
 「そう言うな。君が喪った金額には全然見合わないけどな。せめてもの気持ちだ」
 「だからいいって」
 「そこはあれだ。「ブシノナサケ」だな」
 「全然意味が違うぞ?」

 アビゲイルは笑っていた。

 「じゃあ、用意が出来たらまた知らせるよ」
 「おい、あんまり大きなものじゃ困るぞ」
 「大丈夫だ。君が困らないものだから」
 「そうか。ありがとうな」

 夕方に、オペが終わると亜紀ちゃんから電話があったと伝えられた。
 俺は慌てて家に電話する。

 「どうした! 何かあったのか!」
 「すみません、お仕事中に。大したことではなかったんですが、お隣の木村さんと橋場さんがご挨拶に来て」
 「え?」
 「それがお二人とも、急に引っ越すことになったって言うんです」
 「そうなのか?」
 「私、意味が分からないんですけど、うちのお陰でって言うんですよ」
 「なんだ、そりゃ?」

 隣近所とは、それほどの付き合いはないが、親しくはしている。
 子どもたちが来る前は、よく頂き物を引き受けてもらったりしていた。
 今はうちで消費できることが多いが、すれ違えば挨拶はするし、ちょっと話すこともある。

 「木村さんはもっと広い家に引っ越されるということで。橋場さんは都心のタワーマンションの最上階ですって」
 「よく分らんな」
 どちらのお宅も、うちよりはずっと狭い。
 まあ、俺の家が破格なのだが。

 「タカさんがいる時に、挨拶したいって言ってるんです。夜遅くてもいいからって。今日は何時ごろになりますか?」
 「ああ。6時には帰れるかな」
 「じゃあ、それでお伝えしていいですか?」
 「頼むわ」




 本当によく分らん。  
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