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レイ Ⅴ
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日曜日。
俺は昼食後にレイを地下へ誘った。
亜紀ちゃんも来る。
ギターを弾いて聴かせた。
エスタス・トーネを弾き、アメリカ国家を大胆にアレンジした。
「凄いですね!」
何曲か音楽も聴かせた。
ジャズとクラシックの室内音楽だ。
アヴァンギャルドで鳴らす。
「何か好きな音楽はあるか?」
「いいえ、特には。時々、綺麗な曲だなって思う程度で」
「覚えている曲はあるか?」
レイが口ずさんだ。
俺は『オリーブの首飾り』をギターで弾いた。
「あ、それです!」
俺が弾き終わると、レイが凄いと言った。
「有名な曲だったからな」
「レイさん、タカさんは一度聴いたら覚えちゃってギターで弾けるんですよ!」
「そうなんですか!」
「子どもの頃からな、俺の中で常に音楽が鳴っているんだ」
「へぇー!」
その意味を理解した人間はこれまでにいない。
昼食後に、レイはまた皇紀たちと話し合っていた。
何枚かの図面を拡げ、皇紀がレイに説明している。
レイは幾つか質問し、頭に叩き込んでいた。
双子が時々突っ込み、レイが何かを答える。
レイの理解を確認してるようだ。
レイはメモは取らない。
俺たちの機密に関わるためだ。
レイは驚異的な記憶力を持っていた。
俺は夕飯の後で皇紀を部屋へ呼んだ。
「レイはどうだ?」
「はい。理解が早くて驚いています。もう大体システムのことは理解して、設置はお任せしても大丈夫かと」
「そうか。最終の調整はお前に頼むしかないけどな」
「はい」
「それと、そろそろ風花の防衛システムも準備が出来るだろう」
「はい。また大阪へ行ってきます」
「輸送と設置は千万組にやらせる。お前はそこでも最終調整だな」
「はい。高木さんがちゃんと周辺のビルとか土地を押さえてくれたので助かります」
「来月は忙しくなるが、頼むぞ」
「はい!」
「ところで風花とは仲良くなったか?」
「はい。こないだは大阪を案内してもらいました」
「そういうことじゃ、まあいい」
「?」
「おい、今度行ったら「風花のことはこの僕が絶対に守ります」と言ってやれ」
「? はい!」
「必ず言えよ!」
「分かりました!」
皇紀が部屋を出て行った。
まだ子どもか。
まあ、皇紀には美しい恋をして欲しい。
その夜、またレイと亜紀ちゃんとで酒を飲んだ。
「石神さん、輸送のことを今話してもいいですか?」
「ああ、構わないぞ。双子も呼ぶか?」
「いいえ、まずは概略を石神さんに」
「分かった」
「輸送船は特別な高速船です。50ノット以上で巡航します」
「随分速いんだな。通常の二倍じゃないか」
「よく御存知で。本当に特別な船なんです」
「じゃあ、西海岸まで4,5日か」
「はい」
「俺もその船は見れるか?」
「もちろんです。是非お願いします」
「しかし、造波抵抗はどうしてるんだ?」
「デアドロップで無視しています」
「なんだって!」
「エンジンが違うんですよ。スクリューもありますが、普段は格納してターボジェットで推進します」
「無茶苦茶だな」
「アハハハ。大丈夫ですよ。実績もちゃんとありますから」
「まあ、任せるけどな」
とんでもない力技だ。
船舶の最大の抵抗要因は「造波抵抗」という自身が生み出す波の抵抗だ。
だから通常はなるべく波を生み出さない球状の船首になる。
それを、パワーのごり押しで作った船だ。
「「セブンスター(七星)」という船名ですが、これはシズエ様が命名されました」
北斗七星に関わるものだろうと思った。
「護衛艦ですが、セブンスターの船速についていけません。ですので、ポイントごとに配置することにいたしました」
「なるほど」
並走するのではなく、海域ごとに護衛を担うということか。
「各ポイントでは空母も配置しますので、航空機の護衛は常にあります。F16とF15が主に担います」
「分かった」
「燃料の補給もできます。また工作船も控えていますので、万一の事態にも対処できるかと」
「宜しく頼む」
よく考えられた作戦だ。
洋上では隠れる場所はない。
潜水艦は別だが、それも動いている限りは探知される。
艦船による攻撃には対応できるだろう。
「これを考えたのは?」
「ターナー少将と伺っています」
「流石だな!」
「マリーンの方々にも、高速船に乗っていただく予定です」
「高速船の武装は?」
「ほとんどありません。通常の輸送船ですので。でも50ミリの機関砲は偽装しています」
「あとはマリーンたちの携帯ミサイルか」
「はい。でも護衛艦隊が控えていますので、ほとんど使う機会はないかと」
「そうだといいな」
レイが俺を見つめていた。
「石神さんは、何かご不安が?」
「静江さんが亜紀ちゃんの同行を求めた」
「はい」
「双子も結構やる。通常の艦隊が来ても対応できるんだ」
「はい」
「レイ、油断するなよ。そして「戦うことを諦めるな」!」
「はい!」
「石神さん。来週末に出発いたします」
「分かった」
「私、がんばりますよー!」
そう言う亜紀ちゃんを俺は抱きしめた。
無事に帰って来て欲しい。
俺は昼食後にレイを地下へ誘った。
亜紀ちゃんも来る。
ギターを弾いて聴かせた。
エスタス・トーネを弾き、アメリカ国家を大胆にアレンジした。
「凄いですね!」
何曲か音楽も聴かせた。
ジャズとクラシックの室内音楽だ。
アヴァンギャルドで鳴らす。
「何か好きな音楽はあるか?」
「いいえ、特には。時々、綺麗な曲だなって思う程度で」
「覚えている曲はあるか?」
レイが口ずさんだ。
俺は『オリーブの首飾り』をギターで弾いた。
「あ、それです!」
俺が弾き終わると、レイが凄いと言った。
「有名な曲だったからな」
「レイさん、タカさんは一度聴いたら覚えちゃってギターで弾けるんですよ!」
「そうなんですか!」
「子どもの頃からな、俺の中で常に音楽が鳴っているんだ」
「へぇー!」
その意味を理解した人間はこれまでにいない。
昼食後に、レイはまた皇紀たちと話し合っていた。
何枚かの図面を拡げ、皇紀がレイに説明している。
レイは幾つか質問し、頭に叩き込んでいた。
双子が時々突っ込み、レイが何かを答える。
レイの理解を確認してるようだ。
レイはメモは取らない。
俺たちの機密に関わるためだ。
レイは驚異的な記憶力を持っていた。
俺は夕飯の後で皇紀を部屋へ呼んだ。
「レイはどうだ?」
「はい。理解が早くて驚いています。もう大体システムのことは理解して、設置はお任せしても大丈夫かと」
「そうか。最終の調整はお前に頼むしかないけどな」
「はい」
「それと、そろそろ風花の防衛システムも準備が出来るだろう」
「はい。また大阪へ行ってきます」
「輸送と設置は千万組にやらせる。お前はそこでも最終調整だな」
「はい。高木さんがちゃんと周辺のビルとか土地を押さえてくれたので助かります」
「来月は忙しくなるが、頼むぞ」
「はい!」
「ところで風花とは仲良くなったか?」
「はい。こないだは大阪を案内してもらいました」
「そういうことじゃ、まあいい」
「?」
「おい、今度行ったら「風花のことはこの僕が絶対に守ります」と言ってやれ」
「? はい!」
「必ず言えよ!」
「分かりました!」
皇紀が部屋を出て行った。
まだ子どもか。
まあ、皇紀には美しい恋をして欲しい。
その夜、またレイと亜紀ちゃんとで酒を飲んだ。
「石神さん、輸送のことを今話してもいいですか?」
「ああ、構わないぞ。双子も呼ぶか?」
「いいえ、まずは概略を石神さんに」
「分かった」
「輸送船は特別な高速船です。50ノット以上で巡航します」
「随分速いんだな。通常の二倍じゃないか」
「よく御存知で。本当に特別な船なんです」
「じゃあ、西海岸まで4,5日か」
「はい」
「俺もその船は見れるか?」
「もちろんです。是非お願いします」
「しかし、造波抵抗はどうしてるんだ?」
「デアドロップで無視しています」
「なんだって!」
「エンジンが違うんですよ。スクリューもありますが、普段は格納してターボジェットで推進します」
「無茶苦茶だな」
「アハハハ。大丈夫ですよ。実績もちゃんとありますから」
「まあ、任せるけどな」
とんでもない力技だ。
船舶の最大の抵抗要因は「造波抵抗」という自身が生み出す波の抵抗だ。
だから通常はなるべく波を生み出さない球状の船首になる。
それを、パワーのごり押しで作った船だ。
「「セブンスター(七星)」という船名ですが、これはシズエ様が命名されました」
北斗七星に関わるものだろうと思った。
「護衛艦ですが、セブンスターの船速についていけません。ですので、ポイントごとに配置することにいたしました」
「なるほど」
並走するのではなく、海域ごとに護衛を担うということか。
「各ポイントでは空母も配置しますので、航空機の護衛は常にあります。F16とF15が主に担います」
「分かった」
「燃料の補給もできます。また工作船も控えていますので、万一の事態にも対処できるかと」
「宜しく頼む」
よく考えられた作戦だ。
洋上では隠れる場所はない。
潜水艦は別だが、それも動いている限りは探知される。
艦船による攻撃には対応できるだろう。
「これを考えたのは?」
「ターナー少将と伺っています」
「流石だな!」
「マリーンの方々にも、高速船に乗っていただく予定です」
「高速船の武装は?」
「ほとんどありません。通常の輸送船ですので。でも50ミリの機関砲は偽装しています」
「あとはマリーンたちの携帯ミサイルか」
「はい。でも護衛艦隊が控えていますので、ほとんど使う機会はないかと」
「そうだといいな」
レイが俺を見つめていた。
「石神さんは、何かご不安が?」
「静江さんが亜紀ちゃんの同行を求めた」
「はい」
「双子も結構やる。通常の艦隊が来ても対応できるんだ」
「はい」
「レイ、油断するなよ。そして「戦うことを諦めるな」!」
「はい!」
「石神さん。来週末に出発いたします」
「分かった」
「私、がんばりますよー!」
そう言う亜紀ちゃんを俺は抱きしめた。
無事に帰って来て欲しい。
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